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月の神殿の前に立つ、黒と白の二体のゴーレム。
その姿は、まるで夜空に浮かぶ月のようです。そして、それを包む闇のようでもありました。
静かに、しかし絶対的な存在感を放っています。私たちを、じっと見つめていました。
その視線には、感情というものが一切ありません。
ただ、神殿を守るという冷徹な使命感だけが宿っていました。
『マスター、ご注意ください。あれは、月の神殿が誇る双子の守護者です。「ノクス」と「ルクス」という、名前がついています。図書館のデータによれば、ノクスは闇と沈黙を操ります。そしてルクスは、光と幻を操るとされていました。』
ナナさんが、冷静に分析した情報を私に伝えます。
漆黒の騎士がノクスで、純白の魔術師がルクスなのでしょう。
二体は、完璧な連携で侵入者を排除すると言います。
その戦闘能力は、一体だけでもガルーダに匹敵するそうです。
そんな存在が、二体同時に襲ってきます。
これまでの聖地とは、次元の違う試練が待っているようです。
「私たちは、戦いに来たのではありません。聖地を解放して、この世界を救うために参りました。」
私が、いつものように対話を試みようとしました。
その時、黒の騎士ノクスが音もなく動き出します。
その姿は、まるで影に溶けるように消えました。
「どこへ行ったのですか。」
私が驚いた瞬間、ナナさんの背後に漆黒の剣が振り下ろされます。
ノクスは、空間を移動する能力を持っているみたいです。
キィィィン、と甲高い金属音が響き渡りました。
ナナさんは、振り向かずに攻撃を受け止めています。背中に展開した翼が、ノクスの剣を防ぎました。
彼の新しい体は、奇襲にも完璧に対応しています。
『マスター、彼らに対話は通用しないようです。彼らは、感情を持たない純粋な殺戮機械です。』
ナナさんの言葉と同時に、白の魔術師ルクスが動き出しました。
彼女は、手に持つ三日月の杖を天に掲げます。
すると、私たちの周りの空間がぐにゃりと歪みました。
そして、景色が一瞬で変わります。
私たちは、いつの間にか宇宙空間のような場所にいました。終わりなき星空が、どこまでも広がっています。
足元には、ガラスのように透明な床が続いていました。
そして私たちの周りには、何十体もの幻影が現れます。ノクスとルクスの、幻影でした。
どれが本物で、どれが幻なのか全く見分けがつきません。
「これは、ルクスの幻術ですか。」
『はいマスター、これは非常に高度な精神攻撃です。油断すれば、現実と幻の区別がつかなくなります。そして、心を壊されてしまうでしょう。』
幻影たちが、一斉に私たちに襲いかかってきました。
ヴァルキリー部隊とタイタン部隊が、すぐさま迎撃します。
しかし、彼女たちの攻撃は幻影をすり抜けるだけでした。全く、手応えがありません。
「くっ、これではキリがありません。」
私は、歯を食いしばりました。
このままでは、幻に惑わされている間にやられてしまいます。本物の、ノクスとルクスに攻撃されるでしょう。
どうすれば、この状況を打破できるのでしょうか。
(幻を破るには、もっと強い真実の光が必要です。セクメトにもらった、太陽の力が使えるかもしれません。)
私は、太陽の祭壇で授かった「太陽の恩寵」の力を解放しました。
私の体から、黄金色の光が溢れ出します。
その光は、偽りの夜空を明るく照らし出しました。まるで、本物の太陽のようです。
すると、私たちを囲んでいた幻影たちが次々と消えていきます。光に、溶けていくようでした。
ルクスの作り出した幻の世界に、ひびが入っていきます。
『なっ、私の幻月が破られるとは。』
初めて、ルクスから驚きの声が聞こえました。
彼女の幻術が破られたのは、これが初めてのことかもしれません。
幻が完全に消え去り、私たちは再び月の神殿の前にいました。
そして目の前には、たった二体のノクスとルクスがいます。
どうやら幻術の核は、ルクス本人だったようです。
彼女さえ見つけ出せば、この幻は破れます。
「ナナさん、全軍でルクスを集中攻撃してください。」
私の指示に、ゴーレム軍団が一斉に動きました。
ありとあらゆる攻撃が、ルクスただ一人に降り注ぎます。
しかし、その攻撃が彼女に届くことはありません。
黒の騎士ノクスが、ルクスの前に立ちはだかりました。全ての攻撃を、漆黒の大剣一本で受け止めています。
