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第16話
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返答が届いてから三日後、わたくしのもとへ派遣された“使節団”が現れましたの。
王都技術院、第三開発審査部門直属の監査官。名は、アデル・バルスト。名前だけは存じ上げておりますわ。魔導論議の中でもっとも保守的と名高いあの男ですもの。
玄関に現れた瞬間、その顔を見て、ああ、なるほどと納得いたしましたわ。
まるで氷柱のような無表情、細身で皺ひとつない官服、そしてこちらを見てすらいない虚ろな目。ええ、知識に溺れ、自らの信仰を他者に押しつける典型的な“知識の神官”型ですわね。
「グリムヴァルト嬢、貴女の活動に関して、本国は重大な懸念を抱いております」
早速、出ましたわ。相変わらずお堅いご挨拶ですこと。
「まあまあ、そんな難しい顔をなさらずに。ここは技術特区でしてよ? 少なくとも、この村の中では、わたくしが法であり秩序でございますのよ」
彼の眉がぴくりと動いたのを、わたくしは見逃しませんでした。ふふ、正面から皮肉を投げかけてくれるほどには、まだ余裕があるようでなによりですわ。
「我々は対話を望んでおります、令嬢。対立ではなく、協調を」
「結構ですわ。それでこそ、話し甲斐がございますもの。ですが、“協調”というなら、まずは“認識の差”を埋めていただかなくては困りますの」
そう言って、わたくしは研究棟中央のホールへと彼を案内いたしました。ここには現在、村人たちが設計した魔導具のプロトタイプが百以上展示されておりますの。どれも実用レベルに達しており、王都の技術院でも到底見たことがないような発想と応用力に満ちておりますわ。
「……これを、全て村人たちが?」
アデルの声が、明確に震えましたわ。無理もありません。わたくしが“教えた”だけの者たちが、今や王国標準技術を凌駕する品を自ら生み出しているのですもの。彼らの信じる“階級と血統が支配する魔導学”が、根底から崩れ去る音が聞こえるようですわ。
「ここでは、年齢も身分も関係なく、“考えた者が偉い”のですのよ。面白いでしょう?」
わたくしが微笑むと、彼は何も返せませんでした。ただ、展示物のひとつ――水力式魔力回収機をまじまじと見つめているだけ。その沈黙こそ、何よりの答えですわ。
視察を終えたあと、アデルはわたくしの応接室で静かに言葉を吐きました。
「理解は……しました。だが、このままでは王国が、君を制御できない」
「当然でしょう。わたくしは制御されるために生きているのではありませんもの。制御する側に回るのも退屈ですわ。“変える”側であること、それこそがわたくしの楽しみですのよ」
すると、彼はとうとうこちらを正面から見ました。その目には、確かに敵意ではない“認識の転換”がありましたわ。
「……王都は、君を“抑える”のではなく、“利用する”方法を選ぶかもしれない」
「まあ、それができればの話ですけれどね」
それだけ言って、わたくしはティーカップを置きました。
このやり取りの数日後、王国技術院より正式に文書が届きますの。
内容は――“グリムヴァルト特区、王国技術庁監査下にての限定的自律運営を承認”。ええ、ついに“制度”として認めさせましたの。
これでもう、わたくしはただの辺境の令嬢ではありませんわ。“王国における技術革新の旗手”として、公的に活動できる立場を得たということ。
でも、わたくしが求めているのは、ただの肩書きではございませんのよ。
次は――この技術特区を、“国家”にいたしますわ。
王都技術院、第三開発審査部門直属の監査官。名は、アデル・バルスト。名前だけは存じ上げておりますわ。魔導論議の中でもっとも保守的と名高いあの男ですもの。
玄関に現れた瞬間、その顔を見て、ああ、なるほどと納得いたしましたわ。
まるで氷柱のような無表情、細身で皺ひとつない官服、そしてこちらを見てすらいない虚ろな目。ええ、知識に溺れ、自らの信仰を他者に押しつける典型的な“知識の神官”型ですわね。
「グリムヴァルト嬢、貴女の活動に関して、本国は重大な懸念を抱いております」
早速、出ましたわ。相変わらずお堅いご挨拶ですこと。
「まあまあ、そんな難しい顔をなさらずに。ここは技術特区でしてよ? 少なくとも、この村の中では、わたくしが法であり秩序でございますのよ」
彼の眉がぴくりと動いたのを、わたくしは見逃しませんでした。ふふ、正面から皮肉を投げかけてくれるほどには、まだ余裕があるようでなによりですわ。
「我々は対話を望んでおります、令嬢。対立ではなく、協調を」
「結構ですわ。それでこそ、話し甲斐がございますもの。ですが、“協調”というなら、まずは“認識の差”を埋めていただかなくては困りますの」
そう言って、わたくしは研究棟中央のホールへと彼を案内いたしました。ここには現在、村人たちが設計した魔導具のプロトタイプが百以上展示されておりますの。どれも実用レベルに達しており、王都の技術院でも到底見たことがないような発想と応用力に満ちておりますわ。
「……これを、全て村人たちが?」
アデルの声が、明確に震えましたわ。無理もありません。わたくしが“教えた”だけの者たちが、今や王国標準技術を凌駕する品を自ら生み出しているのですもの。彼らの信じる“階級と血統が支配する魔導学”が、根底から崩れ去る音が聞こえるようですわ。
「ここでは、年齢も身分も関係なく、“考えた者が偉い”のですのよ。面白いでしょう?」
わたくしが微笑むと、彼は何も返せませんでした。ただ、展示物のひとつ――水力式魔力回収機をまじまじと見つめているだけ。その沈黙こそ、何よりの答えですわ。
視察を終えたあと、アデルはわたくしの応接室で静かに言葉を吐きました。
「理解は……しました。だが、このままでは王国が、君を制御できない」
「当然でしょう。わたくしは制御されるために生きているのではありませんもの。制御する側に回るのも退屈ですわ。“変える”側であること、それこそがわたくしの楽しみですのよ」
すると、彼はとうとうこちらを正面から見ました。その目には、確かに敵意ではない“認識の転換”がありましたわ。
「……王都は、君を“抑える”のではなく、“利用する”方法を選ぶかもしれない」
「まあ、それができればの話ですけれどね」
それだけ言って、わたくしはティーカップを置きました。
このやり取りの数日後、王国技術院より正式に文書が届きますの。
内容は――“グリムヴァルト特区、王国技術庁監査下にての限定的自律運営を承認”。ええ、ついに“制度”として認めさせましたの。
これでもう、わたくしはただの辺境の令嬢ではありませんわ。“王国における技術革新の旗手”として、公的に活動できる立場を得たということ。
でも、わたくしが求めているのは、ただの肩書きではございませんのよ。
次は――この技術特区を、“国家”にいたしますわ。
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