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三話 悪癖
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ロッカールームに入り、明かりをつける。表側の店は綺麗だが、裏側は古い雑居ビルなのでなんとなく薄暗い雰囲気がある。雨下は物珍しそうに室内を眺めながら、俺がロッカーからズボンを取り出すのを待っていた。
斎藤さんのロッカーは鍵が刺さったままだ。貴重品は置いていないらしく、予備の制服やタオルなどが詰め込まれている。その中から黒いスラックスを取り出し、タオルと一緒に雨下に手渡す。
「これで大丈夫ですかね」
「ありがとう。助かるよ」
「ジャケットは大丈夫でした?」
「多分ね」
雨下がベルトに手を掛けたのを見届け、俺も着替えることにする。スニーカーを脱ぐと、ぐしょっと濡れた感触があった。
「うわ。靴下も濡れてる……」
最悪だ。と思いながら、靴下を脱ぐ。濡れているせいで脱ぎにくく、引っ張るようにして脱ぎ捨てる。
「……」
ふと、雨下の視線を感じて、振り返る。
「? どうかしましたか?」
「……いや」
「?」
何だろう。何か、妙な気配を感じた気がして、肩を揺らす。
黒いズボンはシミこそ目立っていないが、随分ワインを吸ってしまったらしく、酒臭かった。それに、なんとなくベタベタする。
ズボンをすっかり脱ぎ去り、パンツ一枚になったところで、俺は雨下の方を振り返った。
「すみません、結構ベタベタしますよね。おしぼり持って――」
ビク。身体を震わせた。
「え?」
雨下が、すぐ背中に立っていた。いつの間にこんな近くに来ていたのか気がつかなかった。濡れたスーツのまま、じっと俺を見下ろしている。
「う、雨下さん?」
雨下はハッとしたように目を見開いた。だが、俺をじっと見下ろす視線は外さない。
「?」
挙動不審な様子に、内心ビビる。雨下は近くによると、俺よりも頭一つ分大きかった。なんとなく、威圧感がある。
「ど、どうかしましたか?」
「あ、ごめん。何だっけ?」
上の空だったのか、雨下がそう言う。雨下の視線は相変わらず俺――の、顔ではない。もっと、下を見ている。なんとなく、落ち着かなくなってシャツの裾を掴む。
「っと、おしぼりです。脚、拭いた方が……」
「ああ――そうだね。拭きたいな」
「すぐそこにあるんで、待ってて貰えます?」
そそくさと、雨下のそばを離れる。何だか、変に緊張する。
(取り合えず、さっさと拭いて戻ろう……)
雨下の分と、自分の分のおしぼりを二つずつ取り出し、ロッカーに戻る。おしぼりは業者さんに頼んでいて、バックヤードのコンテナに積まれているのだ。
「雨下さん、おしぼり――」
戻ってくると、雨下はまだ着替えていなかった。相変わらず濡れたスーツのまま、中途半端にベルトを外したままだ。
(何やってんだ、この人)
不審に思いながら、おしぼりを手渡す。と、何故か雨下は俺の手からおしぼりを全て取り上げると、おもむろにそれを拡げた。
「あの? それ、俺も――」
俺も使いたいんですけど。そう言いかけた。
が。
「!??!!??!?」
次の雨下の行動で、俺は完全に思考停止した。
雨下が、俺の脚をおしぼりで拭き始めたからだ。
「ちょっ、雨下さんっ!?」
逃げ腰になる俺に、雨下はガシッと脚を掴んだまま、丁寧に太腿を拭き上げる。その触り方が、なんとなく淫靡に感じて、ゾクリと背筋が粟立った。
「ん、ちょ、ちょっと、アンタ」
「神足くん、だっけ。そこ座って」
「え? ちょっと」
有無を言わさない強引さで長机の上に俺を座らせ、なおも脚を拭き続ける。太腿からふくらはぎ。膝。踝。
「う、雨下さんっ……、自分で……」
「神足くん、スポーツとかやってるの?」
「へ? いや、なんも……」
「無駄な脂肪も筋肉もない。良い脚だ」
「は?」
足の裏を拭き上げられ、ぞくんと肩が揺れた。雨下が、チラリと俺を見る。
視線が合って、ビクッと肩が揺れた。熱っぽい瞳に、一瞬、自分が何をされているのか、理解できなくなる。
「君――名前も、良いよね」
「は――」
何を言って。
「神足、か。すごく……」
絵本の中の王子様みたいに、雨下が踵を掴んで手に取る。
「素敵だ」
そのまま、雨下の唇が、俺のつま先に触れた。
「――――――――――」
思考停止。
(え?)
俺。
今。
何、されてる?
