『修復』スキルはゴミだと追放された私、古代兵器(ゴーレム)の心臓を直してしまいました

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ナナさんの、鋼鉄の巨体が、信じられないほどの速さで地を駆けていきます。
ロックリザードは、目の前に迫る銀色の脅威に気づきました。
そして、即座に反応し、太く岩のような尻尾を薙ぎ払いました。
周囲の岩をも砕くであろう強烈な一撃が、ナナさんの胴体に叩きつけられます。

ガギィィィン、と鼓膜が破れそうなほどの、凄まじい金属音が響き渡りました。
しかし、ナナさんの体には、かすり傷一つ付いていません。
むしろ、渾身の力で攻撃を仕掛けたロックリザードの尻尾の方が、鱗が砕けて黒い血を流していました。

『この程度の物理攻撃では、私の複合装甲を貫くことはできません』

ナナさんは、全く気にしていない様子です。
攻撃の衝撃をものともせず、一瞬でロックリザードの懐へと潜り込みました。
そして、右腕の高周波ブレードを、下から上へと、天を突くように一閃します。
青白い光の軌跡が、まるで稲妻のように、灰色の空を美しく切り裂きました。

「ギャアアアアッ」、とロックリザードが断末魔の叫びを上げます。

その巨大な体は、あまりにも綺麗に、真っ二つに断ち割られていました。
Aランクの強力なモンスターが、たったの一撃で倒されてしまったのです。
私は、その圧倒的な光景を、ただ呆然と見つめることしかできませんでした。
ナナさんの戦闘能力は、私の想像をはるかに超えていました。

真っ二つになったロックリザードの体は、黒い霧となって、風に溶けるように消えていきます。
その跡には、こぶし大の紫色の魔石が一つ、地面に落ちていました。

『討伐完了、マスター、お待たせしました』

ナナさんが、何事もなかったかのように、こちらへ戻ってきます。
その姿は、あまりにも頼もしくて、私の目には物語に出てくる英雄のように映りました。

「ナナさん、すごすぎます、本当に」

『戦闘は、私の専門分野ですから。
さあ、気を取り直して、作業を再開しましょう』

私たちは、再び船体の修復作業に戻りました。
私は、見上げるほど巨大な亀裂に両手を当て、再びスキルを発動させます。

「上位修復!」

緑色の優しい光が、船体の巨大な裂け目を、ゆっくりと満たしていきました。
ギギギ、と金属が軋む、悲鳴のような音が響き渡ります。
真っ二つに折れていた船体が、ゆっくりと、しかし確実に元の位置へと戻ろうとしていました。
まるで、傷ついた巨大な生き物が、自らの力で傷を癒しているかのようでした。

私の魔力が、またしても体からごっそりと吸い上げられていきます。
でも、今度は不思議と、前回ほどの耐え難い苦しさはありませんでした。
私の体が、この強力なスキルの使い方に、少しずつ慣れてきているのかもしれません。
あるいは、ナナさんがそばにいてくれるという、絶対的な安心感が、私に力を与えてくれているのでしょう。

数十分後、あれだけ大きく開いていた亀裂は、完全に塞がっていました。
まるで、最初から何もなかったかのように、滑らかな一枚の美しい装甲板に戻っています。

「はぁ、はぁ、なんとか、なりました」

私は、その場にへたり込みそうになりました。
ですが、まだやるべきことがあると、なんとか踏みとどまりました。
魔力はほとんど空っぽに近いですが、まだ意識ははっきりしています。

『お見事です、マスター。
これで、船体の強度は80パーセントまで回復しました。
残る大きな課題は、外装甲の修復と、左翼の再構築ですね』

ナナさんが、シルフィードのAIと同期した情報を元に、的確な指示をくれます。

「はい、このままの勢いで、一気にやってしまいましょう!」

私がそう言うと、ナナさんは少しだけ困ったような素振りを見せました。
その人間らしい表情は、少し意外でした。

『いえ、マスター。
今日はもう休んでください。
これ以上の魔力消費は、あなたの命に関わります』

「でも、もう少しで、この船が」

『マスターに万が一のことがあれば、私を修復してくれる人がいなくなってしまいます。
それは、私にとって、非常に困ることなのです』

ナナさんの言葉は、一見すると合理的ですが、遠回しな優しさだと感じました。
私は、その気持ちがとても嬉しくて、素直に頷くことにします。

「分かりました、今日は、もう休みます」

『賢明な判断です、マスター。
船内に、居住可能な区画を確保しました。
そちらへ、ご案内します』

ナナさんに連れられて船内に戻ると、そこには、まるで王侯貴族が使うような一室が用意されていました。
ふかふかの大きなベッドに、彫刻の施された綺麗なテーブルと椅子があります。
壁には、古代の美しい風景画まで飾られていました。

