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第3話 世界が静止した〇.〇一秒
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ダンジョン内部は、冷たい空気に満ちていた。
青光りする苔が壁を覆い、足元は湿った土の感触。
ドローンのカメラが、俺の背後から静かに浮遊している。
視聴者数が「3」になった。
コメント欄が動き出す。
:なんだこれ、美少女?
:パジャマに木刀かよ。自殺配信か?
:タイトルが「リハビリ」ってw 病院帰りのメンヘラかよ。
辛辣な言葉が並ぶ。
だが、俺はそれらを読みながら、口元を綻ばせた。
人々の関心。
それが金に、そして力に変わる。
戦場における名声と、何ら変わりはない。
「……来たな」
前方の暗闇から、カチカチという爪の音が聞こえてくる。
現れたのは、三匹のアイアンラット。
体長一メートルを超える巨大な鼠だ。
その体毛は鋼鉄のように硬く、並の剣では跳ね返される。
:うわ、いきなりアイアンラットかよ。
:逃げろお嬢ちゃん、それ初心者キラーだぞ。
:あー、これグロ画像確定だな。通報しとくわ。
視聴者数は十人に増えた。
誰もが、俺が無残に食い殺される瞬間を期待している。
俺は模造刀の柄を、静かに握った。
如月リンの肉体は、恐怖で震えている。
だが、俺の魂は凪のように静かだ。
三匹の鼠が、同時に跳ねた。
正面から二匹、背後から一匹。
鋭い牙が、俺の白い喉元を目掛けて迫る。
「……遅い」
俺は一歩も動かない。
いや、周囲から見れば、俺は消えたように見えたはずだ。
予備動作を完全に排した、「無拍子」の歩法。
俺は鼠たちの間を、ただ歩くように通り抜けた。
その瞬間に、三度の閃光。
ただの樫の棒が、真空を切り裂き、鼠たちの急所を的確に撫でた。
音はない。
衝撃もない。
ただ、三匹の鼠は空中で動きを止め、そのまま地面に叩きつけられた。
ドサッ、という鈍い音が重なる。
鼠たちの頭部は、胴体から不自然に逸れていた。
切断面は鏡のように滑らかだ。
木刀で斬ったのではない。
空間そのものを、俺の剣気が断ち切ったのだ。
沈黙。
配信のチャット欄が、一瞬だけ停止した。
そして――。
:は?
:え、何が起きた?
:……死んだ? ネズミが?
:今の動き、見えた奴いる? フレーム飛ばしただろこれ。
視聴者数が一気に五十人を突破した。
俺はゆっくりと模造刀を鞘に納める。
木刀なので、カチリという音はしないが、俺の動作にはその「音」が見えるような完成度があった。
「……一匹、十円くらいにはなるのか?」
俺はカメラに向かって、無機質に問いかけた。
その瞳は、十六歳の少女のそれではない。
数多の修羅場を潜り抜けてきた、真の強者の眼だ。
:十円どころじゃねーよ! アイアンラットの魔石は一個五千円だ!
:マジかよ、あの木刀、本物の名刀なんじゃないか?
:いや、見ろよ、ただの樫の木だぞ。塗装も剥げてる。
:この子、何者だよ……。
同接数は百人、二百人と加速していく。
誰かがSNSで拡散したらしい。
「ヤバい美少女がいる」「木刀でアイアンラットを瞬殺した」と。
俺は鼠の死骸から、光る魔石を取り出した。
これで、明日の飯は食える。
だが、この程度では二千万には程遠い。
「物足りんな。……もっと、歯応えのある奴はいないのか」
俺は暗闇の奥、さらに深い階層へと続く階段を見据えた。
奥から、重厚な足音が響いてくる。
地面が微かに揺れる。
このダンジョンの主、ボスモンスターの気配だ。
:おいおい、奥に行くのか!?
:あそこはCランクの「オーガ」が出るって噂だぞ!
:やめとけ、死ぬぞ! 奇跡は二度起きない!
