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第8話
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森を抜けた瞬間、視界が開けた。だが、そこに広がっていたのは安堵でも安息でもなかった。焼け焦げた地面、崩れた外壁、砕けた門、その向こうにうごめく影がまるで亡者の群れみてぇに蠢いていた。王都――ってのは、もっと立派で、もっと荘厳で、もっと……クソッたれな金ピカかと思ってたが、出迎えてくれたのは廃墟寸前の光景だった。
「……こいつは、歓迎どころか、処刑台の上って感じだな」
「リック、あれ……」
レナが指差した先、王都の城門の一部に黒い結界が張られていた。バチバチと音を立てて魔力の波が空間を裂いてる。呪術系、それも高位の封印障壁ってところか。
「封じてるってことは、内側に何かがいるってわけだ。なるほど、こっちは外で戦争、内側は監禁ショーか。ああ、胸糞悪ぃな」
門の前には、数人の兵士らしき連中がバリケードを築いていたが、そいつらの顔にも力はねぇ。肩は落ち、武器の先は地面に垂れてる。生きてはいるが、すでに心が死んでる連中の顔ってやつだ。
「おい、お前ら。生きてるか?」
俺が声をかけると、数人が驚いたようにこちらを向いた。視線が俺とレナを往復する。警戒というより、希望を見失った目。こりゃダメだ。士気もクソもねぇ。
「誰だ……あんたら、どこの部隊の者だ?」
「地獄帰りの傭兵と、おまけの訓練生。部隊所属? そんなもんはしてねぇ。俺の所属先はこの“ジャッジメント・クレイジー”って銃だけだ」
「傭兵? まさか、増援か……?」
「その“まさか”に期待するほど、状況は切羽詰まってんのか?」
男は顔を歪めた。歪ませる余裕があるだけ、まだマシってもんだ。
「……門の中だ。あそこに入った連中が、出てこない。最初は異変調査だったはずが、今じゃ近づくだけで気が狂う。魔力の濁りがひどすぎて、近くにいるだけで吐き気がする。あの結界……普通の魔術じゃない」
「なら、普通じゃない方法で突破すりゃいい。お前らがやらないなら、俺がやる」
「ムチャだ! 中には……“人間じゃない何か”がいるって話だ。生き残ったのは……三人だけ、そのうち一人は正気を保ってねぇ」
「いい情報提供だ。で、その正気を失ったって奴はどこだ?」
「あっちだ、あの瓦礫の裏。監視はしてるが……もう、意味ねぇよ。言葉も通じねぇ」
俺は兵士の制止も無視して、瓦礫の裏へと足を踏み出した。そこにいたのは、見るからにボロボロの青年。鎧は割れ、皮膚は裂け、目は虚ろ。その中で、ただ一つ、生きているもの――“声”だけが、延々と呟かれていた。
「……扉の中に、あれが……神じゃない……神じゃない、けど、神よりも深い……眼が……穴が……俺を見てる……」
「レナ、録れ。言葉が通じないってわけでもなさそうだ。断片でも、情報は情報だ」
「わ、わかりました」
レナが懐から魔石端末みてぇな記録装置を取り出して、男の声を録り始める。俺はその間、結界の前に立った。手を翳すと、反応があった。まるでこちらの魔力に呼応して揺れる、赤黒い波動。まるで獣が檻の中からこちらを睨んでやがるみてぇだ。
「なるほど……これ、ただの結界じゃねぇな。“内側からの拒絶”も混じってやがる。誰かが、あるいは何かが、“中に近づくな”って叫んでる」
「リック、それって……入ったら、危険ってことですよね?」
「“危険”なんてのは、死ぬ確率が半分以下のときに使う言葉だ。これは……もう少し面白そうだな」