「ここって、まさか、こんなに綺麗な場所が」

『旧船長室です、私が、簡易的に清掃しておきました。
ベッドのシーツも、再生機能で新品同様にしておきましたので、ご安心ください』

「ナナさん、何から何まで、本当にありがとうございます」

私は、ナナさんにお礼を言うと、ベッドに倒れ込むように体を預けました。
雲のように柔らかい感触が、疲れた体を優しく包み込んでくれます。
私は、あっという間に深い眠りへと落ちていきました。

その頃、アレス様たちのパーティーは、とあるダンジョンの薄暗い中層にいました。
彼らは、格下のモンスター相手に、苦しい戦いを強いられていました。

「くそっ、なんでこんなに苦戦するんだ!
ゲオルグ、お前の聖なる力で、奴らを一掃しろ!」

アレス様が、苛立ちを隠せない様子で叫びます。
彼の自慢の聖剣は、刃こぼれがひどい状態でした。
もはや、ただの重い鉄の棒と変わりありません。

「無茶を言わないでください、アレス様!
私の聖なる力も、無限ではないのですよ!」

パラディンのゲオルグも、普段の自信はどこへやら、その顔には深い疲労の色が浮かんでいます。
彼の輝くはずの鎧は、あちこちがへこんでいました。
さらに、大きなひび割れていました。
モンスターの攻撃を防ぐたびに、嫌な音が響きます。

「私の魔法も、この杖のせいで威力が半減していますわ!
これでは、決め手となる上級魔法は使えません!」

魔術師のリナリアさんも、ヒステリックに叫びました。
彼女の持つ高価な杖は、先端の魔石が濁ったようにくすんでいます。
魔力の伝導率が、著しく低下していたのです。
全員の装備が、もう限界を迎えていました。

シエラがいれば、とパーティーの誰もが思っていました。
口には出しませんでしたが、その思いは痛いほど共通していました。
どんなに傷ついた装備も、一晩で完璧に直してくれた、あの地味なエンチャンter。
彼女の存在が、どれだけこのパーティーにとって重要だったのか。
彼らは、失って初めて、その本当の価値に気づき始めていたのです。

「皆さん、回復します!
もう少しの、辛抱です!」

神官のカインだけが、必死に仲間を励ましました。
そして、残り少ない魔力で、回復魔法を唱え続けます。
しかし、彼の表情も、日に日に曇っていくばかりでした。

シエラさん、君がいなくなってから、僕たちは、本当に何もかもうまくいかない。
後悔の念が、まるで鉛のように、彼の胸を強く締め付けます。
しかし、彼らがどれだけ後悔しようとも、もう手遅れでした。
私が、彼らの元へ戻ることは、もう二度とないのですから。

翌日、すっかり魔力を回復させた私は、ナナさんと共にいました。
飛行艇の、最終修復に取り掛かっていました。
外装甲に残る細かい傷やへこみを、一つ一つ丁寧に直していきます。
私のスキルを使えば、何千年もの間放置され、錆びついていた金属も、あっという間に元の輝きを取り戻しました。

「よし、だいたい、こんなものでしょうか」

船体全体が、まるで鏡のように、谷間に差し込む太陽の光を反射しています。
その姿は、伝説に出てくる、美しい銀色の鳥のようでした。

『外装甲の修復、完了しました。
残すは、最大の難関、左翼の再構築です』

私たちは、左翼があった場所に移動しました。
そこには、翼が根元からごっそりと抉り取られた、痛々しい傷跡が残っています。

「ここは、元々何も無い場所だから、私の魔力で、一から全てを作り上げるしかないんですね」

『その通りです、マスター。
シルフィードの完全な設計図は、私のデータベースにあります。
それを、今からマスターの頭の中に転送します。
イメージを、できるだけ強く持ってください』

ナナさんが、私のこめかみにそっと指を触れました。
すると、私の頭の中に、膨大な量の情報が、まるで洪水のように流れ込んできます。
翼の内部構造、使用されている特殊な材質、そして複雑な内部の配線。
シルフィードの左翼に関する、あらゆる情報が、私の脳に直接刻み込まれていくようでした。
私は、その完璧な設計図を元にします。
そして、何もない空間に、翼の形をはっきりとイメージしました。
そのイメージに向かって、私はありったけの魔力を注ぎ込みました。
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