最弱の魔王に転生させられたんだけど!?~ハズレスキル【砂糖生成】で異世界を征服してみよう~

素朴なお菓子屋さん

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第一章 はじめての

脈動

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「ねぇ……スレット。きっと君らは……僕にあんな惨劇を見せないようにしてたんだろう?」


「…………お話を聞く限り、貴方様は……平和な方で、居らっしゃるようなので……」


 あの廃墟を後にして……少し、ゆっくりスレットと歩いて帰宅中。

 やっぱり……僕が今まで見てこなかったのは、皆の配慮のお陰だったのかな……。


「ありがとう…………でも、もう大丈夫」


「…………畏まりました、魔王様」


 もう……見てしまった。知ってしまった。

 憎悪を…………悪意を。


「帰ったら用意して欲しい食材がある。それと……スレットに用意して欲しい器具があるんだ。絵にするから骨で作って欲しい。出来る?」


「勿論ですとも。承りました」


 パティシエだけの僕じゃ……もう、居られない。生きられない。
 

 ″混じれ″
 

 魔王の器と……僕の魂を……両立させて、一つにしないと。生産と……凄惨を。
 

 ″交じれ″
 

 願いを……力を、お菓子として…………顕現させてやるよ。

 気付けばギリッ……と、拳が握られていて。
 

 ″ヒトツニ…………ノミコマレロ″



 ――――――――――――


 ――――――――


 ――――――


 ――――


「魔王様……頼まれていた物、お持ち致しましたぞ」


「ありがとうスレット。えっと……因みにこれは、何の骨?」


 目の前のテーブルには、ミルクと卵……それと、頼んでおいた物が一つ。

 それはズバリ――――ふるいである。

 金網の大きさの単位をメッシュって呼ぶらしくて、篩とは言わずにメッシュと呼んだりもする。
 
 一ミリ程度の細かい網状の骨で出来たメッシュ。それでいて、髪の毛くらいの細さしかない骨なのに、叩いても弛まない丈夫さ…………完璧だ。


「ほほ、魚の小骨を集めましたぞ! プースの器用さが無ければ諦める所でした……ほほっ」


 魚……か。


「そっか……ありがとう。助かった」


 良く洗ってから使うね。


「ほほ、魔王様の為ならば。それでは存分に御活躍下され」


「うん」


 そう言ってキッチンから出ていくスレットを見送り…………意識を手元に。

 帰ってきて手は洗った。

 丁度いい布があったので、頭髪を纏めた。

 壁に掛かっていた誰かのエプロンも拝借したから……準備万端。

 ――――あ、いや…………まだだった。

 大事な大事なお砂糖を用意しないとだった。願いを込めて……力を込めて、ね。

 うーん……どんなイメージをしようかな? やっぱり大空を駆ける龍かな?

 良し……! 龍の彼女が……若返って元気になるように。
 

 ″ニンゲンヲ……ホロボスチカラヲ″
 

 僕を乗せて……大空を駆けて、世界中の原材料を探せるように。
 

 ″セカイヲノミコム……チカラヲ″
 

 それで……ちょっとだけ、人間を追い返す力を貸してくれて。

 そんな……そんな風な――――――


「世界ヲ包みコム……膨大な――――――っ!?」


 不意に勝手に漏れ出した声と……意味のわからない言葉。

 ――――僕は……今、何を考えていた!?

 何を望んだ!?

 怖っ……怖い……!!

 得体の知れない恐怖に……奥歯が、ガチガチと震えて擦れる。

 …………思えば……あの龍と会ってから、精神が疲れたような、ボーッとしたような……自分が自分じゃないような、フワフワした感覚だった。

 なんか……変だ。心が……変だ。違和感があ――――


 ″チッ″


「――――誰っ!?」


 何処かで……舌打ちみたいな音が聞こえたけど、何処にも……誰も、居ない。

 何、何、何……!? 

 僕の中に…………何か、居るの……!?

 そんな中、不意に廊下を誰かが歩く音が聞こえて――――


「おかえりアラン。何か……あったの?」


 ひょっこりと顔を覗かせたのはサリュ。


「ただいまサリュ……。ちょっと……嫌なもの見ちゃってね。顔に出てた?」


「うーん……雰囲気?」


 気だるげな彼女の顔は……見てる方が力が抜けるような……優しい顔付きで。
 誰かがいる安心感と合わさって……少し、体の震えが治まった。


「まじかぁ……出ちゃってたかぁ……」


「うん。それで龍はどうだった?」


「会えたけど……あんまりだね。だから、龍の為にお菓子を作ろうと思ってね」


「なるほど……アランらしい」


 僕らしい…………か。僕って…………何なんだろ。


「でしょ? 良かったら見ていく?」


「良いの?」


 ――――え?
 まさか乗ってくるとは思わなかったぞ……!?


「面白いとは思わないけど……」


「良い。気になる。私の体を治した力……知りたい」


「そっか……そうだよね。じゃあ見ていってよ」


 女の子に見られながらやるのは……恥ずかしいけど、ダサい姿は見せられない……!! 全力の姿、見せてやらないと!!


 ――――――そうやって、この体に潜むナニカは……お菓子に飲み込まれていった。


 ***



「レッツ魔王クッキング~!」


「いぇーい」


 空元気な僕と、ダウナーなサリュがお送りするスイーツタイム。
 自分にあった出来事……少し、全部忘れたい。


「手始めに……このお菓子の根本になる、お砂糖を出します」


 忘れたいから……嫌な事は、先にやろう。


「おぉ~」


 ……でも、やっぱりさっきの出来事を思い出して……指先が、震える。

 だ、大丈夫……きっと、大丈夫……!!
 さっきはたぶん……願いが重すぎたのかも知れない。いつも通り……緩く、フラットに祈りを込めれば…………!!

