追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

☆ほしい

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第13話

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 影魔士が姿を消した瞬間、わたくしは一息だけ、深く息を吸いましたの。もちろん、疲れなどというものではございませんわ。ただ、少しだけ興奮が過ぎましたのよ。滅多にないことですが、あれほど“対話が可能な相手”に出会うと、つい、脳が沸き立ってしまうのですもの。

 わたくしの頭の中には、すでに彼の残した言葉が回転し始めておりました。

 ――次に会う時、君は“国”と戦うことになるかもしれない。

 ふふ、まるでそれが“運命”か何かのように仰るのね? 違いますわ。戦うかどうかを選ぶのは、わたくしですのよ。そしてわたくしは、ただ一つの基準でしか動きませんの。

 面白いか、否か――それだけ。

「リゼ、状況は?」

「被害なし! 魔導兵器も全機稼働中、住民の避難も完了済みです! ……あの、その、さっきの相手は……」

「ああ、ただの“視察者”ですわ。少しばかり礼儀知らずな方でしたけれど、まあ無事にお帰りになりましたの。大丈夫、村には一切手出ししませんわよ」

 リゼの表情が緊張から安堵に変わる。そう、それでよろしい。わたくしの周囲には、常に何かしらの波が立つものですわ。それを乱さず、恐れず、ただ黙って従ってくれるあなたのような存在は、貴重でございますのよ。

 さて、思念伝導炉の制御にも成功し、防衛網の稼働試験も完了。王国からの直接的な介入も無力化。それならば、次の段階へ進むしかありませんわね。

「リゼ、研究棟の区画分け、進んでおりますか?」

「はい、お嬢様の設計通りに。北棟が生体応用技術研究、南棟が魔力変換応用、中央が指令制御中枢になっております。物資も順次届いておりますし、協力要請を出した職人たちも明日には――」

「ふむ。では、いよいよ“他国”との関係を構築いたしましょうか」

 リゼがびくりと肩を揺らしたのが見えましたわ。ええ、当然の反応ですわね。

「まさか、外交を……?」

「ええ。“国家未承認の技術特区”などと自称しているうちは、王国も好きに小言を言えますが、他国との取引実績ができれば話は別。“内政問題”ではなく、“外交案件”に変わりますのよ。そうなれば、勝手に手出しなどできなくなる。あの王都の面々に、それを理解させて差し上げましょう」

 もちろん、ただの売買などしませんわ。わたくしが提供するのは、“魔具による社会構造改革技術”。水源の自動管理、魔導交通網、再生可能魔力供給網といった、国家基盤そのものを支える土台技術ですの。これを欲しがらない国があれば、それはもはや国家ではございませんわ。

「まずは中原連邦へ使者を。次に、北部鉱山同盟にも声をかけておきますの。王都が情報を封じたくても、もう遅いと実感させてあげましょう」

「で、ですがお嬢様、そ、それって……王国に、完全に……!」

「敵対することにはなりませんわ。あちらが勝手に焦って敵視するだけ。わたくしは何も奪いませんし、戦う気もございません。“ただ、進む”だけですわよ」

 進む。その先に何があるか? 決まっておりますわ。

 “新しい世界”ですの。

 魔具によってすべてが再設計された社会。階級も、血統も、魔力資質すらも意味を持たない、技術によってのみ評価される世界。そこでは、わたくしのような存在こそが頂点に立つにふさわしい。

 だからこそ、わたくしは止まりませんわ。

 あの影魔士が何と言おうとも、王都の官僚どもがどれほど足掻こうとも、わたくしが選ぶのはただ一つ。

「リゼ、明日より“技術公開講義”を村で始めますわ。わたくしの研究に興味を持つ者には、全員等しく教えます。平民だろうと、子供だろうと関係なく」

「えっ、でも、そんな……技術を“ただで”ですか?」

「当然でしょう? 知識に上下はありませんわ。むしろ、民の中にこそ、未来の礎がある。人の価値は“何を持って生まれたか”ではなく、“何を成したか”ですの」

 この村を“技術都市”に。それが第一歩。そして、この村から始まる波が、やがて王国全土を飲み込む。そのとき、誰もが知ることになるのですわ。

 エリス・フォン・グリムヴァルトという名が、ただの“令嬢”などではなく、時代そのものであることを。
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