ロリ奴隷の悠々冒険記

虫圭

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1章【明日から本気出す(だから今日は寝させて)】

【9】馬鹿と変態は同一視。

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 名は体を表す、とか、目は口ほどに物を言う、とかよく言うけど。
 たちを表す。
 従者は主人ほどに物を言う。
 とか、そんなことわざが生まれそうだな、と思った。

 ごてごてと装飾された館。
 無能を絵に描いた様な警備。
 会合の際、俺が感じた愚鈍な印象そのものだった。
 
 俺は一人、モリヤ邸に来ていた。
 と言うか潜入している。
 潜入は楽なものだった。
 警備がざる過ぎる。
 まあ、楽なことは良いことなのだが、腑に落ちないと言うか何と言うか。
 こんなぬるい奴等に襲撃され無下に命を奪われた人達には、同情の念を抱かずにいられない。
 それに、簡単に撃退できたとはいえ、それなりの刺客を寄越してきたのだ。
 俺もそれなりに警戒をしていた。
 もっと腕の立つ傭兵だとか、狡猾に仕掛けられた罠とか。
 しかし、それは杞憂だった。
 あの3人の刺客は、あれでも精鋭だったのだ。
 あの後尋問して得た館の情報は嘘偽りなく、有りの儘の事実だった。
 これではあの3人も浮かばれない。
 無能な指揮官の稚拙な策に踊らされ、まんまと失敗した。
 これではどちらが被害者か分からない。 
 
 無駄に広い廊下を進む。
 廊下のあちこちに金や色とりどりの宝石でじゃらじゃら装飾された置物や壺、実用性皆無の武具が飾られている。
 品が良いのは高名な画家が描いたのであろう絵画くらいだ。
 あ、いや、額縁がド派手で、絵も下品に見えてしまっている。
 酷いなこれは。
 品性を疑うと言うか、人格が破綻してるんじゃないかと思う。
 それに、これだけの金品が置かれているにも関わらず、警備の人間が殆ど居ない。
 危機感は無いのだろうか。
 それとも、盗られたところで懐が傷むようなことはないのか。
 金持ちの感覚は理解出来ないが、それにしてもこれはあんまりなのではと思う。
 これで町一番の商人だというのだから、何とかと馬鹿は紙一重と言わざるを得ないな。

 廊下を歩くこと僅か半刻。
 いや、半刻にも満たない時間で、俺はとある一室に辿り着いた。
 立ち止まりやや遠目に部屋を伺う。
 扉までは十数歩という距離だ。
 此処を探していた訳ではないが、その部屋は通り路に在り、この一室だけが異様な空気を漂わせていた。
 比喩ではなく、文字通り怪しげな香りと白濁した煙、そして、獣の鳴き声の様なものがその部屋から漏れ出している。
……嫌な予感がする。
 嗅いだことのない香り。
 元々、香などの知識は無いが、そんな俺でもこの香が一般的なそれとは異なることは分かった。
 甘ったるく、心を蕩けさせるような、脳を直接酩酊させるような、恐らく麻薬などに近い物。いや、もしかしたら麻薬その物なのかもしれない。
 扉が僅かだが開き、そこから煙がとろとろと漏れている。
 不用心にも程があるだろ。
 中に複数の人が居ることが、漏れ聞こえる鳴き声で分かる。
 どんどん気が重くなってくる。
 重く落ちていく気力と反比例して段々と俺の中の働きたくないゲージが上昇していくのを感じる。
 それも絶好調急上昇中だ。
 脳が『もう嫌だ。帰りたい』と信号を発している。
 それでも、頭を振るい信号を無視して前に進む。
 扉にそろそろと近付き、鼻と口を袖で押さえ隙間から部屋を覗く。
 案の定、部屋には複数の男女が居た。
 そして目的の男も。

