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影法師
短冊
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突き飛ばされた真咲の背中に押されて、美葛はその場に尻餅をついた。
乾いて白茶けた小路の土は嫌になるほど固かった。
真咲が慌てて美葛を助け起こしたその一瞬に、大きな門は内から閉ざされた。
あっと叫んだ真咲が厚い板戸に取りすがった。
「待ってくれ! 取り次いでもらえればきっと分かる! 常陸国から、信太の里から千種の息子が来たと、忠親様に」
「静かにしろ静かに! 頼むから騒ぐな」
相手は、今閉じたばかりの門を細く開けて真咲を制した。
目つきの険しい髭の門衛だった。えらく外を気にして落ち着かない様子に見える。
「連れの女人に怪我はなかったか」
「あ、ありません」
自ら答えた美葛に向かって、男は荒っぽい振る舞いを詫びた。まったく話が通じない訳ではないようだ。
「分かってくれ。おっかない薬師からきつく言われていて、誰であろうと、今ここを通すわけにはいかんのだ」
「……忠親様、そんなにお加減が悪いのか」
「悪いの何の。どうにかこうにか日々の命を繋いでいらっしゃるという有様でな。あの方を慕う者は俺も含めてたくさんいるが、皆、毎日毎日、お別れの日が近いのじゃないかと気を揉んでいる。……あ、そうだ」
門の隙間から折り畳まれた紙が出てきた。気付いた真咲が奪うように取り返した。
「その短冊は返しておく。もしまた持ち込むようなことがあれば、その時は薬師から破り捨てろとも命じられかねんのだから、そのつもりでいろよ。……お、いかん!」
こちらの返事も待たずに慌てて門が閉ざされ、駆け去る足音がした。
無念そうな真咲が門に額を押し付け、温和な彼にしては珍しく、小さな声で毒づいた。
何と声をかければいいやら美葛には分からなかった。
遠路遙々、この屋敷を訪ねるために半年もかけてやってきたというのに、まさか門前払いを受けてしまうとは。
「ええと……、その、真咲、今日のところは出直そうよ。あ、そうだ。戻って妙泉尼様に相談してみよう。力になってくださるかもしれないし」
場所は小路の交わる辺りで、見れば遠くからこちらへ向かってくる人もある。門に貼り付いた真咲が妙な目で見られてしまってはと、美葛が心配したその時だった。
首筋を大きな蛞蝓でも這うような悪寒が走った。寸時遅れて総身が粟立った。
よくないものがいる。
いつの間にか、すぐ後ろに人ならざるものの気配があった。
恐る恐る振り向いた美葛はあまりのことに絶句した。
悄然と振り返った真咲も、それを目にしては呆けてなどいられないようだった。
起き上がった影。そうとでも呼ぶほかないものが往来に朦朧と立っていた。
その身の縁をもやもやと揺らめかせる人影は、何やらぶつぶつと歌のようなものを呟いていた。影は門前に重たげな何かの塊を放り投げた。美葛も真咲も息を飲んだ。繰り返し殴られるかどうかされたに違いない、それはずたぼろになって気を失ったらしい壮年の男だった。
唖然としたまま動けない美葛と真咲の前で、その黒い何かはひとしきり揺らめき、薄らいで消え去った。
「で、それから?」
もゆらが常から不機嫌そうな半眼をいっそう鋭くした。
約束していた未刻の二つに遅れたことをまだ怒っているのだろうか、これだけ謝ったのにと、美葛はびくびくしながら尋ね返す。
「そ、それからって?」
「その怪我だらけのぼろぼろ男のことです。気を失っていたんでしょうに」
「ああ、すぐに目を覚まして、よろよろっとどこかへ行っちゃった。『もうしません』とか何とか言いながら」
「もうしません、か……」
何やら思う所があるようで、もゆらはあらぬ方を向いたまま固まってしまった。
庵と呼ぶには大き過ぎる妙泉尼の屋敷を、まだ浅い春の薄ら陽が仄かに照らしている。
寒さより明るさを取って縁まで出て来た美葛は、もゆらが庇の間から持ち出してきてくれた見台に臨んでいた。冊子本を開いていた。『古今和歌六帖』の第一帖。妙泉尼が蔵する書物の一冊で、おびただしい数の歌がこれでもかと記された本だ。
もっと歌のことを学んでみたいなあ。
