16 / 16
第一章 はじめての
脈動
しおりを挟む「ねぇ……スレット。きっと君らは……僕にあんな惨劇を見せないようにしてたんだろう?」
「…………お話を聞く限り、貴方様は……平和な方で、居らっしゃるようなので……」
あの廃墟を後にして……少し、ゆっくりスレットと歩いて帰宅中。
やっぱり……僕が今まで見てこなかったのは、皆の配慮のお陰だったのかな……。
「ありがとう…………でも、もう大丈夫」
「…………畏まりました、魔王様」
もう……見てしまった。知ってしまった。
憎悪を…………悪意を。
「帰ったら用意して欲しい食材がある。それと……スレットに用意して欲しい器具があるんだ。絵にするから骨で作って欲しい。出来る?」
「勿論ですとも。承りました」
パティシエだけの僕じゃ……もう、居られない。生きられない。
″混じれ″
魔王の器と……僕の魂を……両立させて、一つにしないと。生産と……凄惨を。
″交じれ″
願いを……力を、お菓子として…………顕現させてやるよ。
気付けばギリッ……と、拳が握られていて。
″ヒトツニ…………ノミコマレロ″
――――――――――――
――――――――
――――――
――――
「魔王様……頼まれていた物、お持ち致しましたぞ」
「ありがとうスレット。えっと……因みにこれは、何の骨?」
目の前のテーブルには、ミルクと卵……それと、頼んでおいた物が一つ。
それはズバリ――――篩である。
金網の大きさの単位をメッシュって呼ぶらしくて、篩とは言わずにメッシュと呼んだりもする。
一ミリ程度の細かい網状の骨で出来たメッシュ。それでいて、髪の毛くらいの細さしかない骨なのに、叩いても弛まない丈夫さ…………完璧だ。
「ほほ、魚の小骨を集めましたぞ! プースの器用さが無ければ諦める所でした……ほほっ」
魚……か。
「そっか……ありがとう。助かった」
良く洗ってから使うね。
「ほほ、魔王様の為ならば。それでは存分に御活躍下され」
「うん」
そう言ってキッチンから出ていくスレットを見送り…………意識を手元に。
帰ってきて手は洗った。
丁度いい布があったので、頭髪を纏めた。
壁に掛かっていた誰かのエプロンも拝借したから……準備万端。
――――あ、いや…………まだだった。
大事な大事なお砂糖を用意しないとだった。願いを込めて……力を込めて、ね。
うーん……どんなイメージをしようかな? やっぱり大空を駆ける龍かな?
良し……! 龍の彼女が……若返って元気になるように。
″ニンゲンヲ……ホロボスチカラヲ″
僕を乗せて……大空を駆けて、世界中の原材料を探せるように。
″セカイヲノミコム……チカラヲ″
それで……ちょっとだけ、人間を追い返す力を貸してくれて。
そんな……そんな風な――――――
「世界ヲ包みコム……膨大な――――――っ!?」
不意に勝手に漏れ出した声と……意味のわからない言葉。
――――僕は……今、何を考えていた!?
何を望んだ!?
怖っ……怖い……!!
得体の知れない恐怖に……奥歯が、ガチガチと震えて擦れる。
…………思えば……あの龍と会ってから、精神が疲れたような、ボーッとしたような……自分が自分じゃないような、フワフワした感覚だった。
なんか……変だ。心が……変だ。違和感があ――――
″チッ″
「――――誰っ!?」
何処かで……舌打ちみたいな音が聞こえたけど、何処にも……誰も、居ない。
何、何、何……!?
僕の中に…………何か、居るの……!?
そんな中、不意に廊下を誰かが歩く音が聞こえて――――
「おかえりアラン。何か……あったの?」
ひょっこりと顔を覗かせたのはサリュ。
「ただいまサリュ……。ちょっと……嫌なもの見ちゃってね。顔に出てた?」
「うーん……雰囲気?」
気だるげな彼女の顔は……見てる方が力が抜けるような……優しい顔付きで。
誰かがいる安心感と合わさって……少し、体の震えが治まった。
「まじかぁ……出ちゃってたかぁ……」
「うん。それで龍はどうだった?」
「会えたけど……あんまりだね。だから、龍の為にお菓子を作ろうと思ってね」
「なるほど……アランらしい」
僕らしい…………か。僕って…………何なんだろ。
「でしょ? 良かったら見ていく?」
「良いの?」
――――え?
まさか乗ってくるとは思わなかったぞ……!?
「面白いとは思わないけど……」
「良い。気になる。私の体を治した力……知りたい」
「そっか……そうだよね。じゃあ見ていってよ」
女の子に見られながらやるのは……恥ずかしいけど、ダサい姿は見せられない……!! 全力の姿、見せてやらないと!!
――――――そうやって、この体に潜むナニカは……お菓子に飲み込まれていった。
***
「レッツ魔王クッキング~!」
「いぇーい」
空元気な僕と、ダウナーなサリュがお送りするスイーツタイム。
自分にあった出来事……少し、全部忘れたい。
「手始めに……このお菓子の根本になる、お砂糖を出します」
忘れたいから……嫌な事は、先にやろう。
「おぉ~」
……でも、やっぱりさっきの出来事を思い出して……指先が、震える。
だ、大丈夫……きっと、大丈夫……!!
