50 / 58
誕生日の夜会
45:夜会(6)
一方その頃、会場に残ったシャーロットはミハエル・ノア・ベルトランと接触していた。
声をかけられた彼女はミハエルにエスコートされるがまま、またしても中央のダンスホールへと誘われる。
元々ダンスは好きでも得意でもないのに、今日はもう5回目だ。
何か話したいことがあるのなら、踊らずとも隅のソファで酒を片手に語らえばよいものを、何故か貴族は踊りたがる。
(謎だ)
シャーロットはチッと舌を鳴らした。
その舌打ちが耳に入ったのか、ミハエルは顔を歪める。
「…何か気に触るような事でもしましたか?」
「いいえ?」
「…なら良いのですが」
「それより、お話とは何です?」
「実は、折り入って相談したいことがございまして…」
「まあ、私に、ですか?」
疎んでいる兄の妻に相談したいことなどあるものか。
そう思いつつも、シャーロットは少し大袈裟に驚いた顔をした。
(…さて、相談といいつつ、何を要求してくるつもりなのか)
1番考えられることといえば、魔法具の研究について支援してほしいという内容だろう。
きっと、シャーロットがもっと皇子妃らしい生活ができるよう便宜をはかるから、などと言ってヴァインライヒの技術を要求してくるに違いない。
現に、今のミハエルの顔は『冷遇されている年頃の姫ならば、贅沢を求めて快諾するはずだ』とでも思っている顔をしている。
シャーロットは彼の足を踏みたくなる衝動を抑えるのに苦労した。
結論から言うと、シャーロットの読みは当たっていた。
ミハエルはこの魔法具の研究が成功すれば、帝国を貧困から救うことができるのだと力説する。
曰く、他国に勝る魔法具を作るっことができれば、それを売ることで莫大な資金を得ることができるらしい。
(嘘ばっかり…)
せっかく成功した魔法具をわざわざ他国に売り飛ばして、他国の軍事力を上げるなど、皇帝がするわけがない。
だが、ミハエルはそれっぽい理屈を並べて、遠回しに回りくどく、『お前も帝国民になったのだから、帝国の発展のために力を尽くせ』と強要してくる。
シャーロットは小さくため息をこぼすと、一瞬顔を伏せ、次の瞬間にはフッと、乾いた笑みをこぼした。
「そんなことを言って…。本当は皇位継承争いに勝利したいだけなのでしょう?」
グッと体を近づけたシャーロットは、感情の読めない目でジッとミハエルの瞳を覗き込む。
ミハエルはそんな彼女に驚き、思わずステップが狂ってしまった。だが、シャーロットが華麗にリードして彼をフォローする。
先ほどの発言のせいか、それともそのフォローが気に障ったのか、ミハエルを苛立ったように舌を鳴らした。
「な、何を言い出すかと思えばっ!」
「あら、もしかして違っていましたか?皇帝陛下が後継者を指名なさっていない今、熱心に魔法具を研究していらっしゃるのですから、てっきりそうなのかと…」
「…僕に兄上と争う意思などありません。魔法具に関しては陛下から命じられたからで…」
「そうですか…。それはとても残念ですわ」
「残念?」
その言葉に、ミハエルの眉がピクッと動く。
「帝国の現状を見ると、次期皇帝に相応しいのはあなたであると私は考えます」
「…何を…」
「アデル殿下は少々傲慢でしょう?それに対してミハエル殿下は公してギルベルトの誕生日に顔を見せ、彼の妻である私に頼みごとをなさるくらいに柔軟です。私はそんな方ほど、皇帝に相応しいと思いますの」
「王女…」
シャーロットは彼の手にそっと指を絡め、妖艶に微笑んだ。
「あなたが真剣に玉座を目指してくださるとおっしゃるのなら、私はあなたを支援いたしますわ」
「支援とは、具体的にはどのような?」
「私の父、ヴァインライヒ国王陛下に影からあなたを支援するよう頼みます。そして王国から1人、腕のある魔術師を紹介します」
「ほう。それは実に興味深いですね」
ミハエルは悪い笑みを浮かべ、絡んできた指を捉えるかのようにぎゅっと手を握り返す。
そして、彼女をくるりと回すと、耳元で囁いた。
「それで?あなたは何を見返りに求めるのですか?」
「見返りだなんて…」
「見返りもなく、支援を申し出るなどあり得ないでしょう?大丈夫、大抵のことなら叶えてあげられますよ。何で僕は皇帝になる男なのですから」
すっかりその気になったミハエルは、にっこりと微笑んだ。
調子の良いやつである。
シャーロットはそんな彼の様子に、『かかった』と薄く口角を上げる。
「実は…、レクレツィア・ベルンシュタインの使っていた日記がみたいのです」
「手帳?あの女の?」
「はい。彼女の死後、皇城内に設けられていた彼女の部屋はそのまま立ち入り禁止になったとギルベルトから聞きました。私は彼女の大ファンでしたので、もし良ければそれをお譲りいただきたいのですわ」
「そんなことでしたらいくらでも!何なら今すぐにでもお譲りすることができますよ?」
「まあ、嬉しい。ありがとうございます」
心の底から嬉しそうに、シャーロットは微笑んだ。
その笑顔がとても愛らしく映ったのか、ミハエルは頬を好調させた。
あのギルベルトの妃としておくにはもったいないほどに、彼女は聡明でそして美しい。
彼の中に、彼を地獄へと誘う感情が芽生えた。
声をかけられた彼女はミハエルにエスコートされるがまま、またしても中央のダンスホールへと誘われる。
元々ダンスは好きでも得意でもないのに、今日はもう5回目だ。
何か話したいことがあるのなら、踊らずとも隅のソファで酒を片手に語らえばよいものを、何故か貴族は踊りたがる。
(謎だ)
シャーロットはチッと舌を鳴らした。
その舌打ちが耳に入ったのか、ミハエルは顔を歪める。
「…何か気に触るような事でもしましたか?」
「いいえ?」
「…なら良いのですが」
「それより、お話とは何です?」
「実は、折り入って相談したいことがございまして…」
「まあ、私に、ですか?」
疎んでいる兄の妻に相談したいことなどあるものか。
そう思いつつも、シャーロットは少し大袈裟に驚いた顔をした。
(…さて、相談といいつつ、何を要求してくるつもりなのか)
1番考えられることといえば、魔法具の研究について支援してほしいという内容だろう。
きっと、シャーロットがもっと皇子妃らしい生活ができるよう便宜をはかるから、などと言ってヴァインライヒの技術を要求してくるに違いない。
現に、今のミハエルの顔は『冷遇されている年頃の姫ならば、贅沢を求めて快諾するはずだ』とでも思っている顔をしている。
シャーロットは彼の足を踏みたくなる衝動を抑えるのに苦労した。
結論から言うと、シャーロットの読みは当たっていた。
ミハエルはこの魔法具の研究が成功すれば、帝国を貧困から救うことができるのだと力説する。
曰く、他国に勝る魔法具を作るっことができれば、それを売ることで莫大な資金を得ることができるらしい。
(嘘ばっかり…)
せっかく成功した魔法具をわざわざ他国に売り飛ばして、他国の軍事力を上げるなど、皇帝がするわけがない。
だが、ミハエルはそれっぽい理屈を並べて、遠回しに回りくどく、『お前も帝国民になったのだから、帝国の発展のために力を尽くせ』と強要してくる。
シャーロットは小さくため息をこぼすと、一瞬顔を伏せ、次の瞬間にはフッと、乾いた笑みをこぼした。
「そんなことを言って…。本当は皇位継承争いに勝利したいだけなのでしょう?」
