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第一部
13:姫様と騎士(4)
しおりを挟む翌朝、気がついたら床で寝ていたジャスパーは体が痛くて目を覚ました。
すると、ものすごく怪訝な表情で自分を見下ろしてくるモニカと目が合う。
「なんでこんなところで寝てるのよ」
寝癖頭のモニカは、寝転がったままベッドから身を乗り出すようにして床を覗き込む。
どう言い訳すべきか悩んだ結果、ジャスパーはいつも通りの軽口で誤魔化すことにした。
「夜這いしようかと思いまして」
「一応だけど私は皇族だし、他国の王族の婚約者いるから身だからさ、そういうの本当にやめたほうがいいよ?下手したら首切られるわよ?いや、本当に」
「なんか、姫様にだけは言われたくないセリフっすね。そんな本気のトーンで叱るのやめてくださいよ」
思っていたよりも本気で叱られたため、彼は戸締りをし忘れていたから窓を閉めに来たら睡魔に負けてそのまま眠ってしまったのだと弁解した。
かなり無理があるいいわけな気もするが、モニカはひとまず納得したらしい。
「姫様、それよか遅刻です。早く着替えて」
「あ、まずい…」
時計を見せられた彼女はベッドから飛び起きて支度を始めた。
着替えるから部屋から出て行けとも言わないあたりが本当にダメな姫だと思う。
ジャスパーは豪快に夜着を脱ぎ始めた主人を置いて自分の部屋へと戻った。
*
雲一つない空の下。朝の新鮮な空気を感じながら石畳の歩道を歩き、モニカは学園へと向かう。
一応、軽く変装しているからか、それとも制服が学園に近くの平民向けの学校と大差ないためか、たとえ道中のカフェテラスで軽く朝食をとっても誰も気が付かない。
街の人にはやたらと顔のいいお嬢様と従者としか思われていないようだ。
モニカの通学は少し特殊で、王家の車を使う権利もない彼女はたった一人の護衛騎士と共に徒歩通学。普通の貴族子女ならありえないが、これがモニカの普通だ。
そしてその途中、学園の大学部に進学している性悪双子姉妹が追い抜きざまに車窓から顔を出して大声で暴言を吐き、結果的に風で彼女たちの髪が乱れた様を半眼で眺めるまでが毎日の通学ルーティーンである。
「…王家の恥だとは思わないのかしら」
走り去る王家の紋章が入った車を見送り、モニカは呆れたようにため息をついた。
近くにいる者なら状況はだいたい理解できるだろうが、遠目から見ればあの双子姉妹がやっていることは、車に乗った皇族が通行人に暴言を吐いているようにしか見えないのだ。
「だからお姉様たちは婚約者に結婚を切り出してもらえないのよ」
二人の婚約者は、もう少し君に身相応しい男になってから求婚したいとかなんとか言って、結婚を先延ばしにしているらしい。
モニカの知ったことではないが、そんなことも知らずに呑気に過ごしている姿を見るのは少し哀れにも感じる。
「先延ばしにしたところで逃げられるわけでもないのに、相手方も無駄なことをしますね」
「でも気持ちはわかるでしょう」
「すんごいわかります」
ジャスパーはものすごい勢いで首を縦に振った。
「結局、姫様の結婚が1番早かったですね」
「そうね。1番上のエレノアお姉様も結婚は来年だしね」
「姫様って公務の経験とかないでしょ?大丈夫なんすか?ちゃんと公爵夫人の務めを果たせます?」
「そういう機会を与えてもらえなかったんだから仕方ないじゃない。頑張るしかないわよ」
認められていないモニカが皇族として表に立つことはほとんどない。
そのせいか、民の中には第四皇女の顔を知らない人間も多いのではないかと思うほどだ。
「大変ですよ?公爵夫人って」
「大変なことくらい知っているわ。どうして急にそんなこと言うの?今日はすごく意地悪だわ」
「いやぁ、嫁ぐのやめたくならないかなーと」
「ふふっ、何それ」
自分が結婚できないからって、足を引っ張ろうとするのはやめなさいとジャスパーはまた叱られた。
冗談ではないのに何を言っても冗談にしか受け取ってもらえないのは、やはり日頃の素行の悪さのせいだろうか。
彼はここにきて初めて自分の素行の悪さを反省した。
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