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三章 女以上に女
第十六話 シモ走る十二月
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師匠も走ると言われる、師走こと十二月の二十日は、月曜日だった。寒空で迎えた夜だけれども、もうすぐクリスマスを迎える街は、虹色に色めいているように思えた。
そんな明かりが窓から漏れ入る、十六沢代理のアパートにて、仕事終わりの私達は――。
「あっ、あん! アッ!」
仰向けで布団へ寝転んだ私の、片足を持ち上げ開き、肉棒を挿入しては抜き出されていた。体位は、ちょうど二つのYの字の、枝分かれの部分をぶつけ合うみたいに。
男女の嬌声と汗、そして愛液の臭いを、室内に充満させながら。
「おーし、新妻ぁ。今日も締まっていこうな!」
代理は自在に腰の角度を持ち上げ変えて、互いの陰毛を絡ませてはまた引き離した。何度目かのセックスでも、未だに彼のオチンポは、他の誰も触れたことのない膣内の細胞を触れ犯した。
何より、代理の激しい抱き方は、普通の男性には到底できないのがほとんどで、パワープレイが癖になっちゃう――。
「だいっ、りっ。抱きしめ、てぇ!」
どんな体位でも、最後はやっぱり、抱きしめたい。抱きしめられたい。
寒くなったせいかな? 最近、特にそう思うようになった。
「あぁん? ――ったく。うっさい女やのぉ」
舌打ちしつつも、正常位に持ちかえた後、腕力とオチンポによって空中へ持ち上げられる。私は彼の意図を察知して、空中にて観音開きした後、大樹のような彼の体に細い脚を巻き付ける。
ズニョン、グチュ!
「ああんっ!」
栗色の髪を振り乱しつつ、彼の肩へ顎を乗せて、腕も回す。間髪入れず、彼は上下に腰を振り、技巧も愛すらない、動物みたいな交尾をする。
「アッ、んんっ。ありが、とうぅ、ござ、イス!」
万力のような力で、抱き締め犯される。それは、暴力による圧倒的な屈服感と、異性に守られている安心感という水と油が、奇妙に融合して、下腹部を沸騰させた。
「ワシのことっ、好きか!」
ズニュ、ニュルン。耳穴をほじくり舐められら、涎を垂れ散らす私はもちろん。
「好き。大好きっ、もっと、私を使ってぇ!」
絶対的な力を持つ雄に、交尾を強要される雌の幸せを、全細胞で感じた。
「女に二言はあらへんな? っしゃ! 今晩もズッコンバッコンいかしたろ!」
* * *
「主任、主任?」
「えっ、あ」
呼ばれて振り向く。壁掛けのデジタル時計が、十二月二十一日こと、火曜日を示していた。
月に雲がかかる風情ある街の外気は、分厚いガラスの壁を通過することができなかった。優雅な市内のホテルの最上階の一室にて、お風呂から上がった長谷川君を、一枚貼りの窓の前にて、待っていたんだった。
「ボーッとして。どうしました?」
バスローブ姿で優しく笑う長谷川君は、私の腰にそっと手を伸ばしてくる。
「ごめんなさい。何でもないの――」
そう言うと、同じくバスローブ姿の私は、少し背を伸ばして彼の唇へ触れる。
「んっ」
「――今日は何だか、積極的ですね」
くすりと、私を抱きしめる。その柔らかさと温かさを堪能しているみたいであった。私は少し表情を崩す。
「はいはい――で、今日はどこから触りたいの?」
二カ所の白い帯を緩めて、胸と股の部分を開ける。彼を待ち侘びていたせいで、乳首はとっくに勃ち、股間も小さく濡れていた。
「え、っと」
未だに初々しさを残す彼は、照れるみたく後ろ髪をかきつつ、柔らかな乳房を揉みながら、口づけをしてくる。
「――んっ」
私もお返しとばかりに、彼の股間に触れる。ふわふわなバスローブとは対照的に、コチンコチンな彼の一部に触れる。
「あっ。主、任」
チュブ、ロレレ。
二つの柔らかな舌は、お互いを慰めるみたく優しく、しっとりと絡み合った。胸を揉む手も、決して痛くないように、乳首をそっと圧し撫でた。
お互いの唾を愛飲し、性器を弄り合うのを、立ってするなんておかしいと、私は彼を抱きしめてベッドへ倒れ込む。
ドサッ――ジュポ、チュル。
彼の唾液を甘く感じるのは、きっと一番、優しさを感じさせるのが上手だから。
「主任」
乳児みたいに口周りをベトベトにしてから、少し顔を離した。
「なぁに?」
彼を下敷きに重なり合いつつ、トロンとした表情で答える。
「挿入れても、いいですか?」
……ふふっ。答える代わりに、彼のローブの紐を解く。私によって硬くなった肉棒を、何度も撫でる。
「舐めなくていい?」
「早く主任の膣に、入り込みたいんです」
髪を耳後ろへ揃えた後、身体を柔らかく起こして、誘うために股を開く。薄く青黒い陰毛の下に、彼が望んでやまない、経験豊富な女の膣が、ネットリと開く。
「優しくしてね」
クスッと、乾いたように笑った。
「――はいっ!」
ガバッ、と飛びついてくる。そういうところも、可愛い。
出会った頃に比べれば馴れた感じで、挿し込んでくる。――ジュニュニュ、っと膣内の体積が増えるみたいなこの感覚が、彼の場合は特に気持ち良かった。
「あっ。んんふっ」
桃色の吐息を顔面にぶつける。セックスって、女側は割と演技も必要なんだなぁ、って思っていたのは、初期の頃であった。
? 初期って、何の初期だろうか――?