彼の守りは、まさに鉄壁でした。
『無駄だ、ノクスの「沈黙の盾」の前ではいかなる攻撃も意味をなさない。』
ルクスの、冷たい声が響きました。
ノクスは守りに特化して、ルクスは攻撃に特化します。
二体は、互いの弱点を補い合う完璧なコンビでした。
これでは、本当に手が出せません。
その頃、アレス様たちは温かいスープを飲んでいました。謎の狩人の男が作った、キャンプです。
男は、ザックと名乗りました。
彼は、この辺りの森で一人で暮らす腕利きの狩人だと言います。
「お前たち、元は高貴な身分だったようだな。一体、何があったんだ。」
ザックの問いに、アレス様たちは正直に話しました。
勇者であったことや、仲間を追放したこと。そして、全てを失ったことを話したのです。
話を聞き終えたザックは、何も言わずに焚き火を見つめていました。
「自業自得、だな。」
やがて、ザックはぽつりとそう呟きます。
その言葉は、彼らの胸に深く突き刺さりました。
「分かっている、俺たちは取り返しのつかない過ちを犯した。」
アレス様が、力なくそう答えました。
その時、森の空が、一瞬だけ黄金色に輝きます。ずっと南西の彼方が、光ったのです。
カインは、その光を見逃しませんでした。
(今の光は、一体なんだ。まるで、太陽が一つ増えたかのようだ。)
その光が、私の放った輝きであることに彼が気づくはずもありません。
しかしその光は、彼の心に希望の種を植え付けたのです。忘れかけていた、小さな希望でした。
月の神殿での戦いは、膠着状態に陥っていました。
ノクスの完璧な守りを、私たちはどうしても崩せません。
かといって攻撃を緩めれば、今度はルクスの魔法が襲ってきます。強力な、幻術と光の魔法です。
まさに、八方塞がりの状況でした。
「どうすれば、あの二人を倒せるのでしょうか。」
私が、焦りの色を浮かべ始めたその時でした。
私の頭の中に、直接語りかけてくる声が聞こえます。
(管理者よ、聞こえますか。)
その声は、とても懐かしい響きを持っていました。
風の聖域の守護者、ガルーダの声です。
「ガルーダですか、どうして私の頭の中に。」
(我は、あなたに「風の加護」を与えました。それは、あなたと我の心をつなぐ絆でもあります。あなたは、いつでも風と共に我を呼ぶことができるのです。)
ガルーダは、聖地で眠りについたはずでした。
しかし彼が授けてくれた力が、私たちの間に見えない道を作ってくれたのです。
(管理者よ、苦戦しているようだな。あの双子の守護者は、確かに手強い存在だ。しかし彼らには、たった一つだけ弱点が存在する。)
「弱点が、あるのですか。」
(そうだ、彼らは光と闇で一つの存在。つまり、どちらか一体だけを倒してもすぐに復活させてしまう。彼らを倒すには、二体を同時に破壊するしかない。寸分の、狂いもなくだ。)
同時に、破壊する。
それは、並大抵のことではありません。
しかし今の私には、それを可能にする仲間がいます。
そして、私自身の新しい力もありました。
「ガルーダ、ありがとうございます。勝機が、見えました。」
私は、心の中でガルーダに感謝を告げました。
そしてナナさんとゴーレム軍団に、新たな作戦を伝えます。
それは、私たちの全ての力を結集させた大技でした。一か八かの、大きな賭けです。
「ナナさん、タイタン部隊はノクスを足止めしてください。ヴァルキリー部隊は、ルクスをお願いします。その間に、私が全てを終わらせます。」
『マスター、まさかあなたは。』
ナナさんは、私のやろうとしていることに気づいたようです。
その声には、心配の色が滲んでいました。
「大丈夫です、私とこのシルフィードを信じてください。」
私は、シルフィードの操縦席に深く座り込みました。
そして、新たに追加された二つの究極兵器を起動させます。ヘパイストスの、鍛冶場で手に入れたものです。
プラズマ爆弾と、次元シールドでした。
いいえ、次元シールドは防御のためだけにあるのではありません。
その本来の力は、空間そのものを操ることにあるのです。
「ナナさん、合図をしたら全軍一斉に退避してください。」
私は、シルフィードのエネルギー出力を最大まで引き上げました。
船全体が、まばゆい光に包まれます。
これから始まるのは、もはや戦いではありませんでした。
神々の領域で行われる、創造と破壊の儀式でした。
その姿は、まるで夜空に浮かぶ月のようです。そして、それを包む闇のようでもありました。
