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私、今、人生最大のピンチです。
「───貴女、わたくしの話を聞いておりますの? (そんなに震えて怯えなくても何もしませんのに…。)」
‥えーと。えーと。…えーと。
「──エステル様、もしかするとフォートレックさんは“耳が遠い”のかも‥。(わたしが話しかけた時は普通に聞こえていたようだけど、ここまで反応が無いとなると、聞こえ方に波がありそうですわ。)」
「あら‥そうなの、貴女? (まぁ、そうだったらどうしましょう。もっと近づいて話すべきかしら…。)」
「それでしたらエステル様、わたくしにお任せください。──ちょっと貴女!ここに来てからずっと黙りこんでますけれど、この声量なら聞こえるでしょう?!何とか言ったらどうなのですかっ!(ステルもマノンも尋問は苦手だから、私がしっかりしなくちゃ!!)」
ど、どど、どうして、どうして、こうなった?!!
───今、私の目の前には、ひと目で上質と分かる絹の淡桃色のドレスに、これまた高そうな装飾品を身に付け、藍色がかった黒髪ロングを優雅に巻いてる、紅桔梗の瞳の壮絶美女が立ちはだかってます。
青Fの【悪役令嬢】───
もとい[ティタ二ア王国の三柱]である、
エステル-グレンケラー・アストリア公爵令嬢様が。。
そして彼女の左右に並ぶように、青Fでは悪役令嬢の『取り巻き』して登場する、
アイリナ-セントラル・スタッドリー侯爵令嬢様と、
マーリン-エルク・ノイゼン侯爵令嬢様がいらっしゃいます。。。
(う、うぇええええ?!!)
この裏庭って・・・ハッ!!!
ままままままさか、青Fの主人公が初めて悪役令嬢に遭遇した、あの[場所]じゃないの?!
改めて周囲を見回してみれば‥‥マジか…。
あったよ、あの木が。。
青Fの[裏庭]シーンの背景で描かれてた、
太い幹に“ハート型”の穴が空いた、特徴的な楠木が。。
(ははは‥マジか‥‥マジですかぁーーーー…。)
さっきから目の前の御三方が何か言ってるけど、私は今それどころじゃなかった。
全身から嫌な汗が出てきて視界はボヤけてくるし、頭の中では今後[裏庭]で起こるだろう《遭遇イベント》のストーリーがぐるぐると回っているからだ。
私は下を向いたまま一言も話すことができないでいた。
主人公が初めて悪役令嬢に会うこの《遭遇イベント》は、青Fでいうところの“分岐点”に当たる。
この“分岐点”が非常に厄介なのだ。
まず、主人公が悪役令嬢と取り巻きの二人に難癖を付けられていびられる、お約束通りの展開が入るんだけど。
てゆーか今まさにアイリナ様が“いびりモード”に入ってるんだけど。
そこは攻略対象の【恋愛ルート】から逸れれば無くなる筈だから、一旦置いとくとして。
問題はこの《遭遇イベント》が、[選択肢]によっては攻略キャラが登場することと、登場した攻略キャラの【恋愛ルート】へ突入することにあるのだ。
(おおお落ち着け私…っっ まだ間に合う。まだ何も選んでないんだから、まだ間に合うっっ。)
そうだ。確かさっきマーリン様は私のことを、“耳が遠い”って勘違いしてた。
これは青Fには出てこなかった内容だ。
些細なズレだけど、青Fのストーリーがそのまま反映されてる訳じゃない証拠だ。
(───きっとこのズレは【恋愛ルート】回避の糸口になるはず‥。)
そう閃いた私は、必死の思いで他にもズレがないか照らし合わせてみた。
マーリン様の容姿は前世の記憶通りで、青Fとの相違点は見当たらない。
マーリン様は白地に銀糸の刺繍が入ったベールを纏い、ゆるく後ろで一括りにした明青の直毛と、紫と黄色が混じった薄葡萄の瞳が特徴的な知的美人だ。
そのマーリン様は偶然か必然か、私と同じクラスだ。
ただこれは、青Fのストーリー上では話が出てこなかっただけで、主人公のように[裏設定]として存在していた可能性もあるから、相違の判断は難しい。
それに私は、“マーリン様に『内密な話がある』と言われて” ここまで連れて来られた。
これも青Fにはなかった流れで、主人公が[裏庭]に【移動】した背景には、“マーリン様に連れて来られた設定” が隠されていたことになるのだ。
というのも、光希がプレイしていた乙女ゲーム【青き天空のフォルテ】は選択式のノベルゲームで、[選択肢]を選ぶと前置きなく登場人物達が現れてストーリーが進む形だった。