「気持ち、良いですかっ、主任?」
そう汗を飛ばしつつ、すっかり色がくすんだ乳首を舐め吸われる。こんだけ毎日、吸われて舐められて触られたら、こうなるよねぇ。
「う、ん。長谷川君が、上手だから」
ほんとは、四人の中では一番――まぁ、アレだけど。穏やかなのを求めてくれるのは、彼だけだから。
「チュバッ――嬉しいです。主任、好きです。愛しています!」
オッパイに吸い付く彼の頭を抱き締めると、弟がいたらこんな感じかな? なんてよく分からない感想を抱いてしまう。
未だに自分が上だと思っていても、結局は女と男。最後は彼を気持ち良くするために、私は妊娠のリスクを背負う。
「(でもそこが好き)あっ、ぃふぅ」
徐々に粘着音がビチャビチャとやらしい音に変成していく。彼のピストンの速まりは、こっちの下半身が熱痒くなっていくことを物語っていた。
「んっ、アッ。ね、ぇ。長谷川、くぅん!」
脚を押さえつけられて、出入りする彼のオチンポに貫かれるのも、もう何回目かな? 処女だった頃と比べて、四本の肉棒に拡張され続けている女性器にしてみると、体積や長さ的には少し物足りないと言えなくもなかった。
――でも、いいの。
「はっ、い! なん、です?」
必死に腰を振る彼は、乳首から口を離すと、上半身を重ねてくる。――そう言えば、恋人と別れる件は? ……ううん。彼を萎えさせてたら、ダメ。
「今日も、膣で、いいから、ねっ」
優しく耳打ちしつつ、耳たぶを甘噛みする。彼の肉棒が膣内で微かに収縮し始める。
「ありが、と、です!」
師走と言うのに、二人して汗をかきつつ、絶頂へと向かってイッた。やがて私の膣内は、彼の精子にて、白い絵を描かれていった。
* * *
「リスナーの皆様っ。きょ~は、十二月二十二日の水曜日っ。ラジオDJを務める私は――」
シャアアァァ。
寝室からのラジオ音は、シャワーの音にかき消されていた。
「んっ、はぁ。係っ、長!」
ラブホのお風呂場にて、お湯が流れる床へ転がる私は、あまりの気持ちよさに両手で顔を覆った。
「イイ感じか? 新妻」
股間に埋もれる彼の顔から生え出る舌が、小陰唇を舐め吸っていた。膣壁へと侵入するのかと思いきや、陰核を、緩急つけて薄く舐め突ついてイク。
クチョ、ピリ。ロレ、ピリリッ。
「はぁん! すごっ、ひぃよぉ!」
さっきからゾクゾクしっぱなしだった。だって、係長の性技は頭三つくらい抜けているんだもん。係長に触られていると思うだけで、身体が勝手に気持ち良くなるくらいに――。
ピィン。
「ひぅん!」
股間以外の別の二点からも強烈な痺れがあった。顔を覆っていたせいで、余計に驚く。
「はあぁん。乳首イジメられるのすき、だいすきぃ!」
大きな乳輪を爪先でなぞり、乳首を押し込んで乳頭を刺激し、さらに乳房の下側を揉み撫でられる。股間と乳首の三角形の性的快楽によって、自律神経をコントロール出来ない、あ、アタシ、は――。
チョロ、ジョロ……プシャー。
「! あああっ!」
ちょ、アタシの馬鹿っ。か、係長の頭に、お、お小便をしてしまうなんて!
「――こらこら。いくら愛人関係でも、上司に尿をかけてはダメだろう」
愛人、関係――。
「すみ、すみません」
慌てて身体を起こして、三つ指をついて、土下座する。係長はシャワーで頭を洗い流した。さっきの粗相の対応に加えて、その一つ一つのニヒルでスマートな対応に、下腹部がキュンとする。
うん。女の子が見た目で異性を選ぶのは、仕方がないこともある。
「じゃあ謝罪の誠意を、もっと示しなさい」
頭を上げる私は、穏やかに笑う彼の前に、両足を限界まで開く。黒ずんだ小陰唇を、指でそれぞれ引っ張り、暗い膣を捧げる。
「係長様ぁ。エッチなドジばかりの変態主任を、オマンコで許してくださぁい」
「おやおや、どこで覚えたのやら――」
お湯が絨毯となるプラスチックの床の上で、抱きしめられると同時に、肉棒が膣に入ってくる。
「んんおんっ!」
獣みたいな声が出るのも、仕方がないよ。
――たってこのオチンポは、私にとってちょっと特別なんだもの。処女を奪ったオチンポで、初めて種付けをしてくれたオチンポなのだから。
ニュグ、パン! グニュル。
私の弱いところはもちろん、新しいところを的確に教えてくれる、愛しいオチンポ。もう何十回と、私に出入りする――。
「新妻っ、知って、いるか?」
腰を打ち付ける係長が、私を抱き締めてくれる。
「は、はん、ひんっ?」
下品な桃色のクエスチョンマークを浮かべつつ、彼の手入れされたもみ上げを舐める。
「女のっ、膣は。初めて挿入された、男の肉棒のカタチにっ、なるらしいぜ!」
! そ、それってぇ、つまりぃ。
「じゃ、じゃあ。あたしの、オマンコはっ。係長に、ジャストフィットね!」
グニグニと腰を押しつけて、互いにエッチな息を漏らす。卑猥に歪んだ口でもって、噛みつき合う。
――肌を重ね合って、キスをしつつ、生挿入される。淫らな音も、唾の味も、男の匂いも、犯される自分の姿も、最低でサイコー!
「新妻っ。もちろん、膣に出すぞ!」
精一杯に彼を抱きしめて肯定する。
「ええっ。いつも通り」
一番、子宮口へ!
* * *
ガチャ。
誰かが、入ってきた。いや、誰かなんてわかりきっていた。
「今日は……十二月二十三日。君と逢い引きしているという事は、ふむ。木曜日だな」
わ、私は、紫の紐パンにヌーブラという痴女姿のまま、手足を縛られて直立していた。
場所は、部長と初めて結ばれたジムの特別室にて、目隠しをされたまま、猿轡を咥えさせられながら。
「ふぅむ。美しいよ新妻クン。女が内面に宿す性欲を、ここまで肉体で表現できるとは」
声がゆったり、右前方から近づいてきた。
「膣に食い込む淫猥なだけの下着も、白痴のように面積の少ないブラを着こなすその様も。そして――何より」
ガッ、っとブラが引っ張り降ろされて、上半身が前に揺れる。
「三十分以上も一人で立たされているだけで、この見事に勃起した乳首と――」
ピン、と左乳首が指で弾かれる軽い衝撃、何より快感によって、身体がビクリと怯む。
「愛液でビショ濡れな膣口――まるで、被虐の化身のような、その淫乱で情けない姿がなぁ!」
グィ、っと紐パンを引っ張られて、恥骨が当たり擦れる。快楽に耐えきれず、つい。
「んんっ、んん~!」
ポタ、ポタッ。口の中の唾液の海の一部がこぼれ落ちる。刺激を求める全身が、驚くほどに火照っていた。
「こんな痴態で放置されて性器を濡らすなんて、もはや病気じゃないかね?」
パン、っと右のお尻をぶたれる。驚きと気持ちよさで、唾がさらに漏れ垂れる。
「旦那でも恋人でもない、ただの会社の上司に、ほぼ毎週のように責められて、性的興奮を覚えるなど、キミは下半身で思考しているのかね?」
キュ、っと今度は両乳首をつねられる。見えない分、触感が研ぎ澄まされて、乳首が発火したみたく燃えてしまうよぉ。
「んっ、んん、ん~!」
身体をくの字に曲げて、上と下の両方の口から、温かい粘液を滴り落とす。
「何を言いたいのか全くわからん。バカじゃないのか? ――全く。子供より手が掛かる」
ガボッ、っとボールが口から外されて、濡れに濡れた舌から、歯から、唇から、透明な液体が輝き落ちた。
まるで空腹な乞食が、目の前の豪華な肉料理へ、ジュルジュルと音を鳴らせるみたく。
「――ハァ、部長、ハァ、様。はや、早く、くださいぃ」
桃色の吐息を肺から送り出しつつ、真っ暗な世界で、部長がどこにいるかもわからず、首をあちこちへ振って懇願する。
……股間の疼きがぁ、もう限界でぇ、切ないのぉ。
「ナニを?」
右から声がしたので顔を向ける。
「ハァ。んち、おち、オチンポですぅ!」
ふりふり、っと尻を振って、わずかでも彼の我慢を削ろうと誘惑する。
「――女の方から肉棒が欲しいなんて、良く言えたものだな。恥じらいという言葉を知らないのかね?」
侮蔑の声が、次は左から聞こえたので、急ぎ首を曲げる。
「お、お恥ずかしい限り、です。でも、でもぉ」
恥辱とお預けで涙腺が緩む中、でも下腹部はそれ以上に赤く燃えていた。
「まるでペニスの奴隷だな」
心からの軽蔑の一言に、乳房と股間がビンタされるみたく震える。恥ずかしくて悔しくて、でもやっぱり気持ち良くて、下を向きながら、ついに本心を口にしてしまう。
「きょ、今日は、朝から、部長様にこうやって、可愛がってもらえるって――挿入れてもらえるって、ずっと期待してたから」
――濡れてたから。
「……」
「ぶ、部長様?」
また放置? そんなことされたら、本当に気が狂っちゃうよぅ……。
ズニョン!
