追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

☆ほしい

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第22話

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 技術特区が正式に王国の承認を受けた翌週、わたくしは新たな課題に取り組み始めましたの。

 それは、国としての“独自通貨”の発行ですわ。これまで特区内では、王国通貨を便宜上使用しておりましたけれど、それでは完全な独立とは言えませんもの。

 「リゼ、通貨鋳造局を設立いたしますわ。すぐに」

 「は、はいっ! えっと、でも……通貨って、そんな簡単に……」

 「問題ありませんわ。通貨とは、“信用”の象徴。経済圏の規模と、技術力と、生産力を持って裏付ければ、どれほどでも価値を持たせることが可能ですわ」

 わたくしは既に、基本設計を終えておりましたの。貨幣単位は“リュクス”、金銀ではなく魔力導電性合金を使用し、偽造防止に魔導刻印を施す。物理的な硬貨に加えて、魔力認証式の電子通貨システムも同時に整備。

 もちろん、魔導通信網を基盤にした分散型台帳記録方式を採用いたしますわ。王都の古びた帳簿管理とは比較にならない最新鋭の経済基盤を、ここに打ち立てるのですもの。

 「この特区で生まれた価値は、この特区で循環する。外部経済に振り回されることなく、自立し続けるための、真の礎ですわ」

 通貨鋳造局の設立に取り掛かると決めた瞬間から、わたくしはあらゆる手配を同時並行で進めましたの。設計図の精査、素材の調達、鋳造設備の開発、管理網の構築、そして初期発行量と流通計画の作成。どれ一つとして抜かりなく、隙なく、速やかに。

 「リゼ、鋳造局の責任者には誰を推薦しますの?」

 「えっと、学舎の卒業生で、魔導構造学に一番詳しい、レオンさんが適任かと!」

 「よろしいですわ。すぐに召集して」

 指示を出すわたくしに、リゼは汗だくで必死に応えておりますの。ええ、微笑ましい光景ですわ。でも、この世界を変えるためには、時に限界を超えさせることも必要ですもの。

 通貨設計において、最も重視したのは“信用”と“美学”ですわ。硬貨は持つ者に誇りを与え、使う者に価値を感じさせなければなりませんの。ですから、わたくし自らデザインも施しましたのよ。

 表面には、特区の象徴である魔導炉の紋章。裏面には、羽ばたく翼を模した自由の象徴。素材は希少金属を基盤に、魔導素子を組み込んだ合金。魔力を帯びたときのみ、紋章が淡く輝く仕様にいたしましたわ。

 「これならば、偽造はまず不可能ですし、何より美しいですわ!」

 リゼが試作品の硬貨を手に取り、感嘆の声を上げましたの。

 「すごい……これ、本当に綺麗……!」

 「美は力ですわ、リゼ。価値を信じさせるには、まず目に訴えなければなりませんもの」

 初回発行分は、まず内部通信用に限定し、村内の取引から試験運用を開始いたしましたの。物資の交換、労働の報酬、魔導具の販売、それらすべてに新通貨リュクスを適用。並行して、旧王国通貨との交換所も設置し、段階的に通貨移行を進めましたの。

 数日もしないうちに、村ではリュクスが自然に流通し始め、旧通貨を使う者はほとんど見かけなくなりましたの。ああ、この速度、この柔軟さ、これこそが“民の賢さ”でございますわ。

 さらに、リュクスを電子通貨化するため、魔導通信網を使った個人認証システムを展開いたしましたの。手のひらサイズの認証端末を各家庭に配布し、魔力認証を通して即時決済が可能になるシステム。

 「買い物が、手をかざすだけで……!」

 「すごい! 紙も金属も、いらないんだ!」

 村人たちの驚きと歓声が、次々に広がっていく様は、まさに至高の悦びでございましたわ。

 もちろん、これに対して王都が手をこまねいているはずもありませんの。すぐに干渉が入ると予想し、わたくしは並行して“国際技術連携機構”の設立にも動き始めましたの。

 「リゼ、各地の交易都市に通達なさい。“技術特区主導による国際技術通貨圏の創設”を」

 「はいっ! すぐに!」

 わたくしが創るのは、単なる村ではございませんの。経済圏そのもの、そして知識に基づく新たな国家の形。それを形作るために、リュクスは不可欠な礎となるのですわ。

 各都市国家からの返信は、予想以上に早かったですわ。自由都市群、北部鉱山都市、沿岸交易同盟――続々と提携表明が届き、わたくしの特区は急速に“地域の中枢”としての地位を固めていきましたの。

 王国の影響圏が急速に後退する様を、わたくしは一切の憐憫もなく、興味深く観察しておりましたの。
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