【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ

七瀬菜々

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第一部

23:ノアの浮気(2)

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 男女の恋愛しか認められていないのは、同性では血を残すことができないからとか、神が認めていないからとか、色々な理由がある。
 だが、一番は『それが一般的ではないから』という理由だとモニカは思う。

 モニカがはじめてノアの秘密を知ったのは婚約する少し前のこと。まだ、婚約の話がというくらいの時期の話だ。
 皇帝の勧めで二人で都でも有名な劇団の舞台を観劇に行った日、モニカはその劇団の俳優がそういうタイプの人だったという噂話を小耳に挟んだ。
 気持ち悪いだの汚らわしいだと騒ぐ割には、ホールの客席に座ってその俳優が出てくるのを待つ観客たちに嫌気がさした彼女は、ふと隣に座るノアを見た。
 すると、彼はとても悲痛な表情をしていた。

 その顔がキッカケだったらしい。

 モニカは何気なくノアに尋ねた。貴方もそうなのか、と。今思うと不躾な質問だった。
 ノアもはじめはそんな事ないと誤魔化していたが、噂話を面白おかしく吹聴する人たちに放った彼女の一言で、自分の秘密を打ち明ける決心をそうだ。

「『何が面白いのかしら』って。『噂話をしている自分たち顔を鏡で見たほうがよっぽど笑えると思うわ』って、モニカはしれっとそう言ったんだ」

 あの時、10才の娘が観劇に来ていた客が黙らせた。皆が気まずそうに斜め下を向く。
 その時の光景をノアは今でも鮮明に覚えている。

 観劇の後、ノアはモニカに秘密を打ち明けた。
 すると彼女はごく普通に、当たり前に受け入れてくれたそうだ。
 驚いたままの顔をしているジャスパーを横目に、今度はモニカが話を続けた。

「私がね、提案したのよ。仮面夫婦になりませんかって」

 当時、本当は女である自分との結婚がノアにとって辛いものとなるのなら、婚約をなかったことにしようと言うこともできたが、モニカはあえて仮面夫婦になる事を提案した。

「期限は3年間」

    そう言って、モニカは指を3本立てる。

 王国の法律では3年間、王国に住み続ければ永住権の取得が認められ、さらに3年間子どもが出来なければ不妊を理由に離婚が認められている。
 この法律を使い、ノアとモニカは結婚して3年経てば離婚するつもりだった。
 もちろん、二人は国同士の政略結婚だからそう上手くはいかないかもしれない。
 けれど、ノアは上手くモニカと離婚して、彼女があちらの国で自由に生きられるような環境を整える計画をしているらしい。

 王族として、一度は国のために婚姻を結ばねばならないノアと、国を出て自由になりたいモニカ。
 利害は一致していたと二人は言う。

「元々、僕は祖国でもあまり重用されてないから、とりあえず一度でも結婚していればしばらくは何も言われない。そして皇帝陛下は嫁いだ後のモニカには多分興味を示さないでしょう?だから、僕たちは互いのために夫婦になろうと誓ったんだよ」

 二人の話を聞いていたジャスパーは、情報が処理しきれないのか呆然と固まってしまった。
 モニカもノアもそんな彼に深々と頭を下げる。

「ごめんなさい。デリケートな問題だから、貴方にも言えなくて」
「こちらの事情で言わなかったけど、でも本当はね、1番は怖くて言えなかっただけかもしれない。この話は特に男性に打ち明けると、自分もそういう目で見られるかもと思われて、その、距離を取られたりすることもあるから…。君とは良い友人でいたかったから…」
「…俺、そこまで自意識過剰じゃないっす…」
「うん。そうだね…」

 大事な姫様の婚約者に恋人がいるなんて知ったら彼が怒ることくらいは容易に想像できたはずなのに、『結局、自分は自分の為に大事なことを話さなかったのだ』とノアは本当に申し訳なさそうに謝った。
 困惑からか、それとも大事なことを話さなかった怒りからか、彼の声色は少し低い。
 二人は恐る恐る顔を上げた。
 すると、ジャスパーは険しい顔をして首を傾げていた。

「全然わかんないんですけど」
「な、何が?」
「ノア様は姫様に求婚してませんでした?」
「ん?婚約式の時のこと?」
「いや、手紙で」
「手紙?ああ、婚約を解消した頃のものかな?」

    ノアは思い出したように手をポンと叩く。
 彼曰く、あの時は色々あって、恋人に直接手紙を送ることも難しかった。だからモニカ宛の文に恋人への手紙を紛れ込ませて、それを届けてもらったというのがことの真相だそうだ。

「同じ封筒に同じ便箋で入ってたから、間違えて読んでしまったの」

    あまりに大人で激しいラブレターだったから恥ずかしくなったと、当時を思い出したモニカは恥ずかしそうに手で顔を覆った。  

「そういうこと…?」

 どうやら、二人が思い合っているというのは勘違いだったらしい。
 
「嘘だぁ…」

 自分は何を一人で悩んでいたのだろう。
 気が抜けてしまったのか、ジャスパーは崩れ落ちるように机に突っ伏した。

 
 
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