グッと体を近づけたシャーロットは、感情の読めない目でジッとミハエルの瞳を覗き込む。
ミハエルはそんな彼女に驚き、思わずステップが狂ってしまった。だが、シャーロットが華麗にリードして彼をフォローする。
先ほどの発言のせいか、それともそのフォローが気に障ったのか、ミハエルを苛立ったように舌を鳴らした。
「な、何を言い出すかと思えばっ!」
「あら、もしかして違っていましたか?皇帝陛下が後継者を指名なさっていない今、熱心に魔法具を研究していらっしゃるのですから、てっきりそうなのかと…」
「…僕に兄上と争う意思などありません。魔法具に関しては陛下から命じられたからで…」
「そうですか…。それはとても残念ですわ」
「残念?」
その言葉に、ミハエルの眉がピクッと動く。
「帝国の現状を見ると、次期皇帝に相応しいのはあなたであると私は考えます」
「…何を…」
「アデル殿下は少々傲慢でしょう?それに対してミハエル殿下は公してギルベルトの誕生日に顔を見せ、彼の妻である私に頼みごとをなさるくらいに柔軟です。私はそんな方ほど、皇帝に相応しいと思いますの」
「王女…」
シャーロットは彼の手にそっと指を絡め、妖艶に微笑んだ。
「あなたが真剣に玉座を目指してくださるとおっしゃるのなら、私はあなたを支援いたしますわ」
「支援とは、具体的にはどのような?」
「私の父、ヴァインライヒ国王陛下に影からあなたを支援するよう頼みます。そして王国から1人、腕のある魔術師を紹介します」
「ほう。それは実に興味深いですね」
ミハエルは悪い笑みを浮かべ、絡んできた指を捉えるかのようにぎゅっと手を握り返す。
そして、彼女をくるりと回すと、耳元で囁いた。
「それで?あなたは何を見返りに求めるのですか?」
「見返りだなんて…」
「見返りもなく、支援を申し出るなどあり得ないでしょう?大丈夫、大抵のことなら叶えてあげられますよ。何で僕は皇帝になる男なのですから」
すっかりその気になったミハエルは、にっこりと微笑んだ。
調子の良いやつである。
シャーロットはそんな彼の様子に、『かかった』と薄く口角を上げる。
「実は…、レクレツィア・ベルンシュタインの使っていた日記がみたいのです」
「手帳?あの女の?」
「はい。彼女の死後、皇城内に設けられていた彼女の部屋はそのまま立ち入り禁止になったとギルベルトから聞きました。私は彼女の大ファンでしたので、もし良ければそれをお譲りいただきたいのですわ」
「そんなことでしたらいくらでも!何なら今すぐにでもお譲りすることができますよ?」
「まあ、嬉しい。ありがとうございます」
心の底から嬉しそうに、シャーロットは微笑んだ。
その笑顔がとても愛らしく映ったのか、ミハエルは頬を好調させた。
あのギルベルトの妃としておくにはもったいないほどに、彼女は聡明でそして美しい。
彼の中に、彼を地獄へと誘う感情が芽生えた。
あなたにおすすめの小説
家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る
りーさん
ファンタジー
アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。
その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。
そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。
その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。
その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。
婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。
孤独な結婚生活を送る中。
ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。
始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。
他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。
そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。
だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。
それから一年ほどたった冬の夜。
カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。
そこには彼の想いが書かれてあった。
月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。
カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。
※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。
※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。
稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます
青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。
藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。
溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。
その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。
目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。
前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。
リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。
アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。
当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。
そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。
ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。
彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。
やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。
これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。