その為、光希の記憶では【どこに移動する?】⇒【裏庭】を選んだら、唐突に悪役令嬢と取り巻きが登場した形だったから、まさかマーリン様の呼び出しが『悪役令嬢と初対面する《遭遇イベント》に繋がっている』だなんて思ってもみなかったのだ。
(くそぅ‥前もって分かってたら[フラグ]を回避できたのに…。せっかく前世の記憶を思い出したのに、青Fで得た情報がまるで役に立たないとか神様はイジワルだ‥‥。)
そう考えると、何だか無性に悔しい気持ちになってくる訳で…。
私は込み上げる憤りのままに下唇をグッと噛んだ。
図らずもその痛みのおかげで私の中の焦りが消えていく。
(…──大丈夫、…大丈夫、まだ間に合う…。)
私は息を潜めて目の前の御三方と青Fとの相違点を探すことに集中した。
先程からよく分からない責任感で私に凄みを効かせているアイリナ様は、容姿もエステル様を援護する態度もほぼ青Fと同じだ。
アイリナ様は胸元が大きく開いた深緑色のドレスに(アイリナ様は巨乳キャラだったけど、生で見る胸の大きさは画面以上だった)、燃えるような赤髪を綺麗にまとめている、深緋の瞳のセクシー美人だ。(髪と服の対比を見た瞬間に『Xmasカラーかよ!』って突っ込んだのは内緒の話ね。)
そして青Fの設定通りなら、エステル様とアイリナ様は私の1つ上の先輩に当たるはずだ。
二人が腰に付けてる学年章は…と、チラリと視線をやると、間違いなくエステル様とアイリナ様は2年生だった。
つまり今見聞きした限りだと、青Fとの相違点は『マーリン様が私のことを“耳が遠い”と勘違いしている所だけ』ってことになる。
だけど私は、他にもズレがないか相違点を探すことにした時点で最大のズレに思い当たっていた。
今が《遭遇イベント》進行中なら、“何故この段階でエステル様達と遭うことになるんだ?” という違和感がソレだ。
────だって。
青Fとこの世界の出来事を照らし合わせると、そもそもの前提が違う。
主人公が初めて悪役令嬢に会う青Fの《遭遇イベント》は、
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
主人公が魔法練習の授業中に、自分の力を制御できずに魔力酔いを起こして気分が悪くなり、倒れそうになった所を、丁度隣に居たティタ二ア王国の第一王子に受け止められて、そのまま保健室まで運ばれた。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
───この経緯を踏まなければ【どこに移動する?】⇒【裏庭】を選んでも、悪役令嬢との《遭遇イベント》は起きないのだ。
今日は入学式だ。
授業は明日以降からで、魔法練習の授業だって‥時間割をまだ貰ってないから不明だけど、明日以降に始まる予定のものだ。
(なのに《遭遇イベント》が起きた‥。)
青Fでの《遭遇イベント》の内容はこうだ。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
エステル様「初めましてフォートレックさん。わたくしのことはご存知かしら?」
マーリン様「エステル様。彼女の家名は王族貴族には無い家名ですが、念の為に出自を調べたらやはり平民でしたわ。」
エステル様「あらあら平民。それならご存知ないでしょうね。わたくしはこの国の三柱、アストリア公爵家の娘ですわ。それから貴女を保健室へ運んだ、第一王子の婚約者です。」
アイリナ様「聞く所によると貴女、王太子殿下に恋文を渡したそうね。貴女のような身分の者が王太子殿下の手を煩わすだなんて、それだけでも烏滸がましいにも程があるのに、なんて身の程知らずなのかしら。」
エステル様「ああ嫌だわ。貴女のような身の程を弁えない者がこの学院に居るだなんて。」
マーリン様「貴女には少々躾が必要なようだから、暫くは学院中の者が貴女に躾を施すようにと、心優しいエステル様が“御触れ”を出しておかれましたわ。」
エステル様「何か言いたいことはあって?」
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
───とまぁ、ここで“分岐点”となる[選択肢]が発生するんだけど、その前に。
主人公は第一王子に“恋文”なぞ渡していない。
