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17: 先に生まれただけのくせに
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頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。
つまりはどういう事?
理解が追いつかない。
「どういう事?説明してよ……」
「……」
「ねえ、ライル!」
クロエは逃げて何も答えないライルの胸ぐらを掴んだ。
だがその時、ノックもなしに勢いよく部屋の扉が開いた。
「クロエ!!」
血相を欠いて部屋に飛び込んできたのは、オスカーと公爵夫妻だった。
ベッドの上で向かい合うライルとクロエを見たオスカーは、ギリっと奥歯を噛み締めた。
そして、ツカツカと二人に近づき、
思い切り、ライルを殴った。
バキッという音と共に、ライルはベッドから転げ落ちる。
「貴様!クロエに何をした!?」
「ちょ……!?オスカー!?」
「クロエ!!大丈夫?何もされていない?」
「何もって……、お義母さま?」
オスカーと一緒に入って来た公爵夫人は、慌ててクロエを抱きしめ、自分が着ていたカーディガンを彼女に着させた。
「大丈夫。もう大丈夫よ、クロエ」
「あの、これは一体……」
「実はね……」
「ライル、貴様!爵位のために僕を陥れ、クロエを奪おうとするなんて!この恥知らずがっ!!」
オスカーはベッドから落ちたライルに馬乗りになって、もう二発殴った。
品行方正で穏やかな紳士だった彼が、顔を真っ赤にして口汚く怒鳴り散らしている。
公爵夫妻はそれを止めようともしないし、ライルは何故か抵抗する事なく、大人しく殴られている。
(何がどうなっているの?)
困惑するクロエは、公爵夫人の静止を振り切り、咄嗟にオスカーの腕に飛びついた。
そして、「もうやめて」と叫ぶ。
その時、ふと、オペラのヒロインの姿が思い浮かんだ。
そういえば、今日のオペラでこんなシーンがあった気がする。
そう思うと、混乱する心とは裏腹に、どうしてだか頭の中はスッと冴えた。
「やめて、オスカー。お願いよ」
いくらひ弱なオスカーでも、一応は男だ。こんな風に力一杯殴られ続ければ、ライルだって無事では済まない。
「暴力では何も解決しないわ」
クロエは赤くなったオスカーの右手を優しく摩った。
それは、興奮した彼を落ち着かせるためであったが、オスカーはかすかに頬を染め、
同時に、ライルは憎悪に満ちた眼差しを兄に向けた。
「……して」
「え……?」
「どうしてそんな奴がいいんだ!?」
「ラ、ライル?」
「そいつは長男だから優遇されているだけで、実際は何一つ俺に勝てない。勉強も剣技も馬術も射撃も、全部俺の方が上手くできる。そいつは、弟に勝ちを譲ってもらわなきゃ体裁を保てないような、そんな情けない男なんだよ!」
「だまれ、ライル!」
「何が王子様だ。先に生まれただけのくせに!自分一人では何も出来ないくせに!」
長年しまい込んでいた感情が爆発したみたいに、ライルの口は止まらない。
彼の闇は思っていた以上に深かったようだ。しかし、それも当たり前と言えば当たり前のこと。
だって彼は、ライル・シルヴェスターはずっと、兄オスカーを立てるために抑圧されて来たのだから。
クロエはライルに近づき、彼の口をそっと手で塞いだ。
「落ち着いて、ライル。私はさっき、暴力では何も解決しないと言ったけれど、それは暴言も同じよ。声を荒げて感情に任せて言葉を吐き出しても、なんの解決にもならない。だから、どうか落ち着いて。そして…………、お願いだから、誰かこの状況を説明して。誰でも良いから全部、順を追って説明してください」
先ほどから、クロエだけが何一つ状況を把握できていない。
クロエはライルの口を塞いだまま、部屋を見渡した。
公爵夫人は申し訳なさそうに顔を伏せ、公爵は眉間に皺を寄せている。その表情から、彼らも全てを把握しているわけではないことが察せられた。
だからクロエはオスカーに視線を向けた。
するとオスカーは怒りでギュッと握り締めていた拳を開き、クロエの前に両膝をついた。
そして彼女の柔らかな白銀の髪を優しく撫で、「僕が説明するよ」と言った。
その顔は、先ほどまでの野蛮な彼ではなく、クロエが好きだった王子様な彼だった。
つまりはどういう事?