「んんんぁぁぁっ!」
ッタ。入った! 私の空白が一瞬で満たされた!
背後から羽交い締めにされるみたく抱きしめられて、乳房を引っ張られつつ、腰を打ち付けられる。
パン! パァン!
「……今日は久々に負けたなぁ」
背後からのその声が、本当に心地良さそうで、すごく嬉しかった。体の穴も心の孔も満たされつつ、立ちバックの形勢へと移行していく。
っていうか、もうオチンポさえ私の体内に挿入っているなら、体位なんてどうでもいい!
「ああァァ。部長様ぁ、大好きぃ!」
青筋を立てて絶叫する。
激しい接合が、快楽中毒者の私のピンク色の脳みそを、恍惚に冒していく。
「――私は、嫌い、だがねっ。顔と身体と、服従だけが、取り柄の、売女などっ!」
そう罵りつつも、膣内の肉棒はますます大きくなった。それが、私への性的好感度を物語っているのは、私だけの秘密だった。
「はい、はいっ。大嫌いで最低な淫売に、いつもの無責任膣出しを、お願いします!」
自分の口角が驚くほどに上がっていた。彼のゆるんだお腹が尾てい骨に当たるたび、女の自尊心が満たされちゃう!
「勝手に産んで、勝手に育ててろ――!」
やがて彼の肉棒が収縮し、睾丸が震え出す。
――今日も私は、彼の描く白い夢を、独り心ゆくまで観賞する。
* * *
「おい、新妻」
天気が残念な、十二月二十四日の昼休みだった。まるで待ち構えていたみたく、給湯室へ向かう廊下にて出会う。
「……え? 川口?」
茶髪でウルフカットの川口は、変わらず少し邪魔くさそうな表情でそうとだけ言うと、返事も待たずに手首を引っ張り歩き出す。
「へ? あっ、ちょっと」
「昼飯。おごってやるから付いて来い」
二の句を告げさせない強引さによって、仕方なくヒールを鳴らす。胸が揺れた。
ガチャ。
「うおっ。寒み」
外のどんよりとした雲の下、今日は一段と冷えており、マフラーを忘れたことを小さく後悔した。サラリーマンの唯一の楽しみ? の昼食だけれど、まさか川口と二人でなんて。
往来する人々の間を縫いつつ、改めて川口を横から見る。
同い年で、やや高身長でスタイルは悪くなく、けどいわゆるDQN(※軽率で身勝手なふるまい)であった。真面目ではもちろんなく、けど恋人はいるっぽかった。
……この男が起点となって、人生は色々と変わった気がする。――っと言うのも、春先に様々な衝突があって、それが未だに尾を引いていた。
でも、なぜか具合的にはハッキリと思い出せず――ううん――ひょっとしたら、思い出したくないだけなのかもしれない。
「(一応は、愛人関係なんだっけ? でも結局、セックスも一回もしてないし)も、もう少しゆっくり歩いてよ」
やがて会社からいくらか離れたファミレスへ入る。昼時というのに、店内は比較的空いており、一番端の席へ座った。
川口はタッチパネルを取り出すと、こちらへは何も確認せずに、ランチセットを二つ注文した。
「――今晩、暇か?」
何の脈絡もなく、沈黙を破るみたく、顔も見ずに携帯を触りつつ、誰に言うでもないように呟く。
「きょ、今日の夜?」
お冷へ伸びる手が止まり、声がうわずった。
――だ、だって、今日は、十二月二十四日なんだもの。恋人達が甘い夜を過ごすド定番の、おそらくは日本で一番、その、セックスが多い日。
「どうなんだよ?」
なぜか怒っている風な、腹立たしいみたいな感じがあった。
ひょ、ひょっとして、私なんかで穴を埋めるのが、彼みたいなモテ男には、苦痛とでも?
