赤い満淫電車

ニッチ

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一両目

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 …………
 ……
 ――タタン、カタン。ガタンカタン。

「う。ぁ、ェ?」

 どこ、え、いま何時? ……時間の感覚もわからないまま、パズルのピースを集めるみたいに、少しずつ意識を取り戻す。ぼやける視界の中で、男性? に囲まれているのがまずわかった。とは言え、電車の小さな振動にすらひざが笑いそうになるくらい、全身に力が入らなかった。
 電車? 私の意識をよりくっきりさせたのは電車内にいるという事実と――ツーン――とした汗臭だか加齢臭、もしくは両方が混じった臭いだった。ムカムカして不快になる中、皮肉ひにくにも思考力がちょっとずつ戻っていく。まるで気付薬きつけやくみたいに。

「ここ、って?」

 暗い車内照明、蒸し暑さと軽い振動も走行音、何よりこの圧迫あっぱくするみたいな人口密度は?

「(そうだ! 確か私は、よく分からない人影だか男だかの指で胸を刺され)……ていな、い?」

 あごを引いて胸のミゾオチの辺りを見るけど、皮膚ひふどころか、ブラウスにすら穴なんてなかった。そ、そんなはずないよ。だって、は、忘れたくても忘れられない。
 てか本当にどういうこと? 酔って電車に乗って、立ったまま寝てたとでも? けどさっきの生々しい感覚が、夢だなんて到底思えない――。
 サワワ。

「っ!」

 ほ、放心していたところで、スカートの上からお尻を撫でられた。最初は手の甲での確認するみたいな、この触り方は――。
 振り向けないけど多分、後ろにいる五十代のサラリーマン風の男だ。でも私はどうして、この痴漢行為を知っているの?
 グニ、ググ。
 わ、私が抵抗しない(できない)ことを確認しながら、スカートの上から右側のお尻へ手のひらを押し付けて、五本の指を吸い付かせていく。
 モミ、モニュ。
 悪寒おかんがお尻から次々と湧き出る中、卑劣ひれつな痴漢行為よりも別のことに意識が向いてしまう。――正直信じられないけど、まるで時間が巻き戻っているような、もしくは

「ひぐ、う――」

 ……あ、あはは、何よソレ? 出来の悪いSFやホラー映画だってここまでヒドくないわ。――そうだ。きっと私は家に帰って、酔ってそのまま寝てしまって、馬鹿みたいな悪夢ゆめを見ているだけ。そうじゃなきゃ、誰がこんなアマチュア未満のド素人が思いつきそうな、アニメや漫画みたいな、変態へんたいな展開に巻き込まれるなんて……。
 ツー、プニ。

「いっっ」

 す、スカートの中にまで腕が入ってきて、左の太ももを人差し指でなぞられる。
 どっちにしろ言えることは一つ。現実だろうがと悪夢だろうが、こんな不快な思いを、目覚めるまで続けるなんて、ありえない、耐えられないっ。嫌悪感と怒りがミキサーみたく混ざり合いながらも、周りを確認しつつ思い出す。
 さっきの『痴漢よ!』って叫んだ直後と違って、乗客達はまばたきも呼吸もしてるし――いぅっ――あ、欠伸あくびだってしている。

「ハァ、ハァ」

「!」

 モニグニ。
 ぱ、パンツをTバックみたく食い込まされて、剥き出しのお尻に指をうずめられる、ってところも私は知っている。確かこの後、電車が揺れて――。
 ガタン、タタン……キキッ!

「わっ」

 急ブレーキで、後ろの痴漢へ身体が揺れて、生のお尻を掴み持って支えられて――っ――なんて恥辱ちじょくを、受ける。それから叫び声を出したんだっけ? 痴漢行為は止まったけど、乗客全員が動かなくなって――。
 ペト、モミ。
 つ、次は両方のお尻の肉を堪能たんのうするみたいに、揉み触られる。とり、とりあえず、お尻からくる最悪な感覚を出来るだけ無視しながら、歯を食いしばって耐え続ける。
 ガタンタタン。カタン、ガタン。
 ――やっぱり周りのみんなはまだ動いているし、呼吸もしてる。つまり、さっきの人形マネキン化現象は、私が大声を出して痴漢行為を中断ちゅうだんさせたから起こったの? でも私が我慢して、それを先延ばしされたからってどうなるって言うの? どっちにしろこのままじゃ、私はサレたい放題で――。
 ピラッ、ピト。

