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物名歌
呪歌
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「やってきた白い童子からその歌が記された文を見せられると、私は何やら夢心地になって、ふらふらと彷徨い出て行ってしまう」
喜斉は力なく首を振った。げんなりした様子を隠そうともしない。
「小屋には死んだはずの薫里がいて、酒と肴で私をもてなす。昔話などしながらしっぽりと時を過ごす。で、いつの間にか寝てしまっている。次の朝、気が付くと私は決まってそこらの小路に放り出されていて、家人が探しにくるのをぐったりしながら待つことになっている。何を食わされたのやら口の中は泥臭くて生臭くて必ず戻すし、間違いなく腹を下すし、はっきり言って最悪だ」
「そんな目に遭わされても、また通うのですか?」
「通ってしまうなあ。恐ろしいことに」
応える喜斉の顔には、諦めたような薄ら笑いが浮かんでいた。
「ただな、こう言ってしまうとあれだが、私は親から養われている身。あまり外聞の悪いことになって、父上にいらぬ迷惑をかけたりはしたくない。遊びが過ぎて女人の霊に憑かれるなどもってのほかだ。分かるか? 分かるよな」
「え、ええ、まあ……」
すねかじりの不甲斐なさや女難を被ることの情けなさを当人の口から聞くとは思わなかった。戸惑う美葛に、時期も時期だしな、と喜斉は謎のような呟きを漏らして続けた。
「別に薫里のことが憎いのではないぞ。あれもこれまで遊女として苦労してきたのだし、最後の最後、巡り会った私にしがみついていたかっただろうこともよく分かる。つれなくして悪かったとも思っている。ただ、このままでは身体が保たん。そろそろどうにかせねばと思って、安倍家に犬丸を走らせたというわけだ」
聞いていてよく分かったのは、この喜斉という男の軽薄さと身勝手さと薄情さだった。病を得たと見るや足を向けなくなり、死んでしまうまで寄り付きもしなかったとは。薫里という、その遊女が感じた悲しさや心細さはどれほどだっただろう。
見下げ果てた男。腹立たしい。しかし、それでも任された仕事は仕事。美葛は頷いてみせた。
「薫里殿の霊が、もう喜斉様にちょっかいをかけてこないように取り計らえばいいんですね」
「違う違う。生温いことを言うな。成仏させるなり祓ってしまうなり、きれいに片付けてやってくれ」
と、差し出されたのは細く折りたたまれた跡がある一葉の短冊だった。
「薫里から届く文だ。いつも同じ歌が記されている。今日もきっと、日が暮れればいつもの小綺麗な童子がやって来て、私の手に同じ文を握らせるのだろう」
美葛は短冊に目を落とした。そこには、伸びやかな文字で一首の歌が書き記されていた。
「『頼もしき 心延えかな 花の夜に 一人待つ我 訪ひ給ふ背子』……?」
美葛から短冊を受け取った真咲は、目を通すなり眉を顰めた。彼は、喜斉の屋敷の濡縁、庭に降りるための階の、下から二つ目の段にゆっくりと腰掛けた。美葛も縁から庭に下りて同じ段に座った。
歌に集中するあまり、真咲は心ここにあらずといった様子だった。ぶつぶつと何やら呟いたり、首を傾げたり目を伏せたり、難しい顔のままあらぬ方を向いたりする。
「真咲、何がそんなに気になるの」
「……何というかこう、妙な感じを受ける歌だと思って」
「妙な感じ?」
「ぎくしゃくしてるというか……。どう言えば良いんだろうな。何かが引っ掛かる」
美葛よりずっと歌の道に明るい真咲でも、悩むことはあるらしい。感じた何かを上手く言葉にできないようで、もどかしそうに唸り始めた。
頼もしき 心延えかな 花の夜に 一人待つ我 訪ひ給ふ背子
