【更新停止中】謀略のシャーロット 〜幼妻は呪われた第2皇子を皇帝にしたい〜

七瀬菜々

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誕生日の夜会

43:夜会(4)


 魔塔の主、ベルンシュタイン公爵家は帝国軍の魔術師部隊を率いているが、現在、その役目を担っているのは当主ではなくその息子らしい。
 引き継ぎが終われば、近いうちに爵位も息子に渡し、現当主は隠居するそうだ。
 そのせいか、久しぶりに会った公爵にかつての面影はなく、どこかやつれているような印象を受けた。 

(…とは言っても、とても70代には見えないが)

 ギルベルトはテラスに佇む公爵の背中に声をかける。
 振り返った彼はどこか懐かしむような表情をした。

「お久しぶりです。ベルンシュタイン公爵」
「お久しぶりです、殿下。本日は誠におめでとうございます」
「ありがとうございます」
「それにしても、随分と凛々しくなられましたなぁ」
「そうでしょうか。恐縮です…」

 昔より、随分と口調や雰囲気が穏やかになっている公爵。
 歳を取ると丸くなると言うのは本当らしい。
 話しかけただけでも睨まれると思っていたギルベルトは予想外の反応に少し戸惑った。

「随分とお美しく聡明な奥方様を迎えられたようですな」
「…そうですね。彼女には色々と助けられております」
「殿下の目に生気が戻ったのは彼女のおかげでしょうか?」
「ハハッ。そうかもしれませんね」
「最後にお会いした時は…。とても魂が抜けたようでいらっしゃいましたから…」

 公爵が最後にギルベルトと会ったのは、7年前。
 彼がアスランを助けるために、左目の視力を失ったときだ。
 あれからずっと、公爵はギルベルトを気にかけていて、たまに影を離宮に送っては彼の様子を確認していたらしい。
 そう申し訳なさそうに語る公爵にギルベルトは唖然とした。
 自分と関わったがためにレクレツィアが死んだのだと思っている彼は、公爵が自分のことを気にかけているなど思いもしなかったのだ。

「そう驚かれることでもありません。娘は貴方と関わったことを後悔していない。だから、本当は娘の死後、貴方に手を差し伸べようとしました…。
「公爵…」
「けれど、どうしても許すことが出来ない者が貴方のそばにいることで、正しい判断ができなかった。本当に申し訳ない…」
「…それは、アスラン…バクラのことでしょうか」
「………」

 ギルベルトの問いに、公爵は唇を噛み締めて押し黙ってしまう。その無言は肯定だった。

「申し訳ない。正直に申し上げると、未だ割り切れていない。だから殿下がテラスに来たとき、彼に席を外すようにおっしゃってくださったこと、とても感謝しています」
「あれは…アスランも俺も、みんな気まずくなりそうだったので」

 あくまでも自分のためだから気にするなと、ギルベルトは笑った。
 彼のその微笑みが昔、娘と話している時に見た微笑みととてもよく似ていたせいか、公爵は少し泣きそうになった。


 それから2人はしばらくの間、世間話をした。
 世間話から入るのは緊張をほぐすためでもあったが、子どもの頃よりも台頭に公爵と話ができることが嬉しくて、ギルベルトは思わず話し込んでしまった。
 祖父がいたらこんな感じなのだろうか。そう思うと、何だか心が温かくなる。
 公爵はなかなか本題を切り出さないギルベルトの様子に、仕方がないと小さく息を吐き出すと、わざとらしく咳払いをした。

「して、本日は何用でしょうか?」

 やはり前言撤回かもしれない。
 高く登る月を背に、にっこりと微笑む魔塔の主からは先ほどとは違い、息が詰まるような威圧感を感じた。
 その圧に、自分の役割を思い出したのか、ギルベルトは伏し目がちに静かに話し出した。

「…路地裏でニックという男に会いました」
「…そうですか。ニックに。では、街に降りられたのですな」
「はい。ほんの一部ですが、この目に帝国の現状を焼き付けて参りました」
「……あれは、まだ良い方です」
「知っています。ニックが教えてくれました」
「……」
「公爵。俺は城の外に出て、初めて自分が愚かであることに気が付きました」

 ずっと、自分が1番不幸で可哀想なのだと思ってきた。理不尽に虐げられ、大切な人たちを奪われ、精神を破壊される生活。
 そんな生活を送っているのだから、自分は不幸なのだと思っていた。
 けれど、本当にそうだろうか。自分は衣食住の心配をする必要がなく、生きることも死ぬことも自分で選ぶことができる。
 だが、今の帝国の民は生きたくても生きられない人が多い。
 そう考えた時、ギルベルトは気がついた。

「俺はね、自分が皇族だなんて思ったことがありませんでした。だって皇帝が気まぐれに手を出したメイドが不幸にも身篭り、そして生まれたのが俺だから…。半端者の俺は皇族ではない。そう思っていたんです。けれど、それはただ逃げているだけでした。俺は皇帝の血が流れる、れっきとした皇族です。民をこの地獄から救うことのできる、民を救うべき立場にいる皇族です」

 今更だが、きちんと高貴なる血を受け継ぐ男として、その責務を全うしたい。
 ギルベルトは背筋を伸し大きく深呼吸をすると、じっと公爵の目を見据え、右手を差し出した。

「単刀直入に申し上げます。共にこの国を変えましょう」



 
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