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王国から送り込まれた次なる刺客は、予想の斜め上を行くものだった。
黒石の城の門前に現れたのは、黄金の刺繍がこれでもかと施された白の法衣。
そして、その後ろに控える二十人以上の精鋭神殿騎士団。
中央で馬車から降りてきたのは、私に冤罪を擦り付けた元凶の一人。
自称「新時代の真聖女」こと、侯爵令嬢のエリアーヌだった。
彼女は私の顔を見るなり、扇子で口元を隠して高笑いした。
「あら、サラ。こんな埃っぽい魔境で、獣と戯れているなんて。落ちぶれたものね」
エリアーヌの纏う魔力は、確かに以前よりは増している。
おそらく、王家が秘蔵していた魔力増幅のポーションを浴びるように飲んできたのだろう。
だが、私から見れば、それはひび割れた安物の花瓶に、無理やり水を注ぎ込んでいるようなもの。
今にも器が耐えきれず、粉々に砕け散りそうな危うい代物だ。
「落ちぶれた? 鏡を見てから仰ったらどうかしら。その肌、魔法で隠しきれないほどボロボロですわよ?」
「なっ……! 貴女、無礼ですわよ! 私は選ばれた真の聖女なのですよ!」
エリアーヌの顔が、怒りで真っ赤に染まる。
彼女が杖を振り上げると、弱々しい金色の光が周囲に飛び散った。
浄化の魔法のつもりだろうが、辺境の濃密な瘴気には全く歯が立たない。
光は霧に飲み込まれ、一瞬でかき消された。
「見ての通り、この土地は呪われているわ。お前のようなどこぞの馬の骨が、適当な魔法で誤魔化しているからよ」
エリアーヌは鼻で笑い、神殿騎士たちに命じた。
「どきなさい。真の聖女による、完璧な浄化を見せてあげるわ。そうすれば、民も誰が本物か理解するでしょう」
彼女は大仰な動作で詠唱を始めた。
数分もかけて練り上げられた魔力。
それが、ようやく湖のほとりにある一角を照らし出す。
パチパチと小さな音がして、黒ずんだ地面がわずかに茶色に戻った。
「どう? これが本物の奇跡よ!」
得意満面のエリアーヌ。
だが、ギルバートをはじめとする暗黒騎士団の面々は、冷めた目で彼女を見ていた。
「……団長。あの女、何をしているんだ?」
「さあな。庭いじりの真似事か? サラ様が昨晩やったことの、一万分の一もできていないが」
騎士たちのひそひそ話が聞こえたのか、エリアーヌの眉間に青筋が浮かぶ。
「貴様ら! 無礼な口を叩くと、神罰が下るわよ! さあ、サラ。おとなしく『聖なる種』を返しなさい!」
「種? 何のことかしら。そんなもの、私は持っていませんわ」
「嘘をおっしゃい! 王宮から忽然と消えたのよ! お前以外に犯人はいないわ!」
エリアーヌが杖の先を私に向ける。
「力ずくでも奪い返してあげるわ! いけ、騎士たち!」
神殿騎士たちが一斉に抜剣し、私に襲いかかろうとした。
だが、その瞬間。
私の背後の影から、巨大な銀色の質量が飛び出した。
「ガアアアアアアアッ!!」
シロの咆哮。
それだけで、突撃してきた騎士たちの半数が、恐怖のあまり泡を吹いて倒れた。
残った者たちも、目の前に現れた伝説のフェンリルを前に、腰を抜かして動けなくなる。
「フェ、フェンリル……!? なぜ、こんな神話の怪物がここに!」
「言ったでしょう。私は獣と戯れているだけだと。でも、この子は少し気性が荒いのよ」
私はシロの鼻筋を優しく撫で、エリアーヌに向き直った。
「あなたの浄化、見ていられませんわ。聖女を名乗るなら、最低限これくらいはできなくては」
私は右足を一歩、地面に踏み込んだ。
「聖なる種」の鼓動を、大地へ直接叩きつける。
黄金の波動が地割れのように走り、エリアーヌの足元を直撃した。
瞬間、彼女が数分かけて浄化しようとしていたエリアだけでなく、湖の全域、さらには視界に入る限りの森すべてが、一瞬で浄化された。
黒い霧は消え去り、空には七色の虹がかかる。
エリアーヌの魔法など、大海に一滴のインクを垂らしたようなものだったと思い知らされる、圧倒的な光の奔流。
「ひっ……あ、ああああ……っ!」
あまりの魔力量の差に、エリアーヌは持っていた杖を落とした。
杖は地面に触れた瞬間に砕け散り、彼女の指先からは魔力の暴走による火花が散る。
「私の魔力レベルは『1』なのでしょう? これもただの偶然ですわ」
私はエリアーヌの目の前まで歩み寄り、彼女の顎をクイと持ち上げた。
恐怖に引き攣った顔。
化粧が剥げ、醜く歪んだ本性が露わになっている。
「戻ってエドワードに伝えなさい。私を連れ戻したければ、最低でも国中の金貨をすべて持ってくることね。まあ、その前に国が残っていればの話だけれど」
「お、覚えていなさい……! この、化け物……!」
エリアーヌは這うようにして馬車に逃げ込み、供回りの騎士たちを置き去りにして走り去った。
残された神殿騎士たちは、シロに睨まれて一歩も動けないでいる。
「ギルバート。この方たちは、城の掃除係として再教育して差し上げて。聖女様への礼儀を一から叩き込んであげてね」
「承知した。死なない程度に可愛がってやろう」
ギルバートの凶悪な笑みが、夕闇に溶け込んでいく。
私はシロの背に飛び乗り、上機嫌で城へと戻った。
