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五話 凍った真実
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今朝はギンを怒らせてしまった。いや、僕の不注意のせいだったんだけど――。
普段は行わない調薬を調合室にて行い、服を着替えず臭い消しもしないまま、甘えてきたギンを不用意に抱きしめてしまったのだから。
「わ、悪かったって」
小雪が窓の外にてチラつく朝、三度目の謝罪を行う。ギンは暖炉の前で丸まり、尻尾をピンと伸ばして左右に振る。ちなみにこれは――まだ怒ってるもん――の意味だった。
……出会ってから三ヶ月。僕は自分が思っていたより孤独だったのことを、ギンとの生活で気付かされた。父がいなくなってからの二年間、村のみんなとの関係で十分だと思っていたけど、実はそれが希薄だったのだと。そしてそれを人ではない、半獣が、教えてくれた。
も、もちろん、それだけじゃなくて、メープルシロップよりも甘い甘い関係についても教えてくれた。ギンが生理の時以外は、ほぼ毎日――まぁその――寝台の上で愛し合った。今日みたいな時だって、ご飯を奮発するか、夜に抱き合うことでほぼ間違いなく許し合う仲になれていた。
ヒュウ――パラパラ。
隙間風が、机の上にある版画版くらいの大きさの植物紙をめくる。そこにはいくつかの文字が大きく書かれていた。これらは、ギンの気分が乗った時に、人語を教えたりする教書であった。
最初は全く手応えが無かったけど、今では発音も含めて、ちょっとずつ学ぶということを試みてくれていた。
「フィルム先生ぇ!」
? 玄関扉の向こうから、大工のリトムさんの野太い声が響く。この家は彼のお父さんが建ててくれたのを、ふと思い出す。
「は~い」
……ギンと同棲することを告げた初期の頃、やはり彼女を警戒してか、村の皆が調合薬を取りに来る頻度は減った。
けど最近になって、ギンがみんなへ害を加えないことが浸透したみたく、今日みたいに訪ねてくれるようになっていた。
「(にしても、奥さんじゃなくてリトムさん本人が来るのは珍しい)開けますね」
ギンは耳だけをこちらへ向けていた。
ガチャ。
冷気が頬を撫でると同時に、まるで扉へ吸い込まれるみたく大柄な身体が現れる。
「どうし――」
「た、大変だ先生ぇ! ルクブットさんの家が雪牙熊の雄に襲われて、妹のメナリと子牛のチコがさらわれた!」
「!」
背骨の辺りが急激に冷たくなる。
メ、メナリが? い、一体どうして? そ、そもそも雪牙熊は雌雄両方とも身体が大きく、雑食性ではあるけど用心深く、人里へ近づくことすらあまりない。夏季は北部の寒冷地か冷たい洞窟の中で過ごす彼らは、秋になると山間の動物あるいはドングリや茸などを食い貯めして脂肪を蓄える。冬季は凍結していない川で白斑鮭を食べたりして越冬するはずだ。
冒険者が毛皮や爪、肉などの素材を目的にこちらから出向く事はある。また鮭が不漁で、白樺なんかの樹皮で空腹を満たそうと、山中で出会い頭であるならまだわかる。
そのどちらでもなく、積極的に向こうから仕掛けてくるなんて――。
「(これも真火竜の出現による影響? いや、そんなことの考察は後だ)と、とにかく現場へ行きます!」
「あ、ありがてぇ! 先生だけが頼りだ」
これほど頼りない相手もいないだろうと申し訳なく思いながらも、大急ぎで支度をする。
山鹿の毛皮の防寒具および登山ツールを装着して、なめし革の頭巾を目深く被る。さらに熱辛湯や、覚起薬にジギタリスを煎じた中級傷薬、携帯食、さらに――。
「(この際だ。流通禁止の秘薬も持って行こう)ん?」
携行袋の底に、かつての散光塵の残り瓶を見つけた。雪牙熊が相手だけど、まぁ目くらましくらいにはなるだろうか。
他に有用そうなものもあるにはあるけど、準備に時間がかかるからと、最後に銀の短刀を腰に差す。
「リトムさん。お待たせしました」
「すぐに案内――せ、先生。後ろのはどうするんだ?」
えっ? と振り向くと、胸巻きと恥部隠しを雑に身に着けたギンが、ジト目で僕を見上げていた。まだ怒りは収まっていないものの、何か異常が起こっていることを、肌で感じている風だった。
――ワーキャットはその高品質な体毛が示す通り、元々は寒冷な地方に生息していた種族だ。雪が降る山岳地帯での荒事を想定すると、ギンは心強い。
だけど。
「(恩人であり、大切な彼女を何度も危険にさらしたくない)――ギン、待ってて。晩御飯までには戻るから」
携帯予定のニジマスの干し魚を二匹とも渡すと、目を輝かせて受け取り、注意が逸れる。
「行きましょう!」
……雪が舞い散る現場は、酷い有りさまだった。木製の外壁には無数の大幅な爪痕が生々しく残っており、扉は取れている上に大きくひしゃげていた。丸屋根の一部が傾き、玄関は家具も含めてグチャグチャな有様であった。
メナリのお父さんとお母さんが、ベットの上にて横たわり、村の大人達が震えながら手当を進めていた。僕もすぐに治療に参加しようとやっかむも、うめき声にて二人が――。
「先、生。俺達は、大丈夫、だ」
「そ、それより、メナリを――」
! た、確かに止血は出来ているけど、かなりヒドい傷だ。特にご主人の方は右胸部から腹部にかけての裂傷がヒドく、縫合した方がいいくらいだ。
「し、しかし」
――でもどうする? 村の人達の手当に任せて大丈夫か? 普通の町なら、治癒官や癒し手が常駐していて手配できるのに。
でも確かに、時間が経過するごとに、メナリが危機に陥る可能性がどんどん膨れ上がっていく。いや、けど、しかし。
「(――どっちが正解かなんて、わかるもんか)雪牙熊の行方を見た人は?」
未だ混乱する村人達が顔を見合わせあう。
「お、オレ、が、見た」
皆の視線が集まる先には、傷んだ家屋の隅にて、泣き顔と共に震えるロームがいた。僕はそっと近づく。
「大丈夫かいローム? 怖かったよね」
「せ、せん、せぇ」
顔を涙で濡らす彼は、怯えつつ嗚咽を繰り返した。
「オレ、なんも、出来なかった。父ちゃんや母ちゃんが、襲われている時も、メナリが、さらわれた時も、ずっとただ隅の方で『オレの方に来ないでくれ』って。じぶ、自分のこと、ばっかりで――」
頭を抱えて、その非力さを垂れ流し続けた。――僕は屈みつつ、その小さな頭を撫でた。
「六歳なんだから、それが普通だよ」
