追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

☆ほしい

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第6話

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 技術監査局の広間は、まさに「裁きの間」と呼ぶに相応しい空間でしたわ。壁一面に設置された魔法記録装置、空間録音型の精霊録、そして長机の向こうに並ぶ官僚たち。全員が黒衣に銀の刺繍をまとい、無表情でわたくしを見下ろすようにして座っております。

 ええ、ええ、よろしいでしょう。どれほど権威を振りかざそうと、その中身が空洞ならば意味はありませんわ。

「では、始めましょうか。グリムヴァルト嬢、あなたの開発したとされる魔具群について、正式に調査を開始します」

 デズモンドの声音は淡々としたものでしたが、その背後にあるのは――恐れ。そう、彼らはわたくしの“理解できない技術”に怯えているのですわ。それが顔には出せぬほど、プライドに縛られた可哀そうな人種でしてよ。

「よろしゅうございますわ。何なりとお尋ねなさいませ。すべてお応えいたしますわよ?」

「まず、辺境にて使用された“魔導水精浄化装置”。これについて、王都の技術台帳には一切の記載がない。製造元、設計者、理論根拠を」

「製造元はわたくし、設計者もわたくし、理論根拠は──そうですわね、“古代魔文明における魔素共鳴粒子の選択的吸引作用”に基づいておりますの」

 ざわり、と官僚たちの間に走る微細な動揺。ええ、その反応が欲しかったのですわ。

「そのような理論、我々は聞いたことがない」

「当然ですわ。あなた方が知らないからこそ、“古代”と呼ばれるのですもの」

 わたくしの言葉に、デズモンドはぴくりとも動じませんでしたが、その隣の若い書記官が手元の記録板を落としそうになっておりました。滑稽ですわね。まるでおとぎ話に出てくる悪役のようですもの。

「次に、防衛魔導機。あなたが辺境に配備したという自律型魔導兵器について。使用許可も登録も確認されていない」

「許可は不要ですわ。なにしろ、あれらは“個体としての存在”ではなく、わたくしの“意志の延長”でございますもの」

「言い逃れは通用しない。あなたが軍事技術に属する魔具を無認可で……」

「では聞きますわ、デズモンド技監。わたくしが設計したものを、再現できますの?」

 沈黙。

 そう、それこそが真実でしてよ。理解できぬものを“違法”と断ずるのなら、それは無知の告白に過ぎませんわ。

「わたくしは、貴族である以前に研究者。わたくしが得た知識と成果は、何人たりとも否定することはできませんわ。それが過去のものだろうと、未来のものだろうと」

 そのとき、デズモンドの背後にいたひとりの女官僚が手を挙げた。顔立ちは若く、眼鏡の奥の瞳は鋭く光っておりました。

「……グリムヴァルト嬢。あなたの技術を、公開で実演していただけませんか?」

「当然でございますわ。ご覧にいれますわよ。わたくしの、“未来”を」

 用意された中央ホールへと移動し、わたくしは魔具の収納鞄から《自律型簡易構築魔具・アルヴェス》を取り出した。これひとつで、半径五メートルの簡易住居を構築可能。もちろん、防衛機能つき。

 操作は簡単、魔力を流し、起動指令を出すだけ。

「展開、開始」

 瞬間、魔具の中心部が回転し、地面に向けて魔力のリングを射出。空間が歪み、そこから一瞬で小さな建物が出現した。

 天井、壁、扉、調理台、簡易ベッドまで揃った“家”が、たった数秒で完成する様を見て、周囲の空気が凍りつきましたわ。

 その中で、ただひとり、デズモンドだけが目を細めていた。

「……これは、もはや“国家技術”の域だ。君がこれを本当に一人で……?」

「もちろんですわ。それが何か?」

 その返答を受けて、場に響いたのは──拍手。

 一瞬、何が起きたのかとわたくしも思いましたのよ。

 拍手の主は、技術監査局ではなく、その後方にいた技術庁次官のひとり。

「これが本物の才能か……君、王都に戻る気はあるか?」

「残念ながら、王都はもうわたくしには狭すぎますの」

 わたくしはひとつ笑い、構築された“家”の椅子に腰を下ろす。

「どうぞ、引き続きご審議をなさいませ。わたくしはもう、評価される側には興味がございませんの。いずれ、世界がわたくしに追いつくのですから」

 それは決して傲慢ではなく、事実の宣言。

 わたくしは、すでに“先”を見ておりますのよ。辺境から始まった、知識と技術による新時代の扉を──
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