『修復』スキルはゴミだと追放された私、古代兵器(ゴーレム)の心臓を直してしまいました

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『マスター、前方に未確認の超巨大エネルギー反応を多数検知しました。これは……!』

ヘスティアさんの、普段の冷静さを失った声が、シルフィードの操縦室に響き渡りました。その声は、ただ事ではない状況を私たちに伝えてきます。最後の聖地である禁断の地は、やはり私たちの想像をはるかに超える脅威を隠していたのです。

目の前には、不気味な紋様が刻まれた巨大な扉がそびえ立っています。その向こう側から漏れ出てくる気配は、もはや一つの生命体が放つものではありませんでした。それは、まるで強力な軍隊のようでした。しかも、一体一体が神話級の力を持つ、絶望的なまでに手ごわい軍隊の気配だったのです。

「ナナさん、状況を詳しく教えてください。」
私は、ごくりと息を飲み込みながら、隣に立つ頼れる相棒に問いかけました。
彼の赤い目は、高速で点滅を繰り返しています。
目の前の扉の向こう側を、古代文明の技術で解析しているのです。

『はい、マスター。扉の奥、およそ五百メートル先に、巨大なホール状の空間が広がっています。最後の聖地である「奈落の祭壇」は、その中央にあるようです。』

ナナさんは、操縦室のメインスクリーンに、迷宮の内部構造を立体的に映し出しました。
私たちのいる場所から、祭壇まではほぼ一直線です。
しかし、その直線上には、信じられない数を示す赤い光点が無数に輝いていました。

『問題は、祭壇を守るように配置されている防衛システムです。エネルギー反応の規模から考えると、その数はおよそ百体です。そして、その一体一体が、これまでの聖地で遭遇した守護者たちに匹敵する力を持っています。』

「百体、ですか。ガルーダやセクメトと同じくらいのゴーレムが。」
私は、思わず聞き返してしまいました。
一体だけでも、私たちの全戦力でようやく戦えたほどの相手です。
そんな存在が、百体もいるというのでしょうか。
それは、もはや戦力差という言葉では表せないほどの、圧倒的な状況でした。

『その通りです。彼らは「奈落の番人」と呼ばれる、古代文明が作り出した最終防衛システムだと思われます。一体一体が、異なる能力を持つ自律思考型の戦闘ゴーレムなのです。おそらく、私たちの戦闘データを分析し、すぐに対応してくるでしょう。』

希望の見えない、とても厳しい状況です。
しかし、私の心は不思議と落ち着いていました。
もう、何も怖いと感じることはありません。
私には、心から信じられる仲間がいます。そして、この世界を守るという固い決意が胸にありました。

「ナナさん、全軍に通達してください。これより、私たちの最後の戦いを始めます、と。」

私の落ち着いた、しかし力強い言葉に、ナナさんは力強く頷きました。
『了解しました、マスター。全軍、マスターの覚悟に応えなさい。』

私の指示は、ナナさんを通じて全てのゴーレムたちに伝わります。
タイタン部隊の、重々しい咆哮が大地を揺るがしました。
ヴァルキリー部隊の、銀色の翼が一斉に天を向きます。
彼らの心は、今や完全に一つになっていました。

私は、ゆっくりと巨大な扉に手をかけます。
その冷たい感触が、私の覚悟をさらに固めてくれました。
扉は、私の魔力に反応して、重い音を立ててゆっくりと開いていきます。

扉の向こう側に広がっていたのは、絶望という言葉をそのまま形にしたような光景でした。
どこまでも続く、巨大なドーム状の空間が広がっています。
天井には、赤い月のようなものが不気味な光を放っていました。
そして、その広大な大地を埋め尽くすように、百体の巨大なゴーレムたちが整然と立ち並んでいたのです。

一体一体の姿は、本当に様々です。
竜の姿をしたものや、巨人の姿をしたものもいます。あるいは、言葉にできない異形の姿をしたものもいました。その全てが、禍々しい紫色の瘴気をその身から立ち上らせています。彼らこそが、奈落の番人でした。世界の終わりを守る、最後の門番たちなのです。

『侵入者を、確認しました。』
『これより、殲滅モードに移行します。』

百体のゴーレムたちの目が、一斉に赤い光を灯しました。
その声は、感情というものを一切感じさせない、冷たい合成音声です。
しかし、百の声が重なり合うことで、それは地獄の底から響いてくる悪魔の合唱のようにも聞こえました。

「タイタン部隊、前へ。絶対に、敵をここから一歩も通してはいけません。」

私の号令で、輸送船から降り立った二十体のタイタンたちが動きます。
彼らは、巨大な壁となって私の前に立ちはだかりました。
その黒い重装甲が、不気味な赤い光を鈍く反射しています。

