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66:聖女爆誕(3)
しおりを挟むコートを着込むように瘴気纏ったイライザは、エイドリアンの背から乱暴に短剣を抜き取ると次々と自分を騙した教会関係者を刺していく。
短剣しか持っていなくともさすがは剣豪。的確に人の急所を狙っていく。
神に祈りを捧げるはずの場所はあっという間に血に染まった。
生贄にと集められた人々はもちろん、彼の味方であるはずのルウェリンすら、恐ろしくて声が出せない。
「魔塔の魔法師に協力してもらったのですか?」
「枷が魔封じのものから普通のものに代わったからね。脱出は楽だったよ」
黒魔法の調査と銘打って牢を訪れた魔法師の一人が裏切り、イライザを連れ出したらしい。
魔塔にエルデンブルク公国に教会。帝国の秩序はとうの昔に崩壊していたようだ。
リリアンは奥歯を鳴らした。気付けなかっだ自分が腹立たしい。
「さあ、クレア様。こちらにおいでください」
「……い、いや!」
クレアはぎゅっとリリアンにしがみついた。まるで子どものように。
リリアンはクレアを安心させようと抱きしめ返した。
「待ってイライザ。どうするつもりなの?」
「どうするも何も、計画通りにするですよ。夫人」
「計画通りにって……」
「計画通りは計画通り。私とクレア様が永遠に共にいられるようにするんだ」
イライザはそう言うとニヤリと笑った。
イライザに加担する魔法師たちは、先程彼が殺した枢機卿らの遺体を引きずり、魔法陣に近づいた。
そして彼らの血で作られた魔法陣に手を加え始める。
生贄として集められた人々からは悲鳴が上がった。
「イライザ?な、何を……」
「どうせこの魔法陣は公国へとつながる転移魔法の類のものでしょう?だから書き換えるのですよ」
「何、に?」
「人の体を乗っ取る魔法に、ですよ。夫人?」
イライザは両手を広げて、狂ったように甲高い声で笑う。
「今のところ、呪いをどうにかする術ありませんからね。理想はクレア様と愛を育みながら共に生きることだけど、それが叶わないのならせめてあなたの中で生き続けたい」
さあ、クレア様。イライザはそう言ってクレアの方へと一歩ずつ、ゆっくりと歩き出した。
ルウェリンはイライザが出したまさかの結論に、呆然とするしかない。
(どうしたものか)
リリアンは目を閉じた。
クレアを守りながらイライザと対峙するのは簡単ではない。
しかしクレアを何処かに放置してイライザと向き合えば、彼女はすぐにあの裏切り者の魔法師たちに捕まるだろう。
(理想的なのは、一瞬でカタをつけること)
方法がないわけではないが、どの方法を取ろうにもクレアの存在が邪魔だ。
リリアンは一か八かにかけてみることにした。
「ルウェリン・グレイス!」
リリアンの声が神殿に響く。
ルウェリンはびくりの肩を跳ねさせた。
イライザも警戒したのかピタリと足を止める。
「な、何よ」
「これだけの生贄と高度な黒魔法……。普通に考えれば魔法の発動と同時にこの神殿は崩壊するわ。きっとあんたは、瓦礫の下敷きとなって死ぬでしょうね」
「……なっ!」
「仮に生き延びたとしても、すぐに兵が来る。あんたのしたことは立派な反逆罪だし、捕まれば楽には死ねないわ」
「そ、そんなこと、覚悟の上よ」
「あんただけじゃないわよ。グレイス侯も息子のコールマン子爵もルーデウス卿も娘のオリビア嬢も、みんな道連れよ」
「………っ!?」
反応からしてそこまでの想定をしていなかったのだろう。ルウェリンの顔が青くなる。
その程度でよく覚悟の上などと言えたものだ。リリアンからは嘲笑が漏れた。
「あんたは確実に死ぬ。でも、もしもあんたが皇后様を無傷で外まで連れ出すことができれば、家族の身の安全について陛下に進言してやってもいい」
「な、何を……」
「私はこれでも紫のローブを持つ魔法師。加えてハイネ家の人間でジェレミー殿下の婚約者でヨハネス殿下の友人よ。そこそこに発言権は持つわ」
「それは……」
リリアンが周りを巻き込み、グレイス家の慈悲を求めれば皇帝も耳を傾けないわけにはいかない。
100%確実にうまく行くとは言えないが、それでも何もしないよりはマシだろう。
リリアンはルウェリンに家族の安全の保証をちらつかせ、揺さぶりをかけた。
イライザはルウェリンがそれを受け入れるわけがないと思っているのか余裕の表情だが、ルウェリンの反応を見る限り、見当違いなことをしているというわけでもなさそうだ。
「……あの」
「悪いけど、悩ませてやれる時間はないわ。5つ数えるうちに決めなさい」
「……わ、わたしは」
「公女様、何をおかしなことを言う?クレア様がいなくなれば夫人は陛下のそばにいられる。それなのに夫人がクレア様を守る理由がない」
「……5」
「君も聞いたのだろう?グレイス夫人の愛する人はグレイス侯爵ではない」
「……4」
「夫人はアルヴィン陛下をずっと想ってきた。クレア様を彼から引き離そうと努力した」
「3……」
「そんな彼女が愛してもいない人のために動くはずがないだろう」
「……2」
「なあ、夫人?」
「……1」
「夫人?」
「……ごめんなさい、イライザ」
ルウェリンば小さくつぶやくと、履いていたヒールを投げ捨て、走り出した。
「ゼロ」
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