50 / 74
第二部
5:公爵夫人のお茶会(1)
しおりを挟むブライアンのアトリエでジャスパーと他の女性と仲睦まじく歩く姿を目撃してから、しばらくした頃。彼は急にモニカに触れてこなくなった。
やはりあの女性とそういう関係になったからだろうか。
聞きたいけれど、昔のように彼の女性関係に口を出せない。
モニカは庭園でお茶を飲みながら小さくため息をこぼした。
「ご気分がすぐれませんか?モニカ様」
声をかけられたモニカはハッとして顔を上げた。
心配そうに自分を見つめるのは、グロスター公爵夫人として呼んだお茶会の招待客。
モニカはすぐに笑顔を貼り付けて、問題ないと答えた。
「そういえば、あちらにいらっしゃるモニカ様の騎士様は帝国からついてきてくださったのだと伺いましたが…」
「ええ。そうですけれど…」
「まぁ!素敵ですわね!」
「そう、ですか?」
体を前のめりにしてそう尋ねてきた令嬢の一人に、モニカは若干引き気味になる。
しかし、そんな彼女に気付くことなく、令嬢たちは庭園の生垣の陰で控えているジャスパーについて口々に語り始めた。
「だって、主人のために地位を捨てて祖国を出るなど、そうできることではありませんわ!」
「まさに忠誠心の塊のようなお方ですわよね!」
「あの彫刻のような美しい顔立ちに、鍛え上げられた肉体…」
「モニカ様に近づく輩は全て切り裂かんと言わんばかりの鋭いおオーラ…」
「隠しきれない大人の色香…」
「そして少し危険な香りがするあの流し目…」
「「素敵ですわぁ…」」
チラチラと彼の方を見て感嘆のため息を漏らす令嬢たち。おそらく会話が聞こえているであろうジャスパーが肩を震わせて笑いを堪えているのがモニカからはよく見える。
しばらく堪えていたがやはり吹き出しそうになったのか、ジャスパーはすすすっと令嬢たちには気づかれないようにその場を離れた。
「騎士様はその、恋人、とかいらっしゃるのですか?」
一人の令嬢がモジモジと手元をいじりながら尋ねてきた。
彼女の質問にモニカはピクリと体を強張らせた。
「さあ?プライベートなことには干渉しないようにしておりますので」
「そうですか…」
「ではでは、どのようなタイプの女性がお好みかはご存知ですか!?」
「こ、好み…?」
好みと聞かれれば、少し前の彼なら『気が強くて意地っ張りな国宝級の美人』と答えただろう。
だが今は彼がどう答えるのか、モニカにはわからない。
彼女が返答に困っていると、今度は別の貴婦人が口を挟んだ。
「そう言えば、この前大通りでグラマラスな女性と宝石店に入っていくのを見かけましたわ」
「まあ!恋人かしら!?」
「ど、どんな女性だったのですか!?」
「うーん、分厚い唇に泣きぼくろが特徴的な、帝国南部のお顔立ちの方だったかと。とても妖艶で美しい女性でしたわ」
「まあまあまあ!やはり大人の色香が漂う美しい騎士様のお相手はそのような女性なのですね!」
貴婦人の発言に令嬢達はわぁっと沸いた。
(…宝石店に行ってたのか)
ブライアンのアトリエに行ったあの日、ジャスパーはその女性と宝石店に入ったらしい。
女性と宝石店に入るなど、特別な関係だと言っているようなものではないだろうか。
モニカは気づかれないくらい小さく小さくため息をこぼした。
そして紅茶を一口啜ると、グッと顎を上げて微笑む。
「まあ、ジャスパーも隅に置けませんわね。私、全然知りませんでしたわ。今度問い詰めてやろうかしら」
「ふふっ。やはりモニカ様も気になりますか?」
「ええ。彼の忠義には心から感謝しておりますから。彼が大切にしたいと思う女性については知っておきたいですね」
「そうですわよね、悪い女性に引っかかっては困りますものね」
「はい。彼には幸せになってほしいですから…」
モニカはそよ風に靡いた髪を耳にかけ、平常心を取り戻して定位置に戻ってきたジャスパーを見つめた。
ふと目が合うと、彼は穏やかにニコッと笑う。
その微笑みはあの女性にも向けているのだろうか。
複雑な心境のまま、モニカも微笑み返した。
22
あなたにおすすめの小説
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜
きゅちゃん
恋愛
名門エルトリア公爵家レオンと婚約していた伯爵令嬢のエレナ・ローズウッドは、レオンから婚約破棄を宣言される。屈辱に震えるエレナだが、その瞬間、彼女にしか見えない精霊王アキュラが現れて...?!地味で魔法の才能にも恵まれなかったエレナが、新たな自分と恋を見つけていくうちに、大冒険に巻き込まれてしまう物語。
【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
偽王を演じた侯爵令嬢は、名もなき人生を選ぶ」
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子オレンに婚約破棄された侯爵令嬢ライアー・ユースティティア。
だが、それは彼女にとって「不幸の始まり」ではなかった。
国政を放棄し、重税と私欲に溺れる暴君ロネ国王。
その無責任さを補っていた宰相リシュリュー公爵が投獄されたことで、
国は静かに、しかし確実に崩壊へ向かい始める。
そんな中、変身魔法を使えるライアーは、
国王の身代わり――偽王として玉座に座ることを強要されてしまう。
「王太子妃には向いていなかったけれど……
どうやら、国王にも向いていなかったみたいですわね」
有能な宰相とともに国を立て直し、
理不尽な税を廃し、民の暮らしを取り戻した彼女は、
やがて本物の国王と王太子を“偽者”として流刑に処す。
そして最後に選んだのは、
王として君臨し続けることではなく――
偽王のまま退位し、名もなき人生を生きることだった。
これは、
婚約破棄から始まり、
偽王としてざまぁを成し遂げ、
それでも「王にならなかった」令嬢の物語。
玉座よりも遠く、
裁きよりも静かな場所で、
彼女はようやく“自分の人生”を歩き始める。
【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢
かずえ
恋愛
第一王子は、常に毒を盛られ、すっかり生きることに疲れていた。子爵令嬢は目が悪く、日常生活にも支障が出るほどであったが、育児放棄され、とにかく日々を送ることに必死だった。
12歳で出会った二人は、大人になることを目標に、協力しあう契約を交わす。
虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ
あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。
その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。
敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。
言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
偽りの婚約者だった公爵令嬢、婚約破棄されてから本物の溺愛をされるまで
nacat
恋愛
平民出身ながら伯爵家に養子に入ったリリアーナは、王太子の婚約者“代役”として選ばれた。
王家の都合で結ばれたその関係に、彼女は決して本気にならないはずだった。
だが、王太子が本命の公爵令嬢を選んで婚約破棄を告げた瞬間、リリアーナは静かに微笑んだ――。
「お幸せに。でも、“代役”の私を侮ったこと、きっと後悔させてあげますわ」
婚約破棄後、彼女は外交の任務で隣国へ。
そこで出会った冷徹な将軍との出会いが、すべてを変えていく。
“ざまぁ”と“溺愛”がスパイラルのように絡み合う、痛快で甘くて尊い恋愛劇。
///////
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる