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CASE3:戸村千景
4:相談(1)
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「なんかあった?」
仕事が一段落つき、遅めの昼食を取っていると、不意にあずさが尋ねてきた。
私はあずさ特製のきのこととろろのスープパスタを飲み込んでしまい、思い切り咽せる。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
「なら良いんだけど。はい、水」
「ごめん、ありがとう」
私は渡された水を一気に飲み干した。パスタ丸呑みは生まれて初めての体験だ。死ぬかと思った。気をつけよう。
「良く噛んで食べなきゃダメよ?」
「母親みたいなこと言わないでよ。……それより、何かあったって何?私、なんか変?」
「いや、変というか何というか……、雰囲気がいつもと違うから」
「そ、そう?」
「うん。もしかして彼氏でもできた?」
「……できてないけど。なんで?」
「だっていつもなら私がくる日はだいたい冷蔵庫空っぽなのに、冷蔵庫の中にはそこそこの量の食材が入ってたから。料理してくれる彼氏でも出来たのかなー、と」
違う?、とあずさは小首を傾げる。本当に鋭いな。
私はたまにあずさが人の心を読めるタイプの能力者なのではないかと疑ってしまう。
「名探偵かよ」
「真実はいつも一つ」
「ん?待って?」
「何?」
「何故料理するのは彼氏だと決めつけてるの?私がしてるかもしれないじゃん」
「だって、千景が料理するなんて宇宙人が地球を侵略しにくるくらいあり得ない話だもの。第三次世界大戦の勃発の方がまだリアルだわ」
「比べるものの規模がでけーよ」
「昨日SF映画見たから」
「君はすぐ影響されるなぁ」
「えへへ」
「そーゆーとこ、可愛くて好きだぞっ」
「ごめん。私には夫がいるから……」
「ナチュラルに振ってくんなよっ!」
私はあずさの額にデコピンをかましてやった。
額を抑え、上目遣いでこちらを睨むあずさ。それを見てフンッとそっぽを向く私。
しばらくの沈黙の後、先に吹き出したのはあずさの方だった。
「ふふっ。あははっ」
つられて私も笑ってしまう。
三十路女がこんな、くだらなくて面白い要素なんてどこにもない茶番で爆笑するとか。本当、どうかと思う。
子どもの頃に描いていた30歳はもっと立派な大人だったのになぁ。
実際はこのくだらない会話で笑いが止まらなくなるくらいに子どもだった。
「あー、お腹痛い」
ようやく落ち着いたあずさは目尻に溜めた涙を指で拭い、ふぅーと深呼吸した。
「最近良く笑うね、あずさ」
「そう?自覚ないわ」
「なんか良いことあった?」
「ううん。何も。妊活を再開して1年経つけど全然うまくいかないし、良いことなんてないよ」
「でも前より悲観してないよね」
「まあね。考えすぎるのも良くないかなって」
なるようにしかならない。最悪の場合、子どもがいない人生を歩む覚悟も出来ている。あずさはそう言って笑った。
とても穏やかに、もう大丈夫と言うみたいに。
「そっか……」
良かった。思っていたよりもずっと平気そうだ。
また思い詰めたりしないか心配していたから、私は心から安堵した。
あずさが心穏やかに過ごせているのなら、私にはそれ以上に嬉しいことなんてない。
「良かった。うん。良かった」
「ふふっ」
「……何?」
「ありがとう、千景」
「どうしたの?急に」
「私、千景がいてくれたから立ち直れたんだと思う。あの時、千景が私の話を聞いてくれたから私は聡とも自分とも向き合うことができたんだよ」
「や、やめてよ。なんか改まったお礼言われると恥ずかしい」
こういう照れ臭いことも面と向かって平気で言えてしまうのはあずさの良いところなのだが、私にはちょっと面映ゆい。
私はまっすぐで純粋な瞳でこちらを見つめるあずさの目を自分の手で覆い隠した。
「何するのよ」
「なんとなく。このままあずさの目を見つづけたら固まる気がして」
「私はメデューサか」
あずさの目を覆う私の手の、指の隙間から彼女の瞳がチラリと見えた。
私は柔らかく弧を描く目元と穏やかで優しい声が私を安心させる。
気がつくと私は手を下ろしていた。
あずさはメデューサよりも怖いかもしれない。
「まあつまり、何が言いたいのかというと、今度は私の番ってこと」
「……」
「言いたくないなら言わなくてもいいけど、私は千景が困っているのなら助けになりたいなって……」
「……」
「……な、何よ。化け物を見るみたいな顔して」
「どちらかというと魔女よ」
「ひどっ!?」
「ああ、怖いわ。本当怖い。だって、あずさに言われたら何でも話したくなるもの」
私は両手で顔を覆い隠す。きっと今。あずさは娘を思う母親のような眼差しをこちらに向けているのだろう。
それがやっぱり、面映ゆい。なんか、胸の奥がむずむずする。
「とりあえず、何も言わずに最後まで聞いてもらってもいい?」