 それに……今はサリュもいる。何かあったら……きっと、助けてくれる。


「よ、良し……!! 龍よ……げ、元気になぁれ……それ!!」


 ドキドキが…………止まらない。何かまた……出てくるかも……知れない。

 そんな気持ちと裏腹に、空いた小瓶に指先を入れ、力を込めれば…………ポンッと生まれる、純白の砂糖。


「おぉ~。相変わらず上質」


「でしょ?」


 ――――体と心に変化無しっ!!

 やっぱり、深く強く願うとダメなのかなぁ……? 魔王のこの体……何が起こるか全く予想出来ないなぁ……。
 あんな制限、聞いてないよ……。
 
 まぁ凄く気になる……けど、探す手立ても無いんだよなぁ……。


「じゃ、始めていくね」


「今日は……何、作るの?」


 仕方ない、今は目の前の作業に集中しないと。


「プリン……って聞いた事ある?」


「無い」


「そうなのかぁ……」


 今日作るのは……プリン。
 喉越し良くて、弱った体でも食べやすいお菓子……プリンくらいしか思い付かんよね!
 風邪を引いた子供が親に頼む物ナンバーワンと言っても過言では無いくらい。


「えっとね……この間スレットが入ってた液体を焼き固めたお菓子……で伝わる、かな?」


「………………美味しいの? それ」


「やっぱりそう思うよねぇ~」


 ま、厳密に言うとミルクセーキは全卵で、プリンは卵黄だけ使うから違うけど……言っても伝わらないしね。


「噛まなくても蕩けちゃうくらいツルツルで~……ミルクと卵の合わさった、深~いコクと甘さが堪んないお菓子で~」


「…………食べないと、わからない」


「じゃあサリュの分も――――あ、砂糖の効果が龍専用だからダメだな食べちゃ……」


「ねぇ……そんな酷い話、ある?」


 ジッ……と、瞬きもせず見てくるサリュ。
 圧が……圧が凄い。


「……別で作るから待ってて……」


「宜しい」


 ま、まぁ圧に屈した所で問題は無いさ!!

 気を取り直して……レッツプリン作り。

 お菓子屋さんのプリン……そう言われると、特別感があると思うんじゃないだろうか。
 お菓子屋さんのプリンを真似してみました、なんてレシピもウェブサイトにゴロゴロあるように。

 でも、僕ことお菓子屋さんパティシエがプリンの作る際の大事なコツ……そんなに無いんだよね。

 ・湯煎焼きの時に百度以上の熱湯にしない事。

 ・プリン液を作っている途中、牛乳を六十度以上にしない事。

 ・一ミリ程度のメッシュで裏漉しをする事。

 たったそれだけ。
 まぁ細かいテクニックを除く……だけどね。

 まず湯煎焼きってのは……オーブンで焼く時、鉄板に水を張って焼く事。水を入れて焼くと、火の当たり方が優しくなって、フワッと焼けるからプリンでは湯煎焼きが基本。

 作っている途中に牛乳を六十度以上にしないのは、単純に牛乳と卵のタンパク質が焼けてしまうから。
 ホットミルクを放置しておくと、表面にビラビラが浮いてくるよね? アレがタンパク質の塊。
 
 あんなビラビラがプリンの中に入ってたら絶対美味しくないじゃん? だからこそ温度を上げすぎない事が大事。

 じゃあ焼く時どうなるの? って思うでしょ? なんとお砂糖を入れるとタンパク質を守ってくれるから、タンパク質だけ固まる事は無くなる訳。
 オマケに、お砂糖がタンパク質を守ってくれるから、ゆっくり滑らかに固まるようになるんだよね。つまりお砂糖最強。
 
 ドジっ娘が良くやる砂糖と塩を間違えるあれ、お菓子でやったら一発で見た目でわかるくらいには、砂糖には秘められた力があるんだ。

 そんで最後に大事な裏漉し。言わずもがなプリンの舌触りを滑らかにする為に必要な工程。
 
 結局、お菓子って何が大事かって、舌触りとか食感なんだよね。まぁお菓子に限らずだけども。

 お菓子屋さんは特殊な材料とか、特殊な機械を使ってる! なんて思われてるかも知れないけど……全くそんな事無い。
 
 技術職ってさ、器用なら頭悪くてもやれる……なんて下に見られる時代だけどさ……バカじゃ出来ないんだよね。

 プリンの作り方だって、工程を覚えて……タンパク質と砂糖の性質を覚えて……もっともっっと色々な知識を頭に叩き込んで。
 器具の使い方、材料を無駄なく使う丁寧さ、それから作業効率……全部気にして、作り上げる訳で。

 有名な話だけど、寿司職人の見習いが寿司を握るのに十年掛かるらしい。
 けどさ……そりゃ、当たり前なんだよ。
 
 技術は知識と経験の上に成り立つんだから。

 さて……話が逸れちゃった。プリン作らないと……だね。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

catfish600
2023.09.02 catfish600

先の展開が超気になる!
治療的な効果なのかブーストなのか、どちらにしても強力ですね…!摂取すればするほどだったら恐ろしいことに(笑)

2023.09.05 素朴なお菓子屋さん

ご感想ありがとうございます!!凄く嬉しいです!!
ネタバレになるのでなんとも言えませんが...お菓子、ですから笑

解除

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