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第一部
41:たった一度の反撃(3)
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「これで貴女はもう欠陥品だ。一番上の姫だけはまともだと言われてきたのに、皇后の地位も地に落ちますねぇ」
「くそ…こうなったら…」
エレノアはチラリと後方へと視線を向けると、小さく頷いた。
すると、茂みの先で何かが蠢く。
「あれ?姫様のところに誰か向かわせたのですか?」
「ふふっ。まずは貴方の大事な人から殺してあげるわ。そばを離れたのが間違いだったわね。今、モニカは一人なのでしょう?知ってる?この庭園からは彼女の住む部屋が見えるのよ」
今に、あの部屋から悲鳴が聞こえて血飛沫が上がるとエレノアは叫ぶ。
その姿はまるで稀代の悪女のようだった。
だが、モニカに手を出されそうになっているのにも関わらず、ジャスパーは余裕だ。
「殿下こそ、ご存知ですか?」
「何を?」
「今、市井では名もなき絵本作家が書いたとある物語が話題になっているそうです。何でも不幸な生い立ちの第四皇女をモデルにした作品らしくて…」
ジャスパー曰く、『王の不義の子として生まれた姫が長年の理不尽ないじめに耐え、最終的には意地悪な姉たちに復讐して、隣国の王子と結婚して幸せになる話』が都で話題となっているらしい。
それはこのひと月の間にノアの恋人である画家のブライアンが描き、エリザの友人が出版社に持ち込み、そしてジャスパーの母やジャクソン侯爵夫人らがたくさんの孤児院に寄付した絵本。
勘の良い民ならこれが宮殿で起きていることだと気づくはずだ。
そして物語通り、意地悪な姉が婚約を破棄された事実が明日の朝刊の一面を飾る。
「この状況で第四皇女が死んだ場合、絵本な内容を知っていれば、誰もが犯人は第一皇女だと連想することでしょう」
不貞による婚約破棄に、異母妹に対するいじめ、さらにその妹を殺害したとなると、流石の皇帝も庇い切れない。
モニカに対する嫌がらせは、この宮殿の中でのみ許された、いわば道楽だ。
日々のいろんな鬱憤の吐け口として、一人の少女をいじめ抜くという非人道的な遊び。それは神の教えに反する行為。
ただでさえ、最近は貴族に対する民の不満が上がってきていると聞く中で、こんな事実を民に知られては皇族の権威は維持できない。
エレノアは先ほどモニカの元に向かった騎士に対し、やっぱりやめろと叫んだ。
だが、彼に彼女の言葉は届いていない。
エレノアは焦ってドレスのまま塔の下へと走った。ジャスパーたちも後を追う。
「待って!やめて!その女に手を出してはダメ!」
エレノアが当たりを見渡しながら呼びかけるが、先ほど向かった騎士の姿はない。
「嘘…。待って…殺しちゃダメなの!」
彼女は塔の下からモニカの部屋に向かって叫んだ。
すると、次の瞬間。
突然バケツをひっくり返したような雨が彼女に降りかかる。
「…え?」
何が起きたのか理解できない様子のエレノアがゆっくりと顔をあげると、そこには自分の部屋の窓からバケツをひっくり返しているモニカの姿があった。
「落ちてきたのがシャンデリアでなくて良かったですね、エレノア姉様」
モニカはバケツを窓から落とすと、窓のサンに足を掛けてそのまま飛び降りた。
ふわりと宙を舞い、降りてきた彼女をジャスパーはしっかりと受け止める。
「ありがとう、ジャスパー」
「あまりに軽いので天使様が舞い降りてきたのかと思いました」
「はいはい」
ジャスパーの軽口を軽くあしらうと、モニカは地面に足をつけ、肩にかかった蜂蜜色の艶やかな髪を後ろへやる。
そして肩幅に足を開いて胸の前で腕を組んだ。
「お姉様。私は今、とてもいい気分です」
姉を見下ろし、勝利の微笑みを浮かべるモニカにエレノアはふるふると肩を振るわせる。
「…っ!許さない許さない許さない!絶対に許さない!」
びしょ濡れになった髪をかきあげた彼女は、鋭い目つきでモニカを睨む。
だが彼女にはもうこれ以上、どうすることもできなかった。
反撃しようにも、彼女が今から真っ先にやらねばならないのは婚約者への弁明と皇帝への説明。
その後は事態の収集に右往左往することになるだろう。
落ち着きを取り戻した頃にはもう、モニカは国境を超えている。
「覚えていなさいよ!!」
エレノアはそう捨て台詞を吐いて悔しそうに唇を噛み締めながら、その場を走り去っていった。
水で濡れて重くなったドレスを引きずりながら、去っていく姉を見つめていたモニカは隣に立つジャスパーに軽くもたれかかる。
「…大丈夫かしら。報復が怖いわ」
「大丈夫ですよ。国境を超えたらそう簡単に手出しはできません」
「まあ、それもそうね」
これは、もうすぐいなくなるからこそ出来る荒技。モニカの最初で最後の大きな反撃だった。
モニカはふぅ、と小さく息を吐くと大きく背伸びをした。
そしてジャスパーを見上げてにっこりと微笑む。
