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第一部
9:姫様とティータイム(2)
しおりを挟む「あれ?なんの話をしていたんだっけ?」
モニカは席を立ち、窓枠に指示をつき外を眺めた。
彼女の目に映るのは大勢の侍女を引き連れて、優雅に王の庭園を散歩する第一皇女と皇后の姿
そこは彼女が決して入ることの許されない場所。
ジャスパーは風に靡く主人の髪に触れ、指に絡めていじり出した。
「ノア様の話です」
「ああ、欠陥品なのかって話ね」
「そうです。俺はもう3年も経ってるんだから、とっくの昔に結婚していると思っていました」
彼は王国で国王の次に権力を持つ男だ。
情勢を安定させるために、国王が彼に結婚を強要していてもおかしくはない。
ジャスパーがそう言うと、モニカは何かを思い出したかのように笑った。
「まあ、でも彼が向こうで結婚相手が見つからなかった理由は何となく察しがつくわ」
「理由って?」
「彼、普通とは少し違うから」
「普通とは違うって?」
「一般的でないってこと」
モニカはそれ以上は何も答えず、自分の髪をいじるジャスパーの腕を叩いた。
ジャスパーはしつこく追求したが、そんなものは無視だ。
ジャスパーが不服そうにむくれていると、不意に雲の隙間から顔を出した太陽の光がモニカを照らす。それに彼女の混じり気のない艶やか金髪がキラキラと反射した。
背筋を伸ばし、穏やかに微笑みながら佇む彼女の姿は絵画に描きたくなるほどに美しく、彼は思わず感嘆のため息を漏らした。
「…俺、姫様には結婚してほしくないなぁ」
「次の婚約が決まったばかりなのに、なんて事を言うの」
「だって、姫様がさっきみたいに他の男に馬乗りになって眼球舐めてる所とか想像すると、悲しくて泣きそうですもん」
「誰もそんな特殊なプレイしないから安心なさい」
人を何だと思っているのだ。モニカは口を尖らせて抗議する。
するとジャスパーは突然、彼女にグッと顔を近づけた。
「姫様…」
「…何?」
「この距離で俺の顔を見ても何ともないですか?」
彼はとても艶っぽい吐息を混ぜながら、モニカにそう問う。モニカはそんな彼を無表情で見つめ返した。
(そんなこと言われてもなぁ)
確かにジャスパーの顔は、ずっと通った鼻筋にくっきりとした二重。長いまつ毛に太めの眉。それらが全て黄金比率で配置された、ちょっと危険な香りがする漢臭さが残る男前だ。
少なくともこの国の本当の王子様よりも王子様らしい顔立ちをしているから、鼻と鼻がくっつきそうなくらいまで顔を近づけられたら、どんな女でも赤面する事だろう。
しかし、自分も国宝級の顔面をしているからか、至近距離で彼を見たところでモニカの中には特に何の感情も湧いてこない。
半眼で自分を見つめ返してくる彼女にジャスパーは不服そうに眉を顰める。
「…何か言う事ないんですか?」
「何かって?」
「ドキドキするーとか、恥ずかしいからそんなに見ないでーとか」
「息が臭いーとか?」
「え!うそ!?臭い!?」
突然の思わぬ指摘にジャスパーはすぐさま主人と距離を取り、自分の口臭を確認する。
モニカはそんな彼の姿にプッと吹き出した。
「嘘よ。冗談。臭くないわ。フルーツの吐息ね」
「さっきドライフルーツを食べましたからね!まったく!恐ろしい事言わないでくださいよ!」
「貴方が変なこと言うからよ」
クスクスと笑いながら、モニカはこういうことをすると女の子はすぐに勘違いするから気をつけろと忠告してあげた。
ジャスパーはわかりましたよ、と忠告を素直に受け入れたが、彼女に気づかれないくらいの小さな声でボソッと本音を漏らす。
『勘違いしてほしい人は中々勘違いしてくれませんけどね』と。
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