主人公が第一王子に保健室まで運ばれた後のストーリーはこう続く。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
抵抗する間も無く第一王子に抱えられて保健室まで運ばれた主人公は、そのままベッドに寝かせられ、二言三言交わした後、王子が去ろうと後ろを向いた。
その際、王子の右肩後ろに、自分の淡い青磁色の毛髪が付いていることに気づいた主人公が、慌ててその事を王子に告げる。
王子は主人公に、自分では見えないから取ってくれないかと言い、主人公は高貴な身分である王子の、それも誓いを立てる際に触れる右肩に素手で触るわけにもいかず、ポケットからハンカチを取り出して髪の毛を取り、王子に見せた。
そのハンカチの隅にあった薔薇と剣の刺繍に王子が興味を示して、主人公に何処でこのハンカチを入手したのかを問い、主人公が自分の手製で刺繍も自分が刺した物だと答えたら、王子に欲しいと言われたので渡した。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
───主人公が第一王子に渡した物は “恋文” ではなく “ハンカチ” だ。
(…いやもう、 難癖もだけど勘違いも甚だしいとゆーか何とゆーか…。)
まぁそれはともかく。
ここで出てくる《遭遇イベント》の[選択肢]がこれだ。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
エステル様「何か言いたいことはあって?」
渡したのはハンカチだと正直に言う
▶︎反論すると拗れそうだし無言を貫き通す
エステル様と王子の仲を応援して話を逸らす
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
第一王子ルートは▶︎で、これを選べばエステル様と取り巻きの二人はもちろん、彼女達を支持する先生や生徒からの躾が開始されて、見兼ねた第一王子が主人公を庇い、王子と主人公が仲を深めていく──謂わゆる王道ストーリーへと進む。
そして、エステル様と王子の仲を応援すると、その他の攻略対象ルートに進む。
ここで【恋愛ルート】へ入らない為には、『ハンカチだと正直に言う』が正解だ。
だがしかし。
現状はこの前提が、まるっと抜けてしまっている。
この最大のズレこそ【恋愛ルート】回避の糸口になるというのに…。
裏を返すと、完全に青Fの《遭遇イベント》から逸れた展開で《遭遇イベント?》が始まっている訳で…。
つまりは。
(ほぼほぼ、青Fの《遭遇イベント》を参考にできない訳か…。ワァ~イ…。)
───…なんかもう、ガチで現実逃避したくなってきたわ…。
てゆーかもう…。
いっそ本当に裏庭から逃避させてくださいよーーーーっ!!
「───貴女、わたくしの話を聞いておりますの? (そんなに震えて怯えなくても何もしませんのに…。)」
‥えーと。えーと。…えーと。
「──エステル様、もしかするとフォートレックさんは“耳が遠い”のかも‥。(わたしが話しかけた時は普通に聞こえていたようだけど、ここまで反応が無いとなると、聞こえ方に波がありそうですわ。)」
「あら‥そうなの、貴女? (まぁ、そうだったらどうしましょう。もっと近づいて話すべきかしら…。)」
「それでしたらエステル様、わたくしにお任せください。──ちょっと貴女!ここに来てからずっと黙りこんでますけれど、この声量なら聞こえるでしょう?!何とか言ったらどうなのですかっ!(ステルもマノンも尋問は苦手だから、私がしっかりしなくちゃ!!)」
ど、どど、どうして、どうして、こうなった?!!
───今、私の目の前には、ひと目で上質と分かる絹の淡桃色のドレスに、これまた高そうな装飾品を身に付け、藍色がかった黒髪ロングを優雅に巻いてる、紅桔梗の瞳の壮絶美女が立ちはだかってます。
青Fの【悪役令嬢】───
もとい[ティタ二ア王国の三柱]である、
エステル-グレンケラー・アストリア公爵令嬢様が。。
そして彼女の左右に並ぶように、青Fでは悪役令嬢の『取り巻き』して登場する、
アイリナ-セントラル・スタッドリー侯爵令嬢様と、
マーリン-エルク・ノイゼン侯爵令嬢様がいらっしゃいます。。。
(う、うぇええええ?!!)
この裏庭って・・・ハッ!!!
ままままままさか、青Fの主人公が初めて悪役令嬢に遭遇した、あの[場所]じゃないの?!
