『修復』スキルはゴミだと追放された私、古代兵器(ゴーレム)の心臓を直してしまいました

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「ナナさん、合図をしたら全軍一斉に退避してください。」
私は、シルフィードの操縦席に深く体を沈めました。

そして、新たに追加された二つの究極兵器を、静かに起動させます。
私の表情は、これまでにないほど真剣なものに変わっていました。
これから行う作戦は、あまりにも危険すぎたのです。

「マスター、まさかあなたは、シルフィードの次元兵装を実戦で使うおつもりですか。あれは理論上の最終兵器でして、まだテストも完了していません。」
ナナさんが、私の隣で心配そうな声を上げました。

彼の赤い目には、私の身を案じる色がはっきりと浮かんでいます。
無理もないことでしょう、この兵器の暴走は世界の消滅を意味するからです。

「大丈夫です、私とこのシルフィードを信じてください。あの二人を同時に倒すには、これしか方法がありません。」
私は、ナナさんを安心させるように力強く頷きました。

そして、シルフィードのエネルギー出力を、ためらうことなく最大まで引き上げます。
船全体が、まばゆいほどの黄金の光に包まれました。
操縦室のたくさんの計器類が、一斉に安全を示す緑色から危険な赤色へと変わっていきます。

私の考えた作戦は、あまりにも単純で、そしてあまりにも無謀なものでした。
夜の守護者ノクスと、光の守護者ルクスを寸分の狂いもなく同時に倒す必要があるのなら、二体を無理やり一直線に並べてしまえばいいのです。
その目的を達成するために、シルフィードに搭載された次元シールドの本来の力を使います。
空間そのものを操る、神にも等しい空間制御能力です。
そして、完成したばかりの恐ろしいプラズマ爆弾で、空間ごと二体を消滅させる計画でした。

「タイタン部隊はノクスを、ヴァルキリー部隊はルクスを全力で引きつけてください。私が、道を作ります。」
私の明確な指示が、全てのゴーレムに伝わりました。

ゴーレム軍団が、最後の激しい攻撃を開始します。
十体の巨大なタイタンたちは、ノクスの周りを鋼鉄の壁となって固めました。
その巨大な体でノクスの動きを完全に封じ込めて、一歩も動けないように押さえつけます。

『小賢しいですね、虫けらが。』
ノクスが、いまいましそうに呟きました。
漆黒の大きな剣が振るわれるたびに、タイタンたちの重い装甲に深い傷が刻まれていきます。
しかし、勇敢なタイタンたちは決して怯みませんでした。

空飛ぶヴァルキリーたちは、上空からルクスへ目も眩むほどの集中砲火を浴びせます。
ルクスは、それを防ぐために強力な光の壁を何重にも展開しました。
彼女の美しい顔に、初めて焦りの色が浮かんでいます。
二体の強力な守護者は、完全にその場に釘付けになりました。

「今です、ナナさん。全軍、退避してください。」
『了解しました。全軍、マスターの指示に従いなさい。』
ナナさんの号令によって、今まで死闘を繰り広げていたゴーレムたちが一斉にその場から離脱しました。
戦場には、動きを封じられた二体の守護者と、黄金の光を放つシルフィードだけが残されます。

『愚かなことですね、自ら死を選びましたか。』
ルクスが、あざ笑うように言いました。
私は、その言葉を気にも留めません。
そして、シルフィードの全てのエネルギーを、次元シールドへと集中させました。

「空間固定フィールド、展開します。」
船から放たれた青白い光が、ノクスとルクスがいる空間全体を格子状のエネルギーで包み込みます。
二体の動きが、完全に停止しました。
まるで、世界の時間が止められたかのように、ピクリとも動きません。

「そして、プラズマ爆弾、発射準備に入ります。」
シルフィードの船体の下側が、音もなく開きました。

そこから、小さな太陽のように輝く巨大なエネルギーの球体が現れます。
これが、恐ろしいプラズマ爆弾の本体でした。
周囲の空間が、その圧倒的な熱量でぐにゃりと歪みます。
島の空気が、まるで燃えているかのようでした。

「次元座標を固定、目標はノクスとルクスの中心点です。」
私は、二体の守護者のちょうど真ん中に、目標を定めました。

そして、次元シールドの出力を、さらに限界を超えて引き上げます。
船体が、悲鳴のような音を立ててきしみました。

「空間圧縮、開始します。」
私の言葉と同時に、信じられないことが起こりました。
ノクスとルクスがいた空間が、まるで紙を折りたたむように、ものすごい勢いで圧縮され始めたのです。
二体の守護者は、抵抗する時間もありません。
目には見えない巨大な力によって、お互いの方向へと無理やり引きずられていきました。

『なっ、これは一体何事ですか。空間が、我らを押しつぶそうとしています。』
『ばかな、このような魔法は、我らの記録には存在しません。これは、まさに神の御業です。』
二体の守護者が、初めて焦りの声を上げました。
しかし、もう手遅れでした。

空間は、どんどん圧縮されていきます。
そしてついに、二体の守護者は背中合わせの状態で、完全に身動きが取れなくなりました。
漆黒の鎧と、純白のローブが触れ合っています。
完璧な、一直線上に並びました。

