追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

☆ほしい

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第12話

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 加速する黒衣の最後の一体、その動きは常識の範疇を逸脱しておりましたわ。地を蹴ることなく滑走し、空間の歪みに沿うように軌道を変え、わたくしの“防衛視界”の外縁を一瞬で突破する。まるで、こちらの知覚を先読みでもしたかのように。

 なるほど、ようやくわたくしの興味を引ける存在が現れましたのね。

「よろしいですわ。ならば、わたくしも正面から“挨拶”して差し上げますわよ」

 わたくしは即座に自律兵器群へ停止命令を出し、魔力を一点に収束。思念伝導炉の同調率を最大まで引き上げ、わたくしの意識を魔具構造体へと反転流入させた。身体が軽くなる。視界が拡がる。すべての感覚が鋭敏になり、世界の“論理”すら手の中で弄べるような感覚。

「さあ、わたくしを楽しませてご覧なさいな」

 その瞬間、黒衣の者はわたくしの目の前に“現れた”。ええ、間違いなく“現れた”としか言えないほどの速度でしたわ。気配も音もなく、わたくしの目前五歩の距離に――それも殺気すら感じさせずに。

「名乗りは不要でしょうけれど、いちおう確認しておきますわ。あなた、王国直属の“影魔士”ですわね?」

 沈黙。けれど、その無言こそが答え。わたくしの知識は正しかったというわけですわ。影魔士――王国内でも“存在しない”とされる、最高機密の暗殺特化戦闘魔導士。肉体と魔力構造を完全に再設計された、もはや人と呼ぶにはあまりに歪な存在。

「では、その無言のまま、死ぬ準備をなさい」

 わたくしは指先ひとつ動かさず、思考だけで初撃を放つ。魔力は視界内に“無”として発射され、空間ごと切り裂く――はずだった。

 けれど、その魔力は途中で“逸れた”。否、逸らされたのですわ。まるで彼の周囲に、自然な魔力の“傾斜”が存在するかのように。なるほど……これが、魔力反射結界を“生体化”させた応用技術――

「重ねがけですのね……相当な負荷ですわよ?」

 わたくしが再び魔力を編成する前に、彼の手が動いた。一瞬、影がわたくしの足元に潜り込み、切断を試みる。けれど、こちらも手は打ってありますのよ。

「重力ベクトル反転。局所領域限定、反作用発動」

 床が弾け、影が跳ね返される。その隙を逃さず、わたくしは魔力を圧縮し、直線射撃をお見舞いした。相手は身をひねって回避したものの、かすっただけでそのマントの一部が焼き切れる。

「ほらほら、遅いですわよ? もっと本気を出さなければ、“影”を名乗る資格が泣きますわ」

 視界が閃き、次の瞬間にはわたくしの背後にいた。ああ、瞬間移動ですのね。それも術式による座標転移ではなく、視覚誘導を使った認識遮断型の高速移動。とんでもない技術を隠し持っておりましたわ。

「ですが、わたくしの目はごまかせませんわ!」

 思念伝導炉の出力を最大化。背後へのエネルギー放出を即座に変換し、空間そのものを弾き飛ばすように魔力を“押し出す”。衝撃波に乗ってわたくしの身体が前方に跳び、その直後に背後で爆発音が響いた。

 「……っ、なるほど……」

 あら、ようやく口を開きましたのね? 初めて聞く彼の声は、どこか無機質で、それでいて人間味を含んでいるような、妙に記憶に残る声でしたわ。

「報告書とまるで別物だ……“令嬢”どころか、これは……」

「何かしら? “魔王”とでも言いたいのかしら? おほほ、残念ながらわたくし、“神”志望でございますの」

 彼の肩がわずかに揺れた。ふふふ、少しはユーモアを解するようで何よりですわ。

 わたくしはそのまま前に出た。怖気づくことなど、微塵もない。彼もまた、動かずに受け止める姿勢を見せる。

「戦闘は、ここまででよろしいかしら? あなたがこの村に来た本当の目的――そろそろ話しても?」

「確認……ただ、それだけだった」

「ふうん。わたくしが“脅威”たりうるかどうか、ですわね?」

「いや……」

 彼は短く言った。

「君は、“可能性”そのものだった」

 その瞬間、わたくしの中で何かが弾けた気がしましたの。わたくしという存在が、ようやく“正当に評価された”瞬間でしたわ。

「ようやく、おわかりになりましたのね。それならばもう、交戦する必要もありませんわね?」

 影魔士は頷き、背を向けた。けれど去り際に一言だけ残していきましたの。

「次に会う時、君は“国”と戦うことになるかもしれない。それでも君は、“面白い”を選び続けるのか?」

 ふふ……愚問ですわ。

「当然ですわよ。面白くなければ、生きている意味がありませんもの」
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