 男の名は勿論モリヤ・バンヘルン。
 商工ギルドのトップであり、俺達に刺客を放った張本人だ。
 そんな、二重の意味で重要な男が居たのは、数本の蝋燭だけで照らされた仄暗い部屋。
 広いとも狭いとも言えないその一室の、異様な光景の中心に居たのがモリヤだった。

……何だこれは。
 瞬く間に俺は陰鬱な気持ちに支配される。
 働きたくないゲージは限界を軽く飛び越えた。
 『帰りたい』をすっ飛ばして、『帰る』に到達した。
 目を閉じ、ゆっくり扉から数歩後方に離れる。
 もう限界だった。
 このままでは任務どころじゃない。
 息をゆっくり吸い、更にゆっくりと吐く。
 数度繰り返し、目を閉じたまま思考する。
 俺自身の状況を整理すると同時に、自らの任務を果たす為、上昇し続けるゲージを制御、降下させるべく腐心する。

……何だこの有り様は。
 とてもじゃないが受け入れられない。
 受け入れ難いどころじゃない。
 何が起こっているのか、理解できても受け止めることがまるで出来ない。
 有り得ない。有り得ない。有り得ない。
 いや、相手は俺とはまるで違う人生を歩んできた人種だ。
 『持つ者』だから、こういう事がまかり通るのか?
 これが、この世界の一部の人間には普通なのか?
 俺がこれまで生きてきたこの20余年、そしてこの町で過ごしてきた4年間、一度としてこんな事目にしたことは無かったし、耳にしたことも無かったぞ。
 俺が『持たざる者』だからか? それとも無知で怠惰だからか?
 あー。嫌だ。まだ帰りたい。
 帰ってふて寝したい。
 こんな状況と対峙するくらいなら硬い板張りに寝そべって冷たい冷たいと嘆いていた方が幾らかマシ。
 いや、マシどころかそれこそ俺にとって天国だ。楽園だ。
 貧乏、空腹、虚無、どんと来いだ。
 あーーあーーあー…………。

 何もしない。何もない。何も考えたくない。
 無い無いのこれまでの生活を思い出すと、逆に戻りたくなくなってきた。
 脱け出せたのかと言われると怪しいところだが、今の俺には鬼の様な、悪魔の様な、主人が居る事を思い出した。
 いや、忘れる訳がない。
 どんなに陰鬱な気持ちになろうと、どんなに帰りたくなろうと、頭に浮かぶのはモニカのことだ。
 モニカの顔。
 蔑みの眼差し。
 嬉々とした冷笑。
 残忍な笑顔。
 虚無な無表情。
 たった一日で彼女が見せた、彼女の本質的な心の表情。
 何を考えていても、常にチラチラとモニカの顔が脳裏を掠める。
 顔だけなら良いけど全身を思い浮かべようとしたら手にはナイフ持ってるから胸辺りまでで考えるの止めるけどな。

 あー、だいぶん落ち着いてきた。
 よし、帰りたいともう思ってない。
 働きたくないも、あまり無い。
 もう大丈夫だ。
 
ーーこの間、わずか2秒。
 嘘。たっぷり回復に時間を使った。

 落ち着いたところで、周囲を確認する。
 警備が騒いでる様子は微塵も無い。
 よし、恐らく俺が今回捕まる事はまず無いな。
 ま、精鋭があのレベルなら俺が捕まる事は有り得ないが。
 身の安全を確認し終え、次は今一度部屋の様子を確認する『決意』をする。
 ここからが本当の地獄だ。
 扉に近付き、部屋を覗く。

 先程と変わらずモリヤは部屋の中心に居た。
 モリヤが居る場所。
 モリヤを取り囲む状況。
 それ・・は、俺の乏しい語彙ではとても細部まで表現出来そうにないが(出来たとして、したくないが)この惨状を一言で表す言葉を、俺は運良く(運悪く?)知ってきた。