心遣いが頼もしい。花咲く夜に、一人で待つ私を慕わしい貴方が訪ねて来てくださる。
美葛にもそれと分かる歌意が真咲にすんなり取れない訳はない。引っ掛かっているのは、何か他のことなのだろうと思われた。
「これが届くと、喜斉様は、その薫里という死霊の女の小屋を訪ねずにはいられないわけだ」
「うん。そう言ってた」
「ある意味じゃ、これも一種の『誦文歌』ってことだな」
「じゅもんか?」
首を捻る美葛に、呪い歌、と真咲は頷いた。
「災いを避けるための歌だとか、身を守るための歌だとか。そういう、誰が詠んだとも知れない、広く知られた呪い歌をひっくるめて誦文歌と呼ぶんだ」
「この前、鼓の《望月》を探すときに真咲が詠んだのも誦文歌?」
「あれは場に即して詠んだだけ。けど、言われてみるとあれも、美葛が霊力を籠めて歌うことで妖しの雲を払ったんだっけか。誦文歌として働いたって考えると、どんな歌でも誦文歌になり得るのかもしれないな」
などとぶつぶつ言いながら、真咲はまた短冊を見つめて唸り出した。
歌の事になると、とても田舎の炭焼き男とは思えないような口調と顔付きになる。
真剣な横顔を見ていると、美葛は尋ねたい気持ちを抑えきれなくなった。同じ階の上、美葛はほんの少し真咲に身を寄せた。
「真咲は、信太の里に帰ろうとは思わない?」
ふいの問いかけに真咲が顔を上げた。
何を訊かれたのか、一拍遅れて気付いたふうだった。短冊から目を離して美葛を見つめた。
「俺は、正直に言って、今はそれほど帰りたいと思ってない」
「忠親様に会えて、あの短冊も手渡せたのに?」
「確かにお袋との約束は果たした。けど忠親様への御礼をし尽くしたとは、まだとても言えない」
「それじゃあ、いずれ帰るつもりではいる?」
「美葛、山に帰りたくなったのか。都で修行して、立派な狐になってみせるんじゃなかったのか」
問いかけで返された美葛は口を噤んで目を逸らした。抱えた膝に愁い顔を寄せた。
「時々、不安で、山に逃げ帰りたいような気持ちになるの。この道で合ってるのか、やり方を間違えてないか、誰も正しいことなんか教えてくれないからすごく心配。どうかすると、修行なんて上手く行かなくてもいいんじゃないか、ただの狐に戻ってもいいんじゃないか、なんて考えたりしちゃったりして……」
「狐も人も同じなんだな」
真咲が形の良い眉を寄せて、口元だけで微笑んだ。
「いつかこうありたい己と、今のそうではない己との間で、悩んでるって訳だ」
「真咲もそう?」
「俺は、叶うならずっとずっと忠親様にお仕えしていたい。でもそんな訳にもいかない。忠親様とはきっと、もうじきお別れだ」
真咲の話を聞く限り、きっと本人もそのことを受け入れている。忠親が世を去る日は近い。
「そうなったらもう、里に帰ってただの炭焼きに戻るしかない。……でもなあ」
真咲は再び短冊に目を落とした。
「このまま戻っていいのか、迷ってるんだ俺も。本当は。里ではまず望めないような物や人に、ここでなら出会えるのかもしれないと思うと」
「それってもしかして、もっと都で歌のことを学びたいってこと?」
頷いた真咲は、それを打ち消すように笑った。
「我ながら高望みが過ぎる。無い物ねだりを言ってみただけだ。だいたいこういうものは」
と、短冊をひらひらさせた。
「本当は、ほんの一握りの、位の高い都人のもんだ。炭焼きなんかにはとてもとても」
「そんなこと……」
美葛は真咲に上手く言葉を返せなかった。そうやって己を貶めるものではないと励ましてやりたいのに、何かがそれを押し留める。ままならなさに悩む仲間を欲しているのかもしれない、と考えて、密かに身震いした。誇り高い立派な白狐になることを望む狐とも思えない、何と拗けた心だろう。