静かに、しかし絶対的な存在感を放っています。私たちを、じっと見つめていました。
その視線には、感情というものが一切ありません。
ただ、神殿を守るという冷徹な使命感だけが宿っていました。
『マスター、ご注意ください。あれは、月の神殿が誇る双子の守護者です。「ノクス」と「ルクス」という、名前がついています。図書館のデータによれば、ノクスは闇と沈黙を操ります。そしてルクスは、光と幻を操るとされていました。』
ナナさんが、冷静に分析した情報を私に伝えます。
漆黒の騎士がノクスで、純白の魔術師がルクスなのでしょう。
二体は、完璧な連携で侵入者を排除すると言います。
その戦闘能力は、一体だけでもガルーダに匹敵するそうです。
そんな存在が、二体同時に襲ってきます。
これまでの聖地とは、次元の違う試練が待っているようです。
「私たちは、戦いに来たのではありません。聖地を解放して、この世界を救うために参りました。」
私が、いつものように対話を試みようとしました。
その時、黒の騎士ノクスが音もなく動き出します。
その姿は、まるで影に溶けるように消えました。
「どこへ行ったのですか。」
私が驚いた瞬間、ナナさんの背後に漆黒の剣が振り下ろされます。
ノクスは、空間を移動する能力を持っているみたいです。
キィィィン、と甲高い金属音が響き渡りました。
ナナさんは、振り向かずに攻撃を受け止めています。背中に展開した翼が、ノクスの剣を防ぎました。
彼の新しい体は、奇襲にも完璧に対応しています。
『マスター、彼らに対話は通用しないようです。彼らは、感情を持たない純粋な殺戮機械です。』
ナナさんの言葉と同時に、白の魔術師ルクスが動き出しました。
彼女は、手に持つ三日月の杖を天に掲げます。
すると、私たちの周りの空間がぐにゃりと歪みました。
そして、景色が一瞬で変わります。
私たちは、いつの間にか宇宙空間のような場所にいました。終わりなき星空が、どこまでも広がっています。
足元には、ガラスのように透明な床が続いていました。
そして私たちの周りには、何十体もの幻影が現れます。ノクスとルクスの、幻影でした。
どれが本物で、どれが幻なのか全く見分けがつきません。
「これは、ルクスの幻術ですか。」
『はいマスター、これは非常に高度な精神攻撃です。油断すれば、現実と幻の区別がつかなくなります。そして、心を壊されてしまうでしょう。』
幻影たちが、一斉に私たちに襲いかかってきました。
ヴァルキリー部隊とタイタン部隊が、すぐさま迎撃します。
しかし、彼女たちの攻撃は幻影をすり抜けるだけでした。全く、手応えがありません。
「くっ、これではキリがありません。」
私は、歯を食いしばりました。
このままでは、幻に惑わされている間にやられてしまいます。本物の、ノクスとルクスに攻撃されるでしょう。
どうすれば、この状況を打破できるのでしょうか。
(幻を破るには、もっと強い真実の光が必要です。セクメトにもらった、太陽の力が使えるかもしれません。)
私は、太陽の祭壇で授かった「太陽の恩寵」の力を解放しました。
私の体から、黄金色の光が溢れ出します。
その光は、偽りの夜空を明るく照らし出しました。まるで、本物の太陽のようです。
すると、私たちを囲んでいた幻影たちが次々と消えていきます。光に、溶けていくようでした。
ルクスの作り出した幻の世界に、ひびが入っていきます。
『なっ、私の幻月が破られるとは。』
初めて、ルクスから驚きの声が聞こえました。
彼女の幻術が破られたのは、これが初めてのことかもしれません。
幻が完全に消え去り、私たちは再び月の神殿の前にいました。
そして目の前には、たった二体のノクスとルクスがいます。
どうやら幻術の核は、ルクス本人だったようです。
彼女さえ見つけ出せば、この幻は破れます。
「ナナさん、全軍でルクスを集中攻撃してください。」
私の指示に、ゴーレム軍団が一斉に動きました。
ありとあらゆる攻撃が、ルクスただ一人に降り注ぎます。
しかし、その攻撃が彼女に届くことはありません。
黒の騎士ノクスが、ルクスの前に立ちはだかりました。全ての攻撃を、漆黒の大剣一本で受け止めています。
彼の守りは、まさに鉄壁でした。
『無駄だ、ノクスの「沈黙の盾」の前ではいかなる攻撃も意味をなさない。』
ルクスの、冷たい声が響きました。
ノクスは守りに特化して、ルクスは攻撃に特化します。
二体は、互いの弱点を補い合う完璧なコンビでした。