そうだ。僕だって父さんと採集のために山へと入って、数え切れないくらい情けない姿をさらしたのを思い出した。弱いことが、罪ではないと信じている。
「――うん。うん、ありがと先生。あ、あっちの方へ、行ったよ?」
震える小さな爪先が指す、破れた壁の向こうへ目線を送ると、僕を含めた全員の顔色が変わる。
このミブの村はリブリア山地の中腹に建っているけど、その北側の近くに不可思議なほど急峻な地形がある。
――白落谷。白い流紋岩で構成されるこの谷は、足の踏ん張りが効かず、また濃霧が発生しやい場所であった。滑落の危険が非常に高い谷で、村人はもちろん、野生動物や魔物ですらほとんど近寄らない、いわくつきの谷だった。
「ロームはお母さん達の傍にいるんだよ? ……リトムさん。これ中級傷薬です。お二人に使ってください」
二本ある内の一本、くすんだ緑色に光るガラス瓶を渡す。
そして、白落谷方面へ視線を戻す僕に、男性陣達が意を決したみたく口を開く。
「せ、先生。もしよかったら俺達も」
「そうだ。村の男衆も一緒に――!」
「ダメです」
きっぱりと断る。
「基本的には臆病な雪牙熊が突発的に人里を襲うという不可解な状況です。それに悪天候な情勢下で、男性達が村を離れるのには賛同しかねます」
どんよりと重そうな雪雲は、まるで分裂するみたく厚みを増している気がした。
「(午後はもっと降るかもしれない)手当以外で手が余っている人は、村の各出入口で焚火を行ってください」
おそらくは安堵しているであろう彼らが、嬉々として準備を始める中、靴の先を白落谷の方へ向ける。
「フィルム君」
振り返ると、思わず目を丸くする。
そこには雪山装備を完全に着込んでいる長老が立っていたから。使い古してはいるけど、しっかりとした帽子や手袋、靴を身に付けており、上質な伽羅木で作られた長弓を胴体に引っ掛けていた。腰筒には何本もの羽矢が収まっており、大股で歩く様は、健脚であることを示していた。
「ワシも行こう」
「! だ、ダメですよ。この村で一番大切な人を危険地帯なんかに――」
「そりゃお前さんじゃろうが」
ザワザワと皆が騒ぐ。僕が二の句を告げるよりも早く。
「言ったじゃろう? 昔は名の知れたちょっとした弓士じゃったと。――それに」
長老はぐるりと周りを見回した後、僕を正視する。
「これまでも、そしてこれからも、村において一番必要なお前さんが出向くのじゃ。責任者のワシが行かねばなんとする」
「いや。そんな――僕なんて」
薬作りしか能が無く、さらに腕に覚えのない僕が大見得切って出発するのは、確かに不誠実と言えるかもしれない。
けど、だからと言って、ミブの村の精神的な支柱である村長を――。
「フィルム君。若き命はまだまだ燃えられる。じゃが、古びた命は、燃えるにも限度がある」
緊迫に似た状況下において、まだ若すぎる僕には、すぐさまに反論の言葉が浮かんでこなかった。
「この悪天候に魔獣が相手じゃ。ワシに出来ることは限られている。じゃがワシに出来ることは精一杯やろう!」
――それは村長という役職だからとは、到底思えなかった。この人は、意思をもって意志を果たそうとしている。それは、かつて見た父さんの気迫に似ていた。
「――では、お言葉に甘えます」
やがて皆に見送られて、北を目指す。色々な意味で焦り急く僕は、村長がその時にこぼした言葉の欠片なんて、気にも留めなかった。
「……今度こそ」
* * *
白く染まる谷間へと続く山道は、美しくも冥府への隠し道みたいに思えた。コナラやブナの高木がまるでもがくみたく、灰色の天に枝を伸ばしていた。
「大丈夫ですか?」
「何の、これしき」
村長が先頭で、僕が殿という隊列で、積雪が深くなっていく尾根沿いを、二人して前進する。
「ぶえっくしょい!」
吹きすさぶ吹雪は悪意すらありそうで、蝕むみたく体温を奪われていく。手指の感覚もどんどん鈍っていく。
「――村長。これを」
赤い液体に満たされた小瓶を取り出す。コルクの蓋を抜くと、目と鼻の奥がチリチリと熱くなる。
「な、なんじゃこれは?」
「山辛子なんかの貴重な香辛材を調合し、無花果で飲みやすくしたホットスープです。体の内側から体温を高めます」
「どれ――っ! か、辛っ」
代わる代わる口にしつつ、少し雪を舐めて舌を落ち着かせて、再び足を動かす。
「! フィルム君。待て」
森がいくらか開けると、谷へと続くその手前の平場が見え始める。! そ、その真ん中のわずかな窪地だけ、雪が真紅に染まり、さらに周囲には、肉片や白い、骨、が――。
「「っ!」」
村長を追い越して惨劇の中心へ走り向かう。
鋭利な牙や爪の痕は、まるで獲物を必要以上に甚振り、傷つけた風であった。その後に舐り吸い、一部の骨をすら咀嚼した様子だった。
「こ、れは」
滴った血は新鮮で、一部は赤く凍っていく。震える指先が無残な遺骸に触れ、微かに朱に染まる。
「どうじゃ?」
「おそらくですが――子牛の、チコです」
損壊が酷くほぼ肉が無いため、精査は出来ていないけど、骨の数や形、大きさから人間ではないとの推論が打倒だ。
「フゥ。ただでさえ短い生い先が、ますます短くなったわい」
「無理しないでくださいね」
にしても、雪牙熊は腕力に優れる魔獣だけど、雌を巡っての雄なんかでなければそこまで好戦的ではないはず。村にしてもそうだったけど、なぜこんな過重なほどの攻撃行為を?
「村長。あっちを」
谷を目指すみたく、蹄みたいな大きな足裏が積雪に刻まれていた。その一つに赤い血が付いていたので追っていく。
やがて断崖絶壁にて立ち止まり、僕が――そして村長が口を開く。
「これが――」
「白落谷、か」
雪に覆われた急峻な崖は、まさに天然の壁であり、底は降雪と曇天のせいでよく見えなかった。極稀に生えている木々は高山植物みたく背が低く痩せ細っており、まるで槍みたく崖から突き出ていた。
さっきの足跡は壁を這うみたくその険しい斜面を斜めへ降り行き、けど約二十ヤード(※18.28メートル)くらい先にて、忽然と消失していた。
「(滑落したら終わりだけど)途中で形跡が……消えている?」
「あの辺りに洞窟でもあるのかもしれん」
村長は矢筒より一本の矢を取り出し、さらに荒縄を引っ張り出す。
「どうするつもりですか?」
「矢羽に縄を括りつけて、あの付近へ打ち込み射る。そしてこの場所に木杭を打って固定し、縄づたいに降りるぞい」
名案。さすがだ。
「さっきの辛い汁のおかげで、身体がホカホカで指先も問題ない。――そぉい!」
ピュン!