「え、っと」
混乱しつつ、それは考えすぎかもと、自分を制する。
「予定あんのか? ――まぁ、最近の新妻はモテそうだしなぁ」
二つの意味でドキッする。一つは四人の男性のことを思い浮かべたから、もう一つはもちろん。
「も、モテそうって?」
微妙な距離感の川口に、想定外の事を言われたためだった。
「仕草はその辺の女よりよっぽど女っぽいし、化粧とか身だしなみもしっかりしてる。何より服装がエロい……引っくるめて言うと、男が求めてる女? みたいな」
え、えっと。なんか、割と褒められている、のかな? そもそも、川口がそう言う目で私を見ていたことを知り、なぜか複雑な心境になってしまう。
「お待たせしました~」
食事が運ばれてくる。鉄板の上のハンバーグは熱々で肉汁に溢れていて、付け合せのポテトやブロッコリーも、デミグラスソースを吸い込み、やっぱり美味しそうだった。
彼は遠慮なくガツガツ食べ始める。
「――で、今晩は?」
服を汚さないようにゆっくり食べる私は、でも。
「か、彼女いるんでしょ?」
尻軽な自分を抑制する様に逆質問をしてしまう。けど、聞き方によってはイエスと同様の内容だった。
――でも確かに、あたしは四人からも誘われなかった、もんね。
「……」
ま、まぁでも、一応はまだセフレの関係だしオッケー? ――なんて発想そのものが、もうヤリマンすぎるかな……。
「イエスかノーで答えろよ」
苛立たし気に話す川口は、目線も合わせずそう言う。
私は、私は……。
「――い、いいけど」
妙に緊張しつつも、そう言ってしまった。
……男性とのエッチが気持ちイイのはもちろん念頭にあった。特に四人からは、様々な方向性のキモチイイを教えてもらった。
完璧な気持ちよさ、甘えられる気持ちよさ、支配される気持ちよさ、力による気持ちよさ。
――けど最近はなぜか、誰かに抱かれていないと、アタシってもう女としての価値がない? みたいな考えが、霧みたく頭を覆っていた。さらに、独り寝がただただ寂しくて、胸が押し潰されそうな夜も多くなった。
けど川口は、そんな私の心情など全く知らないはずだし、興味も無いはず。
彼は食事中に携帯を取り出しては、食べながら操作していた。ピロン、私の携帯の画面にて、ポップアップする。
そこには、ある高級ホテルのレストランが表示されていて、私は目を丸くする。
「えっ。こ、ここ高いんじゃ?」
値段だけじゃない。今日や昨日でクリスマスディナーを取れるとも考えにかったから。ま、まさか本気で私のことを?
――い、いやいや、落ち着け私。いくら何でも、それは無い……と思う。おそらくだけど、彼女のために予約していたけど、どういうわけか私にお鉢が回ってきただけなんだろう。
「十八時に現地な。仕事なんて適当に切り上げろよ」
そう口にすると、タッチパネルの会計のボタンに触れて、レジへと向かい、店を出て行った。
……一人残された私は、ボーッと座ったままだった。すぐ隣のブラインドの隙間から射し込む日の光が机を照らす。
雲が、晴れたのだろうか?
* * *
……その日の夜。レストランを訪れるも、店内はやっぱり満席だった。
ドレスコードは無かったけど、念のためにと長谷川君がプレゼントしてくれた、肩出しの赤のパーティードレスにて入店した。彼がくれたものの割には、胸が開いており、スカートのスリット部分が深かったのは、少し気になった。
「(ってか、他の男性にもらった服で、ってのはアレかな)――でもまぁ、おかしくはない、かな?」
丁寧な若いボーイに案内されて、スーツ姿の川口が既にテーブルについているのに気付く。周りの雰囲気に飲まれてか、クリスマスだからか、いつもの川口とはどこかが少し違って見えた。
席につき、飲み物をお願いしてしばらくすると、コース料理が始まる。前菜は但馬鴨のレバーのワイン蒸しから始まった。次いで冬瓜のポタージュには、サツマイモのフリットも添えられていた。
フルコースの形式にて、さらに魚料理と――彩り豊かで温かな料理が運ばれてくる。言葉は少ないけど、互いに舌鼓を打つ中、グラスを空にした川口が、グッと目に力を込めて、口を開く。
「新妻」
「? なに」
明石産の高級真鯛を使ったポワレに、思わず頬が緩みかける。
「男いんの?」
フォークを取り落としそうになる。
な、何か今日の川口の言動は、普段とかけ離れていて調子が狂う。っというかそもそも、彼の言う男とは、彼氏以外のセフレ的なものも、含むのだろうか?
「ど、どうかな? ――まぁでも、今日は、誘われなかった、けど」
自尊心を優先してしまい、微妙な答えを返してしまう。赤くなった顔を隠すため、コルトンシャルルマーニュなる高級白ワインを口に含む。
「そうか。相手はよっぽどの女でもいるんだろうな」
思わずグラスの酒を波立たせてしまう。
「? ……何、マジな顔してんだよ」
そう言うと、小馬鹿にする様に笑われた。けど、なぜか、今まで見たことの無いような感情を秘めている気がした。
――やがて運ばれてきたメインは、子羊のローストだった。焼き加減は上々で、キメ細やかな脂が表面に浮いており、かけられた濃厚なソースの香りと香草の匂いが、胃を震えさせた。
「後で、渡す物がある」
「!」
おも、思わずナイフを落としそうになってしまう。じ、実は私も、万が一を考慮して、ここに来るまでに大急ぎで高めのネクタイを購入してしまっていた。
彼は息をついた後、グイッ、と赤ワインを一気に飲み干した。
大して話も弾まないまま、デザートまでを一通り消化する。川口がコーヒーをおかわりした時、席を立って化粧室へ向かった。
服や髪の乱れをチェックした後、口紅を持つ指の力が、いつもより強かった。
「川口。本気なの、かな?」
鏡の自分に問いかける。
でも一つだけ、胸に秘めていることがあった。二号枠以外で、私を愛してくれる男性なら、もう誰でも構わない。身体だけ以外の相手が欲しい。
――ましてやそれが、かつて私が嫌っていた男性であっても。
「そろそろ、戻らないと――」
化粧室を出て、席に戻る途中、ふとホテルの入口へ目がいき、思わず口を手で隠す。
「は、長谷川君っ?」
こちらへ気付かず、慌てた様子でエレベーターへ向かって行った。部屋で彼女でも待っているのかな? まぁ、今日ならおかしいことじゃないよね。
にしても、私に気付かなくて良かった。これ以上、惨めな思いはしたくないもの。
「おまたせ」
スカートを抑えて腰を降ろすと、川口は触っていた携帯をしまい、肩の埃を摘まみ捨てた。
「行くぞ」
ぶっきらぼうにそう言って席を立つ。レジ、を素通りした事から、どこかのタイミングで支払ってくれていたみたいだった。
その後、ロビー受付と何やら話したあと、エレベーターの方へ向かう。
「え、えと。ご、ご馳走さま」
「ん」
四機あるエレベーターの一つが到着した時、私のお尻を揉み押すようにして前へと促す。こちらは別に気にせずに、そのまま乗りこむ。
乗っている間も、ドレスの上から、お尻の谷間へ指が滑り降りる。三本の指が入り込むと、鷲掴みにされて、肉感を味わうように揉まれる。
私は小さく俯いて、けど何も言わなかった。
――そうだ。思い出した。確か、初めて乳首を舐められたのは彼であった。
「着いたか。おっ、さすがにカーペットもフカフカだな」
口淫だって、彼が初めてだった。そう考えると、色々あったけど、肉体的な衝撃の原初は、彼によって芽生えさせられたのかもしれない。
「カードキーで。――よし、解錠した。入れよ」
お尻から彼の手が離れる。私は上下する胸の前にて手をクロスさせる。扉は、クラシックな感じで、黒檀のようなシックな色合いであった。私はそっとドアノブを押して、中へ入り込む。
一体、どんな夜が、私を迎えるのだろう――?
