視える私と視えない君と

赤羽こうじ

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狙われたのは?②

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 翌日、叶は扉をノックする軽快な音で目を覚ました。

「叶さん、まだ寝てる?」

 扉の向こうからは幸太の明るい声が聞こえて来る。
 まだすこし重たい瞼を開けて、部屋の時計を確認すると、時計の針は九時を指していた。

 ちょっと寝すぎたかな?――。

 片手で髪をかきあげながらまだ微睡まどろむ頭を動かそうとしていると、再び扉をノックされた。

「叶さーん?」

 扉の向こうで戸惑いながら呼び掛ける幸太の声を聞き、叶は慌てて扉に駆け寄り、扉越しに声を掛ける。

「幸太君。ごめんごめん、おはよう。ちょっと今起きた所だから少し待ってて。すぐに支度するから」

「よかった。無事ならいいんだ。じゃあ部屋で待ってるから」

 幸太の返事を聞き叶はすぐに支度を始めた。洗面所に行き洗顔と歯磨きを終えると手早く化粧も済ませ着替え終わるとすぐに隣の幸太の部屋を訪ねた。

「幸太君、お待たせ」

 扉をノックし声を掛けると、すぐに扉が開き幸太が気持ちのいい爽やかな笑顔を見せた。

「全然待ってないって。志穂さん達は先に食堂に行っとくって言ってたよ」

「そっか、私達も行こうか。朝食何かな?」

 そんな他愛もない事を話しながら二人は階段を降りて行く。幸太と共に過ごす和やかな朝は昨夜の騒動が嘘の様に感じさせた。二人はそのまま食堂へ行くと、二人に気付いた池江が駆け寄り頭を下げる。

「鬼龍様、倉井様、おはようございます。お食事の用意が整っております、こちらにどうぞ」

 池江に案内された先では志穂と嵯峨良が既に食事を済ませ食後のコーヒーを楽しんでいた。

「あら鬼龍ちゃんおはよう。よく眠れた?」

「おはようございます。おかげ様でゆっくり眠れましたよ。ひょっとして志穂さんはあまり寝てないんですか?」

 いつもの様な笑みを浮かべて明るく声を掛ける志穂だったが、叶は志穂の顔色が僅かに血色が悪く感じた為問い掛けた。だが志穂はその問いには答えずに笑顔を見せ叶の顔を覗き込む。

「ふふ、私があまり寝てなくても、逆に寝てたとしてもあまり意味ないわよ。ここからの主役は鬼龍ちゃんに嵯峨良先生なんだから。二人の体調が良ければそれですべてOKでしょ」

「随分謙虚じゃないですか。まぁもちろん美味しい料理も頂いてる訳ですから仕事はちゃんとしますけどね」

「ふふふ、お願いね。ひとまずうちの先生が会長に小夜子さんと思われる着物着た女性の霊の事伝えに行くみたいだけど。ねぇ先生?」

 突然志穂に振られて嵯峨良は少し驚いた様な表情を見せたがすぐに襟を正す様に背筋を伸ばすと軽く咳払いをして叶を見つめた。

「ひとまず会長の横に座っていた女性について報告するつもりなんだ。鬼龍君も見えていたんだよね?今は視えるかい?」

 真剣な眼差しを向け問い掛けてくる嵯峨良に対して、叶は柔らかな笑みを浮かべて頭を振った。

「いえ、今は視えませんね。理由は分かりませんが、いたのはたぶんあの夕食の時だけでしたね。それで、その事を会長に伝えてどうするつもりですか?」

 叶の質問に嵯峨良は何も答えずに不敵な笑みを浮かべると叶が咄嗟に「あ、すいません」と謝罪を口にした。そんな様子を眺めていた志穂が横から割り込む。

「まぁ相手の出方次第よね。ただ、三条さんの言ってる事だけを信じられても困るじゃない?私達もちゃんと視えてるんですよ、って証明しとかないとね」

「まぁ確かに。私はそれより奏音さんの容態が気になってるんですけど何か知ってますか?」

 叶の質問に二人は伏し目がちにゆっくりと首を振る。

「いいえ、何も聞かされてないわね。確か秋義さんが付いてるんじゃなかった?」

「ええ、確かその筈ですね」

 叶と志穂が暫く話を進めていると池江がワゴンを押しながら叶の横にやって来た。
 ワゴンの上には新鮮な野菜を使ったサラダや温かそうなスープが湯気を立てて並んでいた。

「鬼龍様、倉井様、地元で取れた新鮮野菜のサラダとポタージュスープです」

 池江は丁寧に説明しながら叶と幸太の前に配膳していく。そんな池江に叶が軽く頭を下げると、池江は叶に顔を近づけそっと囁く様に話す。

「奏音様は一命は取り留められた様です。ただショック症状で窒息状態が長くなってしまったせいで意識は未だに戻ってないそうで……私からお教え出来るのはこれぐらいです」

 そう言って深々と腰を折る池江に対して叶は丁寧に礼を伝える。

「池江さんありがとう」

「いえ、ではすぐにパンも運んで来ます」

 池江は目を合わせる事もなく再び一礼しワゴンを押してその場を去って行った。
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