そんな一言が妙泉尼の耳に届いたことは幸いだったのかどうなのか――。美葛は早くも後悔し始めていた。歌は己の霊力を引き出してくれるもの、足りない力を補ってくれるもの。先の夫婦鼓の一件からそう強く思い定めたのだったが、考えが甘過ぎたかもしれない。
美葛が黙ったままなのを、もゆらが我に返って見咎めた。
「何をぼさっとしているんです。ほら、昨日の続きから読んだ読んだ」
「う、うん。……どこからだったっけ」
「《親月》の六首目」
「ええと『今更に 雪降らめやも かげろふの もゆる春べと なりにしものを』、『鶯の 冬ごもりして 産める子は 春の睦月の うちにこそ鳴け』」
もゆらが、はい次《元日》、とどこか上の空で題を呟く。
やはり何か別のことを考えているらしい。
「『あらたまの 年立ちかへる あしたより 待たるるものは 鶯の声』」
「今の『あらたまの』も常詞です。『年』の他に『春』や『日』といった言葉も起こしますから忘れないでください。先の題《親月》の一首目に出てきた常詞は? 何でしたか?」
「ええと……、『佐保』を起こす『うちのぼる』」
「おや、よく覚えているじゃありませんか」
「まあね。信太の狐は物覚えが良いんだよ」
えへんと胸を張った美葛のことを、もゆらは知りませんけどと冷たくあしらった。
「……しかしせっかく都へ上ってきたのに、真咲殿もつくづくついていませんね。うちのお師匠様に捕まって、余計な道草を食わされて、やっと訪ねたと思ったら目当ての河内家では門前払い。そのくせ得体の知れない妖には行き逢うんですから」
「言わないであげてよ」
美葛は、もゆらと揃って庭の隅に目を向けた。睦月の午の弱々しい日差しの下、真咲が妙泉尼の言いつけに従って畑の世話をしている。丸めた背中がやけにしょんぼりして見えた。元気がないのは肉や魚を食わないせいでもあるかもしれない。摘んだままの油菜やら萵苣やら、焼いた韮やら、真咲は庵ではそういうものばかり食べている。
憐れな真咲の姿を見ていると、美葛には、今更ながらにあの門衛とのやり取りが悔しく思われた。
「たかが短冊の一枚くらい、預かってくれたっていいのに」
今は亡き母、千種から託された短冊を河内忠親という人物に手渡す。そのためだけに、真咲は遠い常陸国から都へ出てきた。
与えられたその役目が彼にとってどれほど大切なものか、ずっと一緒だった美葛にはよく分かっているつもりだ。
道々、真咲は地蔵を見れば拝み、御堂があれば祈り、寺や神社の前では必ず立ち止まって頭を下げた。注連を結った大樹に行き逢えば旅の無事を念じ、川に突き当たる度に水垢離をして身を清め、朝日と夕日に手を合わせることを欠かさなかった。片や死んだ母の使い。片や狐としての修行。目的は違っても、同じ都を目指す者同士、美葛はこうまでひたむきな男を放ってはおけないと思ったものだった。
「真咲に、役目を果たさせてあげたいなあ」
「……心の底からそう思っていますか?」
もゆらが疑わしげに尋ねてくる。当たり前だよ、と美葛は深く頷いた。
「言ってなかったっけ、真咲は私の、命の恩人でもあるの。だから、何とか役に立って恩返しをしたい。物覚えの良い信太の狐は、受けた恩だって忘れないんだよ」
「知りませんけど。でもまあ、その気があるなら、この話、受けてみますか?」
言いつつ、もゆらが懐から折り畳まれた料紙を取り出した。
美葛は手渡されたそれを広げた。彼女にもそれと分かるほどたどたどしい手で、しかも長々と記された書状だった。
「先日、河内忠親様のお屋敷に仕える方から陰陽師安倍吉平様に宛てて届けられたものです。知っての通り忠親様は検非違使庁にお勤めの看督長ですけれど、病でお加減が優れない所に、えらく厄介な案件が持ち上がってしまったそうなのですね。で、その屋敷の方というのが、主の身を案じて安倍家に助けを請うたらしいのです」
「そんな書状を、もゆらが持ってるのはどうして?」
「お師匠様から預かったのですよ。安倍家とは昵懇の間柄なので。先方は今、忌籠りの最中で身動きが取れませんからね。お師匠様、頼まれ事を代わって引き受けてほしいと、お願いされてしまったそうなのです」
「え……、それじゃあ、もしかしてこの書状があれば」
「大手を振って河内家の門を潜ることができるでしょう」
