『修復』スキルはゴミだと追放された私、古代兵器(ゴーレム)の心臓を直してしまいました

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無数の木の枝が、槍の穂先のように鋭く尖り、四方八方から私たちに襲いかかってきました。
その速さは、まるで激しい雨のようです。
普通の冒険者であれば、一瞬で串刺しになっていたことでしょう。
どこにも、逃げ場はありませんでした。

「ひゃっ、危ないです」

思わず悲鳴を上げてしまう私。
しかし、その私の前にナナさんが巨大な盾となるように立ちはだかりました。
彼の新しい体が、私を完全に守ってくれています。
その背中は、どんな城壁よりも頼もしく感じられました。

ガガガガガッ。

鋭い木の枝が、ナナさんの装甲に次々と突き刺さります。
しかし、甲高い音を立てて全て弾かれていきました。
彼の体には、傷一つ付いていません。
その装甲は、特殊な金属で作られているようでした。

『マスター、ご安心ください。この程度の攻撃は、蚊に刺されたようなものです』

ナナさんが、頼もしく言いました。
その言葉通り、彼は全く気にしていない様子です。
蚊に刺される、という面白い比喩を彼がどこで覚えたのかは少し気になりました。
しかし、今はそれどころではありません。

「で、でも、これではキリがありません」

襲いかかってくる木の枝は、後から後から生えてきます。
その攻撃は、尽きることがありませんでした。
森全体が、私たちを敵と認識して排除しようとしているかのようです。
このままでは、じり貧になってしまいます。

『分析完了です、マスター。この森の植物は、中央にいるウッドゴーレムによって魔力でコントロールされています。つまり、あの本体を叩けば全て止まるはずです』

ナナさんは、冷静に状況を分析して結論を出しました。
彼の赤い目が、じっと前方のウッドゴーレムを捉えています。
あのゴーレムが、この防衛システムの中心なのでしょう。

『マスター、ここは私にお任せください。すぐに、終わらせます』

そう言うと、ナナさんの姿が再びふっと消えました。
光学迷彩を使用したのです。
突然、攻撃対象を見失った木の枝たちは戸惑うかのようにその動きを止めました。
あたりには、奇妙な静けさが戻ってきます。

ウッドゴーレムが、キョロキョロと周りを見渡していました。
次の瞬間、そのウッドゴーレムの背後に音もなくナナさんが現れます。
そして、その右腕が一瞬で鋭利な刃へと変形しました。
高周波ブレードです。
青白い光を放つ、美しい刃でした。

『これで、チェックメイトです』

青白い光が一閃し、ウッドゴーレムの巨体は抵抗もできずに倒れます。
綺麗に、真っ二つに断ち割られてしまいました。
核となる魔石を破壊されたウッドゴーレムは、断末魔の叫びを上げる間もありません。
ただの木片となって、その場に崩れ落ちたのです。
それと同時に、私たちを囲んでいた木々の動きもぴたりと止まりました。

「すごい、あっという間でしたね」

『これが、今の私の力なのです。マスターのおかげですよ』

光学迷彩を解除したナナさんが、落ち着いた声で言いました。
私は、改めて彼の新しい力のすごさを思い知ります。
これなら、どんな困難も乗り越えていけそうでした。

私たちは、再び森の奥へと進み始めました。
先ほどの防衛システムを突破したおかげか、しばらくは何も起こりません。
しかし、森の不気味な雰囲気は変わらないままでした。
どこか、見られているような気がします。

「それにしても、物音一つしない森ですね。なんだか、方向感覚までおかしくなってきそうです」

私がそう言うと、ナナさんが空中に地図を映し出してくれました。
簡易的な、ホログラムの地図です。

『ご安心ください、マスター。シルフィードの船内から、ヘスティアが常に私たちの位置を補足してくれています。そして、正確なナビゲートを行なってくれているのです。この森の幻の魔法も、古代文明の索敵システムの前では無意味でしょう』

「ヘスティアさんが、見ていてくれるのですね。さすがです」

ハイテク技術の力は、本当に偉大だと感じました。
私たちは、迷うことなく最短ルートで遺跡へと向かうことができたのです。

どれくらい歩いたでしょうか。
森の景色が、少しずつ変わってきました。
不気味な木々は姿を消し、代わりに苔むした石造りの柱が見えます。
崩れかけた壁が、あちこちに見られるようになりました。
古代の遺跡が、近いようです。

そして、ついに私たちはその場所にたどり着きました。
森の中に、ぽっかりと開けた広場があります。
その中央に、巨大な石でできた神殿のような建物がひっそりとありました。
壁には、見たこともない複雑な紋様がびっしりと刻まれています。
入り口と思われる場所は、一枚岩の巨大な扉で固く閉ざされていました。