「発射します。」
私は、静かにその言葉を告げました。

シルフィードから放たれたプラズマ爆弾は、一本のまばゆい光の槍となります。
そして、圧縮された空間ごと、二体の守護者を貫きました。

世界から、全ての音が消えます。
そして次の瞬間、新しい太陽が生まれたかのような、まばゆい閃光が全てを白く染め上げました。
凄まじい衝撃波が、島全体を大きく揺るがします。
しかし、その衝撃が私たちに届くことはありません。
シルフィードの次元シールドが、その全てを完全に防いでいたからです。

やがて、まぶしい光が収まった時。
そこには、もう何も残っていませんでした。
ノクスも、ルクスも、跡形もなく消え去っています。
ただ、キラキラと輝く光の粒子が、夜空の星のように美しく舞っているだけでした。

「終わった、のですね。」
私は、操縦席のシートに深く体を預けました。
全身の力が、抜けていくのが分かります。
作戦は、大成功に終わりました。

『マスター、お見事です。双子の守護者の完全消滅を、確認しました。』
ナナさんの、褒めてくれる声が聞こえます。
退避していたゴーレムたちも、次々と戻ってきました。
彼らの機体に、大きな損傷はないようでした。

私たちは、物音が消えた神殿の前に降りました。
固く閉ざされていた黒曜石の扉が、私たちを歓迎するかのようにゆっくりと開いていきます。
最後の試練を、私たちは乗り越えたのです。

神殿の中は、厳かな空気に満ちていました。
壁には、星々の運行を示す美しい模様が描かれています。
そして、その中心に浮かんでいたのは、巨大な黒い水晶でした。
まるで、夜そのものを固めたような、とても美しい水晶です。

私は、いつものように祭壇にマスターキーを差し込みました。
そして、私の魔力を注ぎ込みます。
神殿全体が、優しい月の光のような輝きに包まれました。
島の外、遠い空に向かって、四本目の光の柱がまっすぐに昇っていきます。
これで、残る聖地はあと一つだけです。

儀式を終えると、私の目の前に一人の女性の姿が現れました。
夜空の星々を織り込んだような、美しいドレスをまとっています。
その顔は、月の女神のように穏やかで、優しい笑みを浮かべていました。

『ようこそ、管理者様。私は、この神殿の意志、「セレネ」です。』
セレネと名乗った女神は、私にそっと手を差し伸べました。

『聖地を解放してくれた、あなたに祝福を授けましょう。』
彼女の指先から、銀色の光が私の体の中へと流れ込んできます。

『あなたに、「月の叡智」を授けます。それは、人の心を見通し、真実と嘘を見抜く力です。そして、穏やかな眠りを与える、癒やしの力ともなるでしょう。』
私の頭の中に、新しい知識と力が流れ込んできました。
人の心を、より深く理解できるようになった気がします。

「ありがとうございます、セレネ様。」
『礼には及びません。どうか、この世界に再び安らかな夜を取り戻してください。』
そう言い残して、セレネの姿はゆっくりと消えていきました。

その頃、狩人のザックのキャンプでは、アレス様たちが少しだけ元気を取り戻していました。
温かいスープと十分な休息が、彼らの心と体を癒やしたのです。

「なあ、あんたたち。これから、どうするつもりなんだ。」
ザックの問いに、彼らは答えられません。
勇者でもなくなり、帰る場所もない彼らには、明るい未来がありませんでした。
そんな時、カインが遠い空を指差します。

「見てください、またあの光が。」
南西の空に、今度は銀色の美しい光の柱が昇っていました。
それは、私たちが月の神殿を解放した証です。

「一体、何が起きているんだ。まさか、本当に世界が。」
アレス様は、その神々しい光景を前に、ただ立ち尽くすことしかできませんでした。
自分たちが失ったものの大きさと、世界の大きな変化。
その二つの現実が、彼の心を強く打ちました。
彼は、初めて心の底から自分の過ちを認めて、そして何かを決意したように固く拳を握りしめたのです。

聖地での役目を終えた私たちは、ヘスティアさんに連絡を取りました。

『マスター、第四聖地の起動を、確認しました。これで、結界の完成まで王手です。』
ヘスティアさんの、嬉しそうな声が聞こえます。

「はい、ヘスティアさん。最後の聖地は、どこになるのでしょうか。」
私の問いに、ヘスティアさんは少しだけ間を置きました。

そして、大陸の地図に最後の場所を映し出します。
それは、大陸の中央に位置する、巨大な大穴でした。
底が見えないほど深くて、不気味な瘴気が渦巻いています。

『最後の聖地は、「奈落の祭壇」です。そして、そこは「侵食する虚無」が封印されている、魔王の迷宮の入り口でもあります。』
ヘスティアさんの声が、緊張で硬くなりました。

『これまでの聖地とは、比べものにならないほどの危険が待っているでしょう。そこは、古代文明が全ての負の遺産を封じ込めた、禁断の地なのですから。』
画面に映る大穴は、まるで世界に開いた傷口のようでした。
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