胸の奥の暗がりの、そのあまりの暗さに触れて呆然としたせいかもしれない。真咲に肩を揺すられるまで、俯いた美葛はそのことに気付かなかった。
「美葛、美葛。あれを見ろ」
いつの間にか、誰もいなかったはずの庭に白装束の童子が姿を現していた。
喜斉は力なく首を振った。げんなりした様子を隠そうともしない。
「小屋には死んだはずの薫里がいて、酒と肴で私をもてなす。昔話などしながらしっぽりと時を過ごす。で、いつの間にか寝てしまっている。次の朝、気が付くと私は決まってそこらの小路に放り出されていて、家人が探しにくるのをぐったりしながら待つことになっている。何を食わされたのやら口の中は泥臭くて生臭くて必ず戻すし、間違いなく腹を下すし、はっきり言って最悪だ」
「そんな目に遭わされても、また通うのですか?」
「通ってしまうなあ。恐ろしいことに」
応える喜斉の顔には、諦めたような薄ら笑いが浮かんでいた。
「ただな、こう言ってしまうとあれだが、私は親から養われている身。あまり外聞の悪いことになって、父上にいらぬ迷惑をかけたりはしたくない。遊びが過ぎて女人の霊に憑かれるなどもってのほかだ。分かるか? 分かるよな」
「え、ええ、まあ……」
すねかじりの不甲斐なさや女難を被ることの情けなさを当人の口から聞くとは思わなかった。戸惑う美葛に、時期も時期だしな、と喜斉は謎のような呟きを漏らして続けた。
「別に薫里のことが憎いのではないぞ。あれもこれまで遊女として苦労してきたのだし、最後の最後、巡り会った私にしがみついていたかっただろうこともよく分かる。つれなくして悪かったとも思っている。ただ、このままでは身体が保たん。そろそろどうにかせねばと思って、安倍家に犬丸を走らせたというわけだ」
聞いていてよく分かったのは、この喜斉という男の軽薄さと身勝手さと薄情さだった。病を得たと見るや足を向けなくなり、死んでしまうまで寄り付きもしなかったとは。薫里という、その遊女が感じた悲しさや心細さはどれほどだっただろう。
見下げ果てた男。腹立たしい。しかし、それでも任された仕事は仕事。美葛は頷いてみせた。
「薫里殿の霊が、もう喜斉様にちょっかいをかけてこないように取り計らえばいいんですね」
「違う違う。生温いことを言うな。成仏させるなり祓ってしまうなり、きれいに片付けてやってくれ」
と、差し出されたのは細く折りたたまれた跡がある一葉の短冊だった。
「薫里から届く文だ。いつも同じ歌が記されている。今日もきっと、日が暮れればいつもの小綺麗な童子がやって来て、私の手に同じ文を握らせるのだろう」
美葛は短冊に目を落とした。そこには、伸びやかな文字で一首の歌が書き記されていた。
「『頼もしき 心延えかな 花の夜に 一人待つ我 訪ひ給ふ背子』……?」
美葛から短冊を受け取った真咲は、目を通すなり眉を顰めた。彼は、喜斉の屋敷の濡縁、庭に降りるための階の、下から二つ目の段にゆっくりと腰掛けた。美葛も縁から庭に下りて同じ段に座った。
歌に集中するあまり、真咲は心ここにあらずといった様子だった。ぶつぶつと何やら呟いたり、首を傾げたり目を伏せたり、難しい顔のままあらぬ方を向いたりする。
「真咲、何がそんなに気になるの」
「……何というかこう、妙な感じを受ける歌だと思って」
「妙な感じ?」
「ぎくしゃくしてるというか……。どう言えば良いんだろうな。何かが引っ掛かる」
美葛よりずっと歌の道に明るい真咲でも、悩むことはあるらしい。感じた何かを上手く言葉にできないようで、もどかしそうに唸り始めた。
頼もしき 心延えかな 花の夜に 一人待つ我 訪ひ給ふ背子
心遣いが頼もしい。花咲く夜に、一人で待つ私を慕わしい貴方が訪ねて来てくださる。
美葛にもそれと分かる歌意が真咲にすんなり取れない訳はない。引っ掛かっているのは、何か他のことなのだろうと思われた。