改めて周囲を見回してみれば‥‥マジか…。
あったよ、あの木が。。
青Fの[裏庭]シーンの背景で描かれてた、
太い幹に“ハート型”の穴が空いた、特徴的な楠木が。。
(ははは‥マジか‥‥マジですかぁーーーー…。)
さっきから目の前の御三方が何か言ってるけど、私は今それどころじゃなかった。
全身から嫌な汗が出てきて視界はボヤけてくるし、頭の中では今後[裏庭]で起こるだろう《遭遇イベント》のストーリーがぐるぐると回っているからだ。
私は下を向いたまま一言も話すことができないでいた。
主人公が初めて悪役令嬢に会うこの《遭遇イベント》は、青Fでいうところの“分岐点”に当たる。
この“分岐点”が非常に厄介なのだ。
まず、主人公が悪役令嬢と取り巻きの二人に難癖を付けられていびられる、お約束通りの展開が入るんだけど。
てゆーか今まさにアイリナ様が“いびりモード”に入ってるんだけど。
そこは攻略対象の【恋愛ルート】から逸れれば無くなる筈だから、一旦置いとくとして。
問題はこの《遭遇イベント》が、[選択肢]によっては攻略キャラが登場することと、登場した攻略キャラの【恋愛ルート】へ突入することにあるのだ。
(おおお落ち着け私…っっ まだ間に合う。まだ何も選んでないんだから、まだ間に合うっっ。)
そうだ。確かさっきマーリン様は私のことを、“耳が遠い”って勘違いしてた。
これは青Fには出てこなかった内容だ。
些細なズレだけど、青Fのストーリーがそのまま反映されてる訳じゃない証拠だ。
(───きっとこのズレは【恋愛ルート】回避の糸口になるはず‥。)
そう閃いた私は、必死の思いで他にもズレがないか照らし合わせてみた。
マーリン様の容姿は前世の記憶通りで、青Fとの相違点は見当たらない。
マーリン様は白地に銀糸の刺繍が入ったベールを纏い、ゆるく後ろで一括りにした明青の直毛と、紫と黄色が混じった薄葡萄の瞳が特徴的な知的美人だ。
そのマーリン様は偶然か必然か、私と同じクラスだ。
ただこれは、青Fのストーリー上では話が出てこなかっただけで、主人公のように[裏設定]として存在していた可能性もあるから、相違の判断は難しい。
それに私は、“マーリン様に『内密な話がある』と言われて” ここまで連れて来られた。
これも青Fにはなかった流れで、主人公が[裏庭]に【移動】した背景には、“マーリン様に連れて来られた設定” が隠されていたことになるのだ。
というのも、光希がプレイしていた乙女ゲーム【青き天空のフォルテ】は選択式のノベルゲームで、[選択肢]を選ぶと前置きなく登場人物達が現れてストーリーが進む形だった。
その為、光希の記憶では【どこに移動する?】⇒【裏庭】を選んだら、唐突に悪役令嬢と取り巻きが登場した形だったから、まさかマーリン様の呼び出しが『悪役令嬢と初対面する《遭遇イベント》に繋がっている』だなんて思ってもみなかったのだ。
(くそぅ‥前もって分かってたら[フラグ]を回避できたのに…。せっかく前世の記憶を思い出したのに、青Fで得た情報がまるで役に立たないとか神様はイジワルだ‥‥。)
そう考えると、何だか無性に悔しい気持ちになってくる訳で…。
私は込み上げる憤りのままに下唇をグッと噛んだ。
図らずもその痛みのおかげで私の中の焦りが消えていく。
(…──大丈夫、…大丈夫、まだ間に合う…。)
私は息を潜めて目の前の御三方と青Fとの相違点を探すことに集中した。
先程からよく分からない責任感で私に凄みを効かせているアイリナ様は、容姿もエステル様を援護する態度もほぼ青Fと同じだ。
アイリナ様は胸元が大きく開いた深緑色のドレスに(アイリナ様は巨乳キャラだったけど、生で見る胸の大きさは画面以上だった)、燃えるような赤髪を綺麗にまとめている、深緋の瞳のセクシー美人だ。(髪と服の対比を見た瞬間に『Xmasカラーかよ!』って突っ込んだのは内緒の話ね。)
そして青Fの設定通りなら、エステル様とアイリナ様は私の1つ上の先輩に当たるはずだ。
二人が腰に付けてる学年章は…と、チラリと視線をやると、間違いなくエステル様とアイリナ様は2年生だった。
つまり今見聞きした限りだと、青Fとの相違点は『マーリン様が私のことを“耳が遠い”と勘違いしている所だけ』ってことになる。
だけど私は、他にもズレがないか相違点を探すことにした時点で最大のズレに思い当たっていた。
今が《遭遇イベント》進行中なら、“何故この段階でエステル様達と遭うことになるんだ?” という違和感がソレだ。
────だって。
青Fとこの世界の出来事を照らし合わせると、そもそもの前提が違う。
主人公が初めて悪役令嬢に会う青Fの《遭遇イベント》は、
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主人公が魔法練習の授業中に、自分の力を制御できずに魔力酔いを起こして気分が悪くなり、倒れそうになった所を、丁度隣に居たティタ二ア王国の第一王子に受け止められて、そのまま保健室まで運ばれた。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