そんな明かりが窓から漏れ入る、十六沢代理のアパートにて、仕事終わりの私達は――。
「あっ、あん! アッ!」
仰向けで布団へ寝転んだ私の、片足を持ち上げ開き、肉棒を挿入しては抜き出されていた。体位は、ちょうど二つのYの字の、枝分かれの部分をぶつけ合うみたいに。
男女の嬌声と汗、そして愛液の臭いを、室内に充満させながら。
「おーし、新妻ぁ。今日も締まっていこうな!」
代理は自在に腰の角度を持ち上げ変えて、互いの陰毛を絡ませてはまた引き離した。何度目かのセックスでも、未だに彼のオチンポは、他の誰も触れたことのない膣内の細胞を触れ犯した。
何より、代理の激しい抱き方は、普通の男性には到底できないのがほとんどで、パワープレイが癖になっちゃう――。
「だいっ、りっ。抱きしめ、てぇ!」
どんな体位でも、最後はやっぱり、抱きしめたい。抱きしめられたい。
寒くなったせいかな? 最近、特にそう思うようになった。
「あぁん? ――ったく。うっさい女やのぉ」
舌打ちしつつも、正常位に持ちかえた後、腕力とオチンポによって空中へ持ち上げられる。私は彼の意図を察知して、空中にて観音開きした後、大樹のような彼の体に細い脚を巻き付ける。
ズニョン、グチュ!
「ああんっ!」
栗色の髪を振り乱しつつ、彼の肩へ顎を乗せて、腕も回す。間髪入れず、彼は上下に腰を振り、技巧も愛すらない、動物みたいな交尾をする。
「アッ、んんっ。ありが、とうぅ、ござ、イス!」
万力のような力で、抱き締め犯される。それは、暴力による圧倒的な屈服感と、異性に守られている安心感という水と油が、奇妙に融合して、下腹部を沸騰させた。
「ワシのことっ、好きか!」
ズニュ、ニュルン。耳穴をほじくり舐められら、涎を垂れ散らす私はもちろん。
「好き。大好きっ、もっと、私を使ってぇ!」
絶対的な力を持つ雄に、交尾を強要される雌の幸せを、全細胞で感じた。
「女に二言はあらへんな? っしゃ! 今晩もズッコンバッコンいかしたろ!」
* * *
「主任、主任?」
「えっ、あ」
呼ばれて振り向く。壁掛けのデジタル時計が、十二月二十一日こと、火曜日を示していた。
月に雲がかかる風情ある街の外気は、分厚いガラスの壁を通過することができなかった。優雅な市内のホテルの最上階の一室にて、お風呂から上がった長谷川君を、一枚貼りの窓の前にて、待っていたんだった。
「ボーッとして。どうしました?」
バスローブ姿で優しく笑う長谷川君は、私の腰にそっと手を伸ばしてくる。
「ごめんなさい。何でもないの――」
そう言うと、同じくバスローブ姿の私は、少し背を伸ばして彼の唇へ触れる。
「んっ」
「――今日は何だか、積極的ですね」
くすりと、私を抱きしめる。その柔らかさと温かさを堪能しているみたいであった。私は少し表情を崩す。
「はいはい――で、今日はどこから触りたいの?」
二カ所の白い帯を緩めて、胸と股の部分を開ける。彼を待ち侘びていたせいで、乳首はとっくに勃ち、股間も小さく濡れていた。
「え、っと」
未だに初々しさを残す彼は、照れるみたく後ろ髪をかきつつ、柔らかな乳房を揉みながら、口づけをしてくる。
「――んっ」
私もお返しとばかりに、彼の股間に触れる。ふわふわなバスローブとは対照的に、コチンコチンな彼の一部に触れる。
「あっ。主、任」
チュブ、ロレレ。
二つの柔らかな舌は、お互いを慰めるみたく優しく、しっとりと絡み合った。胸を揉む手も、決して痛くないように、乳首をそっと圧し撫でた。
お互いの唾を愛飲し、性器を弄り合うのを、立ってするなんておかしいと、私は彼を抱きしめてベッドへ倒れ込む。
ドサッ――ジュポ、チュル。
彼の唾液を甘く感じるのは、きっと一番、優しさを感じさせるのが上手だから。
「主任」
乳児みたいに口周りをベトベトにしてから、少し顔を離した。
「なぁに?」
彼を下敷きに重なり合いつつ、トロンとした表情で答える。
「挿入れても、いいですか?」
……ふふっ。答える代わりに、彼のローブの紐を解く。私によって硬くなった肉棒を、何度も撫でる。
「舐めなくていい?」
「早く主任の膣に、入り込みたいんです」
髪を耳後ろへ揃えた後、身体を柔らかく起こして、誘うために股を開く。薄く青黒い陰毛の下に、彼が望んでやまない、経験豊富な女の膣が、ネットリと開く。
「優しくしてね」
クスッと、乾いたように笑った。
「――はいっ!」
ガバッ、と飛びついてくる。そういうところも、可愛い。
出会った頃に比べれば馴れた感じで、挿し込んでくる。――ジュニュニュ、っと膣内の体積が増えるみたいなこの感覚が、彼の場合は特に気持ち良かった。
「あっ。んんふっ」
桃色の吐息を顔面にぶつける。セックスって、女側は割と演技も必要なんだなぁ、って思っていたのは、初期の頃であった。
? 初期って、何の初期だろうか――?
