『修復』スキルはゴミだと追放された私、古代兵器(ゴーレム)の心臓を直してしまいました

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目の前に、巨大な竜が姿を現しました。
オリハルコンとヒヒイロカネでできた、神々しい竜です。
その圧倒的な存在感は、この地下空間を支配していました。
ダイヤモンドのように輝く二つの目が、私たちをじっと見つめます。
まるで獲物を見つけたかのような、冷たい光でした。

「な、ナナさん。あれは……」

私の声は、震えていました。
あまりの巨大さに、言葉が出ません。
それはドラゴンというより、神話に出てくる神のようです。
背中に生えた光り輝く翼が、その神々しさを強めています。

『マスター、あれは古代文明の守護竜型ゴーレムです。正式な名前は、「ドラグーン」です』
ナナさんが、私の前に立つようにして言いました。
その声には、少しだけ警戒の色が混じっています。
彼の赤い目が、ドラグーンの動きを正確に見ていました。

『図書館の記録にも、その存在はありました。しかし動いているという、確認はされていませんでした。おそらく、この鉱脈を守る最後のシステムなのでしょう』

ドラグーンは、ゆっくりと私たちの方へ顔を向けます。
そしてその巨大な口から、低い唸り声が響きました。
それは威嚇というよりも、警告に聞こえます。
この場所は、お前たちが入る場所ではないと告げているようでした。

「どうしましょう、ナナさん。やはり、戦うしかないのでしょうか」

『その可能性が、高いです。ドラグーンの戦闘能力は、私のデータでも予測できません。おそらく、ドラゴン級以上の危険度だと思います』

ナナさんの言葉に、私の心臓がドキドキと鳴り始めました。
あのナナさんが、予測不能と言うほどの相手です。
軽い気持ちで戦いを挑めば、私たちも無事では済まないでしょう。

しかし私はドラグーンの姿を見て、あることに気がつきました。
その体には、オリハルコンとヒヒイロカネがたくさん使われています。
まるでそれらの金属が生きているかのように、体全体を作っていました。
それは、ナナさんやシルフィードたちと同じです。

(まさかこの子も、私を管理者として認めてくれるかも……!)

私の頭の中に、一つの可能性が浮かびました。
図書館の守護ゴーレムも、私の魔力パターンを調べて敵対行動を止めました。
このドラグーンも、同じ古代の道具です。
もしかしたら、この子も私のスキルに反応してくれるかもしれません。

「ナナさん、下がってください。私に、考えがあります」

『しかしマスター、それは危険です。ドラグーンの攻撃は、かすっただけでも危ないです』

「大丈夫です。信じてください、ナナさん」

私の強い言葉に、ナナさんは一瞬迷いました。
しかし、すぐに私の言葉を受け入れてくれます。
『……分かりました。ですが何かあれば、私が全力でマスターを守ります』

ナナさんが、私を守る位置に下がってくれました。
私はドラグーンに向かって、ゆっくりと一歩踏み出します。
その巨大な姿を前にしても、不思議と怖くはありませんでした。
私の胸には、確かな自信があります。

「『上位修復』!」

私は、両手を前に突き出しました。
そしてドラグーンの巨大な体に、私の魔力をそのままぶつけます。
手のひらから放たれた緑色の光が、ドラグーンの体全体を優しく包みました。
それは、破壊の光ではありません。
癒しと、理解の光です。

ドラグーンのダイヤモンドの目が、激しく光りました。
その巨大な体が、少しだけ震え始めます。
そして低い唸り声が、驚きと戸惑いに変わっていきました。
まるで私の魔力が、そのシステムに直接語りかけているようです。

『……魔力パターン、照合します。……古代遺物への、高い親和性と修復能力を確認しました。……アクセスコード、リペアラーとして認めます』

ドラグーンの中から、凛とした女性のような声が響きました。
それは、図書館の白いゴーレムと同じ声です。
やはり、私の考えは当たっていました。
私のスキルは、古代文明の遺物にとって特別な鍵なのです。

『……ようこそ、管理者様。長い間、この鉱脈の主をお待ちしておりました』

そう言うと、ドラグーンはその巨大な体を折りたたみます。
そして地面に片膝をつき、私に深く頭を下げました。
その姿は、まるで王に仕える騎士のようです。
ナナさんも、この展開に驚きを隠せない様子でした。

