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第二部
4:モニカと画家のブライアン(2)
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「それに、身分差で苦しいのはお前のとこも同じだろ?」
ブライアンは引き出しから取り出した封筒を帰り支度を済ませたモニカに渡す。
本当はモデル料など別に要らないのだが、何度も要る要らないのやり取りをしてはその都度押し切られてきた彼女は素直に封筒を受けとった。
こういう事はちゃんとしたいとブライアンはいつも言う。
真面目なのか、それとも自分との間に一線を引いているのか、モニカにはわからない。
「…ところがどっこい。もう奴は身分の差など一ミリも気にしちゃいないわ」
「マジか」
部屋を出て玄関へと向かうモニカは大きなため息をつきながら、この間エリザに怒られたことを話した。
するとブライアンは生暖かい目を彼女に向ける。
「そこは拒めよ。妹が可哀想」
「こ、拒みたいとは思ってるのよ!?」
ちゃんと拒まないからジャスパーはつけ上がるのだ。それは彼女もわかっていた。
けれど好きな人に触れたい、触れられたいと思うのは自然な事で、自分の中に芽生える彼への想いが拒むことを拒む。
そう話すと、ブライアンはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
「そんなに好きなんだ?」
「う、うるさいわね!」
「まあでも、拒まないといけないならさ、その顔を騎士の前でするなよ?」
「なんで?」
「タガが外れるから。最後のわずかな理性すらも粉々になること間違いなしだ」
ブライアンは玄関にある全身鏡を指差す。
そこに映る自分にモニカは驚いた。
頬を赤く染め、目を潤ませて彼を思う自分の顔は客観的に見て、ただの恋する乙女だったのだ。
モニカは恥ずかしそうに帽子を深く被った。
初めて会った時よりも、肩の荷が降りたみたいに色んな表情をするようになったモニカに、ブライアンは目を細める。
「…モニカ。今は楽しいか?」
「ええ。とても」
「そうか。それは良かった」
兄のような優しい目でブライアンは『幸せになれよ』と呟いた。
そして、彼女をエスコートするようにドアを開けると、アパートのエントランスまで誘導する。
「あれ?いつもならここで待ってるのに」
「出かけてまだ帰ってないのか?どうする?」
「しばらくここで待つわ」
モニカはエントランスに置いてあるベンチに腰掛けた。
すると、隣に座ろうとしたブライアンが座るのをやめてエントランスの窓にペタンと張り付く。
「…は?」
「どうしたの?ブライアン」
「….おい、あれ」
「ん?」
彼の視線の先に目を向けると、そこには腕を組んで仲睦まじく歩く男女の姿があった。
オフィーリアのような豊満な肉体を持つ妖艶な美女と、見たことのある顔の色男。
「…え?ジャスパー…?」
別れ際、女はジャスパーの頬にキスをした。
ジャスパーは何か抗議しているようにも見えるが、モニカの目には照れ隠しのようにも映る。
「…浮気かよ、あの男」
ブライアンはギリっと奥歯を鳴らした。
ジャスパーは名残惜しそうに彼女の背中を見つめると、踵を返し二人が見ていることも知らずにこちらに向かってくる。
「一言文句言ってやる!」
「待って!」
頭に血が登ったブライアンはジャスパーの元へと行こうとしたが、モニカはすかさずそれを止めた。
「なんで止めるんだよ。あんなのどう考えても浮気だろ!?」
「わからないじゃない。友達かもしれないし…」
「どう考えても友達の距離感じゃなかっただろう!キスまでしてたし!」
この国にも帝国にも頬にキスするような挨拶はないとブライアンは言う。
確かにそうかもしれない。けれど、それでもモニカには彼を糾弾できない理由があった。
「そもそも私たちの関係では、浮気だとか言えないというか…」
モニカとジャスパーの関係は主人と従者、もしくは護衛対象と騎士だ。それ以上でもそれ以下でもない。
キスはするがその関係にまだ名前はつけられないのが現状だ。
「だからね、仮に、ジャスパーが他の人を好きになっても、私にはそれを咎める権利はない」
「…モニカ。だけどさ…」
「3年間、ジャスパーは待っていてくれるって勝手に思っていたけど、そうとは限らないわよね」
モニカは精一杯の作り笑顔で『大丈夫だ』と言った。
ジャスパーはカッコいいし優しいから、普通にモテる。こんな訳ありの姫に固執しなくとも出会いなどそこら辺に転がっているのだ。
あまりに当たり前にそばに居るから、勘違いをしていた。
「あ、お待たせしましたかね?」
二人が先程の光景を見ていたことに気づいていないジャスパーは、何食わぬ顔でエントランスの扉を潜る。
ブライアンは彼に聞こえるように舌打ちすると、『遅い』と冷たく言い放った。
「…えーっと、そんな待ちました?」
「少しね」
「すみません、なんか…」
「大丈夫よ。問題ないわ」
本当に悪いと思っているのかわからない態度でヘラヘラと謝るジャスパーをブライアンは鋭い目つきで睨みつけると、モニカの手を取り、口付ける。
「ブライアン?」
「じゃあな、モニカ。何があれば言えよ?」
「え?うん…。ありがとう?」
一瞬だけジャスパーに威嚇するような視線を送ったブライアンはモニカの手を離すと、一度も振り返ることなく自分の部屋へと戻って行った。
あからさまな敵意を向けられたジャスパーはキョトンと首を傾げる。
「俺、なんか彼に嫌われるようなことしました?」
「いいえ?お昼ご飯を食べ損ねたから機嫌が悪いだけよ」
「なるほど。血糖値が低下してるときの人間は怖いですね」