「気持ち、良いですかっ、主任?」
そう汗を飛ばしつつ、すっかり色がくすんだ乳首を舐め吸われる。こんだけ毎日、吸われて舐められて触られたら、こうなるよねぇ。
「う、ん。長谷川君が、上手だから」
ほんとは、四人の中では一番――まぁ、アレだけど。穏やかなのを求めてくれるのは、彼だけだから。
「チュバッ――嬉しいです。主任、好きです。愛しています!」
オッパイに吸い付く彼の頭を抱き締めると、弟がいたらこんな感じかな? なんてよく分からない感想を抱いてしまう。
未だに自分が上だと思っていても、結局は女と男。最後は彼を気持ち良くするために、私は妊娠のリスクを背負う。
「(でもそこが好き)あっ、ぃふぅ」
徐々に粘着音がビチャビチャとやらしい音に変成していく。彼のピストンの速まりは、こっちの下半身が熱痒くなっていくことを物語っていた。
「んっ、アッ。ね、ぇ。長谷川、くぅん!」
脚を押さえつけられて、出入りする彼のオチンポに貫かれるのも、もう何回目かな? 処女だった頃と比べて、四本の肉棒に拡張され続けている女性器にしてみると、体積や長さ的には少し物足りないと言えなくもなかった。
――でも、いいの。
「はっ、い! なん、です?」
必死に腰を振る彼は、乳首から口を離すと、上半身を重ねてくる。――そう言えば、恋人と別れる件は? ……ううん。彼を萎えさせてたら、ダメ。
「今日も、膣で、いいから、ねっ」
優しく耳打ちしつつ、耳たぶを甘噛みする。彼の肉棒が膣内で微かに収縮し始める。
「ありが、と、です!」
師走と言うのに、二人して汗をかきつつ、絶頂へと向かってイッた。やがて私の膣内は、彼の精子にて、白い絵を描かれていった。
* * *
「リスナーの皆様っ。きょ~は、十二月二十二日の水曜日っ。ラジオDJを務める私は――」
シャアアァァ。
寝室からのラジオ音は、シャワーの音にかき消されていた。
「んっ、はぁ。係っ、長!」
ラブホのお風呂場にて、お湯が流れる床へ転がる私は、あまりの気持ちよさに両手で顔を覆った。
「イイ感じか? 新妻」
股間に埋もれる彼の顔から生え出る舌が、小陰唇を舐め吸っていた。膣壁へと侵入するのかと思いきや、陰核を、緩急つけて薄く舐め突ついてイク。
クチョ、ピリ。ロレ、ピリリッ。
「はぁん! すごっ、ひぃよぉ!」
さっきからゾクゾクしっぱなしだった。だって、係長の性技は頭三つくらい抜けているんだもん。係長に触られていると思うだけで、身体が勝手に気持ち良くなるくらいに――。
ピィン。
「ひぅん!」
股間以外の別の二点からも強烈な痺れがあった。顔を覆っていたせいで、余計に驚く。
「はあぁん。乳首イジメられるのすき、だいすきぃ!」
大きな乳輪を爪先でなぞり、乳首を押し込んで乳頭を刺激し、さらに乳房の下側を揉み撫でられる。股間と乳首の三角形の性的快楽によって、自律神経をコントロール出来ない、あ、アタシ、は――。
チョロ、ジョロ……プシャー。
「! あああっ!」
ちょ、アタシの馬鹿っ。か、係長の頭に、お、お小便をしてしまうなんて!
「――こらこら。いくら愛人関係でも、上司に尿をかけてはダメだろう」
愛人、関係――。
「すみ、すみません」
慌てて身体を起こして、三つ指をついて、土下座する。係長はシャワーで頭を洗い流した。さっきの粗相の対応に加えて、その一つ一つのニヒルでスマートな対応に、下腹部がキュンとする。
うん。女の子が見た目で異性を選ぶのは、仕方がないこともある。
「じゃあ謝罪の誠意を、もっと示しなさい」
頭を上げる私は、穏やかに笑う彼の前に、両足を限界まで開く。黒ずんだ小陰唇を、指でそれぞれ引っ張り、暗い膣を捧げる。
「係長様ぁ。エッチなドジばかりの変態主任を、オマンコで許してくださぁい」
「おやおや、どこで覚えたのやら――」
お湯が絨毯となるプラスチックの床の上で、抱きしめられると同時に、肉棒が膣に入ってくる。
「んんおんっ!」
獣みたいな声が出るのも、仕方がないよ。
――たってこのオチンポは、私にとってちょっと特別なんだもの。処女を奪ったオチンポで、初めて種付けをしてくれたオチンポなのだから。
ニュグ、パン! グニュル。
私の弱いところはもちろん、新しいところを的確に教えてくれる、愛しいオチンポ。もう何十回と、私に出入りする――。
「新妻っ、知って、いるか?」
腰を打ち付ける係長が、私を抱き締めてくれる。
「は、はん、ひんっ?」
下品な桃色のクエスチョンマークを浮かべつつ、彼の手入れされたもみ上げを舐める。
「女のっ、膣は。初めて挿入された、男の肉棒のカタチにっ、なるらしいぜ!」
! そ、それってぇ、つまりぃ。
「じゃ、じゃあ。あたしの、オマンコはっ。係長に、ジャストフィットね!」
グニグニと腰を押しつけて、互いにエッチな息を漏らす。卑猥に歪んだ口でもって、噛みつき合う。
――肌を重ね合って、キスをしつつ、生挿入される。淫らな音も、唾の味も、男の匂いも、犯される自分の姿も、最低でサイコー!
「新妻っ。もちろん、膣に出すぞ!」
精一杯に彼を抱きしめて肯定する。
「ええっ。いつも通り」
一番、子宮口へ!
* * *
ガチャ。
誰かが、入ってきた。いや、誰かなんてわかりきっていた。
「今日は……十二月二十三日。君と逢い引きしているという事は、ふむ。木曜日だな」
わ、私は、紫の紐パンにヌーブラという痴女姿のまま、手足を縛られて直立していた。
場所は、部長と初めて結ばれたジムの特別室にて、目隠しをされたまま、猿轡を咥えさせられながら。
「ふぅむ。美しいよ新妻クン。女が内面に宿す性欲を、ここまで肉体で表現できるとは」
声がゆったり、右前方から近づいてきた。
「膣に食い込む淫猥なだけの下着も、白痴のように面積の少ないブラを着こなすその様も。そして――何より」
ガッ、っとブラが引っ張り降ろされて、上半身が前に揺れる。
「三十分以上も一人で立たされているだけで、この見事に勃起した乳首と――」
ピン、と左乳首が指で弾かれる軽い衝撃、何より快感によって、身体がビクリと怯む。
「愛液でビショ濡れな膣口――まるで、被虐の化身のような、その淫乱で情けない姿がなぁ!」
グィ、っと紐パンを引っ張られて、恥骨が当たり擦れる。快楽に耐えきれず、つい。
「んんっ、んん~!」
ポタ、ポタッ。口の中の唾液の海の一部がこぼれ落ちる。刺激を求める全身が、驚くほどに火照っていた。
「こんな痴態で放置されて性器を濡らすなんて、もはや病気じゃないかね?」
パン、っと右のお尻をぶたれる。驚きと気持ちよさで、唾がさらに漏れ垂れる。
「旦那でも恋人でもない、ただの会社の上司に、ほぼ毎週のように責められて、性的興奮を覚えるなど、キミは下半身で思考しているのかね?」
キュ、っと今度は両乳首をつねられる。見えない分、触感が研ぎ澄まされて、乳首が発火したみたく燃えてしまうよぉ。
「んっ、んん、ん~!」
身体をくの字に曲げて、上と下の両方の口から、温かい粘液を滴り落とす。
「何を言いたいのか全くわからん。バカじゃないのか? ――全く。子供より手が掛かる」
ガボッ、っとボールが口から外されて、濡れに濡れた舌から、歯から、唇から、透明な液体が輝き落ちた。
まるで空腹な乞食が、目の前の豪華な肉料理へ、ジュルジュルと音を鳴らせるみたく。
「――ハァ、部長、ハァ、様。はや、早く、くださいぃ」
桃色の吐息を肺から送り出しつつ、真っ暗な世界で、部長がどこにいるかもわからず、首をあちこちへ振って懇願する。
……股間の疼きがぁ、もう限界でぇ、切ないのぉ。
「ナニを?」
右から声がしたので顔を向ける。
「ハァ。んち、おち、オチンポですぅ!」
ふりふり、っと尻を振って、わずかでも彼の我慢を削ろうと誘惑する。
「――女の方から肉棒が欲しいなんて、良く言えたものだな。恥じらいという言葉を知らないのかね?」
侮蔑の声が、次は左から聞こえたので、急ぎ首を曲げる。
「お、お恥ずかしい限り、です。でも、でもぉ」
恥辱とお預けで涙腺が緩む中、でも下腹部はそれ以上に赤く燃えていた。
「まるでペニスの奴隷だな」
心からの軽蔑の一言に、乳房と股間がビンタされるみたく震える。恥ずかしくて悔しくて、でもやっぱり気持ち良くて、下を向きながら、ついに本心を口にしてしまう。
「きょ、今日は、朝から、部長様にこうやって、可愛がってもらえるって――挿入れてもらえるって、ずっと期待してたから」
――濡れてたから。
「……」
「ぶ、部長様?」
また放置? そんなことされたら、本当に気が狂っちゃうよぅ……。
ズニョン!
