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「始まり、そして旅立ち」1
襲撃2
しおりを挟む「いいか、取り囲め!ぬかるんじゃないぞ!」
「くそっ、手間かけさせやがって」
「ふぅー、ふぅー」
「……」
男達の最後の一人が到着すると、リーダーの男が合図を送る。悪態を吐く者もいたが、男達は素直にリーダーの男に従い、ミシェルとニッシュを取り囲んだ。
「待った、なしだ!」
「実戦の、レイピア術戦ね……!」
ミシェルとニッシュは互いに背を向け、一定の距離を保ちながら男達に間合いを合わせる。多数戦の為、こちらが先手を取る為には一瞬の隙を窺うしかない。
「いいか!その娘達は、レイピア術という武術を使う!ここに逃げ込んで、その剣で対戦するつもりだったようだ!子供だと思って、侮るんじゃないぞ!」
「なんでそんなことまで知ってるんだか……」
「……私たちの事を、調べてたの?」
リーダーの男の仲間への警告。ミシェルとニッシュはその発言に、男達にさらに不信感を募らせる。
男達は二人にじりっじりっと間合いを詰める。ミシェルとニッシュはもう、二人の背中が付く程近くにいた。
(こいつら、俺たちの事を知ってるのか……?――でもな、レイピア術の武器は剣じゃなくて――)
リーダーの男が「いいか!」と仲間に確認を入れる。男達の一人は今にも襲いかかってきそうな勢いで鼻息が荒い。
「やれ!」
「――槍だ!」
リーダーの男が号令をかけたその瞬間、ニッシュは言い放つと、ニッシュの左手にいる「よっしゃあ!」と襲いかかってきた男の右胸に渾身の突きを放ち男の右から反転すると、その勢いで男に足払いをかけた。ミシェルも、ミシェルの左手にいる男の右腹部に強烈な突きを入れると、ニッシュのように反転して右から男の顎にレイピアを縦に振り上げ岩をも砕く様な打撃を与えた。
「ぐあっ!ギャアッ!がっあっ!」
「ゴフッ!ぐええぇっ!――ぐふっ」
ミシェルが攻撃した男は顎に打撃が当たると、嗚咽交じりの呻き声を上げてその場に倒れ込みそのまま動かなくなった。ニッシュが足払いした男も、右足の踝のあたりから〈ビキッ!〉と骨にひびが入る音がして声を上げその場に蹲る。
二人は攻撃を終えると男たちの外側に回り、男たちに向かってレイピアを前に出して構えた。
「見たか!レザーガード(――レイピア術の防具)を着けないと、こうなるんだ!」
「――でも、ちょっとかわいそう……」
「ミシェル、こんな奴等の心配する必要なんてないよ!」
ミシェルの相手への同情に、ニッシュはそんなのは不要だと言い聞かせる。
「侮るなといったはずだ!――いいか、やれ!」
リーダーの男の叱責。リーダーの男は行動を促す。
「ちっ!」
伸された一人を見ると男たちは、腰に手を伸ばし何かを取り出した。
それは鈍色に不気味な光を放っていた―――刃渡り二十センチ程の、獰猛なサバイバルナイフだった。男達はナイフを手にすると、ミシェルとニッシュの間で二人を牽制するように広がって間合いを取ってきた 。
「……それもそうね。これじゃあ心配の必要なんて――ないわ!」
ミシェルはそれを見るとニッシュの発言に肯定をして、レイピアの先端を上に体に斜めに構えた。
相手への連撃を視野に入れた攻撃の姿勢、その上次の行動にも素早く移れる構えだ。相手の非情な判断に、少し本気を出すミシェル。
男達は間合いを取ると、リーダーの男は統率をかける。
「いいか、その娘には手を出さず小僧からやるぞ!娘には手を出すな!」
男達は三人ともミシェルに注意しながらニッシュの方を振り向くと、持っているナイフを前に構えた。その内の一人はニッシュにやられた右足を引きずりながら、憎々しそうな眼差しをニッシュに向けていた。
(――!!ニッシュ!)