「これが届くと、喜斉様は、その薫里という死霊の女の小屋を訪ねずにはいられないわけだ」
「うん。そう言ってた」
「ある意味じゃ、これも一種の『誦文歌』ってことだな」
「じゅもんか?」
首を捻る美葛に、呪い歌、と真咲は頷いた。
「災いを避けるための歌だとか、身を守るための歌だとか。そういう、誰が詠んだとも知れない、広く知られた呪い歌をひっくるめて誦文歌と呼ぶんだ」
「この前、鼓の《望月》を探すときに真咲が詠んだのも誦文歌?」
「あれは場に即して詠んだだけ。けど、言われてみるとあれも、美葛が霊力を籠めて歌うことで妖しの雲を払ったんだっけか。誦文歌として働いたって考えると、どんな歌でも誦文歌になり得るのかもしれないな」
などとぶつぶつ言いながら、真咲はまた短冊を見つめて唸り出した。
歌の事になると、とても田舎の炭焼き男とは思えないような口調と顔付きになる。
真剣な横顔を見ていると、美葛は尋ねたい気持ちを抑えきれなくなった。同じ階の上、美葛はほんの少し真咲に身を寄せた。
「真咲は、信太の里に帰ろうとは思わない?」
ふいの問いかけに真咲が顔を上げた。
何を訊かれたのか、一拍遅れて気付いたふうだった。短冊から目を離して美葛を見つめた。
「俺は、正直に言って、今はそれほど帰りたいと思ってない」
「忠親様に会えて、あの短冊も手渡せたのに?」
「確かにお袋との約束は果たした。けど忠親様への御礼をし尽くしたとは、まだとても言えない」
「それじゃあ、いずれ帰るつもりではいる?」
「美葛、山に帰りたくなったのか。都で修行して、立派な狐になってみせるんじゃなかったのか」
問いかけで返された美葛は口を噤んで目を逸らした。抱えた膝に愁い顔を寄せた。
「時々、不安で、山に逃げ帰りたいような気持ちになるの。この道で合ってるのか、やり方を間違えてないか、誰も正しいことなんか教えてくれないからすごく心配。どうかすると、修行なんて上手く行かなくてもいいんじゃないか、ただの狐に戻ってもいいんじゃないか、なんて考えたりしちゃったりして……」
「狐も人も同じなんだな」
真咲が形の良い眉を寄せて、口元だけで微笑んだ。
「いつかこうありたい己と、今のそうではない己との間で、悩んでるって訳だ」
「真咲もそう?」
「俺は、叶うならずっとずっと忠親様にお仕えしていたい。でもそんな訳にもいかない。忠親様とはきっと、もうじきお別れだ」
真咲の話を聞く限り、きっと本人もそのことを受け入れている。忠親が世を去る日は近い。
「そうなったらもう、里に帰ってただの炭焼きに戻るしかない。……でもなあ」
真咲は再び短冊に目を落とした。
「このまま戻っていいのか、迷ってるんだ俺も。本当は。里ではまず望めないような物や人に、ここでなら出会えるのかもしれないと思うと」
「それってもしかして、もっと都で歌のことを学びたいってこと?」
頷いた真咲は、それを打ち消すように笑った。
「我ながら高望みが過ぎる。無い物ねだりを言ってみただけだ。だいたいこういうものは」
と、短冊をひらひらさせた。
「本当は、ほんの一握りの、位の高い都人のもんだ。炭焼きなんかにはとてもとても」
「そんなこと……」
美葛は真咲に上手く言葉を返せなかった。そうやって己を貶めるものではないと励ましてやりたいのに、何かがそれを押し留める。ままならなさに悩む仲間を欲しているのかもしれない、と考えて、密かに身震いした。誇り高い立派な白狐になることを望む狐とも思えない、何と拗けた心だろう。
胸の奥の暗がりの、そのあまりの暗さに触れて呆然としたせいかもしれない。真咲に肩を揺すられるまで、俯いた美葛はそのことに気付かなかった。
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