飛び上がって真咲を呼ぼうとした美葛のことを、ただし、ともゆらが制した。
「用心してかかった方が良いですよ。事は、先ほど話に出た妖《影法師》に関わるのですからね」
乾いて白茶けた小路の土は嫌になるほど固かった。
真咲が慌てて美葛を助け起こしたその一瞬に、大きな門は内から閉ざされた。
あっと叫んだ真咲が厚い板戸に取りすがった。
「待ってくれ! 取り次いでもらえればきっと分かる! 常陸国から、信太の里から千種の息子が来たと、忠親様に」
「静かにしろ静かに! 頼むから騒ぐな」
相手は、今閉じたばかりの門を細く開けて真咲を制した。
目つきの険しい髭の門衛だった。えらく外を気にして落ち着かない様子に見える。
「連れの女人に怪我はなかったか」
「あ、ありません」
自ら答えた美葛に向かって、男は荒っぽい振る舞いを詫びた。まったく話が通じない訳ではないようだ。
「分かってくれ。おっかない薬師からきつく言われていて、誰であろうと、今ここを通すわけにはいかんのだ」
「……忠親様、そんなにお加減が悪いのか」
「悪いの何の。どうにかこうにか日々の命を繋いでいらっしゃるという有様でな。あの方を慕う者は俺も含めてたくさんいるが、皆、毎日毎日、お別れの日が近いのじゃないかと気を揉んでいる。……あ、そうだ」
門の隙間から折り畳まれた紙が出てきた。気付いた真咲が奪うように取り返した。
「その短冊は返しておく。もしまた持ち込むようなことがあれば、その時は薬師から破り捨てろとも命じられかねんのだから、そのつもりでいろよ。……お、いかん!」
こちらの返事も待たずに慌てて門が閉ざされ、駆け去る足音がした。
無念そうな真咲が門に額を押し付け、温和な彼にしては珍しく、小さな声で毒づいた。
何と声をかければいいやら美葛には分からなかった。
遠路遙々、この屋敷を訪ねるために半年もかけてやってきたというのに、まさか門前払いを受けてしまうとは。
「ええと……、その、真咲、今日のところは出直そうよ。あ、そうだ。戻って妙泉尼様に相談してみよう。力になってくださるかもしれないし」
場所は小路の交わる辺りで、見れば遠くからこちらへ向かってくる人もある。門に貼り付いた真咲が妙な目で見られてしまってはと、美葛が心配したその時だった。
首筋を大きな蛞蝓でも這うような悪寒が走った。寸時遅れて総身が粟立った。
よくないものがいる。
いつの間にか、すぐ後ろに人ならざるものの気配があった。
恐る恐る振り向いた美葛はあまりのことに絶句した。
悄然と振り返った真咲も、それを目にしては呆けてなどいられないようだった。
起き上がった影。そうとでも呼ぶほかないものが往来に朦朧と立っていた。
その身の縁をもやもやと揺らめかせる人影は、何やらぶつぶつと歌のようなものを呟いていた。影は門前に重たげな何かの塊を放り投げた。美葛も真咲も息を飲んだ。繰り返し殴られるかどうかされたに違いない、それはずたぼろになって気を失ったらしい壮年の男だった。
唖然としたまま動けない美葛と真咲の前で、その黒い何かはひとしきり揺らめき、薄らいで消え去った。
「で、それから?」
もゆらが常から不機嫌そうな半眼をいっそう鋭くした。
約束していた未刻の二つに遅れたことをまだ怒っているのだろうか、これだけ謝ったのにと、美葛はびくびくしながら尋ね返す。
「そ、それからって?」
「その怪我だらけのぼろぼろ男のことです。気を失っていたんでしょうに」
「ああ、すぐに目を覚まして、よろよろっとどこかへ行っちゃった。『もうしません』とか何とか言いながら」
「もうしません、か……」
何やら思う所があるようで、もゆらはあらぬ方を向いたまま固まってしまった。
庵と呼ぶには大き過ぎる妙泉尼の屋敷を、まだ浅い春の薄ら陽が仄かに照らしている。
寒さより明るさを取って縁まで出て来た美葛は、もゆらが庇の間から持ち出してきてくれた見台に臨んでいた。冊子本を開いていた。『古今和歌六帖』の第一帖。妙泉尼が蔵する書物の一冊で、おびただしい数の歌がこれでもかと記された本だ。
もっと歌のことを学んでみたいなあ。
そんな一言が妙泉尼の耳に届いたことは幸いだったのかどうなのか――。美葛は早くも後悔し始めていた。歌は己の霊力を引き出してくれるもの、足りない力を補ってくれるもの。先の夫婦鼓の一件からそう強く思い定めたのだったが、考えが甘過ぎたかもしれない。