さっきはたぶん……願いが重すぎたのかも知れない。いつも通り……緩く、フラットに祈りを込めれば…………!!
それに……今はサリュもいる。何かあったら……きっと、助けてくれる。
「よ、良し……!! 龍よ……げ、元気になぁれ……それ!!」
ドキドキが…………止まらない。何かまた……出てくるかも……知れない。
そんな気持ちと裏腹に、空いた小瓶に指先を入れ、力を込めれば…………ポンッと生まれる、純白の砂糖。
「おぉ~。相変わらず上質」
「でしょ?」
――――体と心に変化無しっ!!
やっぱり、深く強く願うとダメなのかなぁ……? 魔王のこの体……何が起こるか全く予想出来ないなぁ……。
あんな制限、聞いてないよ……。
まぁ凄く気になる……けど、探す手立ても無いんだよなぁ……。
「じゃ、始めていくね」
「今日は……何、作るの?」
仕方ない、今は目の前の作業に集中しないと。
「プリン……って聞いた事ある?」
「無い」
「そうなのかぁ……」
今日作るのは……プリン。
喉越し良くて、弱った体でも食べやすいお菓子……プリンくらいしか思い付かんよね!
風邪を引いた子供が親に頼む物ナンバーワンと言っても過言では無いくらい。
「えっとね……この間スレットが入ってた液体を焼き固めたお菓子……で伝わる、かな?」
「………………美味しいの? それ」
「やっぱりそう思うよねぇ~」
ま、厳密に言うとミルクセーキは全卵で、プリンは卵黄だけ使うから違うけど……言っても伝わらないしね。
「噛まなくても蕩けちゃうくらいツルツルで~……ミルクと卵の合わさった、深~いコクと甘さが堪んないお菓子で~」
「…………食べないと、わからない」
「じゃあサリュの分も――――あ、砂糖の効果が龍専用だからダメだな食べちゃ……」
「ねぇ……そんな酷い話、ある?」
ジッ……と、瞬きもせず見てくるサリュ。
圧が……圧が凄い。
「……別で作るから待ってて……」
「宜しい」
ま、まぁ圧に屈した所で問題は無いさ!!
気を取り直して……レッツプリン作り。
お菓子屋さんのプリン……そう言われると、特別感があると思うんじゃないだろうか。
お菓子屋さんのプリンを真似してみました、なんてレシピもウェブサイトにゴロゴロあるように。
でも、僕ことお菓子屋さんがプリンの作る際の大事なコツ……そんなに無いんだよね。
・湯煎焼きの時に百度以上の熱湯にしない事。
・プリン液を作っている途中、牛乳を六十度以上にしない事。
・一ミリ程度のメッシュで裏漉しをする事。
たったそれだけ。
まぁ細かいテクニックを除く……だけどね。
まず湯煎焼きってのは……オーブンで焼く時、鉄板に水を張って焼く事。水を入れて焼くと、火の当たり方が優しくなって、フワッと焼けるからプリンでは湯煎焼きが基本。
作っている途中に牛乳を六十度以上にしないのは、単純に牛乳と卵のタンパク質が焼けてしまうから。
ホットミルクを放置しておくと、表面にビラビラが浮いてくるよね? アレがタンパク質の塊。
あんなビラビラがプリンの中に入ってたら絶対美味しくないじゃん? だからこそ温度を上げすぎない事が大事。
じゃあ焼く時どうなるの? って思うでしょ? なんとお砂糖を入れるとタンパク質を守ってくれるから、タンパク質だけ固まる事は無くなる訳。
オマケに、お砂糖がタンパク質を守ってくれるから、ゆっくり滑らかに固まるようになるんだよね。つまりお砂糖最強。
ドジっ娘が良くやる砂糖と塩を間違えるあれ、お菓子でやったら一発で見た目でわかるくらいには、砂糖には秘められた力があるんだ。
そんで最後に大事な裏漉し。言わずもがなプリンの舌触りを滑らかにする為に必要な工程。
結局、お菓子って何が大事かって、舌触りとか食感なんだよね。まぁお菓子に限らずだけども。
お菓子屋さんは特殊な材料とか、特殊な機械を使ってる! なんて思われてるかも知れないけど……全くそんな事無い。
技術職ってさ、器用なら頭悪くてもやれる……なんて下に見られる時代だけどさ……バカじゃ出来ないんだよね。
プリンの作り方だって、工程を覚えて……タンパク質と砂糖の性質を覚えて……もっともっっと色々な知識を頭に叩き込んで。
器具の使い方、材料を無駄なく使う丁寧さ、それから作業効率……全部気にして、作り上げる訳で。
有名な話だけど、寿司職人の見習いが寿司を握るのに十年掛かるらしい。
けどさ……そりゃ、当たり前なんだよ。
技術は知識と経験の上に成り立つんだから。
さて……話が逸れちゃった。プリン作らないと……だね。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。
絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。
辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。
一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」
これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
先の展開が超気になる!
治療的な効果なのかブーストなのか、どちらにしても強力ですね…!摂取すればするほどだったら恐ろしいことに(笑)
ご感想ありがとうございます!!凄く嬉しいです!!
ネタバレになるのでなんとも言えませんが...お菓子、ですから笑