弦が空を切ったかと思うと、矢はまさに雪に付着した最後の血痕へと突き刺さった。
「お見事です!」
「くかか。昔取った杵柄じゃな――ワシから降りよう」
杭を地面に打ち込み、さらに石でガヂガヂに固める。
縄で胴体を一巻き、二巻きしてから、力の限り握り降りる。その光景は絶句もので、谷を降りるというよりは崖をゆっくり落ちるという感覚に襲われた。わずかな礫に生える凍り濡れた蘇鉄は岩肌よりも滑り、まさに手に汗を握りつつ落ち進む。
「フィルム君っ」
まるで猿みたく、先に降りた村長は周囲の積雪を払いつつ、手招きする。
! 何と崖の中へ続くような洞穴が垣間見えた。雪風の音に遮られつつも、何か極小の音が洞内から聞こえる気がした。
ビユユフゥ!
「っ」
凍てつくみたいな谷風が頭上から荒び吹く。村長は手をかざしつつ、凍りかけの髭を揺らす。
「一応は聞くが。どうする?」
僕は屈みつつ、油脂を補充したランプを再点火させて、腰に結び付ける。
「メナリの安否確認を最優先で。避けられる戦闘は全回避します」
「かっかっか。昔、山小鬼の巣へ突入したのを思い出すわいっ」
意を決して天然の洞窟へ入り込む。風による寒波が治まったのだけは救いだった。
洞の広さは大人三人が並んで通れるくらいの幅と高さだった。壁に生えている光苔のおかげで何とか明度も保たれて――。
「ん?」
「早速なにか見つけたかの?」
違和感を感じて、壁に近寄ってヒカリゴケを視認するに、生え方が少し不自然に感じられた。
「(群体の規模は小さいけど、しっかりと根付ている)まるで移植されたみたいな――」
雪牙熊にこんな芸当が出来るわけがない。まだ奥に何かが潜んでいるというのか?
考えられるとしたら、魔術士協会から追放されたはぐれ魔術士とかが? しかし、そうなら明度の魔術なんかで事が済むはず。
「(今は考えても仕方がない)すみません。急ぎましょう」
まるで標みたいに奥へと続く光苔のおかげで、途中の起伏や陥没箇所も難なく避け進められる。さらに吸血蝸牛の巣を事前察知できたのは助かった。
しかし徐々に空気が淀み、唸り声? が奥より稀に届くようになってくる。
「!」
暗い道が枝分かれしていた。右側はやや広く、光苔が点々と続いていた。左側は少し狭く、真っ暗だ。音は両方からわずかに聞こえるも、臭いでの判別は空気が滞留しているせいで難しい。
「どうするかのぉ」
――僕は、僕はこんな、こういう大一番でいつも選択肢を誤る。子供の頃からの経験値で、そう結論づけざるを得なかった。うだつが上がらないという言葉がピッタリな気すらした。
直感だと右の道な気がする。つまり、左に行った方が――。
「……」
けど、なんだろう。やっぱりこの光苔が気になる。この発光するだけの苔が、僕の中の何かに訴えかける気がした――。
「二手に分かれるかの?」
なるほど、そういう選択肢もあるな。
「村長は左をお願いできますか? 猶予がある前提ですが偵察をしつつ、合流してから事に当たりましょう」
「委細承知!」
すっかり頼り切って申し訳ないと思いつつも、靴先を右側へ向けて冷たく堅い岩肌を蹴る。
……やがて一人になると、改めて心細くなってしまう。――いや、メナリは(生きていて)もっと怖くて震えているはずだ。
奮起しつつ、やがて深部の手前へと辿り着く。空間が大きく広がりを見せ始めて、なぜか奥から明かりが差し込んでいた。
「太陽の、光?」
最初こそ、どこから光が入ってきているのかと驚いた。けど良く見ると、村の広場くらいの広さの天然の空間、その天井中央に丸い穴が一つ穿ち空いていたのだった。逆さ煙突みたいな風なその穴はどうやら地上まで伸び繋がっており、光と共に雪を運んでいた。
急いでランプの火を消して、入口付近で身を屈めつつ、状況を精査する。
「!」
あちこちの岩肌が、まるで仇のように削り砕かれていた。明らかに自然現象ではなく、その原因へと目を向けるっ。
「……グルルル。ウルルル」
白くぶ厚い毛皮は逆立っており、また自傷のごとき痕が多数浮かび上がっていた。鋭利で伸びた爪と涎に塗れた牙は、まるで染料で染め上げられたみたく黒く、敵意に染まった目も同様だった。体躯についても、以前に夜の森で遭遇した毒蜘蛛の五倍以上はあった。
およそ僕の見知る雪牙熊の外観や動静とはかけ離れていた。――そして同時に目の端がもう一つの、微かに動く小さな人影を捉える。
「(メナリ!)無事かっ?」
奥の方の隅で震え蹲っている彼女は、紫の唇のまま顔面蒼白だった。
そして――えっ? そのすぐ隣には――ボロボロの、だが見慣れた衣服や携帯鞄、剣を帯びた骸骨が……!
ドックン。
「ま、さか」
藍色の羊毛で編まれた衣服、茶色の革製のズボンは、見慣れたものであった。
ドックン!
「(なん、で。父さんの、白骨、が?)ど、いう」
動揺が波紋みたく、心と皮膚の間にて波打つ。爆発しそうな心臓を、手で強く抑えつける。
――落ち着け。落ち着くんだフィルム=イシュタ! とにかく今は、メナリに集中しろ!
「に、しても」
子牛のチコがあの惨状であったにも関わらず、なぜメナリは無事なんだ? 巣まで連れて来られたのはともかく、どうして生かしているんだ?
