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第二部
3:モニカと画家のブライアン(1)
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ギルマン王国に来てから、ノアはグロスター公爵邸の敷地内にある別棟を丸々、モニカに与えた。
屋敷の人間には事情を説明してあるので、そこでオーウェン兄妹とモニカの三人で生活すればいいと言ってくれたのだ。
本邸よりも規模は小さいが、それでもかなり立派なその屋敷はノアの前の彼氏が設計したらしい。
煉瓦造りの二階建て。左右対称の造りになっているこのお屋敷には広間や画廊だけでなく図書室まできちんと完備されている。
食事だけは本邸の食堂で取ることになっているがそれ以外は三人で住むには十分すぎる広さだった。
「ブライアンが別棟に住むのを嫌がってくれたおかげで、私たちはあそこに住めているわけだけど、本当に良かったの?」
絵の具の匂いが充満する煩雑な部屋で、窓辺のソファに腰掛け窓の外を見つめるモニカは、そんな自分を凝視する画家ブライアンに声をかけた。
チラリと彼の方に顔を向けると、動くなときつく怒られる。
窓から差し込む光がモニカの金髪に反射してキラキラと輝く様は本当に絵になるだろうが、夢中になりすぎてモデルへと対応が雑になるのは彼の悪いくせだ。
結局、ブライアンがモニカの質問に答えたのはそこから1時間後のことだった。
「何の話してたっけ?」
画材を片付けながら、ブライアンは難しい顔でモニカに尋ねた。
長時間のモデルで体が凝り固まったモニカは背伸びをしながら答える。
「だから、別邸の話。断ってよかったの?」
「ああ、そのことね。いいに決まってるだろう。なんで俺がアイツの昔の男が建てた屋敷に住まねばならんのか」
形に残るもの、それも排除しにくいものを残すなんて、それだけ元彼との関係が深かった証拠だとブライアンは不貞腐れた。
「そういうの、気にする人だったんだ。意外」
「悪いかよ」
「いいえ、可愛くて良いと思うわ」
「うるせぇ。可愛いっていうな」
ブライアンは少し恥ずかしそうに頬を染め、口を尖らせる。
癖のある茶髪に灰色の瞳、そして幼い顔立ちの彼は仕草まで幼く見えて可愛い。モニカは目を細めた。
そんな彼女の優しい微笑みに、ブライアンは感嘆のため息をこぼす。
「やっぱ、モニカは絵になるな」
「そう?」
「ああ、性格は難ありだが見た目は国宝級に美しい」
「一言多いわ」
「本当のことだろ」
相変わらず、可愛い顔をして口が悪い。
自分に対する遠慮のない態度はどこかの不遜な騎士を思い出す。
「そろそろ護衛が迎えにくる頃だろ?」
「そうね」
「あの騎士、いつもはすごく嫌そうにお前を置いていくのに、今日はやけにアッサリだったな。何かあったのか?」
「貴方が気が散るからと追い出したんでしょ?」
「そうだけどさ、もっと嫌がるかと思ってたのに、今日は気持ち悪いくらいあっさりと引いたから驚いた」
カーディガンを羽織り、帽子をかぶったモニカは『確かに』と小さくつぶやいた。
いつもはブライアンのアトリエまで送ったあと、すごく名残惜しそうに部屋を離れるのに、今日はやけにアッサリとモニカを置いて行った。
何か用事でもあるのだろうか。彼女はコテンと首を傾げる。
「というか、ブライアンも屋敷に住めばこうして通う必要もなくなるのに」
「やだよ」
「どうして?ノア様が部屋を用意してたわよ?」
「いいんだよ、俺はこういう場所の方が合ってる」
ブライアンは何かを誤魔化すような笑みを浮かべた。
王都のハズレの古びたアパート。駆け出しの芸術家に貸し出された部屋の一室にブライアンのアトリエはある。
ノアはずっと屋敷にブライアンを呼んでいるが、彼はなかなか首を縦には振らない。
「どうして嫌なの?」
「…大した理由じゃないよ。たださ、なんか惨めになるだろ?あの屋敷に住むと、身分の違いを痛感してさ…」
「そんなこと…」
「お前らがそういうことを気にしない人種なのは知ってる。けど、どうしても劣等感を抱いてしまう。俺は小さい男だからさ…」
「ブライアン…」
王族のノアとブライアンの間にある壁は性別だけではない。
結局、二人はどう足掻いても相容れない存在なのだ。
モニカは悲痛な表情でブライアンの手を取った。
すると、彼は彼女の頭を鷲掴みにして乱暴に撫で回す。