俺は腰のグレネードを確認した。あと一つ。弾薬は十二発。ドラゴン弾が三、呪詛弾が二、重力弾が一。残りは通常弾。悪くねぇ。
「おい、兵士。俺が結界を破る。中に入る。邪魔すんな」
「待て、正気か……!? あんた一人じゃ――」
「一人で十分だ。戦場じゃ、“無謀”ってのは死に急ぎの言葉だが、“決断”ってのは時に生を引き寄せる。俺は後者を選ぶ。で、お前らはどうする? 外で震えて見てるだけか?」
「……ッ!」
男が歯を食いしばったのが聞こえた。が、それ以上は言わねぇ。口答えしなかっただけマシだ。ああいう時、口出してくる奴は大抵先に死ぬ。
「レナ、お前はここに残れ。俺の邪魔をするな」
「でも、私……!」
「ガキの役割は、生き残ることだ。命令だ。従え」
悔しそうに唇を噛む音がした。だが、従った。えらい、合格だ。俺は最後にもう一度銃を確認し、結界に向かって一歩踏み出した。
その瞬間、空気が弾けた。視界が捻じれ、音が逆再生みてぇに耳に入り、目の前の空間が引き裂かれるように歪んだ。バチバチと音を立てて、結界が割れる。
俺の体が結界の中へ引き込まれた。強制転送。笑わせる。中の連中、どうやら本気で俺を歓迎する気らしい。いいぜ、受けて立つ。こっちは神だろうが魔王だろうが、撃ち抜くためにここにいる。
視界が明転した。気付けば、俺は灰色の石畳の上に立っていた。城内か、いや、異空間だ。構造が歪んでやがる。建築学も物理も、全部クソ喰らえって顔してる空間だ。
そして、その中央に“それ”はいた。
身長三メートル近い、人の形をした何か。顔には仮面。腕は異常に長く、指は六本、そしてその指の先には、それぞれ小さな目玉が埋め込まれていた。存在してるだけで、脳が圧迫されるような感覚。
「おいおい、まさか……てめぇが神の使いか?」
その存在は何も言わなかった。ただ、視線をこちらに固定して、首を傾けた。そして次の瞬間、空間そのものが揺れた。敵意だ。殺意だ。
「いいぜ。最初の言葉が“殺す”ってんなら、応えてやらねぇとな」
「……こいつは、歓迎どころか、処刑台の上って感じだな」
「リック、あれ……」
レナが指差した先、王都の城門の一部に黒い結界が張られていた。バチバチと音を立てて魔力の波が空間を裂いてる。呪術系、それも高位の封印障壁ってところか。
「封じてるってことは、内側に何かがいるってわけだ。なるほど、こっちは外で戦争、内側は監禁ショーか。ああ、胸糞悪ぃな」
門の前には、数人の兵士らしき連中がバリケードを築いていたが、そいつらの顔にも力はねぇ。肩は落ち、武器の先は地面に垂れてる。生きてはいるが、すでに心が死んでる連中の顔ってやつだ。
「おい、お前ら。生きてるか?」
俺が声をかけると、数人が驚いたようにこちらを向いた。視線が俺とレナを往復する。警戒というより、希望を見失った目。こりゃダメだ。士気もクソもねぇ。
「誰だ……あんたら、どこの部隊の者だ?」
「地獄帰りの傭兵と、おまけの訓練生。部隊所属? そんなもんはしてねぇ。俺の所属先はこの“ジャッジメント・クレイジー”って銃だけだ」
「傭兵? まさか、増援か……?」
「その“まさか”に期待するほど、状況は切羽詰まってんのか?」
男は顔を歪めた。歪ませる余裕があるだけ、まだマシってもんだ。
「……門の中だ。あそこに入った連中が、出てこない。最初は異変調査だったはずが、今じゃ近づくだけで気が狂う。魔力の濁りがひどすぎて、近くにいるだけで吐き気がする。あの結界……普通の魔術じゃない」
「なら、普通じゃない方法で突破すりゃいい。お前らがやらないなら、俺がやる」