美葛が黙ったままなのを、もゆらが我に返って見咎めた。
「何をぼさっとしているんです。ほら、昨日の続きから読んだ読んだ」
「う、うん。……どこからだったっけ」
「《親月》の六首目」
「ええと『今更に 雪降らめやも かげろふの もゆる春べと なりにしものを』、『鶯の 冬ごもりして 産める子は 春の睦月の うちにこそ鳴け』」
もゆらが、はい次《元日》、とどこか上の空で題を呟く。
やはり何か別のことを考えているらしい。
「『あらたまの 年立ちかへる あしたより 待たるるものは 鶯の声』」
「今の『あらたまの』も常詞です。『年』の他に『春』や『日』といった言葉も起こしますから忘れないでください。先の題《親月》の一首目に出てきた常詞は? 何でしたか?」
「ええと……、『佐保』を起こす『うちのぼる』」
「おや、よく覚えているじゃありませんか」
「まあね。信太の狐は物覚えが良いんだよ」
えへんと胸を張った美葛のことを、もゆらは知りませんけどと冷たくあしらった。
「……しかしせっかく都へ上ってきたのに、真咲殿もつくづくついていませんね。うちのお師匠様に捕まって、余計な道草を食わされて、やっと訪ねたと思ったら目当ての河内家では門前払い。そのくせ得体の知れない妖には行き逢うんですから」
「言わないであげてよ」
美葛は、もゆらと揃って庭の隅に目を向けた。睦月の午の弱々しい日差しの下、真咲が妙泉尼の言いつけに従って畑の世話をしている。丸めた背中がやけにしょんぼりして見えた。元気がないのは肉や魚を食わないせいでもあるかもしれない。摘んだままの油菜やら萵苣やら、焼いた韮やら、真咲は庵ではそういうものばかり食べている。
憐れな真咲の姿を見ていると、美葛には、今更ながらにあの門衛とのやり取りが悔しく思われた。
「たかが短冊の一枚くらい、預かってくれたっていいのに」
今は亡き母、千種から託された短冊を河内忠親という人物に手渡す。そのためだけに、真咲は遠い常陸国から都へ出てきた。
与えられたその役目が彼にとってどれほど大切なものか、ずっと一緒だった美葛にはよく分かっているつもりだ。
道々、真咲は地蔵を見れば拝み、御堂があれば祈り、寺や神社の前では必ず立ち止まって頭を下げた。注連を結った大樹に行き逢えば旅の無事を念じ、川に突き当たる度に水垢離をして身を清め、朝日と夕日に手を合わせることを欠かさなかった。片や死んだ母の使い。片や狐としての修行。目的は違っても、同じ都を目指す者同士、美葛はこうまでひたむきな男を放ってはおけないと思ったものだった。
「真咲に、役目を果たさせてあげたいなあ」
「……心の底からそう思っていますか?」
もゆらが疑わしげに尋ねてくる。当たり前だよ、と美葛は深く頷いた。
「言ってなかったっけ、真咲は私の、命の恩人でもあるの。だから、何とか役に立って恩返しをしたい。物覚えの良い信太の狐は、受けた恩だって忘れないんだよ」
「知りませんけど。でもまあ、その気があるなら、この話、受けてみますか?」
言いつつ、もゆらが懐から折り畳まれた料紙を取り出した。
美葛は手渡されたそれを広げた。彼女にもそれと分かるほどたどたどしい手で、しかも長々と記された書状だった。
「先日、河内忠親様のお屋敷に仕える方から陰陽師安倍吉平様に宛てて届けられたものです。知っての通り忠親様は検非違使庁にお勤めの看督長ですけれど、病でお加減が優れない所に、えらく厄介な案件が持ち上がってしまったそうなのですね。で、その屋敷の方というのが、主の身を案じて安倍家に助けを請うたらしいのです」
「そんな書状を、もゆらが持ってるのはどうして?」
「お師匠様から預かったのですよ。安倍家とは昵懇の間柄なので。先方は今、忌籠りの最中で身動きが取れませんからね。お師匠様、頼まれ事を代わって引き受けてほしいと、お願いされてしまったそうなのです」
「え……、それじゃあ、もしかしてこの書状があれば」
「大手を振って河内家の門を潜ることができるでしょう」
飛び上がって真咲を呼ぼうとした美葛のことを、ただし、ともゆらが制した。
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