視える私と視えない君と

赤羽こうじ

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狙われたのは?

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 奏音の部屋の前で集まりまだ騒動の余韻が残る中、池江は防護服に身を包み階段を上がって来た。少々大袈裟にも見える池江の手には殺虫剤が握られており、池江は集まった人の間を縫うようにして奏音の部屋の扉に手を掛ける。

「では今から蜂の駆除に参ります。危険ですので部屋には入らないで下さい」

 そう言って一礼すると池江は部屋の中へと入って行った。

 そうして暫くして部屋から出て来た池江の手にはプラスチック製の透明なケースが握られており、中には大きなスズメバチの死骸が二匹入っていた。

「こんな大きなスズメバチが二匹もいました。もう大丈夫だとは思いますが念の為、奏音様の部屋には立ち入らないようにお願いします」

 頭を下げ再び歩き出した池江に対して、叶が不意に呼び掛ける。

「あの、池江さん。ここってスズメバチが頻繁に入り込んだりするんですか?」

 叶の質問に池江は少し困った様に眉根を寄せると、ふるふると首を振った。

「いえ、それ程頻繁には入って来ません。ただここは森の中にあるせいか、屋敷に入り込まれる事はたまにあるんです。その為このような防護服や殺虫剤も一応備えてはいたんですが……それでもこんな夜中にスズメバチが入り込むとは思いませんでした」

 そう言って池江が再び一礼して階段を降りて行くと、怯えた様な目をして俯く華月が目に付いた。
 気になった叶はそっと華月に話し掛ける。

「華月さん、どうかした?」

「あっ、いえ、その……」

 口篭る華月だったが、叶は微笑みながら優しく語り掛ける。

「気の所為だったらごめんなさい。ただスズメバチの死骸を見て凄く怯えていた様に思えたんで」

「あの……その……スズメバチが部屋に入り込んでたんですよね?……その、私……」

 僅かに肩を震わせながらたどたどしく言葉を紡ぐ華月だったが、すぐに隣にいた朱里が割って入って来ると、華月に蔑む様な眼差しを向ける。

「何あんた?夜中に起こされて調子悪いの?さっさと部屋に戻って寝てきたら?」

「えっ、あ……うん」

 朱里に言われ俯きながら部屋の方へと向かって行く華月の背中を見つめ、叶は首を傾げた。

 あの子何か言いたげだった。何か知ってる?それとも何?――。

 叶が思慮を巡らせていると、朱里が振り向き笑顔を見せる。

「ごめんね、あの子じれったいでしょ?なんかもじもじしてるし。私がいなきゃあの子何も出来ないのよ」

 得意げに語る朱里に対して叶が苦笑いを浮かべると、朱里は更に口角を釣り上げて下卑た笑みを見せていた。

「だけど華月さんも何か言いたい事があったのでは?少し怯えていた様にも思えましたし」

「あはは、怯えていた?だからいつもだって。あいつはいつもおどおどしてるんだから。気にしてたらキリがないって」

 華月を軽んじる態度を少し窘める様に叶が苦言を呈したが、朱里は見下す様な笑みを浮かべて一笑に付した。それを見て叶は、これ以上は話しても無駄と悟り、軽く一礼するとその場を後にする。

 丁度その時貴之が声を上げた。

「さぁ少し騒がしくなったが、まだ明け方前だ。奏音の事は秋義と医者に任せて我々はもう少し休もう」

 貴之の話を聞き、その場にいた全員がゆっくりと自室へと戻って行く。
 叶も自室に戻ろうと振り返り歩き出した時、不意に後ろから志穂に声を掛けられた。

「鬼龍ちゃん、スズメバチの件どう思う?」

「……事故にしては少し不可解だとは思いますが、志穂さんはどう思ってるんですか?」

 叶が声を潜めてひっそり答えると、それを聞いた志穂はにんまりと笑みを見せた。

「そうね、私は……もう少し考えてからまた言うわね」

 そう言って叶を追い越すと、スタスタと歩いて行き、さっさと自室へと入って行った。

「ひとには聞いといて……もう」

 軽くため息をつくと、少し呆れた様に笑って叶も自室へと歩き出す。すると今度は幸太から声を掛けられる。

「叶さん」

 呼び止められ、笑みを浮かべて振り返ると幸太が心配そうに見つめていた。

「叶さんの部屋は蜂大丈夫だよね?」

「そうだね、多分大丈夫だよ。もし何かあったら飛んで来てよ、部屋隣なんだから」

 叶が悪戯っぽい笑みを浮かべると幸太も「もちろん」と言って笑みを見せる。
 二人は互いの部屋の前で互いを見送りながら部屋へと入って行った。

 部屋に戻った叶はそのままベッドに身体を投げ打った。

「……ほんと何が起こってるの?出来れば明日からは平穏に過ごしたいんだけど……どうなるんだか……」

 一人呟き叶はそっと目を閉じる。
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