『信じられません、マスター。ドラグーンが、あなた様に忠誠を誓うなんて……。私のデータでも、これは予想外の事態です』

「私にも、まさかこんなことができるとは思いませんでした」

私は、ドラグーンの巨大な頭にそっと手を触れました。
ひんやりとした金属の感触が、手に伝わります。
その体が、まるで子供のように小さく震えているのが分かりました。

『我が名は、イグニス。この「オリハルコンの揺り籠」の守護者です。管理者様、あなたの命令に従いこの鉱脈の全てを捧げましょう』

イグニスと名乗ったドラグーンは、そう言うと頭を下げたまま動かなくなりました。
私は、また新しい古代兵器の主になってしまったようです。
しかも、今回は最初から忠誠を誓ってくれました。

「イグニス、頭を上げてください。これから、私たちは一緒にこの鉱脈の採掘を始めますから」

私がそう言うと、イグニスはゆっくりと顔を上げました。
そのダイヤモンドの目は、以前のような冷たい光ではありません。どこか優しい輝きを、宿しています。
新たな仲間が、また一人増えました。

『マスター、このイグニスがいれば採掘作業はとても効率的になるでしょう。彼女は、地中の鉱石を見つけて自動で採掘する能力を持っています』

ナナさんが、イグニスの能力を分析して報告してくれました。
やはり古代文明の兵器は、戦闘だけでなく様々な特殊能力を持っているようです。
この鉱脈の採掘は、想像以上に早く終わりそうでした。

「よし、それじゃあイグニス。早速ですが、採掘を始めてもいいですか」

『はい、管理者様。畏まりました。この鉱脈の、全てのオリハルコンとヒヒイロカネをあなた様に捧げましょう』

イグニスは、そう言うと地下空間の中央へと移動しました。
そしてその巨大な体から、いくつもの光の触手のようなものを伸ばし始めます。
触手は壁の鉱石に触れると、まるで吸い込むかのようにそれらを吸収しました。
青く輝くオリハルコンや、虹色に輝くヒヒイロカネが次々とイグニスの体の中へ消えていきます。

『これは、驚くべき効率です。イグニスは、採掘と精錬を同時に行なっているようです。純度も、極めて高いままです』

ナナさんが、イグニスの作業を近くで観察しながら報告してくれました。
採掘された鉱石は、イグニスの体の中で純粋な金属にされているようです。
これなら、ヘパイストスの鍛冶場で改めて精錬する必要もありません。
作業は、とても速く進むでしょう。

「すごいです、イグニス。ありがとう」

私が感謝の言葉を言うと、イグニスの体がわずかに光りました。
嬉しがっているようです。
私たちは、イグニスが採掘する様子をしばらく見守ることにしました。
この地下空間全体が、まるで生きているかのように光を放ち魔力を巡らせています。
それは、とても幻想的な光景でした。

採掘作業は、想像以上の速さで進んでいきました。
イグニスは、休むことなく鉱石を吸収し続けます。
その体内に、どれほどの量の金属をしまえるのか全く想像がつきません。
空間の壁にあった鉱石は、どんどんその数を減らしていきます。

「これだけの量があれば、ヘパイストスの鍛冶場でいくらでも兵器が作れますね」

私は、山のように積まれた金属の塊を見て思わず興奮しました。
これらは全て、イグニスが精錬した純粋な金属です。
キラキラと輝くその姿は、まさに宝そのものでした。

『はい、マスター。この量であれば、しばらくの生産には全く問題ないでしょう。さらに、シルフィードや私の強化も可能です』

ナナさんも、満足そうに頷いています。
私たちの戦力は、これで大きく向上するでしょう。
「侵食する虚無」との戦いも、決して夢物語ではありません。

「イグニス、採掘はもう十分です。ありがとう」

私がそう言うと、イグニスはゆっくりと採掘作業を止めました。
そして、私たちの方に振り返ります。

『管理者様、分かりました。採掘された金属は、ここに貯蔵しておきます。必要であれば、いつでもお持ちください』

イグニスは、そう言うと空間の隅にある巨大なくぼみを指し示しました。
そこには、純粋な金属の塊が山のように積まれています。
まさに、金属の山でした。

「ありがとう、イグニス。それじゃあ、私たちは一度鍛冶場に戻ります。あなたは、この場所の守りを続けてくれますか」

『はい、管理者様。この鉱脈は、私が命に代えても守り抜きます。どうか、ご安心ください』

イグニスの言葉は、とても力強く信頼できるものでした。
私は、彼女にこの場所を任せることにします。
私たちは、再び巨大な扉の前に立ちました。
扉は、イグニスが自動で開けてくれます。