───この経緯を踏まなければ【どこに移動する?】⇒【裏庭】を選んでも、悪役令嬢との《遭遇イベント》は起きないのだ。
今日は入学式だ。
授業は明日以降からで、魔法練習の授業だって‥時間割をまだ貰ってないから不明だけど、明日以降に始まる予定のものだ。
(なのに《遭遇イベント》が起きた‥。)
青Fでの《遭遇イベント》の内容はこうだ。
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エステル様「初めましてフォートレックさん。わたくしのことはご存知かしら?」
マーリン様「エステル様。彼女の家名は王族貴族には無い家名ですが、念の為に出自を調べたらやはり平民でしたわ。」
エステル様「あらあら平民。それならご存知ないでしょうね。わたくしはこの国の三柱、アストリア公爵家の娘ですわ。それから貴女を保健室へ運んだ、第一王子の婚約者です。」
アイリナ様「聞く所によると貴女、王太子殿下に恋文を渡したそうね。貴女のような身分の者が王太子殿下の手を煩わすだなんて、それだけでも烏滸がましいにも程があるのに、なんて身の程知らずなのかしら。」
エステル様「ああ嫌だわ。貴女のような身の程を弁えない者がこの学院に居るだなんて。」
マーリン様「貴女には少々躾が必要なようだから、暫くは学院中の者が貴女に躾を施すようにと、心優しいエステル様が“御触れ”を出しておかれましたわ。」
エステル様「何か言いたいことはあって?」
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
───とまぁ、ここで“分岐点”となる[選択肢]が発生するんだけど、その前に。
主人公は第一王子に“恋文”なぞ渡していない。
主人公が第一王子に保健室まで運ばれた後のストーリーはこう続く。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
抵抗する間も無く第一王子に抱えられて保健室まで運ばれた主人公は、そのままベッドに寝かせられ、二言三言交わした後、王子が去ろうと後ろを向いた。
その際、王子の右肩後ろに、自分の淡い青磁色の毛髪が付いていることに気づいた主人公が、慌ててその事を王子に告げる。
王子は主人公に、自分では見えないから取ってくれないかと言い、主人公は高貴な身分である王子の、それも誓いを立てる際に触れる右肩に素手で触るわけにもいかず、ポケットからハンカチを取り出して髪の毛を取り、王子に見せた。
そのハンカチの隅にあった薔薇と剣の刺繍に王子が興味を示して、主人公に何処でこのハンカチを入手したのかを問い、主人公が自分の手製で刺繍も自分が刺した物だと答えたら、王子に欲しいと言われたので渡した。
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───主人公が第一王子に渡した物は “恋文” ではなく “ハンカチ” だ。
(…いやもう、 難癖もだけど勘違いも甚だしいとゆーか何とゆーか…。)
まぁそれはともかく。
ここで出てくる《遭遇イベント》の[選択肢]がこれだ。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
エステル様「何か言いたいことはあって?」
渡したのはハンカチだと正直に言う
▶︎反論すると拗れそうだし無言を貫き通す
エステル様と王子の仲を応援して話を逸らす
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
第一王子ルートは▶︎で、これを選べばエステル様と取り巻きの二人はもちろん、彼女達を支持する先生や生徒からの躾が開始されて、見兼ねた第一王子が主人公を庇い、王子と主人公が仲を深めていく──謂わゆる王道ストーリーへと進む。
そして、エステル様と王子の仲を応援すると、その他の攻略対象ルートに進む。
ここで【恋愛ルート】へ入らない為には、『ハンカチだと正直に言う』が正解だ。
だがしかし。
現状はこの前提が、まるっと抜けてしまっている。
この最大のズレこそ【恋愛ルート】回避の糸口になるというのに…。
裏を返すと、完全に青Fの《遭遇イベント》から逸れた展開で《遭遇イベント?》が始まっている訳で…。
つまりは。
(ほぼほぼ、青Fの《遭遇イベント》を参考にできない訳か…。ワァ~イ…。)
───…なんかもう、ガチで現実逃避したくなってきたわ…。
てゆーかもう…。
いっそ本当に裏庭から逃避させてくださいよーーーーっ!!
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