空腹じゃないから? しかし、さっきの不必要なほどの獲物への攻撃と猛り狂っている様子から、ねぐらまで持ち帰った獲物へ何もしないのは腑に落ちない。
「ぁ。ぅ、ぃ」
呻くメナリの容態が気になる。服装がそこまで厚着でなかったの家から引きずり出されてさらわれたからに違いない。
――ォォォォ。
? なんだ? 今、雪牙熊の頭の付近の空気が、まるで濁るみたく揺らいだ風に見えた。
「オオオ、グゥゥァ!」
ドシン! ズシン! と突然の地団駄は、もはや微震とすらなり得る勢いだ。まるで本で読んだ一つ目巨人の足踏みを彷彿とさせる威勢であった。
おそらく危険度C以上であろう雪牙熊は、忌々し気に、メナリと父さんの遺骨へ向き直り、全身での威嚇を繰り返していた。
「グオオォォ!」
まだ辛うじて意識のあるメナリが、白目を剥きそうになる。
「あ、ぁ……」
チョロ、チョロロロ――。
小さな湯気が立ち上がったかと思うと、メナリは失禁してしまう。さらに糸が途切れた操り人形みたく倒れ伏し、身体を縮こまらせる。
ダメだ。これ以上の様子見は許されないし、村長を呼びに行く猶予もないっ。
「(覚悟を決めろ僕っ)――待てぇ!」
跳び立ち上がり、人生で初めてと言えるくらいの怒声を張り上げる。
冷たい空気は膜のように震え、その逆立つ大きな耳を動かす雪牙熊は、敵意を超えた殺意の視線を向け刺してくる。
ふ、震える右手は毒を塗布した銀の短刃を握りつつ、左手は携帯袋へ突っ込んで油紙に包まれた一服の赤い薬を取り出す。
「(僕の耐力だと砂時計くらいが限界)――メナリは返してもらうぞっ!」
牽制するためではなく、自分を鼓舞するために叫ぶ。
「オオオオ!」
ガガッ!
雪牙熊が凍った地面を蹴り進むのとほぼ同時に、薬を服用する。肥料用の糞尿をさらに酷くしたみたいな臭いが鼻から抜け、生臭い味が舌の上にベチャっとへばり付く。
ドックン!
ッヅヅ。し、心臓の皮が厚くなったみたいに脈動し、蓄積されていた身体の疲労が吹き飛ぶ。視界にて動く物の全てが遅く見えて、全身に力がみなぎりだす!
――飲み込んだのは戦壮薬。分量を誤ると致死や中毒に陥る素材を複雑かつ精密に配合した、四大秘薬の一つを模倣して、さらに調整した薬だった。副作用を背負う代わりに、一時的だけどあらゆる身体能力を高めるため、特に戦時は重宝した。
「(突進の速さが半分以下に見える)ここだぁ!」
左前方へ跳び避ける。突っ込みすぎた雪牙熊は方向転換しようとするも、凍った石によりぶんばりが半減する。肉薄したその瞬間に刃を繰り出す。
ズシャッ。
っ硬い! ――刃の半分も入らず、けど右前肢の付け根を傷つけて血を飛ばす。
「(身体強化してなおこの手応え)麻痺系統の毒だけど効果は――えっ?」
眼前の獣が、まるで藻掻くみたく顔を洗う動作に、違和感を覚えた。
なんだ? その憎しみに悶える表情より、一瞬だけど黒い陽炎みたいなのが、揺らめいた。
「ガアアァッ!」
劈くみたいな咆哮が空気を押し弾いたかと思うと、僕――というよりは、なぜか銀の短刃を睨み叫ぶ。それほどの深手を与えられたようには、見えなかったけれども?
ガン、ダッ。ガガッ、ダダン!
! 再び猛突進がくるっ。
「(速い!)っつ」
足にこれでもかと力を込めて前方上へ跳躍し、鉄のごとき背の上をかわす瞬間、その背中めがけて刃を振りぬく。
ブシュ。
背中のほんの一部を切開するも、致命傷にはほど遠い。そして毒が効いている風にも見えなかった。
「(僕は何か、思い違いを)しているのか?」
――そもそも戦闘技能が低い僕の身体能力を底上げしたところで、この魔獣と渡り合うのには無理があった?
いや、今さら弱気になるな! 何とか着地する視界の端にて、少しずつ冷たくなるメナリと父さんらへ顔を向ける。圧縮したみたいな時の中で、ふとかつての記憶を思い出した。
『フィルムせんせぇ。いつも――あの――ありがとぉ』
『よく間違えずに出来たな。流石は父さんと母さんの息子だ。フィル』
……その温かく眩しい、光の残影が、僕のぶれる軸を正してくれる。
「諦めない。諦めないぞ絶対に!」
そう凍った洞内に反響させつつ、再び刃を構える――けど。
「へ? ――わっ!」
ズッシン!
四足全てを使った足踏みで、こちらの態勢が崩れた瞬間――からの飛び掛かりぃ!
「くぅぁ」
横っ飛びで無理くり避けるも、着地の際に右足首をぐねってしまう。けれども、幸か不幸か二人の――メナリ達の方へ転がりこける。
手をついて起き上がろうとした瞬間だった。
「⁉ づぅ、ぁぐ」
凄まじい立ち眩みがして、さらに体全身が鉄の板を張り付けられたみたいに重くなる。
「(もう薬の効果が? いや、それだけじゃ)――くっ、あ」
高熱に冒された時みたく、関節痛が身体の節々で膨れ弾ける。
震える身体は言う事をきかないほどで……副作用が、これほど、とは。
「グゥルルルゥ」
僅かな血を垂らしつつ、だがようやく毒が効いてきてか、動きがゆっくりになっていく。
――命拾いしつつも効果時間は不明で、見方によっては、加虐的に獲物を追い詰めるみたくすら思えた。
重く震える右手を、再び荷物入れに忍び込ませようとした時だった。
「正射必中!」
ヒュン!
入り口付近から放たれた矢が、雪牙熊の尾骨へ精密に射撃される
カン!
だけど、まるで煉瓦に当たったみたく矢じりの方が弾き返される。僅かに出血こそしたものの、分厚く硬い毛皮を、ましてや肉や骨を貫通なんて到底無理だった。
「(普通の弓矢じゃ無理だ)――村長、逃げてぇ!」
早々に毒の効果が薄れて来たのか、猛り狂う雪牙熊は向きを変えて、村長の方へ猛撃を行う! 驚いて、弓矢も投げ捨てて何とか飛び避けるけど。
「(ダメだ。このままじゃ全滅する)どう、したら?」
救いを求めるみたく、痛む首を動かして、横たわるメナリと父さんの遺骸を見る。
――そう言えば、メナリが襲われていないという疑問の結論は、得られていなかったのを思い出す。無様に這いつくばって、二人の傍へと寄り添う。メナリはますますと震えており、でもその小さな指先が父さんの朽ちかけた荷物入れに伸びていた。
何か役に立つものはと、探したのだろうけど。
「こ、れは?」
瓶から微かにこぼれる白い結晶状の粉が散っていた。魔除けの塩? しかし、だからどうだっていうんだ。
「(だって魔霊なんて、三ヶ月前に村に現れたのも見間違いだった――)いや、まさか!」
そうだ。そうに違いない! 過剰な敵意、銀の短刃への警戒、メナリが無事な理由など、雪牙熊の異常行動の説明がつく。欠片を慌て集めた僕は、暴れ狂う雪牙熊の頭部の上にて薄く揺らぐ、黒いもやみたいなものを睨む。
傷だらけで、それでも逃げ延びてくれている村長へ、大声にて。
「(これに賭けるっ)村長。こっちへ!」
裂かれた額から血を流す村長へ、焼け付くみたいな喉から声を絞り飛ばす。僕はきしむ身体が壊れるのも覚悟で、腕の関節へ無理を言い、荷物入れに手を突っ込む。
もはや戦意も無いであろう村長は、けどさすがは歴戦の元弓士だ。こちらの指示を聞いて、態勢を崩しつつも走り寄って来てくれる。
……チャンスは一瞬で一度っきりだ。散光塵の入った小瓶を取り出す。メナリと父さんの遺体を背に立ち上がる。
父さん――僕に勇気をっ!