「そんな顔するなよ。お前がノアと結婚してくれたおかげで、俺たちは堂々と会えるんだから」
以前は中々結婚しないノアに男色疑惑が持ち上がった事もあったらしい。そう考えると、今は既婚者だから会いやすいのだとブライアンは笑った。
屋敷の人間には事情を説明してあるので、そこでオーウェン兄妹とモニカの三人で生活すればいいと言ってくれたのだ。
本邸よりも規模は小さいが、それでもかなり立派なその屋敷はノアの前の彼氏が設計したらしい。
煉瓦造りの二階建て。左右対称の造りになっているこのお屋敷には広間や画廊だけでなく図書室まできちんと完備されている。
食事だけは本邸の食堂で取ることになっているがそれ以外は三人で住むには十分すぎる広さだった。
「ブライアンが別棟に住むのを嫌がってくれたおかげで、私たちはあそこに住めているわけだけど、本当に良かったの?」
絵の具の匂いが充満する煩雑な部屋で、窓辺のソファに腰掛け窓の外を見つめるモニカは、そんな自分を凝視する画家ブライアンに声をかけた。
チラリと彼の方に顔を向けると、動くなときつく怒られる。
窓から差し込む光がモニカの金髪に反射してキラキラと輝く様は本当に絵になるだろうが、夢中になりすぎてモデルへと対応が雑になるのは彼の悪いくせだ。
結局、ブライアンがモニカの質問に答えたのはそこから1時間後のことだった。
「何の話してたっけ?」
画材を片付けながら、ブライアンは難しい顔でモニカに尋ねた。
長時間のモデルで体が凝り固まったモニカは背伸びをしながら答える。
「だから、別邸の話。断ってよかったの?」
「ああ、そのことね。いいに決まってるだろう。なんで俺がアイツの昔の男が建てた屋敷に住まねばならんのか」
形に残るもの、それも排除しにくいものを残すなんて、それだけ元彼との関係が深かった証拠だとブライアンは不貞腐れた。
「そういうの、気にする人だったんだ。意外」
「悪いかよ」
「いいえ、可愛くて良いと思うわ」
「うるせぇ。可愛いっていうな」
ブライアンは少し恥ずかしそうに頬を染め、口を尖らせる。
癖のある茶髪に灰色の瞳、そして幼い顔立ちの彼は仕草まで幼く見えて可愛い。モニカは目を細めた。
そんな彼女の優しい微笑みに、ブライアンは感嘆のため息をこぼす。
「やっぱ、モニカは絵になるな」
「そう?」
「ああ、性格は難ありだが見た目は国宝級に美しい」
「一言多いわ」
「本当のことだろ」
相変わらず、可愛い顔をして口が悪い。
自分に対する遠慮のない態度はどこかの不遜な騎士を思い出す。
「そろそろ護衛が迎えにくる頃だろ?」
「そうね」
「あの騎士、いつもはすごく嫌そうにお前を置いていくのに、今日はやけにアッサリだったな。何かあったのか?」
「貴方が気が散るからと追い出したんでしょ?」
「そうだけどさ、もっと嫌がるかと思ってたのに、今日は気持ち悪いくらいあっさりと引いたから驚いた」
カーディガンを羽織り、帽子をかぶったモニカは『確かに』と小さくつぶやいた。
いつもはブライアンのアトリエまで送ったあと、すごく名残惜しそうに部屋を離れるのに、今日はやけにアッサリとモニカを置いて行った。
何か用事でもあるのだろうか。彼女はコテンと首を傾げる。
「というか、ブライアンも屋敷に住めばこうして通う必要もなくなるのに」
「やだよ」
「どうして?ノア様が部屋を用意してたわよ?」
「いいんだよ、俺はこういう場所の方が合ってる」
ブライアンは何かを誤魔化すような笑みを浮かべた。
王都のハズレの古びたアパート。駆け出しの芸術家に貸し出された部屋の一室にブライアンのアトリエはある。
ノアはずっと屋敷にブライアンを呼んでいるが、彼はなかなか首を縦には振らない。
「どうして嫌なの?」
「…大した理由じゃないよ。たださ、なんか惨めになるだろ?あの屋敷に住むと、身分の違いを痛感してさ…」
「そんなこと…」
「お前らがそういうことを気にしない人種なのは知ってる。けど、どうしても劣等感を抱いてしまう。俺は小さい男だからさ…」
「ブライアン…」
王族のノアとブライアンの間にある壁は性別だけではない。
結局、二人はどう足掻いても相容れない存在なのだ。
モニカは悲痛な表情でブライアンの手を取った。
すると、彼は彼女の頭を鷲掴みにして乱暴に撫で回す。
「そんな顔するなよ。お前がノアと結婚してくれたおかげで、俺たちは堂々と会えるんだから」
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