コメント欄の制止を無視し、俺は一歩を踏み出した。
肺の奥が疼く。心臓が悲鳴を上げている。
だが、それがどうした。
命を賭さぬ戦いに、何の価値がある。
「案ずるな。……俺が斬れぬものなど、この世には存在せん」
青光りする苔が壁を覆い、足元は湿った土の感触。
ドローンのカメラが、俺の背後から静かに浮遊している。
視聴者数が「3」になった。
コメント欄が動き出す。
:なんだこれ、美少女?
:パジャマに木刀かよ。自殺配信か?
:タイトルが「リハビリ」ってw 病院帰りのメンヘラかよ。
辛辣な言葉が並ぶ。
だが、俺はそれらを読みながら、口元を綻ばせた。
人々の関心。
それが金に、そして力に変わる。
戦場における名声と、何ら変わりはない。
「……来たな」
前方の暗闇から、カチカチという爪の音が聞こえてくる。
現れたのは、三匹のアイアンラット。
体長一メートルを超える巨大な鼠だ。
その体毛は鋼鉄のように硬く、並の剣では跳ね返される。
:うわ、いきなりアイアンラットかよ。
:逃げろお嬢ちゃん、それ初心者キラーだぞ。
:あー、これグロ画像確定だな。通報しとくわ。
視聴者数は十人に増えた。
誰もが、俺が無残に食い殺される瞬間を期待している。
俺は模造刀の柄を、静かに握った。
如月リンの肉体は、恐怖で震えている。
だが、俺の魂は凪のように静かだ。
三匹の鼠が、同時に跳ねた。
正面から二匹、背後から一匹。
鋭い牙が、俺の白い喉元を目掛けて迫る。
「……遅い」
俺は一歩も動かない。
いや、周囲から見れば、俺は消えたように見えたはずだ。
予備動作を完全に排した、「無拍子」の歩法。
俺は鼠たちの間を、ただ歩くように通り抜けた。
その瞬間に、三度の閃光。
ただの樫の棒が、真空を切り裂き、鼠たちの急所を的確に撫でた。
音はない。
衝撃もない。
ただ、三匹の鼠は空中で動きを止め、そのまま地面に叩きつけられた。
ドサッ、という鈍い音が重なる。
鼠たちの頭部は、胴体から不自然に逸れていた。
切断面は鏡のように滑らかだ。
木刀で斬ったのではない。
空間そのものを、俺の剣気が断ち切ったのだ。
沈黙。
配信のチャット欄が、一瞬だけ停止した。
そして――。
:は?
:え、何が起きた?
:……死んだ? ネズミが?
:今の動き、見えた奴いる? フレーム飛ばしただろこれ。
視聴者数が一気に五十人を突破した。
俺はゆっくりと模造刀を鞘に納める。
木刀なので、カチリという音はしないが、俺の動作にはその「音」が見えるような完成度があった。
「……一匹、十円くらいにはなるのか?」
俺はカメラに向かって、無機質に問いかけた。
その瞳は、十六歳の少女のそれではない。
数多の修羅場を潜り抜けてきた、真の強者の眼だ。
:十円どころじゃねーよ! アイアンラットの魔石は一個五千円だ!
:マジかよ、あの木刀、本物の名刀なんじゃないか?
:いや、見ろよ、ただの樫の木だぞ。塗装も剥げてる。
:この子、何者だよ……。
同接数は百人、二百人と加速していく。
誰かがSNSで拡散したらしい。
「ヤバい美少女がいる」「木刀でアイアンラットを瞬殺した」と。
俺は鼠の死骸から、光る魔石を取り出した。
これで、明日の飯は食える。
だが、この程度では二千万には程遠い。
「物足りんな。……もっと、歯応えのある奴はいないのか」
俺は暗闇の奥、さらに深い階層へと続く階段を見据えた。
奥から、重厚な足音が響いてくる。
地面が微かに揺れる。
このダンジョンの主、ボスモンスターの気配だ。
:おいおい、奥に行くのか!?
:あそこはCランクの「オーガ」が出るって噂だぞ!
:やめとけ、死ぬぞ! 奇跡は二度起きない!
コメント欄の制止を無視し、俺は一歩を踏み出した。
肺の奥が疼く。心臓が悲鳴を上げている。
だが、それがどうした。
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