「ヴァルキリー部隊は、上空から援護を。一体ずつ、確実に数を減らしていってください。」

十体のヴァルキリーたちが、美しい軌跡を描いて空へと舞い上がります。
彼女たちの翼から、無数の光の矢が放たれました。

壮絶な戦いの火蓋が、今まさに切って落とされます。
奈落の番人たちが、地響きを立てて一斉にこちらへと突撃してきました。
先頭を走るのは、巨大な猪のような姿をした突撃型のゴーレムです。
その進路上にあるものは、全てを粉砕するほどの勢いでした。

しかし、タイタンたちの壁はびくともしません。
彼らは、その巨大な体で突撃を受け止めると、手に持った巨大なハンマーを力強く振り下ろします。
ゴッという鈍い音と共に、猪型ゴーレムの装甲が大きくへこみました。

上空では、ヴァルキリーたちが鳥型のゴーレムと激しい空中戦を繰り広げています。
レーザー光線が、縦横無尽に飛び交っていました。
空中で、何度もまばゆい爆発が起こります。

戦いは、序盤から激しいものとなりました。
しかし、数の上では互角でも、敵の力は私たちの想像をはるかに超えていたのです。
一体の、蛇のような姿をしたゴーレムがいました。
そのゴーレムは、口から強力な溶解液を吐き出します。
タイタンの一体が、その攻撃を受けてしまいました。
自慢の重装甲が、ジュウジュウと音を立てて溶けていきます。

「くっ、タイタン3号機、後退して自己修復を開始してください。」
私は、すぐに指示を出しました。
私の『上位修復』の力は、ゴーレムたちにも分け与えられています。
致命的な損傷でなければ、彼女たちは自らの力で体を治すことができるのです。

しかし、敵の攻撃はそれだけではありませんでした。
カマキリのような姿のゴーレムが、目にも留まらぬ速さでヴァルキリーの一機に接近します。
その両腕に備え付けられた刃が、一閃しました。
ヴァルキリーの片翼が、無残にも切り落とされてしまいます。

『ヴァルキリー7号機、戦闘不能です。』
ナナさんの、冷静な報告が私の胸に突き刺さりました。
これが、奈落の番人たちの本当の力なのです。
一体一体が、恐ろしい特殊能力を持っていました。
そして、彼らの連携は完璧です。まるで、一つの頭脳で動いているかのようでした。

このままでは、少しずつ不利になってしまいます。
数で押されて、いずれは全滅してしまうでしょう。

(何か、何か方法はないのでしょうか。)
私は、戦況を冷静に分析しながら、打開策を探していました。
その時、月の神殿で授かった「月の叡智」の力が、私の頭の中で囁きます。
それは、真実と嘘を見抜く力でした。

(あれは、なんだろう。)
私の目に、奇妙なものが映りました。
戦場のずっと奥、奈落の番人たちの最後列に、一体だけ全く動かないゴーレムがいたのです。
その姿は、ローブをまとった魔術師のようでした。
その手には、巨大な水晶玉が握られています。そして、その水晶玉が、戦場全体に禍々しい紫色の光を放っていました。

(まさか、あの一体が全てのゴーレムを操っている指揮官機なのでは。)
私の直感が、そう告げていました。
あの魔術師型ゴーレムを倒せば、あるいは状況が変わるかもしれません。

「ナナさん、全軍に伝えてください。目標は、後方にいる魔術師型ゴーレムです。全戦力を、あの一点に集中させます。」

『しかしマスター、そのためには敵の分厚い前線を突破しなければなりません。危険すぎます。』
「私が行きます。ナナさんと、シルフィードで。」

私は、固い決意を固めました。
私たちが、敵陣の真ん中を一直線に突っ切るのです。
そして、敵の頭脳を直接叩きます。
あまりにも、無謀な作戦でした。しかし、今の私たちには、それを可能にする力があります。

「タイタン部隊は、左右に道を開いてください。ヴァルキリー部隊は、上空の敵を引きつけます。その一瞬の隙を突いて、私たちが駆け抜けます。」

『……了解しました、マスター。あなたと、最後まで共に。』
ナナさんの、覚悟のこもった声が聞こえました。

ゴーレム軍団が、一斉に動きを変えます。
タイタンたちが、命を懸けて左右の敵を押しとどめました。
その中央に、ほんの一瞬だけ、一本の道が生まれます。

「行きますよ、ナナさん。」
『はい、マスター。』

私は、シルフィードの出力を最大まで引き上げました。
船体が、黄金の光を放ちます。
私たちは、光の矢となって敵陣の真ん中へと突撃していきました。
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