「足が治ったなら輿入れの準備を手伝って?」
「了解っす」
やり切った表情の主人にジャスパーは破顔した。
「くそ…こうなったら…」
エレノアはチラリと後方へと視線を向けると、小さく頷いた。
すると、茂みの先で何かが蠢く。
「あれ?姫様のところに誰か向かわせたのですか?」
「ふふっ。まずは貴方の大事な人から殺してあげるわ。そばを離れたのが間違いだったわね。今、モニカは一人なのでしょう?知ってる?この庭園からは彼女の住む部屋が見えるのよ」
今に、あの部屋から悲鳴が聞こえて血飛沫が上がるとエレノアは叫ぶ。
その姿はまるで稀代の悪女のようだった。
だが、モニカに手を出されそうになっているのにも関わらず、ジャスパーは余裕だ。
「殿下こそ、ご存知ですか?」
「何を?」
「今、市井では名もなき絵本作家が書いたとある物語が話題になっているそうです。何でも不幸な生い立ちの第四皇女をモデルにした作品らしくて…」
ジャスパー曰く、『王の不義の子として生まれた姫が長年の理不尽ないじめに耐え、最終的には意地悪な姉たちに復讐して、隣国の王子と結婚して幸せになる話』が都で話題となっているらしい。
それはこのひと月の間にノアの恋人である画家のブライアンが描き、エリザの友人が出版社に持ち込み、そしてジャスパーの母やジャクソン侯爵夫人らがたくさんの孤児院に寄付した絵本。
勘の良い民ならこれが宮殿で起きていることだと気づくはずだ。
そして物語通り、意地悪な姉が婚約を破棄された事実が明日の朝刊の一面を飾る。
「この状況で第四皇女が死んだ場合、絵本な内容を知っていれば、誰もが犯人は第一皇女だと連想することでしょう」
不貞による婚約破棄に、異母妹に対するいじめ、さらにその妹を殺害したとなると、流石の皇帝も庇い切れない。
モニカに対する嫌がらせは、この宮殿の中でのみ許された、いわば道楽だ。
日々のいろんな鬱憤の吐け口として、一人の少女をいじめ抜くという非人道的な遊び。それは神の教えに反する行為。
ただでさえ、最近は貴族に対する民の不満が上がってきていると聞く中で、こんな事実を民に知られては皇族の権威は維持できない。
エレノアは先ほどモニカの元に向かった騎士に対し、やっぱりやめろと叫んだ。
だが、彼に彼女の言葉は届いていない。
エレノアは焦ってドレスのまま塔の下へと走った。ジャスパーたちも後を追う。
「待って!やめて!その女に手を出してはダメ!」
エレノアが当たりを見渡しながら呼びかけるが、先ほど向かった騎士の姿はない。
「嘘…。待って…殺しちゃダメなの!」
彼女は塔の下からモニカの部屋に向かって叫んだ。
すると、次の瞬間。
突然バケツをひっくり返したような雨が彼女に降りかかる。
「…え?」
何が起きたのか理解できない様子のエレノアがゆっくりと顔をあげると、そこには自分の部屋の窓からバケツをひっくり返しているモニカの姿があった。
「落ちてきたのがシャンデリアでなくて良かったですね、エレノア姉様」
モニカはバケツを窓から落とすと、窓のサンに足を掛けてそのまま飛び降りた。
ふわりと宙を舞い、降りてきた彼女をジャスパーはしっかりと受け止める。
「ありがとう、ジャスパー」
「あまりに軽いので天使様が舞い降りてきたのかと思いました」
「はいはい」
ジャスパーの軽口を軽くあしらうと、モニカは地面に足をつけ、肩にかかった蜂蜜色の艶やかな髪を後ろへやる。
そして肩幅に足を開いて胸の前で腕を組んだ。
「お姉様。私は今、とてもいい気分です」
姉を見下ろし、勝利の微笑みを浮かべるモニカにエレノアはふるふると肩を振るわせる。
「…っ!許さない許さない許さない!絶対に許さない!」
びしょ濡れになった髪をかきあげた彼女は、鋭い目つきでモニカを睨む。
だが彼女にはもうこれ以上、どうすることもできなかった。
反撃しようにも、彼女が今から真っ先にやらねばならないのは婚約者への弁明と皇帝への説明。
その後は事態の収集に右往左往することになるだろう。
落ち着きを取り戻した頃にはもう、モニカは国境を超えている。
「覚えていなさいよ!!」
エレノアはそう捨て台詞を吐いて悔しそうに唇を噛み締めながら、その場を走り去っていった。
水で濡れて重くなったドレスを引きずりながら、去っていく姉を見つめていたモニカは隣に立つジャスパーに軽くもたれかかる。
「…大丈夫かしら。報復が怖いわ」
「大丈夫ですよ。国境を超えたらそう簡単に手出しはできません」
「まあ、それもそうね」
これは、もうすぐいなくなるからこそ出来る荒技。モニカの最初で最後の大きな反撃だった。
モニカはふぅ、と小さく息を吐くと大きく背伸びをした。
そしてジャスパーを見上げてにっこりと微笑む。
「足が治ったなら輿入れの準備を手伝って?」
「了解っす」
やり切った表情の主人にジャスパーは破顔した。
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