「んんんぁぁぁっ!」
ッタ。入った! 私の空白が一瞬で満たされた!
背後から羽交い締めにされるみたく抱きしめられて、乳房を引っ張られつつ、腰を打ち付けられる。
パン! パァン!
「……今日は久々に負けたなぁ」
背後からのその声が、本当に心地良さそうで、すごく嬉しかった。体の穴も心の孔も満たされつつ、立ちバックの形勢へと移行していく。
っていうか、もうオチンポさえ私の体内に挿入っているなら、体位なんてどうでもいい!
「ああァァ。部長様ぁ、大好きぃ!」
青筋を立てて絶叫する。
激しい接合が、快楽中毒者の私のピンク色の脳みそを、恍惚に冒していく。
「――私は、嫌い、だがねっ。顔と身体と、服従だけが、取り柄の、売女などっ!」
そう罵りつつも、膣内の肉棒はますます大きくなった。それが、私への性的好感度を物語っているのは、私だけの秘密だった。
「はい、はいっ。大嫌いで最低な淫売に、いつもの無責任膣出しを、お願いします!」
自分の口角が驚くほどに上がっていた。彼のゆるんだお腹が尾てい骨に当たるたび、女の自尊心が満たされちゃう!
「勝手に産んで、勝手に育ててろ――!」
やがて彼の肉棒が収縮し、睾丸が震え出す。
――今日も私は、彼の描く白い夢を、独り心ゆくまで観賞する。
* * *
「おい、新妻」
天気が残念な、十二月二十四日の昼休みだった。まるで待ち構えていたみたく、給湯室へ向かう廊下にて出会う。
「……え? 川口?」
茶髪でウルフカットの川口は、変わらず少し邪魔くさそうな表情でそうとだけ言うと、返事も待たずに手首を引っ張り歩き出す。
「へ? あっ、ちょっと」
「昼飯。おごってやるから付いて来い」
二の句を告げさせない強引さによって、仕方なくヒールを鳴らす。胸が揺れた。
ガチャ。
「うおっ。寒み」
外のどんよりとした雲の下、今日は一段と冷えており、マフラーを忘れたことを小さく後悔した。サラリーマンの唯一の楽しみ? の昼食だけれど、まさか川口と二人でなんて。
往来する人々の間を縫いつつ、改めて川口を横から見る。
同い年で、やや高身長でスタイルは悪くなく、けどいわゆるDQN(※軽率で身勝手なふるまい)であった。真面目ではもちろんなく、けど恋人はいるっぽかった。
……この男が起点となって、人生は色々と変わった気がする。――っと言うのも、春先に様々な衝突があって、それが未だに尾を引いていた。
でも、なぜか具合的にはハッキリと思い出せず――ううん――ひょっとしたら、思い出したくないだけなのかもしれない。
「(一応は、愛人関係なんだっけ? でも結局、セックスも一回もしてないし)も、もう少しゆっくり歩いてよ」
やがて会社からいくらか離れたファミレスへ入る。昼時というのに、店内は比較的空いており、一番端の席へ座った。
川口はタッチパネルを取り出すと、こちらへは何も確認せずに、ランチセットを二つ注文した。
「――今晩、暇か?」
何の脈絡もなく、沈黙を破るみたく、顔も見ずに携帯を触りつつ、誰に言うでもないように呟く。
「きょ、今日の夜?」
お冷へ伸びる手が止まり、声がうわずった。
――だ、だって、今日は、十二月二十四日なんだもの。恋人達が甘い夜を過ごすド定番の、おそらくは日本で一番、その、セックスが多い日。
「どうなんだよ?」
なぜか怒っている風な、腹立たしいみたいな感じがあった。
ひょ、ひょっとして、私なんかで穴を埋めるのが、彼みたいなモテ男には、苦痛とでも?
「え、っと」
混乱しつつ、それは考えすぎかもと、自分を制する。
「予定あんのか? ――まぁ、最近の新妻はモテそうだしなぁ」
二つの意味でドキッする。一つは四人の男性のことを思い浮かべたから、もう一つはもちろん。
「も、モテそうって?」
微妙な距離感の川口に、想定外の事を言われたためだった。
「仕草はその辺の女よりよっぽど女っぽいし、化粧とか身だしなみもしっかりしてる。何より服装がエロい……引っくるめて言うと、男が求めてる女? みたいな」
え、えっと。なんか、割と褒められている、のかな? そもそも、川口がそう言う目で私を見ていたことを知り、なぜか複雑な心境になってしまう。
「お待たせしました~」
食事が運ばれてくる。鉄板の上のハンバーグは熱々で肉汁に溢れていて、付け合せのポテトやブロッコリーも、デミグラスソースを吸い込み、やっぱり美味しそうだった。
彼は遠慮なくガツガツ食べ始める。
「――で、今晩は?」
服を汚さないようにゆっくり食べる私は、でも。
「か、彼女いるんでしょ?」
尻軽な自分を抑制する様に逆質問をしてしまう。けど、聞き方によってはイエスと同様の内容だった。
――でも確かに、あたしは四人からも誘われなかった、もんね。
「……」
ま、まぁでも、一応はまだセフレの関係だしオッケー? ――なんて発想そのものが、もうヤリマンすぎるかな……。
「イエスかノーで答えろよ」
苛立たし気に話す川口は、目線も合わせずそう言う。
私は、私は……。
「――い、いいけど」
妙に緊張しつつも、そう言ってしまった。
……男性とのエッチが気持ちイイのはもちろん念頭にあった。特に四人からは、様々な方向性のキモチイイを教えてもらった。
完璧な気持ちよさ、甘えられる気持ちよさ、支配される気持ちよさ、力による気持ちよさ。
――けど最近はなぜか、誰かに抱かれていないと、アタシってもう女としての価値がない? みたいな考えが、霧みたく頭を覆っていた。さらに、独り寝がただただ寂しくて、胸が押し潰されそうな夜も多くなった。
けど川口は、そんな私の心情など全く知らないはずだし、興味も無いはず。
彼は食事中に携帯を取り出しては、食べながら操作していた。ピロン、私の携帯の画面にて、ポップアップする。
そこには、ある高級ホテルのレストランが表示されていて、私は目を丸くする。
「えっ。こ、ここ高いんじゃ?」
値段だけじゃない。今日や昨日でクリスマスディナーを取れるとも考えにかったから。ま、まさか本気で私のことを?