「ここが、オリハルコンの鉱脈が眠る古代遺跡ですか」

『はい、マスター。データベースの情報と一致します。この神殿の地下に、巨大な鉱床が広がっているはずです』

私たちは、神殿の入り口へと近づきました。
扉には、鍵穴のようなものはありません。
一体、どうやって開けるのでしょうか。

『強力な封印魔法が、施されています。物理的な破壊は、ほぼ不可能でしょう。扉そのものが、ヒヒイロカネでできていますから』

ナナさんの分析に、私は少しだけ驚きました。
こんな巨大な扉が、あの超希少金属でできているなんて。
古代文明の豊かさは、私の想像を絶します。

「それじゃあ、どうしましょうか。何か、方法はないのでしょうか」

私が困っていると、扉に刻まれた紋様の一つがふと私の目に留まりました。
それは、図書館やヘパイストスの鍛冶場でも見た紋章です。
管理者の、証でした。

「ナナさん、もしかしたらこれかもしれません」

私は、懐から白金のマスターキーを取り出しました。
そして、その紋章の中心にある小さな窪みにカードキーをそっと差し込んでみます。
すると、サイズがぴったりと合いました。

カチリ、という小さな音と共に扉の紋様全体がまばゆい光を放ち始めます。
そして、あれだけ固く閉ざされていた巨大な扉が動き出しました。
ゴゴゴゴ、という地響きのような音を立ててゆっくりと内側へと開いていったのです。

「開きました、やりましたね」

『やはり、このキーが正解でしたね。さすがです、マスター』

扉の向こう側は、真っ暗な闇に包まれていました。
ひんやりとした、古い空気が中から流れ出してきます。

私が、修復して作った永久のランプを取り出しました。
すると闇の中に、地下へと続く長い石の階段が照らし出されます。

「行きましょう、ナナさん。お宝が、私たちを待っていますよ」

『はい、マスター。お供します』

私たちは、一歩その闇の中へと足を踏み入れました。
階段は、どこまでも深く下へと続いています。
壁には、所々で魔力を帯びた鉱石が埋め込まれているようでした。
ぼんやりと、青白い光を放っています。
その光景は、とても幻想的でした。

長い階段を降りきると、そこは信じられないほど広大な地下空洞でした。
天井は、遥か高く見上げても闇しか見えません。
そして、その空間の壁という壁がまばゆい光を放っていたのです。

「これは、すごいですね」

私は、思わず息をのみました。
壁にびっしりと埋め込まれているのは、全てが高純度の原石でした。
オリハルコンや、ヒヒイロカネの原石です。
青く輝くのがオリハルコンで、虹色に輝くのがヒヒイロカネでした。
伝説級の金属が、まるでただの石ころのように無尽蔵に存在しています。
その光景は、あまりにも美しく、そしてあまりにも常識外れでした。

『信じられません、マスター。これほどの規模の鉱脈は、私のデータベースにも記録されていません。まさに、宝の山というべき場所ですね』

ナナさんの声も、どこか興奮しているように聞こえます。
私たちは、しばらくその幻想的な光景にただただ見とれていました。
これだけの資源があれば、侵食する虚無と戦うための強力な兵器を作れます。
しかも、いくらでも作ることができるでしょう。
私は、勝利への確かな手応えを感じました。

「すごい、本当にすごいです」

私は、壁に近づきました。
そして、虹色に輝くヒヒイロカネの原石にそっと手を触れてみます。
ひんやりとしているのに、どこか温かい不思議な感触でした。
これが、伝説の金属なのですね。

「よし、ナナさん。早速、採掘を始めましょう。シルフィードに、採掘用のドローンを持ってきてもらって」

私が、意気揚々と振り返ったその時でした。
私たちの背後で、今しがた通ってきたばかりの入り口が動き始めます。
ゴゴゴゴ、という重い音を立てて突然閉まり始めたのです。

「えっ、どうして」

振り返ると、石の扉が完全に閉ざされようとしていました。
そして、扉が完全に閉まった瞬間です。
今まで物音一つしなかったこの地下空洞全体が、まるで地震のように激しく揺れ動きました。
壁に埋まっていた鉱石たちが、一斉にその輝きを増していきます。

「な、何が起こったんですか」

『分かりません。ですが、強力なエネルギー反応を感知します。マスター、伏せてください』

ナナさんが、私を庇うようにして前に立ちはだかりました。
次の瞬間、空洞の中央にある何もない空間に膨大な魔力が収束し始めます。
そして、その光の中から一体の巨大な何かがゆっくりとその姿を現し始めたのです。
それは、全身がオリハルコンとヒヒイロカネでできた竜の形をしていました。
巨大な、ゴーレムです。

その大きさは、ナナさんの数倍はありました。
そして、その背中にはまるで天使のような光り輝く翼が生えています。
その神々しくも、圧倒的な威圧感を放つ存在はゆっくりと私たちの方にその顔を向けました。
その兜の奥で、二つのダイヤモンドのような目が音もなく、しかし力強く輝きを放ったのです。
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