「っ?」

 なんか、お尻が涼しくなった? っていうか、触ってくる手以外にも、ナニか、硬くてヌメヌメしたモノが、お尻や太腿ふともも、股間付近に当てられて――。

「(まさか)嘘っ!」

 思わず口を抑える。だ、だって、恐怖とも言える気味の悪い感触かんしょくが、私のお尻を汚すみたいにこすられ続けるんだもの。し、信じたくないけど、多分スカートをめくり上げられた上に、!?
 グズニュ、シュニュ。
 た、確か前の彼氏に私が、『生理中でエッチが出来ない』って断ろうとしたら頼まれた、素股すまた、ってヤツ?
 ズッチョ、ネッチョ。

「ぅ、くっ」

 ほ、ホント信じられんない! 内太ももに無理やりはさませて、パンツにもこすりつけるみたいに――いやっ――腰を強く前後させてくる。しかも電車の中で!
 ……目をつむって汗を浮かべる私は、身体を強張こわばらせながら我慢できなくなってくる。やっぱりさっきみたく叫ぶ? けどここで叫んでも、振り返って殴っても、さっきと同じ展開になるような気がしてならない。そして、、だけはもう絶対に受けたくない。

「(結局、耐えるしか、ない?)ひっ、う」

 もう後ろ側のスカートは完全にめくられて、剥き出しのお尻に赤のパンツを食い込まされて、握り揉まれていた。そして道具オナホールに男性器を突っ込むみたく好き勝手にされて、我慢汁カウパーえきで股やパンツがヌルヌルに濡れ汚されていった。

「ハァ、ふぅぅ、ハァァ」

「ひっ」

 その上、臭くて荒い息をうなじの辺りに吹きかけながら、猿みたいに腰を前後され続ける。屈辱感くつじょくかんと生理的嫌悪で生まれる涙が、嗚咽おえつと一緒に漏れるのを、必死に耐えるっ。

「あぐ、ぅぁ」

 ガタンカタン。ガタンタタン!
 気色悪さが三周くらいして、股間やお尻が麻痺まひして来た時だった。痴漢の腰使いが強まって、思わず私が前に倒れそうになるのを腕で掴まれる。
 ……ドピュ! ピュルル、ビュー。トポッ、ピュ。

「あっあ、ア」

 だ、男性器がビクビクと収縮しゅうしゅくするのを、内太ももと股間越しに感じてしまった。スカートの裏側とパンツ、そして太ももが。痴漢の生温かい体液が、脚をつたっていくゆっくり落ちていく感覚に、涙を押し留めることが出来なかった。

「ひ、ぐっ」

 ――ポンポン。

「っ!」

 し、信じられない! まる、まるで肩を叩くみたいにお尻を二回ほど叩かれる。痴漢の狂った感性に、ホンッッット吐きそうになった。
 胸の奥に熱い痛みを覚えながら、けど周囲のある変化で、思わず涙が目の奥に引っ込む。
 ザ、ザッ、ザザ。

「――えっ?」

 だ、大混雑の電車の中で、。正確に言うと、今まで突っ立っているだけだった乗客達が、体を押し合いへし合い、次の車両への道が現れる。ど、どういうこと? 痴漢以外は全く動かなかったのに……そうだ痴漢は!
 周りにスペースが出来たから、情けなくパンツとスカートの位置を直す私は、恐る恐る振り返ろうとする。汗で顔に引っ付いた、髪の毛を取り払う余裕もなく――。

「……」

 五十歳前後の古びたスーツ姿の男は、射精後でダランとした男性器を、社会の窓から出して立ち尽くしていた。まるで鼻歌でも口ずさみそうなくらいリラックスした表情で、私なんて気にもせずにボーッとしている様子だった。

「はぁ、ふく――っ」

 引っぱたいてやりたい気持ちでいっぱいだけど、またナニかされないように顔をそむける。戻した視線の先にある次の車両への扉を目指して、人の壁で作られた狭い道を横向きに歩いて行く。汗と涙でメイクが少しげかけている顔は、きっとひどい表情だったと思う。お尻に未だに残る、ねばつくみたいな気色悪い残滓ざんさを無視して、やがて車両扉の前までやってくる。

「前と、少し違う?」

 白いにごりガラスみたいだった。確か前に見た時は赤い変な汚れ方をしていたような……。
 ガタンカタン。カタンタタン

「と、とりあえず、立ち止まっちゃいけない」

 あの得体の知れない六本指の男がいない事をいのりつつ、にぶく重い扉の取っ手へ震える指を添えて、力を込めた――。
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