理解が追いつかない。
「どういう事?説明してよ……」
「……」
「ねえ、ライル!」
クロエは逃げて何も答えないライルの胸ぐらを掴んだ。
だがその時、ノックもなしに勢いよく部屋の扉が開いた。
「クロエ!!」
血相を欠いて部屋に飛び込んできたのは、オスカーと公爵夫妻だった。
ベッドの上で向かい合うライルとクロエを見たオスカーは、ギリっと奥歯を噛み締めた。
そして、ツカツカと二人に近づき、
思い切り、ライルを殴った。
バキッという音と共に、ライルはベッドから転げ落ちる。
「貴様!クロエに何をした!?」
「ちょ……!?オスカー!?」
「クロエ!!大丈夫?何もされていない?」
「何もって……、お義母さま?」
オスカーと一緒に入って来た公爵夫人は、慌ててクロエを抱きしめ、自分が着ていたカーディガンを彼女に着させた。
「大丈夫。もう大丈夫よ、クロエ」
「あの、これは一体……」
「実はね……」
「ライル、貴様!爵位のために僕を陥れ、クロエを奪おうとするなんて!この恥知らずがっ!!」
オスカーはベッドから落ちたライルに馬乗りになって、もう二発殴った。
品行方正で穏やかな紳士だった彼が、顔を真っ赤にして口汚く怒鳴り散らしている。
公爵夫妻はそれを止めようともしないし、ライルは何故か抵抗する事なく、大人しく殴られている。
(何がどうなっているの?)
困惑するクロエは、公爵夫人の静止を振り切り、咄嗟にオスカーの腕に飛びついた。
そして、「もうやめて」と叫ぶ。
その時、ふと、オペラのヒロインの姿が思い浮かんだ。
そういえば、今日のオペラでこんなシーンがあった気がする。
そう思うと、混乱する心とは裏腹に、どうしてだか頭の中はスッと冴えた。
「やめて、オスカー。お願いよ」
いくらひ弱なオスカーでも、一応は男だ。こんな風に力一杯殴られ続ければ、ライルだって無事では済まない。
「暴力では何も解決しないわ」
クロエは赤くなったオスカーの右手を優しく摩った。
それは、興奮した彼を落ち着かせるためであったが、オスカーはかすかに頬を染め、
同時に、ライルは憎悪に満ちた眼差しを兄に向けた。
「……して」
「え……?」
「どうしてそんな奴がいいんだ!?」
「ラ、ライル?」
「そいつは長男だから優遇されているだけで、実際は何一つ俺に勝てない。勉強も剣技も馬術も射撃も、全部俺の方が上手くできる。そいつは、弟に勝ちを譲ってもらわなきゃ体裁を保てないような、そんな情けない男なんだよ!」
「だまれ、ライル!」
「何が王子様だ。先に生まれただけのくせに!自分一人では何も出来ないくせに!」
長年しまい込んでいた感情が爆発したみたいに、ライルの口は止まらない。
彼の闇は思っていた以上に深かったようだ。しかし、それも当たり前と言えば当たり前のこと。
だって彼は、ライル・シルヴェスターはずっと、兄オスカーを立てるために抑圧されて来たのだから。
クロエはライルに近づき、彼の口をそっと手で塞いだ。
「落ち着いて、ライル。私はさっき、暴力では何も解決しないと言ったけれど、それは暴言も同じよ。声を荒げて感情に任せて言葉を吐き出しても、なんの解決にもならない。だから、どうか落ち着いて。そして…………、お願いだから、誰かこの状況を説明して。誰でも良いから全部、順を追って説明してください」
先ほどから、クロエだけが何一つ状況を把握できていない。
クロエはライルの口を塞いだまま、部屋を見渡した。
公爵夫人は申し訳なさそうに顔を伏せ、公爵は眉間に皺を寄せている。その表情から、彼らも全てを把握しているわけではないことが察せられた。
だからクロエはオスカーに視線を向けた。
するとオスカーは怒りでギュッと握り締めていた拳を開き、クロエの前に両膝をついた。
そして彼女の柔らかな白銀の髪を優しく撫で、「僕が説明するよ」と言った。
その顔は、先ほどまでの野蛮な彼ではなく、クロエが好きだった王子様な彼だった。
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