私はいつかのカフェであずさが出した条件と似たような条件を出して、小さな声で話し始めた。
仕事が一段落つき、遅めの昼食を取っていると、不意にあずさが尋ねてきた。
私はあずさ特製のきのこととろろのスープパスタを飲み込んでしまい、思い切り咽せる。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
「なら良いんだけど。はい、水」
「ごめん、ありがとう」
私は渡された水を一気に飲み干した。パスタ丸呑みは生まれて初めての体験だ。死ぬかと思った。気をつけよう。
「良く噛んで食べなきゃダメよ?」
「母親みたいなこと言わないでよ。……それより、何かあったって何?私、なんか変?」
「いや、変というか何というか……、雰囲気がいつもと違うから」
「そ、そう?」
「うん。もしかして彼氏でもできた?」
「……できてないけど。なんで?」
「だっていつもなら私がくる日はだいたい冷蔵庫空っぽなのに、冷蔵庫の中にはそこそこの量の食材が入ってたから。料理してくれる彼氏でも出来たのかなー、と」
違う?、とあずさは小首を傾げる。本当に鋭いな。
私はたまにあずさが人の心を読めるタイプの能力者なのではないかと疑ってしまう。
「名探偵かよ」
「真実はいつも一つ」
「ん?待って?」
「何?」
「何故料理するのは彼氏だと決めつけてるの?私がしてるかもしれないじゃん」
「だって、千景が料理するなんて宇宙人が地球を侵略しにくるくらいあり得ない話だもの。第三次世界大戦の勃発の方がまだリアルだわ」
「比べるものの規模がでけーよ」
「昨日SF映画見たから」
「君はすぐ影響されるなぁ」
「えへへ」
「そーゆーとこ、可愛くて好きだぞっ」
「ごめん。私には夫がいるから……」
「ナチュラルに振ってくんなよっ!」
私はあずさの額にデコピンをかましてやった。
額を抑え、上目遣いでこちらを睨むあずさ。それを見てフンッとそっぽを向く私。
しばらくの沈黙の後、先に吹き出したのはあずさの方だった。
「ふふっ。あははっ」
つられて私も笑ってしまう。
三十路女がこんな、くだらなくて面白い要素なんてどこにもない茶番で爆笑するとか。本当、どうかと思う。
子どもの頃に描いていた30歳はもっと立派な大人だったのになぁ。
実際はこのくだらない会話で笑いが止まらなくなるくらいに子どもだった。
「あー、お腹痛い」
ようやく落ち着いたあずさは目尻に溜めた涙を指で拭い、ふぅーと深呼吸した。
「最近良く笑うね、あずさ」
「そう?自覚ないわ」
「なんか良いことあった?」
「ううん。何も。妊活を再開して1年経つけど全然うまくいかないし、良いことなんてないよ」
「でも前より悲観してないよね」
「まあね。考えすぎるのも良くないかなって」
なるようにしかならない。最悪の場合、子どもがいない人生を歩む覚悟も出来ている。あずさはそう言って笑った。
とても穏やかに、もう大丈夫と言うみたいに。
「そっか……」
良かった。思っていたよりもずっと平気そうだ。
また思い詰めたりしないか心配していたから、私は心から安堵した。
あずさが心穏やかに過ごせているのなら、私にはそれ以上に嬉しいことなんてない。
「良かった。うん。良かった」
「ふふっ」
「……何?」
「ありがとう、千景」
「どうしたの?急に」
「私、千景がいてくれたから立ち直れたんだと思う。あの時、千景が私の話を聞いてくれたから私は聡とも自分とも向き合うことができたんだよ」
「や、やめてよ。なんか改まったお礼言われると恥ずかしい」
こういう照れ臭いことも面と向かって平気で言えてしまうのはあずさの良いところなのだが、私にはちょっと面映ゆい。
私はまっすぐで純粋な瞳でこちらを見つめるあずさの目を自分の手で覆い隠した。
「何するのよ」
「なんとなく。このままあずさの目を見つづけたら固まる気がして」
「私はメデューサか」
あずさの目を覆う私の手の、指の隙間から彼女の瞳がチラリと見えた。
私は柔らかく弧を描く目元と穏やかで優しい声が私を安心させる。
気がつくと私は手を下ろしていた。
あずさはメデューサよりも怖いかもしれない。
「まあつまり、何が言いたいのかというと、今度は私の番ってこと」
「……」
「言いたくないなら言わなくてもいいけど、私は千景が困っているのなら助けになりたいなって……」
「……」
「……な、何よ。化け物を見るみたいな顔して」
「どちらかというと魔女よ」
「ひどっ!?」
「ああ、怖いわ。本当怖い。だって、あずさに言われたら何でも話したくなるもの」
私は両手で顔を覆い隠す。きっと今。あずさは娘を思う母親のような眼差しをこちらに向けているのだろう。
それがやっぱり、面映ゆい。なんか、胸の奥がむずむずする。
「とりあえず、何も言わずに最後まで聞いてもらってもいい?」
私はいつかのカフェであずさが出した条件と似たような条件を出して、小さな声で話し始めた。
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