ミシェルはニッシュに危険が迫ったのを知ると、男達に向かって攻撃を仕掛けた。真ん中の男の右肩を狙って突きを放つ。
――しかし、男達はニッシュの方を向いてはいたが、ミシェルからの攻撃にも注意を払っていた。真ん中の男に攻撃を仕掛けた時、右のリーダーの男が振り向きナイフをミシェルに突き立て攻撃してきた。
ミシェルは少しタイミングが悪いと悟ると、ナイフを持った相手の攻撃を食らう訳にはいかないと、レイピアと体を左に回し攻撃をかわす。そして一回転するとリーダーの男のナイフを持っている右手に向かって薙ぎ払いを放った。
リーダーの男はその薙ぎ払いを後ろに下がり右手のナイフでいなしてきた。ミシェルはウッドレイピアが傷ついてはいけないとナイフの腹の部分にレイピアで打撃して男達の方を向いた。
(――さっきより、――手強い!)
ミシェルが一瞬考え込んだ瞬間、ニッシュに右足に怪我を負わされた左の男がナイフを捨てミシェルを取り押さえにきた。ミシェルは不意を衝かれ行動が遅れた。
その男が動いた直後、男は後頭部に強烈な打撃を食らわせられた。男は「がっあっ!」と唸ってその場に倒れこんだ。ニッシュが突きを放ったのだ。
「ミシェル、大丈夫か!?――ミシェルは狙うな俺を狙えって言っておいて、何なんだよ」
「我々はその娘さえ捕らえられればいいのだ――抵抗はせず、おとなしく引き下がってもらえないか?」
「お前らそんな事言って本当に引き下がると思うのか?ミシェルを捕らえるなんて絶対にさせない!」
「そうか、ならば力ずくで捕らえるしかない。我ら二人はやられた二人の様にはいかんぞ」
リーダーの男はそう言うと、もう一人の男と共にナイフを構え出した。
「二対二だ。もう数的有利はないぞ」
ニッシュは牽制をかける。
「ニッシュ、さっきはありがとう――気を付けて、ナイフを持ってからちょっと手強くなってる!」
「ああ、分かってる!」
ミシェルとニッシュは共闘を図る。
ミシェルは再びレイピアの先端を上に体に斜めに構えた。ニッシュもレイピアの先端を下に体に斜めに構えた。次の行動に素早く移れる構え、速さを重視した疾風迅雷の構えだ。
(ミシェル、二対二だ。――今度は)
(そう、――先手を、取る!)
二人は意思の疎通をすると、同時に動き出した。
ミシェルはリーダーの男の右肩に突きを入れる。レイピアとナイフではレイピアの方がリーチが長い為長さの理を活かす。続いて一回転して左腹部に薙ぎ払いを入れる。
ニッシュも手下の男の右腕に薙ぎ払いを入れ、レイピアを振り下ろし右胸部に打ち出す。そして腹部に向かって突きを入れる。二人は立て続けに連撃をし続ける。
男達は何とか対応するが、次第に押され始めた。
「くっ!」
男達に、焦りの色が見え始める。
(よし、ミシェル!――これは、)
(――いける!)
その時だった。手下の男がニッシュの連撃に構わず、ミシェルの足に向かってナイフを突き立ててきた。
「お前だけは――何とかする!」
(――!!)
ミシェルはまたも不意を衝かれ、防御の姿勢に入る。
だがニッシュは落ち着いて、手下の男の頚椎の辺りに力を込めて突きを入れる。手下の男はミシェルに攻撃を入れる前に崩れ落ちた。
(よし!)
(あと一人!)
ミシェルとニッシュは優位に立つ。二人は最後の攻勢へと出る。
(むう)
リーダーの男は数的不利になると、ニッシュに捨て身の攻撃を仕掛けてきた。ニッシュは応戦するが守勢に回る。
「ふぅ!はぁ!やぁ!」
「くっ、うっ」
リーダーの男は立て続けに攻撃する。ニッシュは防戦一方になった。
しかしミシェルは落ち着いて、レイピアを振り下ろしリーダーの男のナイフを叩き落した。そして後ろから足払いをかけ、リーダーの男を転倒させレイピアを突きつけた。
「勝負あり――ね。いい、何の為に私達を狙ったの?言いなさい!」
「もう、俺達を二度と狙おうなんて思うなよ!」
二人はリーダーの男を厳しく詰問する。しかしリーダーの男は余裕を持って答えだした。
「お前たちを狙った?私が用があるのは娘、お前だけだ。なぜ狙ったか、という事については私の口から言えないな」
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