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第一部
40:たった一度の反撃(2)
しおりを挟む「このっ!無礼者!」
『俺はモニカ様の騎士だ』と真剣な眼差しでハッキリと言い切ったジャスパーに、エレノアは手に持っていた紅茶をかけた。
それまで黙って控えていたエリザは慌てて拭こうとするが、彼はそれを手で制止する。
「馬鹿にするのも大概にしなさいよ」
「馬鹿になんてしていませんよ。俺はいつでも大真面目だ」
ジャスパーは挑発するように、髪をかきあげると不敵な笑みを浮かべた。
「…まあ、いいわ。どうせ貴女たちには何も出来やしない。モニカが国境を渡るまでの残り3ヶ月、死んだ方がマシだと思うくらいの地獄を見せてあげる」
エレノアは口元を扇で隠すことも忘れ、奥歯を鳴らしてジャスパーを睨みつけた。
そんな彼女をジャスパーは嘲笑う。
「地獄を見るのは貴女の方ですよ?殿下」
「…どういう意味よ」
彼は妹に目配せして、怪訝な顔をするエレノアの前にとある写真を見せた。
複数枚あるその写真を見て、彼女の顔色はみるみる青くなる。
「…ど、どうしてこんな写真が…」
動揺が隠せないエレノア。
彼女が見せられたものは婚約者でない男と行為に及ぶ自分の写真だった。
「グロスター公の従者と何やら親密なご関係になられたようですね?」
「ち、違っ…」
「この男から殿下がお使いになっている香油の香りがしたものですから、妹の友人に調べさせたのですが、まさかこんなことになろうとは…」
従者を脅して隠し撮りをさせてもらったと、ジャスパーはクツクツと笑う。
エレノアに忠誠を誓っていたはずの騎士たちは、信じられないものを見るような目で彼女を見ていた。
「ノア様の部屋に姫様の宝石があることを知る人物は限られます。姫様かノア様か俺以外だと残りはその従者の彼しかいないんですよ。俺が隣国へ渡る話は彼から聞いたのですね」
現在、従者はノアによって捕縛済みらしい。
エレノアは慌てて写真を破り捨てた。
「その写真は複製です。原本はすでに殿下の婚約者殿にプレゼントとさせていただきました」
「な、何ですって…?」
「婚約者殿は今頃、顔を真っ赤にして怒り狂っておられることでしょう」
清廉潔白なイメージの第一皇女がこんな淫らな女だったなんて、お相手の若き公爵はさぞ落胆したことだろう。
もうすでに第一皇女の結婚式の準備は半分以上進んでいる。日程の予告もしてある。
年明けには結婚式をあげる予定だった彼女にとって、現段階での婚約破棄は大きな痛手だ。
「姫様を陥れるためのコマが欲しかったのでしょうが、残念でしたね。この国において女性の不貞は男性の不貞よりも罪が重い。婚約破棄、おめでとうございます」
エレノアが軽率な行動を取ったおかげで、彼女がホークスだという証拠がなくても、こうして追い詰めることができたとジャスパーは感謝の意をこめて頭を下げる。
ただただ煽っているようにしか見えないこの行動に、エレノアは激昂した。
「…殺してやるわ。ここまでわたくしを馬鹿にしたことを後悔させてあげるわ!」
叫ぶエレノアに反応し、彼女の騎士たちが剣を構える。
しかし、彼らがジャスパーに向かって剣を振り上げたその瞬間にはもう、彼らの手に剣は握られていなかった。
エリザが投げた短刀が彼らの手に刺さったのだ。
ジャスパーはスッと立ち上がり、落ちている剣を拾うと肩に担ぐ。
「殺せるものならどうぞ?」
「あ、あなた…足…」
「全治一ヶ月ですからね。無事に回復しました」
「くっ…」
「さて、どうしますか?俺と本気で喧嘩します?」
ジャスパーは濃度の高い殺気を身に纏い、剣を構える。
彼のその気迫に、騎士たちは怖気付き動けなくなってしまった。
さすがは騎士団一の腕を持つと言われるだけの男である。妹のエリザはいつも本気を出しておけばかっこいいのにと小さくため息をこぼした。
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