『修復』スキルはゴミだと追放された私、古代兵器(ゴーレム)の心臓を直してしまいました

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「『上位修復』!」
私はありったけの魔力を込めて、スキルの名前を叫びました。

私の手のひらから溢れ出した緑の光は、もはや光ではありません。
それは凝縮された、魔力の激しい流れです。
緑色の光は、シルフィードの左翼の付け根へ吸い込まれました。

頭の中には、完璧な設計図があります。
その設計図は、ナナさんから送られてきました。
私はそのイメージを、少しも違わずに再現します。
ただひたすらに、その一点だけに意識を向けました。

魔力の光が、空中で翼の骨格を作ります。
その光景は、まるで光で描かれた鳥の骨のようでした。
次に骨格へ肉付けするように、外側の装甲が作られます。
オリハルコンと同じ成分を持つ、なめらかな銀色の装甲です。

私の魔力が、無から有を生み出しています。
まるで奇跡のような光景が、目の前で起きていました。
「ぐっ、うぅ……!」
体中の魔力が、全て奪われる感覚に歯を食いしばります。
動力や船体を直した時とは、比べものにならない消耗でした。

これほど巨大な物体を、一から作り直すのです。
魔力が大きく消耗するのも、当然かもしれません。
視界が、だんだんと白くなっていきます。
意識が、遠のいていくのが分かりました。

(まだ倒れるわけには、いきません……!)
私は、最後の気力を振り絞りました。
脳裏に浮かぶのは、アレス様たちに追放された日のことです。
用済みだと、役立たずだと罵られた時の悔しさ。
独りぼっちで、夜の街を歩いた時の絶望感。

でも今の私には、ナナさんがいます。
そして、この素晴らしい飛行艇があるのです。
もう、誰にも見下されたりしません。
自分の力で、自由に大空を飛んでみせます。
その強い思いが、私の最後の支えになりました。

「おおおおおおっ!」
私は雄叫びをあげて、残された魔力の全てを注ぎました。
緑色の光が、一段と強く輝きます。
翼の内部に、複雑な配線やパイプが一瞬で出来上がるのが見えました。
そして最後の装甲板が、翼の先端にぴったりとはまります。

カシャン、と澄んだ音が谷間に響きました。
それと同時に、私を包んでいた緑色の光がすっと消えます。
目の前には、完璧な姿を取り戻したシルフィードの左翼がありました。
太陽の光を浴びて、銀色に輝くその翼はとても美しいです。

「やった……やった、わ……」
安心の言葉を漏らした瞬間、私の膝から完全に力が抜けました。
後ろに倒れそうになる私の体を、ナナさんの大きな腕がそっと受け止めます。

『マスター! お見事です! 左翼の再構築、成功です!』
ナナさんの声が、すぐ側で聞こえました。
その声には、はっきりとした賞賛と興奮の色が乗っています。
私はその声を聞きながら、ナナさんの腕の中でそっと意識を手放しました。

次に目を覚ました時、私はまたベッドの上にいました。
そこは、シルフィードの船長室です。
窓から差し込む光の角度で、丸一日以上眠っていたと分かりました。

「……ん……」
ゆっくりと体を起こすと、少しのだるさが残っています。
けれど魔力は、すっかり回復していました。
私の体も、この強力なスキルの使い方に慣れてきたようです。

「マスター。お目覚めになりましたか」
部屋の隅で待っていたナナさんが、音を立てずに近づいてきます。
「ナナさん……私、また眠ってしまって……」
『当然です。あれだけの偉業を成し遂げたのですから。今は、ご自身の体を誇りに思ってください』

ナナさんの優しい言葉が、心に染み渡りました。
私はベッドから降りて、大きく伸びをします。
「シルフィードは、どうなりましたか?」
『全ての修復作業は完了しました。船体強度、100パーセント。各部システム、全て正常です。現在、最終的なシステムの確認と、各部の動作確認を行なっています。完了まで、あと一時間ほどです』

「すごい……! ついに、完成したんですね!」
『はい。全て、マスターのおかげです』
私たちは船長室を出て、完成したシルフィードの船内を見て回りました。
以前の、薄暗くて埃っぽい姿はどこにもありません。
通路は、柔らかな光で照らされています。
壁も床も、ゴミ一つなく磨き上げられていました。

「わあ、ここは何の部屋ですか?」
私たちは広い貨物室や、乗組員が使った居住区画を通り過ぎました。
そして、一つの扉の前にたどり着きます。
扉を開けると、そこは様々な工具や機械が置かれた工房でした。

『ここは、簡易整備室です。船体の軽い損傷や、備品の修理はここで行えます』
棚には、壊れたままの工具がいくつかありました。
私はその中の一つ、先端が欠けた工具を手に取ります。

「これも、直してみましょう。『修復』!」
私が軽くスキルを使うと、工具は一瞬で元の姿に戻りました。
それだけではありません。
工具全体が、淡い魔力の光を帯びています。
明らかに、品質が良くなっているのが分かりました。

『……マスター。その工具は、ただの工具ではありません。自己修復機能と、対象の構造を自動で分析する機能を持つ、魔法の道具へと進化しています』
「ええっ!? そんなことまでできるんですか!」
『マスターのスキルは、本当に規格外です……。私の記録にも、これほど万能な創造スキルはありません』

ナナさんは、どこか呆れたように言いました。
それでいて、感心しているようにも見えます。
私は自分のスキルの可能性が、まだまだ無限に広がっていると実感しました。

船内を一通り見て回った後、私たちは操縦室へ戻りました。
操縦席の目の前にある巨大な画面には、谷の景色が鮮明に映っています。

ピーンポーン♪
軽快な電子音と共に、船内に放送が響き渡りました。
『最終システムチェック、完了。全システム、グリーン。高速輸送艇シルフィード、いつでも離陸可能です』
「ついに……! ついに、この時が……!」

私の胸は、期待と興奮で張り裂けそうでした。
追放されたあの日には、想像もできなかった未来が目の前にあります。
「行きますよ、ナナさん!」
『はい、マスター』
私は、操縦席に深く座りました。
ナナさんが、私の隣に立って機械を操作します。

『離陸準備、開始。重力エンジン、出力上昇。船体固定フィールド、解除』
ナナさんの言葉に合わせて、船全体がゴゴゴゴと低く振動します。
不快な揺れではありません。
まるで巨大な生き物が、目覚める前に身震いしているようです。

『離陸準備、完了。マスター、正面のメインレバーを、ゆっくりと前へ倒してください』
「は、はい……!」
私はゴクリと唾を飲み込み、目の前の虹色に輝くレバーを両手で握りました。
心臓が、早鐘のように鳴っています。
私は、ゆっくりとレバーを前に倒していきました。

すると、船体の振動がふっと消えます。
そして次の瞬間、私の体は羽毛のように軽くなりました。
無重力、いえ、それとは少し違う不思議な浮遊感です。

『離陸します』
ナナさんの落ち着いた声と共に、シルフィードは音もなく地面から浮き上がりました。
画面に映る景色が、少しずつ低くなっていきます。
岩肌が、そして川の流れがみるみるうちに小さくなるのが見えました。

「飛んでる……! 私たち、飛んでる……!」
私は、子供のようにはしゃぎました。
シルフィードは、風鳴きの谷の強い風をものともしません。
ぐんぐん、高度を上げていきます。
やがて切り立った崖の上に出て、目の前に青い空と白い雲が映し出されました。

地上から見上げていた空が、今、私の目の高さにあります。
その感動は、言葉では言い表せないほどでした。
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