【更新停止中】謀略のシャーロット 〜幼妻は呪われた第2皇子を皇帝にしたい〜

七瀬菜々

文字の大きさ
46 / 58
誕生日の夜会

41:夜会(2)

 天井に描かれたのは天使の絵画。
 そこに吊るされた豪奢なシャンデリアの下、各国の要人たちが談笑をする。
 話題は専ら、今夜の主催についてだ。
 社交の場にあまり出たことがない呪われた皇子と、ヴァインライヒ皇族が皆可愛がってきたと噂の末っ子王女。

 なぜ、王はこの大事な王女を呪われていると噂の皇子に嫁がせたのか。
 聡明なヴァインライヒの王がその判断をすると言うことは、彼に何かあるのか。

 皆が言葉をオブラートに包みながらさりげなく王に質問する。
 ヴァインライヒの国王はその質問を軽く交わしながら、会場の中央にできた人だかりに目を向けた。
 そこにいたのは先ほど、第3皇子にエスコートされて入場した皇女ベアトリス。
 ギルベルトを揶揄うためだけに参加した帝国貴族の男たちに囲まれた彼女は、まるで自分が今日の主役であるかのように振る舞っていた。
 
「そういえば陛下。ベアトリス皇女殿下とお話になられましたか」
「ご挨拶ついでに、少し話しましたが…」
「何というか…。ミハエル殿下はそうでもなかったのですが、彼女はいささか…」
「そのお気持ち、とてもよくわかりますわよ、大公閣下。ナチュラルに我々を下に見ているような雰囲気でしたもの」
「そのくせ、我々の息子を紹介しろと言ってくるあたり、本当に図々しい」
「あんな浪費家の姫が嫁いできたら、国は傾いてしまう」
「そういえば彼女、『美しいと噂のシャーロット王女だが、実物はそうでもないのだ』と周囲に吹聴しているそうですわ」
「まあ!美しいのはその無駄に豪華なドレスでしょうにねぇ?」
「知っていますか?彼女のドレス代だけで、年間いくら使われているのか」
「シャーロット王女の生活費が彼女のドレス代に消えているという話も聞きます」
「…陛下、本当にこのままでも良いのですか?」

 ヴァインライヒ王の周りに集まった貴族たちは皆、心配そうに彼を見つめた。
 賢君と名高い彼が諸外国をまとめ上げ、帝国に反旗を翻すことを皆、期待しているのだ。
 彼らとしては本当は帝国が脅してきたときに、剣をとって欲しかった。
 もちろん、近隣諸国をまとめても、魔術師の数で帝国に劣っている現状では勝利の確率は5割であることは彼らもわかっている。
 しかしそれでも、帝国国民が置かれている現状や、帝国が行なっている横暴な外交による被害の現状を見ると、このままでいいとも思えない。
 そんな彼らの言葉に、ヴァインライヒ王は目を細めた。

「ここがどこだかわかっていてその話をなさるのですかな?」
「…それは…」
「あなた方の心情は理解しているつもりです。ですが私はかけをするつもりはありません。そして、今この場でその話をするのは適切ではない」
「……」
「ご理解いただけましたかな?」
「申し訳ありません」
「ハハッ。そう暗い顔をせんでください。彼から主役の入場ですぞ?」

 カッカッと豪快に笑うと、ヴァインライヒ王はメイドが持ってきたワインを一気に飲み干した。
 そして、扉の方を指さす。

「あそこから入ってくるのは、私の剣です。よくしてやってください」

 彼がそう言うと、入場のアナウンスとともに扉が開いた。

 それまでざわついていた会場が一気に静まり返る。
 扉の向こうから現れたのはシャーロットとその夫、ギルベルト・ベーゼ・ベルトラン。
 2人は階段を降りると、招待客の前に立った。

 長い艶のある黒髪に、大きな金色の瞳。そして白い肌に長い手足。
 背丈こそ低いが、放つオーラはヴァインライヒの王とよく似た気高さと気品が感じられるシャーロット。
 そして彼女の隣に立ちながらも、彼女に劣らないオーラを放つギルベルト。
 眼帯で隠された顔の左側が、ミステリアスは雰囲気を醸し出しつつも、その微笑みは優しい。 
 
「あれが、呪われた第二皇子?」
「呪われた?どこがだよ」
「シャーロット王女も、あれは本当に13か?」
「少し見ぬうちに、また大人っぽくなられて…」

 ひそひそと話し声が聞こえる。
 会場の視線は全て彼らに向けられていた。
 それは、ベアトリスを取り囲んでいた帝国貴族も同じだった。
 ベアトリスは扇で口元を隠すのも忘れて、奥歯をぎりっと鳴らす。
 
(なぜ、どうして!?あんたはもっと見窄らしい姿で出てくるはずだったでしょうが!)

 シャーロットがいつも質素なドレスしか着ないことは知っていた。
 それは、離宮に十分な予算が配分されていないからだということも知っていた。
 マチルダに調べさせて、シャーロットの衣装も中に夜会で着られるようなものがないことも確認した。

 だから、今日。彼女は見窄らしい地味なドレスで多くの客人の前に姿を現すはずだった。
 そして、皇女ベアトリスよりも美しいと噂されている彼女が自分と比べられ、悔しそうに、また恥ずかしそうに顔を伏せて目にな涙を浮かべる彼女を嘲笑ってやるはずだった。
 
 身の程をわからせてやるはずだった。

 それなのに、今、シャーロットが着ているドレスは確かに処分を命じたもの。
 落ち着いたデザインだが気品を感じさせる彼女のドレスは、ベアトリスと正反対だった。  
 年上なのに、ベアトリスの方がずっと子供っぽく見える。

「ベアトリス、ミハエル」

 ギルベルトは定型的な挨拶を終えると突然、会場の中央にいる2人の名を呼んだ。
 会場の視線が一斉にそちらへと向く。

「来てくれてありがとう。感謝するよ」

 彼は全てを許すかのような微笑みを浮かべ、弟妹たちに感謝を伝えた。
 会場はまた、ざわつき始める。
 何故なら、彼が半分だけ血を分けた兄弟に何をされてきたのか、高貴な身の上ならば大抵はその真実を知っているからだ。

 だから、ギルベルト・ベーゼ・ベルトランの懐の深さを表すには、その一言で十分だった。

 流石のベアトリスも、今、自分自身に向けられている視線が、羨望や好意の視線ではないことに気がついた。
 蔑みと侮蔑、嘲笑。
 各国からの招待客の目には弟妹を許すギルベルトの発言により、兄の妻を侮辱していたベアトリスがより卑しく映る。

 ベアトリスはギルベルトをキッと睨みつけた。
 すると、彼の隣に立つシャーロットが薄らと口角を上げたように見えた。
 まるで勝ち誇ったかのような含みのある笑みに、ベアトリスはカッと頭に血が昇る。
 隣にいるミハエルは口元を引き攣らせながらも咄嗟に笑顔をつくり、『当然です。おめでとう、兄さん』と返したが、彼女は込み上げてくる怒りが抑えきれず、その場を走り去ってしまった。

「久しぶりに話したので、妹は恥ずかしいようです」

   ギルベルトはそう言うと、乾杯の音頭をとった。
感想 10

あなたにおすすめの小説

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。