「フィ、フィルム君!」
「グオオオォォッ!」
「! いまだぁ!」
迫る黒、飛び散る粉、雄叫び、閃光っ!
普段は行わない調薬を調合室にて行い、服を着替えず臭い消しもしないまま、甘えてきたギンを不用意に抱きしめてしまったのだから。
「わ、悪かったって」
小雪が窓の外にてチラつく朝、三度目の謝罪を行う。ギンは暖炉の前で丸まり、尻尾をピンと伸ばして左右に振る。ちなみにこれは――まだ怒ってるもん――の意味だった。
……出会ってから三ヶ月。僕は自分が思っていたより孤独だったのことを、ギンとの生活で気付かされた。父がいなくなってからの二年間、村のみんなとの関係で十分だと思っていたけど、実はそれが希薄だったのだと。そしてそれを人ではない、半獣が、教えてくれた。
も、もちろん、それだけじゃなくて、メープルシロップよりも甘い甘い関係についても教えてくれた。ギンが生理の時以外は、ほぼ毎日――まぁその――寝台の上で愛し合った。今日みたいな時だって、ご飯を奮発するか、夜に抱き合うことでほぼ間違いなく許し合う仲になれていた。
ヒュウ――パラパラ。
隙間風が、机の上にある版画版くらいの大きさの植物紙をめくる。そこにはいくつかの文字が大きく書かれていた。これらは、ギンの気分が乗った時に、人語を教えたりする教書であった。
最初は全く手応えが無かったけど、今では発音も含めて、ちょっとずつ学ぶということを試みてくれていた。
「フィルム先生ぇ!」
? 玄関扉の向こうから、大工のリトムさんの野太い声が響く。この家は彼のお父さんが建ててくれたのを、ふと思い出す。
「は~い」
……ギンと同棲することを告げた初期の頃、やはり彼女を警戒してか、村の皆が調合薬を取りに来る頻度は減った。
けど最近になって、ギンがみんなへ害を加えないことが浸透したみたく、今日みたいに訪ねてくれるようになっていた。
「(にしても、奥さんじゃなくてリトムさん本人が来るのは珍しい)開けますね」
ギンは耳だけをこちらへ向けていた。
ガチャ。
冷気が頬を撫でると同時に、まるで扉へ吸い込まれるみたく大柄な身体が現れる。
「どうし――」
「た、大変だ先生ぇ! ルクブットさんの家が雪牙熊の雄に襲われて、妹のメナリと子牛のチコがさらわれた!」
「!」
背骨の辺りが急激に冷たくなる。
メ、メナリが? い、一体どうして? そ、そもそも雪牙熊は雌雄両方とも身体が大きく、雑食性ではあるけど用心深く、人里へ近づくことすらあまりない。夏季は北部の寒冷地か冷たい洞窟の中で過ごす彼らは、秋になると山間の動物あるいはドングリや茸などを食い貯めして脂肪を蓄える。冬季は凍結していない川で白斑鮭を食べたりして越冬するはずだ。
冒険者が毛皮や爪、肉などの素材を目的にこちらから出向く事はある。また鮭が不漁で、白樺なんかの樹皮で空腹を満たそうと、山中で出会い頭であるならまだわかる。
そのどちらでもなく、積極的に向こうから仕掛けてくるなんて――。
「(これも真火竜の出現による影響? いや、そんなことの考察は後だ)と、とにかく現場へ行きます!」
「あ、ありがてぇ! 先生だけが頼りだ」
これほど頼りない相手もいないだろうと申し訳なく思いながらも、大急ぎで支度をする。
山鹿の毛皮の防寒具および登山ツールを装着して、なめし革の頭巾を目深く被る。さらに熱辛湯や、覚起薬にジギタリスを煎じた中級傷薬、携帯食、さらに――。
「(この際だ。流通禁止の秘薬も持って行こう)ん?」
携行袋の底に、かつての散光塵の残り瓶を見つけた。雪牙熊が相手だけど、まぁ目くらましくらいにはなるだろうか。
他に有用そうなものもあるにはあるけど、準備に時間がかかるからと、最後に銀の短刀を腰に差す。
「リトムさん。お待たせしました」
「すぐに案内――せ、先生。後ろのはどうするんだ?」
えっ? と振り向くと、胸巻きと恥部隠しを雑に身に着けたギンが、ジト目で僕を見上げていた。まだ怒りは収まっていないものの、何か異常が起こっていることを、肌で感じている風だった。
――ワーキャットはその高品質な体毛が示す通り、元々は寒冷な地方に生息していた種族だ。雪が降る山岳地帯での荒事を想定すると、ギンは心強い。
だけど。
「(恩人であり、大切な彼女を何度も危険にさらしたくない)――ギン、待ってて。晩御飯までには戻るから」
携帯予定のニジマスの干し魚を二匹とも渡すと、目を輝かせて受け取り、注意が逸れる。
「行きましょう!」
……雪が舞い散る現場は、酷い有りさまだった。木製の外壁には無数の大幅な爪痕が生々しく残っており、扉は取れている上に大きくひしゃげていた。丸屋根の一部が傾き、玄関は家具も含めてグチャグチャな有様であった。
メナリのお父さんとお母さんが、ベットの上にて横たわり、村の大人達が震えながら手当を進めていた。僕もすぐに治療に参加しようとやっかむも、うめき声にて二人が――。
「先、生。俺達は、大丈夫、だ」
「そ、それより、メナリを――」
! た、確かに止血は出来ているけど、かなりヒドい傷だ。特にご主人の方は右胸部から腹部にかけての裂傷がヒドく、縫合した方がいいくらいだ。
「し、しかし」
――でもどうする? 村の人達の手当に任せて大丈夫か? 普通の町なら、治癒官や癒し手が常駐していて手配できるのに。
でも確かに、時間が経過するごとに、メナリが危機に陥る可能性がどんどん膨れ上がっていく。いや、けど、しかし。
「(――どっちが正解かなんて、わかるもんか)雪牙熊の行方を見た人は?」
未だ混乱する村人達が顔を見合わせあう。
「お、オレ、が、見た」
皆の視線が集まる先には、傷んだ家屋の隅にて、泣き顔と共に震えるロームがいた。僕はそっと近づく。
「大丈夫かいローム? 怖かったよね」
「せ、せん、せぇ」