「間違いないわ」
当然のように差し出された彼の手を取ると、モニカはブライアンのアトリエを後にした。
ブライアンは引き出しから取り出した封筒を帰り支度を済ませたモニカに渡す。
本当はモデル料など別に要らないのだが、何度も要る要らないのやり取りをしてはその都度押し切られてきた彼女は素直に封筒を受けとった。
こういう事はちゃんとしたいとブライアンはいつも言う。
真面目なのか、それとも自分との間に一線を引いているのか、モニカにはわからない。
「…ところがどっこい。もう奴は身分の差など一ミリも気にしちゃいないわ」
「マジか」
部屋を出て玄関へと向かうモニカは大きなため息をつきながら、この間エリザに怒られたことを話した。
するとブライアンは生暖かい目を彼女に向ける。
「そこは拒めよ。妹が可哀想」
「こ、拒みたいとは思ってるのよ!?」
ちゃんと拒まないからジャスパーはつけ上がるのだ。それは彼女もわかっていた。
けれど好きな人に触れたい、触れられたいと思うのは自然な事で、自分の中に芽生える彼への想いが拒むことを拒む。
そう話すと、ブライアンはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
「そんなに好きなんだ?」
「う、うるさいわね!」
「まあでも、拒まないといけないならさ、その顔を騎士の前でするなよ?」
「なんで?」
「タガが外れるから。最後のわずかな理性すらも粉々になること間違いなしだ」
ブライアンは玄関にある全身鏡を指差す。
そこに映る自分にモニカは驚いた。
頬を赤く染め、目を潤ませて彼を思う自分の顔は客観的に見て、ただの恋する乙女だったのだ。
モニカは恥ずかしそうに帽子を深く被った。
初めて会った時よりも、肩の荷が降りたみたいに色んな表情をするようになったモニカに、ブライアンは目を細める。
「…モニカ。今は楽しいか?」
「ええ。とても」
「そうか。それは良かった」
兄のような優しい目でブライアンは『幸せになれよ』と呟いた。
そして、彼女をエスコートするようにドアを開けると、アパートのエントランスまで誘導する。
「あれ?いつもならここで待ってるのに」
「出かけてまだ帰ってないのか?どうする?」
「しばらくここで待つわ」
モニカはエントランスに置いてあるベンチに腰掛けた。
すると、隣に座ろうとしたブライアンが座るのをやめてエントランスの窓にペタンと張り付く。
「…は?」
「どうしたの?ブライアン」
「….おい、あれ」
「ん?」
彼の視線の先に目を向けると、そこには腕を組んで仲睦まじく歩く男女の姿があった。
オフィーリアのような豊満な肉体を持つ妖艶な美女と、見たことのある顔の色男。
「…え?ジャスパー…?」
別れ際、女はジャスパーの頬にキスをした。
ジャスパーは何か抗議しているようにも見えるが、モニカの目には照れ隠しのようにも映る。
「…浮気かよ、あの男」
ブライアンはギリっと奥歯を鳴らした。
ジャスパーは名残惜しそうに彼女の背中を見つめると、踵を返し二人が見ていることも知らずにこちらに向かってくる。
「一言文句言ってやる!」
「待って!」
頭に血が登ったブライアンはジャスパーの元へと行こうとしたが、モニカはすかさずそれを止めた。
「なんで止めるんだよ。あんなのどう考えても浮気だろ!?」
「わからないじゃない。友達かもしれないし…」
「どう考えても友達の距離感じゃなかっただろう!キスまでしてたし!」
この国にも帝国にも頬にキスするような挨拶はないとブライアンは言う。
確かにそうかもしれない。けれど、それでもモニカには彼を糾弾できない理由があった。
「そもそも私たちの関係では、浮気だとか言えないというか…」
モニカとジャスパーの関係は主人と従者、もしくは護衛対象と騎士だ。それ以上でもそれ以下でもない。
キスはするがその関係にまだ名前はつけられないのが現状だ。
「だからね、仮に、ジャスパーが他の人を好きになっても、私にはそれを咎める権利はない」
「…モニカ。だけどさ…」
「3年間、ジャスパーは待っていてくれるって勝手に思っていたけど、そうとは限らないわよね」
モニカは精一杯の作り笑顔で『大丈夫だ』と言った。
ジャスパーはカッコいいし優しいから、普通にモテる。こんな訳ありの姫に固執しなくとも出会いなどそこら辺に転がっているのだ。
あまりに当たり前にそばに居るから、勘違いをしていた。
「あ、お待たせしましたかね?」
二人が先程の光景を見ていたことに気づいていないジャスパーは、何食わぬ顔でエントランスの扉を潜る。
ブライアンは彼に聞こえるように舌打ちすると、『遅い』と冷たく言い放った。
「…えーっと、そんな待ちました?」
「少しね」
「すみません、なんか…」
「大丈夫よ。問題ないわ」
本当に悪いと思っているのかわからない態度でヘラヘラと謝るジャスパーをブライアンは鋭い目つきで睨みつけると、モニカの手を取り、口付ける。
「ブライアン?」
「じゃあな、モニカ。何があれば言えよ?」
「え?うん…。ありがとう?」
一瞬だけジャスパーに威嚇するような視線を送ったブライアンはモニカの手を離すと、一度も振り返ることなく自分の部屋へと戻って行った。
あからさまな敵意を向けられたジャスパーはキョトンと首を傾げる。
「俺、なんか彼に嫌われるようなことしました?」
「いいえ?お昼ご飯を食べ損ねたから機嫌が悪いだけよ」
「なるほど。血糖値が低下してるときの人間は怖いですね」
「間違いないわ」
当然のように差し出された彼の手を取ると、モニカはブライアンのアトリエを後にした。
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