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終幕②
しおりを挟む刺された腕を押さえてうずくまる奏音を秋義が慌てて抱き抱える。
奏音は顔をしかめ、少し戸惑う様な表情も見せていた。
「奏音、大丈夫か?」
秋義が問い掛けるが、奏音は刺された箇所を見つめながら困惑した様子で首を振った。
「ごめん、わからない。だけど何かおかしい」
そう告げる奏音を横で見つめていた叶が振り返り池江に叫ぶ。
「池江さん、何か薬を。アレルギーに対する薬はありますか?」
「さ、探して来ます」
池江が振り返り駆け出して行こうとすると同時に次は奏音が叫んだ。
「池江さん待って!何かおかしいの。アレルギーが出る時って、こう、何か全身が熱くなるような感じがして、脈拍も早くなって行って、そして急に血の気が引くような、血圧が一気に下がった様な感じになるの。だけど今、特に何もないの……」
奏音の言葉を聞き、全員が困惑する中、叶が奏音に刺さっていた針を拾い上げ見つめる。
「……やっぱり。何も塗ってある感じがない」
叶がため息混じりに呟き、全員が少し胸を撫で下ろした。
「ブラフね」
突然志穂の声が響き全員が振り返ると、志穂が腰に手を当てながら呆れた様な笑みを浮かべていた。
「志穂さん、あの子は?」
即座に叶が歩み寄り問い掛ける。
「振り切られたわ。逃げ足は早いみたい」
「くそっ……」
志穂の言葉を聞き、叶は天を見上げると、悔しそうに唇を噛む。
そんな叶を見つめて志穂がゆっくりと歩み寄って肩を軽く叩いた。
「まぁ気持ちはわかるけど、倉井君もいるんだから言葉遣いには気を付けなきゃ駄目よ。それにあの子を捕まえたとしても現状じゃ大した罪には問えないと思うわよ」
「そんな……奏音さんに対する殺人未遂だってあるじゃないですか?」
叶が少し語気を強めるが、志穂は優しく首を振る。
「奏音さんをスズメバチに襲わせたって事よね?それをどうやって証明する?池江さん、あの時のスズメバチの死骸ってまだありますか?」
志穂が池江の方へ振り向いて問い掛けるが、池江は首を振って申し訳なさそうに深く頭を下げた。
「申し訳ございません。スズメバチの死骸は既に処分してしまいました」
「まぁそうでしょうね。大丈夫よ池江さん気にしないで」
志穂が軽く手を振りながら笑って声を掛けるが、池江は尚も申し訳なさそうにもう一度頭を下げていた。
「ね、証拠がないのよ。証拠が無ければ警察なんて何にもしてくれないんだから。せいぜい今、奏音さんの車椅子を押して転倒させた上で、腕に針を刺した傷害で訴えるぐらいね。それも大した罪にはならないと思うし」
「……じゃあこのまま泣き寝入りしろって言うんですか?」
「仕方ないのよ。あの子の計画台無しにしてやったんだからひとまずは納得しなくちゃいけないんじゃない?それに因果応報って言葉もあるでしょ?何処かで痛い目に会うわよ確実に」
志穂が落ち着いた口調で語り掛けるが、叶はそれでも頭を軽く振るとため息をつきながら髪をかきあげ、納得いかない様な表情を浮かべる。
「仕方がないと言えばそれまでですが、腑に落ちませんね。ただ奏音さんも無事だったし、秋義さんとの仲も修復出来たようだから無理やり納得はしますけど」
そう言って見つめる先では倒れた奏音を秋義が抱きかかえて二人微笑んでいた。
そして何かに気付いたように志穂が叶に問い掛ける。
「そういえば鬼龍ちゃん。奏音さんの後ろ視えてるよね?教えてあげた方がいいんじゃない?」
「そうですね、確かに」
そう言うと叶はゆっくりと義将の方へと歩んで行き、義将の前で静かにお辞儀をする。
「義将会長、少しお伝えさせて頂きます。当初私達に託された依頼は絵梨香さんの霊との交信でした。ですが絵梨香さんの霊は姿を見せず、代わりに小夜子さんの霊が私達には視えていた訳ですが、その理由がわかりました」
「何?本当か?」
叶の言葉に驚き尋ねる義将に叶は小さく頷き微笑む。
「はい。絵梨香さんの霊は今、奏音さんに憑いてます。恐らく何か良くない雰囲気を感じて、奏音さんを護る為に憑いたんだと思います。霊はそういうのに敏感ですから。ですから結果、絵梨香さんの霊も斗弥陀を護ろうとしてくれてる様ですよ。勿論小夜子さんもですけどね」
そう言って叶はいつも小夜子の霊が座っていた義将の隣の席に目を向ける。
そこには昨日までの険しい表情をした小夜子ではなく、穏やかな笑みを浮かべて全員を見つめている小夜子の霊が叶の目には映っていた。
こうして廃病院に端を発した長かった斗弥陀家との騒動はようやく終わりを見せる。
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