「ムチャだ! 中には……“人間じゃない何か”がいるって話だ。生き残ったのは……三人だけ、そのうち一人は正気を保ってねぇ」
「いい情報提供だ。で、その正気を失ったって奴はどこだ?」
「あっちだ、あの瓦礫の裏。監視はしてるが……もう、意味ねぇよ。言葉も通じねぇ」
俺は兵士の制止も無視して、瓦礫の裏へと足を踏み出した。そこにいたのは、見るからにボロボロの青年。鎧は割れ、皮膚は裂け、目は虚ろ。その中で、ただ一つ、生きているもの――“声”だけが、延々と呟かれていた。
「……扉の中に、あれが……神じゃない……神じゃない、けど、神よりも深い……眼が……穴が……俺を見てる……」
「レナ、録れ。言葉が通じないってわけでもなさそうだ。断片でも、情報は情報だ」
「わ、わかりました」
レナが懐から魔石端末みてぇな記録装置を取り出して、男の声を録り始める。俺はその間、結界の前に立った。手を翳すと、反応があった。まるでこちらの魔力に呼応して揺れる、赤黒い波動。まるで獣が檻の中からこちらを睨んでやがるみてぇだ。
「なるほど……これ、ただの結界じゃねぇな。“内側からの拒絶”も混じってやがる。誰かが、あるいは何かが、“中に近づくな”って叫んでる」
「リック、それって……入ったら、危険ってことですよね?」
「“危険”なんてのは、死ぬ確率が半分以下のときに使う言葉だ。これは……もう少し面白そうだな」
俺は腰のグレネードを確認した。あと一つ。弾薬は十二発。ドラゴン弾が三、呪詛弾が二、重力弾が一。残りは通常弾。悪くねぇ。
「おい、兵士。俺が結界を破る。中に入る。邪魔すんな」
「待て、正気か……!? あんた一人じゃ――」
「一人で十分だ。戦場じゃ、“無謀”ってのは死に急ぎの言葉だが、“決断”ってのは時に生を引き寄せる。俺は後者を選ぶ。で、お前らはどうする? 外で震えて見てるだけか?」
「……ッ!」
男が歯を食いしばったのが聞こえた。が、それ以上は言わねぇ。口答えしなかっただけマシだ。ああいう時、口出してくる奴は大抵先に死ぬ。
「レナ、お前はここに残れ。俺の邪魔をするな」
「でも、私……!」
「ガキの役割は、生き残ることだ。命令だ。従え」
悔しそうに唇を噛む音がした。だが、従った。えらい、合格だ。俺は最後にもう一度銃を確認し、結界に向かって一歩踏み出した。
その瞬間、空気が弾けた。視界が捻じれ、音が逆再生みてぇに耳に入り、目の前の空間が引き裂かれるように歪んだ。バチバチと音を立てて、結界が割れる。
俺の体が結界の中へ引き込まれた。強制転送。笑わせる。中の連中、どうやら本気で俺を歓迎する気らしい。いいぜ、受けて立つ。こっちは神だろうが魔王だろうが、撃ち抜くためにここにいる。
視界が明転した。気付けば、俺は灰色の石畳の上に立っていた。城内か、いや、異空間だ。構造が歪んでやがる。建築学も物理も、全部クソ喰らえって顔してる空間だ。
そして、その中央に“それ”はいた。
身長三メートル近い、人の形をした何か。顔には仮面。腕は異常に長く、指は六本、そしてその指の先には、それぞれ小さな目玉が埋め込まれていた。存在してるだけで、脳が圧迫されるような感覚。
「おいおい、まさか……てめぇが神の使いか?」
その存在は何も言わなかった。ただ、視線をこちらに固定して、首を傾けた。そして次の瞬間、空間そのものが揺れた。敵意だ。殺意だ。
「いいぜ。最初の言葉が“殺す”ってんなら、応えてやらねぇとな」
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