『管理者様、どうかご無事で。そして再びこの場所へ、戻られる日を心よりお待ちしております』

イグニスに見送られながら、私たちは森の地下へと続く階段を登っていきました。
地上に出ると、シルフィードが私たちを待っています。
船内に戻り、私は操縦席に座ると深く息を吐きました。

「なんだか、あっという間に終わってしまいましたね」

『はい、マスターのスキルとイグニスの能力が合わさり、予想をはるかに超える速度で採掘が進みました』

ナナさんも、少しだけ驚いた様子です。
私たちは、手に入れた金属をシルフィードの貨物室にしまいました。
これで、ヘパイストスの鍛冶場に戻ることができます。

「よし、ナナさん。ヘパイストスの鍛冶場に戻りましょう!」

『了解しました、マスター。航路設定を、ヘパイストスの鍛冶場に直します』

シルフィードは、再びふわりと浮き上がりました。
そして迷いの森を後にして、火山の地下にある鍛冶場を目指して高速で飛び始めます。
私たちの手には、世界を変えるほどの力が集まりつつありました。
「侵食する虚無」との最終決戦も、いよいよ本当のことになってきたのです。
その日の夕方、私たちは無事にヘパイストスの鍛冶場へと帰りました。
ヘスティアさんが、巨大なドックで私たちを出迎えてくれます。

「おかえりなさいませ、マスター。ご無事で何よりです」

『ただいま、ヘスティアさん。見てください、これを』

私は、貨物室から取り出した金属の塊をヘスティアさんに見せました。
彼女の青い目が、驚きに大きく見開かれます。

『こ、これは……! これほどの量の金属が、なぜこんなに短時間で!』

ヘスティアさんの声には、明らかに戸惑いの色が混じっていました。
彼女の記録にも、この速さでの採掘はなかったのでしょう。

「ふふ、新しい仲間が増えたんです」

私がそう言うと、ナナさんがイグニスの能力について説明してくれました。
ヘスティアさんは、その説明を聞きながら何度も頷いていました。

『なるほど……、守護竜型ゴーレムのイグニス。そして採掘と精錬を同時に行う能力。これは、まさに奇跡と呼ぶべき協力です』

ヘスティアさんの興奮は、とても高まっているようでした。
彼女の顔には、今まで見たことのないような生き生きとした表情が浮かんでいます。

「これで、兵器の大量生産も可能になりますね」

『はい、マスター。これほどの資源があれば、設計図にある全ての兵器を生産できます。それどころか、まだ見ぬ新たな兵器の開発も可能になるかもしれません』

私たちは、ヘスティアさんと共に工場の制御室へと向かいました。
メインスクリーンには、工場の稼働状況と資源の量がリアルタイムで表示されています。
超希少金属の項目は、以前とは比べ物にならないほど大きな数字を示していました。

「よし、それじゃあヘスティアさん。早速ですが、いくつか兵器の生産計画を立てて欲しいのですが」

『かしこまりました、マスター。どのような兵器をご希望ですか?』

「まずは、シルフィードとナナさんのさらなる強化です。そして、私たちを護衛してくれる強力な戦闘ゴーレムもいくつか生産したいのですが」

私の言葉に、ヘスティアさんは嬉しそうに頷きました。

『了解しました。シルフィードには、次元シールドとプラズマ爆弾の追加をすすめます。ナナさんには、さらに高出力のコアを乗せて演算能力と機動力を向上させましょう』

ヘスティアさんは、次々と具体的な強化プランを提案してくれます。
そして、戦闘ゴーレムの設計図をいくつかスクリーンに映し出しました。
それぞれが、違う特徴を持つゴーレムたちです。

『この「ヴァルキリー」は、飛行能力に優れた高速戦闘型ゴーレムです。そして、「タイタン」は、重い装甲と強力な近接攻撃が得意な突撃型ゴーレムです』

「すごい、どれも頼りになりそうですね」

『はい。これらのゴーレムを、生産ラインで量産すれば管理者様を護衛する強力な軍団を編成できるでしょう』

私たちは、最終的な生産計画を立てるためにさらに深く話し合いました。
「侵食する虚無」との戦いは、簡単にはいかないでしょう。
だからこそ、私たちはあらゆる可能性を考えて万全の準備を整える必要がありました。
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