これでは、本当に手が出せません。
その頃、アレス様たちは温かいスープを飲んでいました。謎の狩人の男が作った、キャンプです。
男は、ザックと名乗りました。
彼は、この辺りの森で一人で暮らす腕利きの狩人だと言います。
「お前たち、元は高貴な身分だったようだな。一体、何があったんだ。」
ザックの問いに、アレス様たちは正直に話しました。
勇者であったことや、仲間を追放したこと。そして、全てを失ったことを話したのです。
話を聞き終えたザックは、何も言わずに焚き火を見つめていました。
「自業自得、だな。」
やがて、ザックはぽつりとそう呟きます。
その言葉は、彼らの胸に深く突き刺さりました。
「分かっている、俺たちは取り返しのつかない過ちを犯した。」
アレス様が、力なくそう答えました。
その時、森の空が、一瞬だけ黄金色に輝きます。ずっと南西の彼方が、光ったのです。
カインは、その光を見逃しませんでした。
(今の光は、一体なんだ。まるで、太陽が一つ増えたかのようだ。)
その光が、私の放った輝きであることに彼が気づくはずもありません。
しかしその光は、彼の心に希望の種を植え付けたのです。忘れかけていた、小さな希望でした。
月の神殿での戦いは、膠着状態に陥っていました。
ノクスの完璧な守りを、私たちはどうしても崩せません。
かといって攻撃を緩めれば、今度はルクスの魔法が襲ってきます。強力な、幻術と光の魔法です。
まさに、八方塞がりの状況でした。
「どうすれば、あの二人を倒せるのでしょうか。」
私が、焦りの色を浮かべ始めたその時でした。
私の頭の中に、直接語りかけてくる声が聞こえます。
(管理者よ、聞こえますか。)
その声は、とても懐かしい響きを持っていました。
風の聖域の守護者、ガルーダの声です。
「ガルーダですか、どうして私の頭の中に。」
(我は、あなたに「風の加護」を与えました。それは、あなたと我の心をつなぐ絆でもあります。あなたは、いつでも風と共に我を呼ぶことができるのです。)
ガルーダは、聖地で眠りについたはずでした。
しかし彼が授けてくれた力が、私たちの間に見えない道を作ってくれたのです。
(管理者よ、苦戦しているようだな。あの双子の守護者は、確かに手強い存在だ。しかし彼らには、たった一つだけ弱点が存在する。)
「弱点が、あるのですか。」
(そうだ、彼らは光と闇で一つの存在。つまり、どちらか一体だけを倒してもすぐに復活させてしまう。彼らを倒すには、二体を同時に破壊するしかない。寸分の、狂いもなくだ。)
同時に、破壊する。
それは、並大抵のことではありません。
しかし今の私には、それを可能にする仲間がいます。
そして、私自身の新しい力もありました。
「ガルーダ、ありがとうございます。勝機が、見えました。」
私は、心の中でガルーダに感謝を告げました。
そしてナナさんとゴーレム軍団に、新たな作戦を伝えます。
それは、私たちの全ての力を結集させた大技でした。一か八かの、大きな賭けです。
「ナナさん、タイタン部隊はノクスを足止めしてください。ヴァルキリー部隊は、ルクスをお願いします。その間に、私が全てを終わらせます。」
『マスター、まさかあなたは。』
ナナさんは、私のやろうとしていることに気づいたようです。
その声には、心配の色が滲んでいました。
「大丈夫です、私とこのシルフィードを信じてください。」
私は、シルフィードの操縦席に深く座り込みました。
そして、新たに追加された二つの究極兵器を起動させます。ヘパイストスの、鍛冶場で手に入れたものです。
プラズマ爆弾と、次元シールドでした。
いいえ、次元シールドは防御のためだけにあるのではありません。
その本来の力は、空間そのものを操ることにあるのです。
「ナナさん、合図をしたら全軍一斉に退避してください。」
私は、シルフィードのエネルギー出力を最大まで引き上げました。
船全体が、まばゆい光に包まれます。
これから始まるのは、もはや戦いではありませんでした。
神々の領域で行われる、創造と破壊の儀式でした。
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些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
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