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第14話
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講義の初日、わたくしは特に何の告知も出さず、研究棟の広場に設置した簡易演壇へ立ちましたの。わたくしの行動を追い続けていた村人たちであれば、それだけで十分。必要な情報は、すでに空気が伝えてくれるものですわ。
「……お嬢様、本当に、誰でもいいんですか?」
リゼの問いに、わたくしは頷いてみせましたわ。
「当然ですわ。わたくしの知識は、わたくしの所有物ではございません。“使える者”が使えばよい。それが貴族であろうと、農夫であろうと、子供であろうと関係なくてよ」
そして五分後、集まったのは想定の三倍。それも、老若男女、職業も身分も雑多そのもの。ぼろ布を纏った子供、杖を突いた老人、鍬を肩に担いだ農夫までが、真剣な顔でこちらを見つめておりました。
ああ、実に美しい光景ですわ。王都の学堂では決して見られぬ、“学ぶことに飢えた瞳”が、これほどの数、わたくしの前に並ぶなんて。
「では、始めましょう。“エリス式実用魔導工学講義・第一回”。記念すべき初回の講義内容は――“魔力とは何か”ですわ」
ざわめきが走ったのが分かりました。ええ、それでよろしいの。魔力とは特別な人間にしか扱えぬと、誰しも思い込まされているのですもの。ですが、それが迷信であると知ったとき、彼らの目の奥にある“可能性”が動き出す。
「皆様、魔力とは“才能”ではございません。ましてや“血統”の証でもない。“訓練”と“理解”によって、誰もが使える“現象操作エネルギー”ですわ」
その場の誰かが、ぽつりとつぶやいた声が耳に入る。
「そんな……じゃあ、俺たちも、魔法が……?」
「ええ、ただし“呪文”など要りませんわ。わたくしが教えるのは、“構造としての魔力”、すなわち魔導具を介さぬ直接制御理論ですの」
わたくしは自作の魔力視認プレートを取り出し、目の前で軽く魔力を練って見せましたの。青い光が空中で円を描き、ゆらゆらと揺れる。その光に、集まった者たちの表情が一斉に変わったのを見逃しませんでした。
「魔力は感覚。まずは、感じるところから始めましょう。今日は全員に魔力素子板を配布いたしますので、自分の手で魔力の反応を確かめていただきますわ」
配布が始まると、皆そわそわと板を手に取り、それぞれ真剣に指先を板の上に置き始めました。数秒後、板の上にかすかな光が走ったとき、叫び声のような歓声が沸き上がったのですわ。
「ついた! 光った……! オレの、魔力!?」
「うちの子が……魔法なんて一度も使えなかったのに!」
「うそだろ……本当に、できるんだ……!」
わたくしは演壇の上で、にこやかに手を広げて告げました。
「これが現実でございます。あなた方は“可能性”を持って生まれている。ただ、それを知らされず、活かされぬまま人生を過ごしていたのですわ。わたくしの講義では、その可能性を“技術”に変える術を教えます。“貴族”であるかどうかではなく、“賢くなる”かどうかを選ぶのですわよ」
その日を境に、村ではかつてない熱が広がっていきましたの。畑仕事の合間に魔力の練習をする者、子どもたちが数字と構造式を覚えようと必死になって走り回る光景。ああ、なんて楽しい日々かしら。
技術とは、一部の者の特権ではなく、“民の力”なのですわ。
王都が血統と階級で縛るなら、わたくしは技術でそれを打ち壊す。
わたくしの指導を受けた者たちは、次々と魔導具の基礎操作を体得し始め、やがて“発案”を始めるようになりますの。例えば、井戸の汲み上げを自動化するための簡易魔力ポンプ、あるいは畑の土壌に合わせて栄養調整するための拡張式感知装置など。
「わたくしが与えたのは“知識”だけですわ。使い方は、あなた方自身が考えなさいませ。自らの手で、“生活”を変えるのですわよ」
ある日、まだ十歳にも満たぬ少女が、小さな手で組み上げた光結晶装置を持ってやってまいりました。
「これ……おばあちゃんの家、暗いから……灯り、作ったの……!」
リゼがそれを見て泣きそうな顔になっておりましたわ。あらあら、感情的になるのはわたくしの役目ではございませんのよ?