顔を涙で濡らす彼は、怯えつつ嗚咽を繰り返した。
「オレ、なんも、出来なかった。父ちゃんや母ちゃんが、襲われている時も、メナリが、さらわれた時も、ずっとただ隅の方で『オレの方に来ないでくれ』って。じぶ、自分のこと、ばっかりで――」
頭を抱えて、その非力さを垂れ流し続けた。――僕は屈みつつ、その小さな頭を撫でた。
「六歳なんだから、それが普通だよ」
そうだ。僕だって父さんと採集のために山へと入って、数え切れないくらい情けない姿をさらしたのを思い出した。弱いことが、罪ではないと信じている。
「――うん。うん、ありがと先生。あ、あっちの方へ、行ったよ?」
震える小さな爪先が指す、破れた壁の向こうへ目線を送ると、僕を含めた全員の顔色が変わる。
このミブの村はリブリア山地の中腹に建っているけど、その北側の近くに不可思議なほど急峻な地形がある。
――白落谷。白い流紋岩で構成されるこの谷は、足の踏ん張りが効かず、また濃霧が発生しやい場所であった。滑落の危険が非常に高い谷で、村人はもちろん、野生動物や魔物ですらほとんど近寄らない、いわくつきの谷だった。
「ロームはお母さん達の傍にいるんだよ? ……リトムさん。これ中級傷薬です。お二人に使ってください」
二本ある内の一本、くすんだ緑色に光るガラス瓶を渡す。
そして、白落谷方面へ視線を戻す僕に、男性陣達が意を決したみたく口を開く。
「せ、先生。もしよかったら俺達も」
「そうだ。村の男衆も一緒に――!」
「ダメです」
きっぱりと断る。
「基本的には臆病な雪牙熊が突発的に人里を襲うという不可解な状況です。それに悪天候な情勢下で、男性達が村を離れるのには賛同しかねます」
どんよりと重そうな雪雲は、まるで分裂するみたく厚みを増している気がした。
「(午後はもっと降るかもしれない)手当以外で手が余っている人は、村の各出入口で焚火を行ってください」
おそらくは安堵しているであろう彼らが、嬉々として準備を始める中、靴の先を白落谷の方へ向ける。
「フィルム君」
振り返ると、思わず目を丸くする。
そこには雪山装備を完全に着込んでいる長老が立っていたから。使い古してはいるけど、しっかりとした帽子や手袋、靴を身に付けており、上質な伽羅木で作られた長弓を胴体に引っ掛けていた。腰筒には何本もの羽矢が収まっており、大股で歩く様は、健脚であることを示していた。
「ワシも行こう」
「! だ、ダメですよ。この村で一番大切な人を危険地帯なんかに――」
「そりゃお前さんじゃろうが」
ザワザワと皆が騒ぐ。僕が二の句を告げるよりも早く。
「言ったじゃろう? 昔は名の知れたちょっとした弓士じゃったと。――それに」
長老はぐるりと周りを見回した後、僕を正視する。
「これまでも、そしてこれからも、村において一番必要なお前さんが出向くのじゃ。責任者のワシが行かねばなんとする」
「いや。そんな――僕なんて」
薬作りしか能が無く、さらに腕に覚えのない僕が大見得切って出発するのは、確かに不誠実と言えるかもしれない。
けど、だからと言って、ミブの村の精神的な支柱である村長を――。
「フィルム君。若き命はまだまだ燃えられる。じゃが、古びた命は、燃えるにも限度がある」
緊迫に似た状況下において、まだ若すぎる僕には、すぐさまに反論の言葉が浮かんでこなかった。
「この悪天候に魔獣が相手じゃ。ワシに出来ることは限られている。じゃがワシに出来ることは精一杯やろう!」
――それは村長という役職だからとは、到底思えなかった。この人は、意思をもって意志を果たそうとしている。それは、かつて見た父さんの気迫に似ていた。
「――では、お言葉に甘えます」
やがて皆に見送られて、北を目指す。色々な意味で焦り急く僕は、村長がその時にこぼした言葉の欠片なんて、気にも留めなかった。
「……今度こそ」
* * *
白く染まる谷間へと続く山道は、美しくも冥府への隠し道みたいに思えた。コナラやブナの高木がまるでもがくみたく、灰色の天に枝を伸ばしていた。
「大丈夫ですか?」
「何の、これしき」
村長が先頭で、僕が殿という隊列で、積雪が深くなっていく尾根沿いを、二人して前進する。
「ぶえっくしょい!」
吹きすさぶ吹雪は悪意すらありそうで、蝕むみたく体温を奪われていく。手指の感覚もどんどん鈍っていく。
「――村長。これを」
赤い液体に満たされた小瓶を取り出す。コルクの蓋を抜くと、目と鼻の奥がチリチリと熱くなる。
「な、なんじゃこれは?」
「山辛子なんかの貴重な香辛材を調合し、無花果で飲みやすくしたホットスープです。体の内側から体温を高めます」
「どれ――っ! か、辛っ」
代わる代わる口にしつつ、少し雪を舐めて舌を落ち着かせて、再び足を動かす。
「! フィルム君。待て」
森がいくらか開けると、谷へと続くその手前の平場が見え始める。! そ、その真ん中のわずかな窪地だけ、雪が真紅に染まり、さらに周囲には、肉片や白い、骨、が――。
「「っ!」」
村長を追い越して惨劇の中心へ走り向かう。
鋭利な牙や爪の痕は、まるで獲物を必要以上に甚振り、傷つけた風であった。その後に舐り吸い、一部の骨をすら咀嚼した様子だった。
「こ、れは」
滴った血は新鮮で、一部は赤く凍っていく。震える指先が無残な遺骸に触れ、微かに朱に染まる。
「どうじゃ?」
「おそらくですが――子牛の、チコです」
損壊が酷くほぼ肉が無いため、精査は出来ていないけど、骨の数や形、大きさから人間ではないとの推論が打倒だ。
「フゥ。ただでさえ短い生い先が、ますます短くなったわい」
「無理しないでくださいね」
にしても、雪牙熊は腕力に優れる魔獣だけど、雌を巡っての雄なんかでなければそこまで好戦的ではないはず。村にしてもそうだったけど、なぜこんな過重なほどの攻撃行為を?
