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第2章:秀吉の憶えめでたくなろう
プレゼント失敗。『藤吉さんっ……残念っ!』
しおりを挟む「名前はなんじゃ」
「はっ。ウナギの蒲焼と名付けましてございまする」
隣に座る秀吉が、信長に蒲焼を献上している。
俺の仕事である火薬製造の経過報告と一緒に、新開発の醤油とみりんを使ったウナギの蒲焼を作ったのだ。砂糖使えないんで甘さ控えめになっちゃったけど。
もちろん俺のアイデアだ。
あのクサい出来事で秀吉との仲が壊れると、老後プランが崩れかねない。だからちょっと出世の手伝いをしようかと思ったんだよ。
火薬製造をしていると、信長が銭の工面に苦心している事がよくわかった。だから薪炭奉行を設置してはどうかと献策したんだ。
もちろん発案者の俺にやれと言ってきたけど断った。だって町奉行だけで手いっぱいだよ。これ以上仕事するとサブカル時間が……げふん。寝る時間すら無くなる。
なので信長も目をつけていた気の利く奴、藤吉郎にやらせてみることを勧めた。
今までは足軽に毛が生えたような地位だったけど、これで一躍役職付き武士にランクアップ!
俸禄も5貫文(100万円)から、一気に20貫文(400万円)に。
しがないパートのあんちゃんが、正規社員になった感じだな。
顔をぐしゃぐしゃにして喜んでいたっけ。
あれもユニークスキルだな。大喜びすると「また喜ばせたい」と思わせる得な人柄。
これも真似したいものだ。
「で、どうするのじゃ」
「はっ。薪炭の使用量を減らすだけでは、織田家の収支は大して変わりませぬ。故に減らすよりもそれ以上に増やす策を考え申した」
それ、俺が考えたんだけど。
言わなきゃ気づかない。気づかない。
「この辺りはウナギなどの産地。これを蒲焼として売りまする。ことに東海道や鎌倉街道が交わる人の往来が多い尾張ですので、宿場町などでこの店を多く出させます」
信長が天下を取る寸前までいったのは、この立地条件が良かったせいだ。
人が集まるところには金が集まる。その金を吸い上げる政策を実行に移したのだ。
楽市楽座なんかはその典型。
「この蒲焼の特徴は、焼く時に香ばしい煙を多く出すこと。それに釣られて人はどうしても食いたくなりまする。
一度食わせればしめたもの。次に尾張を通るときには、ここで宿を取るなどして蒲焼を食おうと致すかと」
信長は頭の回転が速い。
その有用性を即座にシミュレート。
これは相当な銭を生み出すと判断。
秀吉に命じた。
「よう考えた。
見せてみよ!」
だから何を見せるんだよ。
ちゃんと言わないと普通の家臣がついて行かないよ?
やっぱり家臣が謀反するわけだよな。
……あ~、一番派手にやっちゃったのは、俺か。
けれど『この俺』はやるつもりはありません。
だって、信長怖いから。
俺の座右の銘は『長いものには巻かれる』だからな!
◇ ◇ ◇ ◇
大繁盛だ。
何がって?
東海道と鎌倉街道の交わる鳴海や清洲、それに海運で巨万の富を生み出している津島。
ここで蒲焼を売り始めて3カ月。
交通量が50%増し。
これもきちんと計測したんだよ。
こういうデータをしっかり取ることも献策した。
この時代、こんなこと重要視されていないからな。次回の献策は地図作成だ。測量をして道路整備に使う。
「やあ、これは光秀殿!
感謝じゃ。信長さまにお褒めの言葉と褒美を頂いた。役職に次いでこのような取り立て。全て光秀殿のお蔭。この御恩、一生忘れませぬ」
それは有難い。
ぜひ天下を取ったときには、多くはいらないからさ。100万石程度でいいから領地ください。お城建てても秀吉みたいな黄金の茶室なんか作らず、6畳1間のサブカル空間を再現して閉じこもるから。
そのためなら何でもするぞ!