 酒池肉林。
 肉山脯林にくざんほりん
 贅沢と欲と狂乱が、その部屋に詰め込まれていた。

 これは下衆い。
 地下室とかに隠れて一人で女を囲ってこそこそやるならまだいい。
 欲と権力に塗れた、いかにも悪者っぽくて、殺り甲斐がある。
 いや、殺っちゃダメだけど。
 こんな奴殺りたくないけど。
 何が下衆いって、とにかくこの人数よ。
 10……20……3……
 多いよ、こん畜生共……
 集まってる連中の顔触れも嫌な感じだ。
 いや、誰が誰とか俺には分かんないんだけどさ。
 ただ、顔を見れば歳くらいは分かる。
 老いも若いも一緒くた。
 これ、この町の有力者ってことだろ?
 この町大丈夫か? 
 せめてもの救いは、リュードとオイゲンが居ないことだ。
 オイゲンのおっさんはこういうの嫌いそうだから、この事自体知らない可能性があるな。
 謹厳実直というか、任務に対して愚直っぽい感じだし。
 リュードの野郎は絶対黙認してるな。
 あいつが知らない訳がない。
 知ってて自分に害が及ばない限り放置するタイプと見た。
 
 さて、どうしたものか。
 モニカには「時間は有限よ。無駄な後始末をしたくなかったら迅速に結果を出しなさい。それに、私に尻拭いを回してきたら只じゃ生かさないわよ」と言われて俺は送り込まれた。
 只じゃ生かさないって何だ。
 楽には殺さないってことか?
 死なない程度に生殺しってことだよな。
 如何にもモニカらしい言動だ。
 ただ、やれることはやるし、出来る限りのことをするけど、思わぬ失敗を犯す可能性もある。
 その度に命の危機を感じることになるのだろうか。
 うーん。とりあえず失敗しないように頑張ろう。
 失敗したら謝ろう。
 俺にはそれしか出来ないしな。
 それにしても、汚れ仕事をやることになるんだろうとは思っていたけど、刺客の制圧の次は狂乱の征圧とは。
 それでも、殺せと言われないだけマシか。
まあ、殺しまでやるとこの町で生活できなくなるとか、そういう現実的な理由なのかもしれないが。
 ただ、先に刺客を送ってきたのはモリヤなのだから、俺達は正当防衛したまでだと思わなくもない。
 刺客の3人は殺してないから過剰防衛でもないし。
 まだ使うから解放もしてないけど。
 しかし、モリヤの持つ権力を振りかざされたら俺達に抗う術はない。
 もしかしたらモニカにはその策もあるかもしれないが、教えてくれないのであれば俺にとっては無いのと同じだ。
 だから、今の俺にはモニカが選んだ策を忠実にこなす。そして結果を出す。ということしか選べない。
 詰まるところ、俺には端から選択肢が無いのだった。

 室内は相も変わらず狂乱の真っ最中。
 待つのは阿呆らしいが、人数が人数だ。
 全員を気絶させるには少し時間がかかる。
 一人でも逃げられて助けを呼ばれると何かと面倒だし、その場合、此処を無事に乗り切っても最悪後でモニカから何かされてしまう。
 一番怖いのがモリヤの権力よりモニカの暴力だとは、よくも一日で俺をここまで手懐けてくれたもんだ。
 モニカの顔を思い浮かべる。
 俄然やる気が湧いてきた。いや、沸いてきた。
 やらなきゃ殺られる。生殺しだ。

 幸い、部屋の中にも警備は居ないみたいだし、武装した者も見付けた奴から手当たり次第に寝てもらった。
 まだ他にも居るかもしれないが。
 居るのかな? 居たら騒いでそうなものだが。
 まあ良いか。最速で終わらせれば良いだけだ。
 部屋の中の人間に手練れがいない限り、俺一人でも蹂躙は出来る。
 まあ、この乱れ振りを見る限り、正気を保ってる奴は一人も居ないけど。
 これ以上こいつらに気分を害されてたまるか。
 さっきまでの鬱憤を一瞬で晴らしてやる。

 さあ、ギルド長拉致作戦開始だ。
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