「村長。あっちを」
谷を目指すみたく、蹄みたいな大きな足裏が積雪に刻まれていた。その一つに赤い血が付いていたので追っていく。
やがて断崖絶壁にて立ち止まり、僕が――そして村長が口を開く。
「これが――」
「白落谷、か」
雪に覆われた急峻な崖は、まさに天然の壁であり、底は降雪と曇天のせいでよく見えなかった。極稀に生えている木々は高山植物みたく背が低く痩せ細っており、まるで槍みたく崖から突き出ていた。
さっきの足跡は壁を這うみたくその険しい斜面を斜めへ降り行き、けど約二十ヤード(※18.28メートル)くらい先にて、忽然と消失していた。
「(滑落したら終わりだけど)途中で形跡が……消えている?」
「あの辺りに洞窟でもあるのかもしれん」
村長は矢筒より一本の矢を取り出し、さらに荒縄を引っ張り出す。
「どうするつもりですか?」
「矢羽に縄を括りつけて、あの付近へ打ち込み射る。そしてこの場所に木杭を打って固定し、縄づたいに降りるぞい」
名案。さすがだ。
「さっきの辛い汁のおかげで、身体がホカホカで指先も問題ない。――そぉい!」
ピュン!
弦が空を切ったかと思うと、矢はまさに雪に付着した最後の血痕へと突き刺さった。
「お見事です!」
「くかか。昔取った杵柄じゃな――ワシから降りよう」
杭を地面に打ち込み、さらに石でガヂガヂに固める。
縄で胴体を一巻き、二巻きしてから、力の限り握り降りる。その光景は絶句もので、谷を降りるというよりは崖をゆっくり落ちるという感覚に襲われた。わずかな礫に生える凍り濡れた蘇鉄は岩肌よりも滑り、まさに手に汗を握りつつ落ち進む。
「フィルム君っ」
まるで猿みたく、先に降りた村長は周囲の積雪を払いつつ、手招きする。
! 何と崖の中へ続くような洞穴が垣間見えた。雪風の音に遮られつつも、何か極小の音が洞内から聞こえる気がした。
ビユユフゥ!
「っ」
凍てつくみたいな谷風が頭上から荒び吹く。村長は手をかざしつつ、凍りかけの髭を揺らす。
「一応は聞くが。どうする?」
僕は屈みつつ、油脂を補充したランプを再点火させて、腰に結び付ける。
「メナリの安否確認を最優先で。避けられる戦闘は全回避します」
「かっかっか。昔、山小鬼の巣へ突入したのを思い出すわいっ」
意を決して天然の洞窟へ入り込む。風による寒波が治まったのだけは救いだった。
洞の広さは大人三人が並んで通れるくらいの幅と高さだった。壁に生えている光苔のおかげで何とか明度も保たれて――。
「ん?」
「早速なにか見つけたかの?」
違和感を感じて、壁に近寄ってヒカリゴケを視認するに、生え方が少し不自然に感じられた。
「(群体の規模は小さいけど、しっかりと根付ている)まるで移植されたみたいな――」
雪牙熊にこんな芸当が出来るわけがない。まだ奥に何かが潜んでいるというのか?
考えられるとしたら、魔術士協会から追放されたはぐれ魔術士とかが? しかし、そうなら明度の魔術なんかで事が済むはず。
「(今は考えても仕方がない)すみません。急ぎましょう」
まるで標みたいに奥へと続く光苔のおかげで、途中の起伏や陥没箇所も難なく避け進められる。さらに吸血蝸牛の巣を事前察知できたのは助かった。
しかし徐々に空気が淀み、唸り声? が奥より稀に届くようになってくる。
「!」
暗い道が枝分かれしていた。右側はやや広く、光苔が点々と続いていた。左側は少し狭く、真っ暗だ。音は両方からわずかに聞こえるも、臭いでの判別は空気が滞留しているせいで難しい。
「どうするかのぉ」
――僕は、僕はこんな、こういう大一番でいつも選択肢を誤る。子供の頃からの経験値で、そう結論づけざるを得なかった。うだつが上がらないという言葉がピッタリな気すらした。
直感だと右の道な気がする。つまり、左に行った方が――。
「……」
けど、なんだろう。やっぱりこの光苔が気になる。この発光するだけの苔が、僕の中の何かに訴えかける気がした――。
「二手に分かれるかの?」
なるほど、そういう選択肢もあるな。
「村長は左をお願いできますか? 猶予がある前提ですが偵察をしつつ、合流してから事に当たりましょう」
「委細承知!」
すっかり頼り切って申し訳ないと思いつつも、靴先を右側へ向けて冷たく堅い岩肌を蹴る。
……やがて一人になると、改めて心細くなってしまう。――いや、メナリは(生きていて)もっと怖くて震えているはずだ。
奮起しつつ、やがて深部の手前へと辿り着く。空間が大きく広がりを見せ始めて、なぜか奥から明かりが差し込んでいた。
「太陽の、光?」
最初こそ、どこから光が入ってきているのかと驚いた。けど良く見ると、村の広場くらいの広さの天然の空間、その天井中央に丸い穴が一つ穿ち空いていたのだった。逆さ煙突みたいな風なその穴はどうやら地上まで伸び繋がっており、光と共に雪を運んでいた。
急いでランプの火を消して、入口付近で身を屈めつつ、状況を精査する。
「!」
あちこちの岩肌が、まるで仇のように削り砕かれていた。明らかに自然現象ではなく、その原因へと目を向けるっ。
「……グルルル。ウルルル」
白くぶ厚い毛皮は逆立っており、また自傷のごとき痕が多数浮かび上がっていた。鋭利で伸びた爪と涎に塗れた牙は、まるで染料で染め上げられたみたく黒く、敵意に染まった目も同様だった。体躯についても、以前に夜の森で遭遇した毒蜘蛛の五倍以上はあった。
およそ僕の見知る雪牙熊の外観や動静とはかけ離れていた。――そして同時に目の端がもう一つの、微かに動く小さな人影を捉える。
「(メナリ!)無事かっ?」
奥の方の隅で震え蹲っている彼女は、紫の唇のまま顔面蒼白だった。
そして――えっ? そのすぐ隣には――ボロボロの、だが見慣れた衣服や携帯鞄、剣を帯びた骸骨が……!
ドックン。
「ま、さか」
藍色の羊毛で編まれた衣服、茶色の革製のズボンは、見慣れたものであった。
ドックン!