「蒲焼に山椒の粉をかけるとまた絶品になりますなぁ。これから寧々殿に食べていただこうかと。では失礼いたす」
そうかそうか。
北政所、寧々ちゃんと仲良くしてな。
俺も少しは好印象を持ってもらわないと、秀吉死んだあと関ヶ原で東軍に付けなくなるかもしれない。
徳川家康との橋渡しを頼まないとだから。
後で仲良し作戦を考えておこう!
◇ ◇ ◇ ◇
考える必要ありませんでした~
次の日には寧々ちゃん、俺んち来たっす。冷めた蒲焼もって。
で、開口一番。
「教えてくださいませ。
この蒲焼、実は考案なされたのは光秀様でございましょう?
正直に申していただきたいのです」
なんだなんだ?
なぜ寧々ちゃん、怒ってんの?
「実は藤吉様が私と父上母上にと蒲焼を持ってきてくださいました。その時、ご自分の手柄として自慢しておられました。
ですがわたくしは疑問に思いました。
だって醤油とみりんを作られたのは光秀様。その際にわたくしの家で炭をお貸しいたしましたから。よく覚えております。
その時お作りしていましたでしょう? この蒲焼。」
会ってからよくよく見ると俺んちの隣は寧々ちゃんの家でした。
うちは超倹約状態だからな。酒飲みもいるし、鉄砲製造やサブカル材料の収集で、いくら銭があっても足りない。
だからちゃっかり炭借りちゃいました。
「わたくし。嘘をつく方は嫌いです。ましてや人の手柄を自分のものとするお方には近づきたくもありませぬ」
あちゃ~。
これってギャルゲで好感度爆下がりのフラグ選択した感じ?
大抵、修復不可能なイベント。
秀吉、お前。
寧々ルート終了だぞ、きっと。
だが、俺は諦めん!
何とかして正史のルートに戻ってもらわないと、先が読めないプレイとなってしまう!!
「寧々殿。
それは勘違いというもの。
それがしが考えついたのではありますが、藤吉郎殿は工夫を凝らして実際に運用をされたのでごさいます。
藤吉郎殿の手柄と言ってよい仕事ですぞ。それがしはあくまでも手伝っただけにて。ここはお見逃し下さい」
あくまでも手柄は譲ろう!
寧々ちゃんに手を出したら後が怖い。
いい女はきっと沢山いる。
あとでアゲハに探させよう。きっと可愛い女がいるはず。
俺を好いてくれて、俺の趣味に寄せてくれる子。ついでに小柄で妹系アニメ声がいいな。三つ編みなんかが似合う子。銀髪なら死んでもいい。
その子に好かれればいいや。
「そのような手柄を譲るような行い。この戦の世では生きていけませぬ。きちんと正直に報告せねば、信長さまに間違った判断をさせてしまいます。
信長様が出来る者を出来ない者として考え、出来ない者を出来る者と考えていると、きっと誤った判断をなされ織田家が滅びまする!」
ひゃああ。
なんちゅう、正論。
さすが後に北政所様になる聡明な人。
なんか惚れちゃうな~
いやいかん。
ここはあくまで謙虚に。
秀吉に好感を持ってもらわねば。
だが。
ここまで秀吉の評価低くなると、親の反対押し切って秀吉との身分差婚を強行した寧々ちゃんが、そんな強引な結婚するか不安だよ~。
「こんにちは。寧々殿、こちらにおられましたか。藤吉でござる。
先程は何か勘違いを……」
ぽんっ
べしゃり
ぱ~ん
ぐしゃ
寧々ちゃんが、櫛やかんざし、匂い袋。
その他諸々を、急に俺んちに入って来た秀吉に投げつける。
「このような贈り物。お返しいたします!
私は贈り物ではなく、誠意と中身のある言葉が好きでございまする。
そして他者を思いやる心。自分の立身出世ばかりを追い求める方は、大っ嫌い!!」
秀吉、ボ~ゼン。
俺もボ~ゼン。
怒りに我を忘れて目を赤くした寧々ちゃんが家を出て帰っていく。
「こうなっては、誰にも止められないんじゃよ……。光玉も虫笛も効かないだろうなぁ……」
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