独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜

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第1章 おじさんと異世界の人々

第23話

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仕切り直しだ。

今度は、極端なブレンドを試してみる。

マーレ七割、ブルナ一割、レオナ二割。

逆に、ブルナ六割、マーレ三割、レオナ一割。

──無茶苦茶な配合に見えるが、こういうところから傑作は生まれる。

ミルで挽き、手際よく淹れる。

「──よし」

二杯並べ、まずはマーレ七割から。

ずしりとくる深いコク。

だが、後味にほんのり、ブルナの花のような香りが混じる。

「悪くねぇ」

続いて、ブルナ六割の方。

口に含んだ瞬間、ふわりと広がる華やかさ。

そして、奥に潜むレオナ由来のまろやかさ。

「……これも、ありか」

どちらも悪くない。

だが、まだ完璧じゃない。

「──もう少し、煮詰めるか」

独りごちながら、カウンターに腰掛け、煙草を取り出す。

火をつけ、一服。

甘く、深く、肺に広がる香り。

俺の求めるのは、この感覚だ。

「一発で正解なんか、出るわけねぇよな」

ぼそりと笑って、煙を吐き出した。

焦らず、じっくりと。

コーヒーも煙草も、時間をかけて育てるもんだ。



試作を重ねるうちに、コツが掴めてきた。

やみくもに配合を変えるんじゃない。

それぞれの豆が持つ個性を、どう引き立て、どう組み合わせるか。

「──主張させすぎず、かといって埋もれさせず、か」

カウンターに肘をつきながら、ぼそりと呟く。

俺の目指すのは、調和。

苦味、酸味、甘み、コク──すべてがバランス良く絡み合い、しかも一杯飲み終えた後に、ほんのりと余韻を残す。

そんなブレンド。



新たに三種類の配合を考え、試作する。

マーレ深緑五割、ブルナ草三割、レオナ湖畔二割──これが基本。

そこから、微妙に比率を変えたバリエーションを作る。

一杯、また一杯。

ドリップして、啜って、味を確かめる。

「……惜しいな」

「……こっちは少し雑味が出るか」

「……これも悪くねぇが、まだ軽い」

ぶつぶつと独り言を繰り返しながら、地道なテイスティングを続けた。

香り、口当たり、喉越し、後味──。

一つ一つ、丹念に確認する。



夕方近く。

何杯目か、数えるのも億劫になってきたころ。

「──これだ」

思わず、呟いた。

マーレ深緑五割、ブルナ草二割五分、レオナ湖畔二割五分。

一見、平凡な配合。

だが──。

口に含んだ瞬間、豊かなコクとほのかな酸味が絶妙に溶け合い、後から優しい甘みがふわりと立ち上る。

そして、喉を通った後にも、柔らかな余韻が長く残る。

深く、でも重すぎない。

華やかだが、派手すぎない。

まさに、俺が求めていたバランス。

「──完成、だな」

カップを傾け、最後の一滴までゆっくりと味わう。

自然と、頬が緩んだ。

これなら、誰に出しても胸を張れる。

いや、誰に出すかはともかく──。

俺自身が、心から満足できる。

それが一番だ。



残った豆を、丁寧に保存瓶に詰める。

瓶には、ラベル代わりに小さく「オリジナルNo.1」とだけ記した。

まだ改良の余地はあるかもしれない。

だが今は、これでいい。

焦る必要なんか、どこにもない。

「──ただ、一杯と一服」

誰に急かされるでもなく。

誰に褒められるためでもなく。

自分のためだけに。

俺は、今日も紫炎をくゆらせながら、最高のコーヒーを淹れる。
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