「(なん、で。父さんの、白骨、が?)ど、いう」
動揺が波紋みたく、心と皮膚の間にて波打つ。爆発しそうな心臓を、手で強く抑えつける。
――落ち着け。落ち着くんだフィルム=イシュタ! とにかく今は、メナリに集中しろ!
「に、しても」
子牛のチコがあの惨状であったにも関わらず、なぜメナリは無事なんだ? 巣まで連れて来られたのはともかく、どうして生かしているんだ?
空腹じゃないから? しかし、さっきの不必要なほどの獲物への攻撃と猛り狂っている様子から、ねぐらまで持ち帰った獲物へ何もしないのは腑に落ちない。
「ぁ。ぅ、ぃ」
呻くメナリの容態が気になる。服装がそこまで厚着でなかったの家から引きずり出されてさらわれたからに違いない。
――ォォォォ。
? なんだ? 今、雪牙熊の頭の付近の空気が、まるで濁るみたく揺らいだ風に見えた。
「オオオ、グゥゥァ!」
ドシン! ズシン! と突然の地団駄は、もはや微震とすらなり得る勢いだ。まるで本で読んだ一つ目巨人の足踏みを彷彿とさせる威勢であった。
おそらく危険度C以上であろう雪牙熊は、忌々し気に、メナリと父さんの遺骨へ向き直り、全身での威嚇を繰り返していた。
「グオオォォ!」
まだ辛うじて意識のあるメナリが、白目を剥きそうになる。
「あ、ぁ……」
チョロ、チョロロロ――。
小さな湯気が立ち上がったかと思うと、メナリは失禁してしまう。さらに糸が途切れた操り人形みたく倒れ伏し、身体を縮こまらせる。
ダメだ。これ以上の様子見は許されないし、村長を呼びに行く猶予もないっ。
「(覚悟を決めろ僕っ)――待てぇ!」
跳び立ち上がり、人生で初めてと言えるくらいの怒声を張り上げる。
冷たい空気は膜のように震え、その逆立つ大きな耳を動かす雪牙熊は、敵意を超えた殺意の視線を向け刺してくる。
ふ、震える右手は毒を塗布した銀の短刃を握りつつ、左手は携帯袋へ突っ込んで油紙に包まれた一服の赤い薬を取り出す。
「(僕の耐力だと砂時計くらいが限界)――メナリは返してもらうぞっ!」
牽制するためではなく、自分を鼓舞するために叫ぶ。
「オオオオ!」
ガガッ!
雪牙熊が凍った地面を蹴り進むのとほぼ同時に、薬を服用する。肥料用の糞尿をさらに酷くしたみたいな臭いが鼻から抜け、生臭い味が舌の上にベチャっとへばり付く。
ドックン!
ッヅヅ。し、心臓の皮が厚くなったみたいに脈動し、蓄積されていた身体の疲労が吹き飛ぶ。視界にて動く物の全てが遅く見えて、全身に力がみなぎりだす!
――飲み込んだのは戦壮薬。分量を誤ると致死や中毒に陥る素材を複雑かつ精密に配合した、四大秘薬の一つを模倣して、さらに調整した薬だった。副作用を背負う代わりに、一時的だけどあらゆる身体能力を高めるため、特に戦時は重宝した。
「(突進の速さが半分以下に見える)ここだぁ!」
左前方へ跳び避ける。突っ込みすぎた雪牙熊は方向転換しようとするも、凍った石によりぶんばりが半減する。肉薄したその瞬間に刃を繰り出す。
ズシャッ。
っ硬い! ――刃の半分も入らず、けど右前肢の付け根を傷つけて血を飛ばす。
「(身体強化してなおこの手応え)麻痺系統の毒だけど効果は――えっ?」
眼前の獣が、まるで藻掻くみたく顔を洗う動作に、違和感を覚えた。
なんだ? その憎しみに悶える表情より、一瞬だけど黒い陽炎みたいなのが、揺らめいた。
「ガアアァッ!」
劈くみたいな咆哮が空気を押し弾いたかと思うと、僕――というよりは、なぜか銀の短刃を睨み叫ぶ。それほどの深手を与えられたようには、見えなかったけれども?
ガン、ダッ。ガガッ、ダダン!
! 再び猛突進がくるっ。
「(速い!)っつ」
足にこれでもかと力を込めて前方上へ跳躍し、鉄のごとき背の上をかわす瞬間、その背中めがけて刃を振りぬく。
ブシュ。
背中のほんの一部を切開するも、致命傷にはほど遠い。そして毒が効いている風にも見えなかった。
「(僕は何か、思い違いを)しているのか?」
――そもそも戦闘技能が低い僕の身体能力を底上げしたところで、この魔獣と渡り合うのには無理があった?
いや、今さら弱気になるな! 何とか着地する視界の端にて、少しずつ冷たくなるメナリと父さんらへ顔を向ける。圧縮したみたいな時の中で、ふとかつての記憶を思い出した。
『フィルムせんせぇ。いつも――あの――ありがとぉ』
『よく間違えずに出来たな。流石は父さんと母さんの息子だ。フィル』
……その温かく眩しい、光の残影が、僕のぶれる軸を正してくれる。
「諦めない。諦めないぞ絶対に!」
そう凍った洞内に反響させつつ、再び刃を構える――けど。
「へ? ――わっ!」
ズッシン!
四足全てを使った足踏みで、こちらの態勢が崩れた瞬間――からの飛び掛かりぃ!
「くぅぁ」
横っ飛びで無理くり避けるも、着地の際に右足首をぐねってしまう。けれども、幸か不幸か二人の――メナリ達の方へ転がりこける。
手をついて起き上がろうとした瞬間だった。
「⁉ づぅ、ぁぐ」
凄まじい立ち眩みがして、さらに体全身が鉄の板を張り付けられたみたいに重くなる。
「(もう薬の効果が? いや、それだけじゃ)――くっ、あ」
高熱に冒された時みたく、関節痛が身体の節々で膨れ弾ける。
震える身体は言う事をきかないほどで……副作用が、これほど、とは。
「グゥルルルゥ」
僅かな血を垂らしつつ、だがようやく毒が効いてきてか、動きがゆっくりになっていく。
――命拾いしつつも効果時間は不明で、見方によっては、加虐的に獲物を追い詰めるみたくすら思えた。
重く震える右手を、再び荷物入れに忍び込ませようとした時だった。
「正射必中!」
ヒュン!
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カン!
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「(ダメだ。このままじゃ全滅する)どう、したら?」
救いを求めるみたく、痛む首を動かして、横たわるメナリと父さんの遺骸を見る。
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……チャンスは一瞬で一度っきりだ。散光塵の入った小瓶を取り出す。メナリと父さんの遺体を背に立ち上がる。
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「グオオオォォッ!」
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