でも――たしかに、少しだけ、胸が温かくなった気がいたしました。
「……お嬢様、本当に、誰でもいいんですか?」
リゼの問いに、わたくしは頷いてみせましたわ。
「当然ですわ。わたくしの知識は、わたくしの所有物ではございません。“使える者”が使えばよい。それが貴族であろうと、農夫であろうと、子供であろうと関係なくてよ」
そして五分後、集まったのは想定の三倍。それも、老若男女、職業も身分も雑多そのもの。ぼろ布を纏った子供、杖を突いた老人、鍬を肩に担いだ農夫までが、真剣な顔でこちらを見つめておりました。
ああ、実に美しい光景ですわ。王都の学堂では決して見られぬ、“学ぶことに飢えた瞳”が、これほどの数、わたくしの前に並ぶなんて。
「では、始めましょう。“エリス式実用魔導工学講義・第一回”。記念すべき初回の講義内容は――“魔力とは何か”ですわ」
ざわめきが走ったのが分かりました。ええ、それでよろしいの。魔力とは特別な人間にしか扱えぬと、誰しも思い込まされているのですもの。ですが、それが迷信であると知ったとき、彼らの目の奥にある“可能性”が動き出す。
「皆様、魔力とは“才能”ではございません。ましてや“血統”の証でもない。“訓練”と“理解”によって、誰もが使える“現象操作エネルギー”ですわ」
その場の誰かが、ぽつりとつぶやいた声が耳に入る。
「そんな……じゃあ、俺たちも、魔法が……?」
「ええ、ただし“呪文”など要りませんわ。わたくしが教えるのは、“構造としての魔力”、すなわち魔導具を介さぬ直接制御理論ですの」
わたくしは自作の魔力視認プレートを取り出し、目の前で軽く魔力を練って見せましたの。青い光が空中で円を描き、ゆらゆらと揺れる。その光に、集まった者たちの表情が一斉に変わったのを見逃しませんでした。
「魔力は感覚。まずは、感じるところから始めましょう。今日は全員に魔力素子板を配布いたしますので、自分の手で魔力の反応を確かめていただきますわ」
配布が始まると、皆そわそわと板を手に取り、それぞれ真剣に指先を板の上に置き始めました。数秒後、板の上にかすかな光が走ったとき、叫び声のような歓声が沸き上がったのですわ。
「ついた! 光った……! オレの、魔力!?」
「うちの子が……魔法なんて一度も使えなかったのに!」
「うそだろ……本当に、できるんだ……!」
わたくしは演壇の上で、にこやかに手を広げて告げました。
「これが現実でございます。あなた方は“可能性”を持って生まれている。ただ、それを知らされず、活かされぬまま人生を過ごしていたのですわ。わたくしの講義では、その可能性を“技術”に変える術を教えます。“貴族”であるかどうかではなく、“賢くなる”かどうかを選ぶのですわよ」
その日を境に、村ではかつてない熱が広がっていきましたの。畑仕事の合間に魔力の練習をする者、子どもたちが数字と構造式を覚えようと必死になって走り回る光景。ああ、なんて楽しい日々かしら。
技術とは、一部の者の特権ではなく、“民の力”なのですわ。
王都が血統と階級で縛るなら、わたくしは技術でそれを打ち壊す。
わたくしの指導を受けた者たちは、次々と魔導具の基礎操作を体得し始め、やがて“発案”を始めるようになりますの。例えば、井戸の汲み上げを自動化するための簡易魔力ポンプ、あるいは畑の土壌に合わせて栄養調整するための拡張式感知装置など。
「わたくしが与えたのは“知識”だけですわ。使い方は、あなた方自身が考えなさいませ。自らの手で、“生活”を変えるのですわよ」
ある日、まだ十歳にも満たぬ少女が、小さな手で組み上げた光結晶装置を持ってやってまいりました。
「これ……おばあちゃんの家、暗いから……灯り、作ったの……!」
リゼがそれを見て泣きそうな顔になっておりましたわ。あらあら、感情的になるのはわたくしの役目ではございませんのよ?
でも――たしかに、少しだけ、胸が温かくなった気がいたしました。
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