――い、いやいや、落ち着け私。いくら何でも、それは無い……と思う。おそらくだけど、彼女のために予約していたけど、どういうわけか私にお鉢が回ってきただけなんだろう。
「十八時に現地な。仕事なんて適当に切り上げろよ」
そう口にすると、タッチパネルの会計のボタンに触れて、レジへと向かい、店を出て行った。
……一人残された私は、ボーッと座ったままだった。すぐ隣のブラインドの隙間から射し込む日の光が机を照らす。
雲が、晴れたのだろうか?
* * *
……その日の夜。レストランを訪れるも、店内はやっぱり満席だった。
ドレスコードは無かったけど、念のためにと長谷川君がプレゼントしてくれた、肩出しの赤のパーティードレスにて入店した。彼がくれたものの割には、胸が開いており、スカートのスリット部分が深かったのは、少し気になった。
「(ってか、他の男性にもらった服で、ってのはアレかな)――でもまぁ、おかしくはない、かな?」
丁寧な若いボーイに案内されて、スーツ姿の川口が既にテーブルについているのに気付く。周りの雰囲気に飲まれてか、クリスマスだからか、いつもの川口とはどこかが少し違って見えた。
席につき、飲み物をお願いしてしばらくすると、コース料理が始まる。前菜は但馬鴨のレバーのワイン蒸しから始まった。次いで冬瓜のポタージュには、サツマイモのフリットも添えられていた。
フルコースの形式にて、さらに魚料理と――彩り豊かで温かな料理が運ばれてくる。言葉は少ないけど、互いに舌鼓を打つ中、グラスを空にした川口が、グッと目に力を込めて、口を開く。
「新妻」
「? なに」
明石産の高級真鯛を使ったポワレに、思わず頬が緩みかける。
「男いんの?」
フォークを取り落としそうになる。
な、何か今日の川口の言動は、普段とかけ離れていて調子が狂う。っというかそもそも、彼の言う男とは、彼氏以外のセフレ的なものも、含むのだろうか?
「ど、どうかな? ――まぁでも、今日は、誘われなかった、けど」
自尊心を優先してしまい、微妙な答えを返してしまう。赤くなった顔を隠すため、コルトンシャルルマーニュなる高級白ワインを口に含む。
「そうか。相手はよっぽどの女でもいるんだろうな」
思わずグラスの酒を波立たせてしまう。
「? ……何、マジな顔してんだよ」
そう言うと、小馬鹿にする様に笑われた。けど、なぜか、今まで見たことの無いような感情を秘めている気がした。
――やがて運ばれてきたメインは、子羊のローストだった。焼き加減は上々で、キメ細やかな脂が表面に浮いており、かけられた濃厚なソースの香りと香草の匂いが、胃を震えさせた。
「後で、渡す物がある」
「!」
おも、思わずナイフを落としそうになってしまう。じ、実は私も、万が一を考慮して、ここに来るまでに大急ぎで高めのネクタイを購入してしまっていた。
彼は息をついた後、グイッ、と赤ワインを一気に飲み干した。
大して話も弾まないまま、デザートまでを一通り消化する。川口がコーヒーをおかわりした時、席を立って化粧室へ向かった。
服や髪の乱れをチェックした後、口紅を持つ指の力が、いつもより強かった。
「川口。本気なの、かな?」
鏡の自分に問いかける。
でも一つだけ、胸に秘めていることがあった。二号枠以外で、私を愛してくれる男性なら、もう誰でも構わない。身体だけ以外の相手が欲しい。
――ましてやそれが、かつて私が嫌っていた男性であっても。
「そろそろ、戻らないと――」
化粧室を出て、席に戻る途中、ふとホテルの入口へ目がいき、思わず口を手で隠す。
「は、長谷川君っ?」
こちらへ気付かず、慌てた様子でエレベーターへ向かって行った。部屋で彼女でも待っているのかな? まぁ、今日ならおかしいことじゃないよね。
にしても、私に気付かなくて良かった。これ以上、惨めな思いはしたくないもの。
「おまたせ」
スカートを抑えて腰を降ろすと、川口は触っていた携帯をしまい、肩の埃を摘まみ捨てた。
「行くぞ」
ぶっきらぼうにそう言って席を立つ。レジ、を素通りした事から、どこかのタイミングで支払ってくれていたみたいだった。
その後、ロビー受付と何やら話したあと、エレベーターの方へ向かう。
「え、えと。ご、ご馳走さま」
「ん」
四機あるエレベーターの一つが到着した時、私のお尻を揉み押すようにして前へと促す。こちらは別に気にせずに、そのまま乗りこむ。
乗っている間も、ドレスの上から、お尻の谷間へ指が滑り降りる。三本の指が入り込むと、鷲掴みにされて、肉感を味わうように揉まれる。
私は小さく俯いて、けど何も言わなかった。
――そうだ。思い出した。確か、初めて乳首を舐められたのは彼であった。
「着いたか。おっ、さすがにカーペットもフカフカだな」
口淫だって、彼が初めてだった。そう考えると、色々あったけど、肉体的な衝撃の原初は、彼によって芽生えさせられたのかもしれない。
「カードキーで。――よし、解錠した。入れよ」
お尻から彼の手が離れる。私は上下する胸の前にて手をクロスさせる。扉は、クラシックな感じで、黒檀のようなシックな色合いであった。私はそっとドアノブを押して、中へ入り込む。
一体、どんな夜が、私を迎えるのだろう――?
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