今日の夕食は、何かしら。
黒石の城の門前に現れたのは、黄金の刺繍がこれでもかと施された白の法衣。
そして、その後ろに控える二十人以上の精鋭神殿騎士団。
中央で馬車から降りてきたのは、私に冤罪を擦り付けた元凶の一人。
自称「新時代の真聖女」こと、侯爵令嬢のエリアーヌだった。
彼女は私の顔を見るなり、扇子で口元を隠して高笑いした。
「あら、サラ。こんな埃っぽい魔境で、獣と戯れているなんて。落ちぶれたものね」
エリアーヌの纏う魔力は、確かに以前よりは増している。
おそらく、王家が秘蔵していた魔力増幅のポーションを浴びるように飲んできたのだろう。
だが、私から見れば、それはひび割れた安物の花瓶に、無理やり水を注ぎ込んでいるようなもの。
今にも器が耐えきれず、粉々に砕け散りそうな危うい代物だ。
「落ちぶれた? 鏡を見てから仰ったらどうかしら。その肌、魔法で隠しきれないほどボロボロですわよ?」
「なっ……! 貴女、無礼ですわよ! 私は選ばれた真の聖女なのですよ!」
エリアーヌの顔が、怒りで真っ赤に染まる。
彼女が杖を振り上げると、弱々しい金色の光が周囲に飛び散った。
浄化の魔法のつもりだろうが、辺境の濃密な瘴気には全く歯が立たない。
光は霧に飲み込まれ、一瞬でかき消された。
「見ての通り、この土地は呪われているわ。お前のようなどこぞの馬の骨が、適当な魔法で誤魔化しているからよ」
エリアーヌは鼻で笑い、神殿騎士たちに命じた。
「どきなさい。真の聖女による、完璧な浄化を見せてあげるわ。そうすれば、民も誰が本物か理解するでしょう」
彼女は大仰な動作で詠唱を始めた。
数分もかけて練り上げられた魔力。
それが、ようやく湖のほとりにある一角を照らし出す。
パチパチと小さな音がして、黒ずんだ地面がわずかに茶色に戻った。
「どう? これが本物の奇跡よ!」
得意満面のエリアーヌ。
だが、ギルバートをはじめとする暗黒騎士団の面々は、冷めた目で彼女を見ていた。
「……団長。あの女、何をしているんだ?」
「さあな。庭いじりの真似事か? サラ様が昨晩やったことの、一万分の一もできていないが」
騎士たちのひそひそ話が聞こえたのか、エリアーヌの眉間に青筋が浮かぶ。
「貴様ら! 無礼な口を叩くと、神罰が下るわよ! さあ、サラ。おとなしく『聖なる種』を返しなさい!」
「種? 何のことかしら。そんなもの、私は持っていませんわ」
「嘘をおっしゃい! 王宮から忽然と消えたのよ! お前以外に犯人はいないわ!」
エリアーヌが杖の先を私に向ける。
「力ずくでも奪い返してあげるわ! いけ、騎士たち!」
神殿騎士たちが一斉に抜剣し、私に襲いかかろうとした。
だが、その瞬間。
私の背後の影から、巨大な銀色の質量が飛び出した。
「ガアアアアアアアッ!!」
シロの咆哮。
それだけで、突撃してきた騎士たちの半数が、恐怖のあまり泡を吹いて倒れた。
残った者たちも、目の前に現れた伝説のフェンリルを前に、腰を抜かして動けなくなる。
「フェ、フェンリル……!? なぜ、こんな神話の怪物がここに!」
「言ったでしょう。私は獣と戯れているだけだと。でも、この子は少し気性が荒いのよ」
私はシロの鼻筋を優しく撫で、エリアーヌに向き直った。
「あなたの浄化、見ていられませんわ。聖女を名乗るなら、最低限これくらいはできなくては」
私は右足を一歩、地面に踏み込んだ。
「聖なる種」の鼓動を、大地へ直接叩きつける。
黄金の波動が地割れのように走り、エリアーヌの足元を直撃した。
瞬間、彼女が数分かけて浄化しようとしていたエリアだけでなく、湖の全域、さらには視界に入る限りの森すべてが、一瞬で浄化された。
黒い霧は消え去り、空には七色の虹がかかる。
エリアーヌの魔法など、大海に一滴のインクを垂らしたようなものだったと思い知らされる、圧倒的な光の奔流。
「ひっ……あ、ああああ……っ!」
あまりの魔力量の差に、エリアーヌは持っていた杖を落とした。
杖は地面に触れた瞬間に砕け散り、彼女の指先からは魔力の暴走による火花が散る。
「私の魔力レベルは『1』なのでしょう? これもただの偶然ですわ」
私はエリアーヌの目の前まで歩み寄り、彼女の顎をクイと持ち上げた。
恐怖に引き攣った顔。
化粧が剥げ、醜く歪んだ本性が露わになっている。
「戻ってエドワードに伝えなさい。私を連れ戻したければ、最低でも国中の金貨をすべて持ってくることね。まあ、その前に国が残っていればの話だけれど」
「お、覚えていなさい……! この、化け物……!」
エリアーヌは這うようにして馬車に逃げ込み、供回りの騎士たちを置き去りにして走り去った。
残された神殿騎士たちは、シロに睨まれて一歩も動けないでいる。
「ギルバート。この方たちは、城の掃除係として再教育して差し上げて。聖女様への礼儀を一から叩き込んであげてね」
「承知した。死なない程度に可愛がってやろう」
ギルバートの凶悪な笑みが、夕闇に溶け込んでいく。
私はシロの背に飛び乗り、上機嫌で城へと戻った。
今日の夕食は、何かしら。
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