俺の反応がないのを良いことに、雨下の舌が足の甲を這い上がる。ぞぞ、と皮膚が震える。声が出ない。
逃げなきゃ。
逃げなきゃいけないのに。
「――――っ」
ようやく声を絞り出したのと、スパン! と小気味いい音を立てて雨下の後頭部がひっぱたかれたのは、殆ど同時だった。
「なに、やってんだこの脚フェチ変態があああっ!!!」
雨下の背後に立っていたのは、怒りで顔を真っ赤にした、この店のオーナーであり、俺の上司。ついでに言えば、雨下の親友――斎藤さんだった。
斎藤さんのロッカーは鍵が刺さったままだ。貴重品は置いていないらしく、予備の制服やタオルなどが詰め込まれている。その中から黒いスラックスを取り出し、タオルと一緒に雨下に手渡す。
「これで大丈夫ですかね」
「ありがとう。助かるよ」
「ジャケットは大丈夫でした?」
「多分ね」
雨下がベルトに手を掛けたのを見届け、俺も着替えることにする。スニーカーを脱ぐと、ぐしょっと濡れた感触があった。
「うわ。靴下も濡れてる……」
最悪だ。と思いながら、靴下を脱ぐ。濡れているせいで脱ぎにくく、引っ張るようにして脱ぎ捨てる。
「……」
ふと、雨下の視線を感じて、振り返る。
「? どうかしましたか?」
「……いや」
「?」
何だろう。何か、妙な気配を感じた気がして、肩を揺らす。
黒いズボンはシミこそ目立っていないが、随分ワインを吸ってしまったらしく、酒臭かった。それに、なんとなくベタベタする。
ズボンをすっかり脱ぎ去り、パンツ一枚になったところで、俺は雨下の方を振り返った。
「すみません、結構ベタベタしますよね。おしぼり持って――」
ビク。身体を震わせた。
「え?」
雨下が、すぐ背中に立っていた。いつの間にこんな近くに来ていたのか気がつかなかった。濡れたスーツのまま、じっと俺を見下ろしている。
「う、雨下さん?」
雨下はハッとしたように目を見開いた。だが、俺をじっと見下ろす視線は外さない。
「?」
挙動不審な様子に、内心ビビる。雨下は近くによると、俺よりも頭一つ分大きかった。なんとなく、威圧感がある。
「ど、どうかしましたか?」
「あ、ごめん。何だっけ?」
上の空だったのか、雨下がそう言う。雨下の視線は相変わらず俺――の、顔ではない。もっと、下を見ている。なんとなく、落ち着かなくなってシャツの裾を掴む。
「っと、おしぼりです。脚、拭いた方が……」
「ああ――そうだね。拭きたいな」
「すぐそこにあるんで、待ってて貰えます?」
そそくさと、雨下のそばを離れる。何だか、変に緊張する。
(取り合えず、さっさと拭いて戻ろう……)
雨下の分と、自分の分のおしぼりを二つずつ取り出し、ロッカーに戻る。おしぼりは業者さんに頼んでいて、バックヤードのコンテナに積まれているのだ。
「雨下さん、おしぼり――」
戻ってくると、雨下はまだ着替えていなかった。相変わらず濡れたスーツのまま、中途半端にベルトを外したままだ。
(何やってんだ、この人)
不審に思いながら、おしぼりを手渡す。と、何故か雨下は俺の手からおしぼりを全て取り上げると、おもむろにそれを拡げた。
「あの? それ、俺も――」
俺も使いたいんですけど。そう言いかけた。
が。
「!??!!??!?」
次の雨下の行動で、俺は完全に思考停止した。
雨下が、俺の脚をおしぼりで拭き始めたからだ。
「ちょっ、雨下さんっ!?」
逃げ腰になる俺に、雨下はガシッと脚を掴んだまま、丁寧に太腿を拭き上げる。その触り方が、なんとなく淫靡に感じて、ゾクリと背筋が粟立った。
「ん、ちょ、ちょっと、アンタ」
「神足くん、だっけ。そこ座って」
「え? ちょっと」
有無を言わさない強引さで長机の上に俺を座らせ、なおも脚を拭き続ける。太腿からふくらはぎ。膝。踝。
「う、雨下さんっ……、自分で……」
「神足くん、スポーツとかやってるの?」
「へ? いや、なんも……」
「無駄な脂肪も筋肉もない。良い脚だ」
「は?」
足の裏を拭き上げられ、ぞくんと肩が揺れた。雨下が、チラリと俺を見る。
視線が合って、ビクッと肩が揺れた。熱っぽい瞳に、一瞬、自分が何をされているのか、理解できなくなる。
「君――名前も、良いよね」
「は――」
何を言って。
「神足、か。すごく……」
絵本の中の王子様みたいに、雨下が踵を掴んで手に取る。
「素敵だ」
そのまま、雨下の唇が、俺のつま先に触れた。
「――――――――――」
思考停止。
(え?)
俺。
今。
何、されてる?
俺の反応がないのを良いことに、雨下の舌が足の甲を這い上がる。ぞぞ、と皮膚が震える。声が出ない。
逃げなきゃ。
逃げなきゃいけないのに。
「――――っ」
ようやく声を絞り出したのと、スパン! と小気味いい音を立てて雨下の後頭部がひっぱたかれたのは、殆ど同時だった。
「なに、やってんだこの脚フェチ変態があああっ!!!」
雨下の背後に立っていたのは、怒りで顔を真っ赤にした、この店のオーナーであり、俺の上司。ついでに言えば、雨下の親友――斎藤さんだった。
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