【完結】これは紛うことなき政略結婚である

七瀬菜々

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「次期侯爵……?」

 クロードは、はて?と首を傾げた。
 ミゲルも、アンリエッタも同じように首を傾げる。

「次期侯爵って、…………誰が?」

 ミゲルが尋ねた。するとグレイスは指先をピンと伸ばし、クロードを指差した。

「誰って、クロードよ!当たり前でしょ!?」
「……当たり前」
「そしてクロードの隣で彼を支えるに相応しいのはそこの貧乏人じゃなく、私!私が次期侯爵夫人に相応しいの!!」

 グレイスは自分の胸をトンッと拳で叩き、胸を張った。彼女の信者であるメイドたちは、何故かうんうんと同意するように頷く。
 クロードはもう呆れ果てて、笑うしかない。

「ははっ。何から説明すれば良いのやら……」
「な、何よ。何がおかしいのよ」
「グレイス。どうしてそんな勘違いをしているのか知らないが、たとえ俺がアンリエッタと離婚してお前と再婚しようとも、お前は侯爵夫人にはなれないぞ」
「………………え?」
「次期侯爵はアンリエッタだからな」
「どういう、こと?」
「どういうことって言われても……、ペリゴール家は例外的に女でも爵位の継承が認められていてるんだよ」

 基本的に爵位の継承は男子にしか認められていない。
 つまり本来ならば、男子のいないペリゴール家の爵位は必然的に、シャルルの弟の家に移るのだが、ペリゴール家は建国時から続く伝統ある家柄であるため、例外として女子の爵位の継承が認められているのだ。

「つまり、次期侯爵はアンリエッタ。その次の侯爵はアンリエッタが生んだ子どもだ。俺はただの婿養子だし、ペリゴールを名乗ることはできても、ペリゴール侯爵を名乗ることは許されない」
「そんな……。クロードは侯爵になれるんじゃないの?貴族になれるんじゃないの?」
「は?そんなわけないだろ」

    貴賤の区別をハッキリとつけているこの国では、何かしらの大きな功績を上げない限り、平民が貴族になれることはほぼない。また、爵位の売買も容易ではなく、いくら金があっても生粋の平民が爵位を買うことはほぼ不可能とされている。

「……まあ、家系図を遡り、どこかで貴族の血が混ざっていれば爵位を買える可能性はあるけどな」

 スラム出身で辿れる家系図もない自分には関係のない話だ。クロードは自嘲するように呟いた。
 
「うそ……じゃあ、どうして結婚したの?」
「そ、それは……!」
「どうしてって、クロードは平民だから、貴族の仲間入りをしたければ貴族の配偶者をもらうしかないからでしょ?ねえ、クロード?」
「………………それだけじゃないけどな」
「え、何か言った?」
「いや、別に」

 クロードは不貞腐れたように口を尖らせるもの、アンリエッタは彼のその表情の意味がわからず、首を傾げた。

「そ、そんな……」

 ガクッと膝をつき、グレイスは項垂れた。
 その様子を見て、アンリエッタは「なるほど」納得した。

「……あなた、別にクロードが好きなわけじゃないのね」
「は?」
「だって、ペリゴール侯爵ではないクロードには興味がないのでしょう?」
「……そんなことないわ!私はちゃんとクロードのことが好きだもの!」
「じゃあ、どうしてそんなにショックを受けているの?」
「そ、それは……!」
「ねえ、グレイス。私はすごく安心したわ。もっと純愛なのかと思っていたけれど、違ったのね」
 
 もしグレイスの恋が純愛ならば、アンリエッタは横から彼女の想い人を掻っ攫ってしまった最低な女になる。
 だがこれが純愛でないのなら、アンリエッタはもう彼女に悪いと思う必要はない。

「貴族の仲間入りをしたければ、あなたも貴族の男を捕まえることね」

 アンリエッタは彼女を見下ろし、そう助言した。
 その言葉が気に障ったのか、グレイスはキッと彼女を睨みつけ、再び襲い掛かろうとした。
 だが、振り上げたその手は呆気なくミゲルに押さえつけられる。

「離しなさいよ!裏切り者!」
「裏切るも何も貴女の味方だった事なんて一度もありませんけどね」
「私たち、商会の仲間でしょう!?」
「僕と貴女はただの同僚です。いや、違うな。商会の不利益になる今の貴女は同僚ですらありませんね」
「なっ……!?」
「ところで、グレイス。ちょーっと聞きたいことがあるんですけど…………、これは何ですか?」

 ミゲルはニコッと微笑み、彼女の左手の薬指を摘んだ。
 皆の視線が彼女の薬指に集まる。
 そこにはピンクダイヤの指輪がハマっていた。


 
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