追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

第23話

　リュクス導入の波に乗り、特区の経済は急成長を遂げておりましたの。

　これでもう、王国の貨幣制度に依存する理由など微塵もございません。ですが、そんな快進撃の最中、わたくしはある不可解な報告を受けましたの。

　「お嬢様！　南交易都市マルヴェラからの返信が、断られました！」

　リゼの報告に、わたくしは片眉を上げましたわ。

　「ほう？　理由は？」

　「えっと、王国技術院から直接、特区製品の輸入禁止通達が出たらしく……マルヴェラもそれに従うって……」

　「……ふふ、ついに表舞台で妨害を始めましたのね」

　わたくしは即座に指令を飛ばしましたの。

　「全交易団へ通達。マルヴェラへの直接取引は一時停止。他都市とのルートを優先確保しなさいませ。ついでに、マルヴェラ周辺都市への無料サンプル配布も始めますわ」

　「サンプルって……！」

　リゼの声が高くなる。

　「ええ、撒くのですわ。わたくしの技術を、民の手に。王国がいくら封じようとも、使った者が便利さを知れば、誰もがこちらを選ぶ。止められるはずがありませんもの」

　その日のうちに、無料配布のための小型魔導具製造ラインが設置されましたの。村の職人たちが、目を輝かせながら次々と製品を組み上げていく様子に、わたくしは深い満足感を覚えましたわ。

　「お嬢様、本当に……これでいいんですか？」

　リゼが少し不安そうに聞いてきましたの。

　「当然ですわ。これは“戦争”ですのよ、リゼ。剣ではなく、知識と技術による、未来を奪い合う戦争。ならば、こちらは最高の武器を民に与えるだけですわ」

　翌週、さっそく効果が現れましたの。

　「マルヴェラ市内で、特区製品を個人輸入する動きが広がっています！」

　「マルヴェラ市議会でも、輸入禁止措置に反対する声が出始めたとか……！」

　次々と入る報告に、わたくしは紅茶を飲みながら優雅に微笑みましたわ。

　「愚かですわね。規制など、かえって欲望を煽るだけ。それを理解できぬから、王国は衰退するのですわ」

　リゼがそっと尋ねてきましたの。

　「あの……このまま行ったら、本当に王国と……」

　「戦争ですか？」

　わたくしは小さく笑いましたわ。

　「ええ、構いませんわよ。面白いではありませんの。王国という古びた体制を、わたくしがどれほど早く腐食させられるか。考えただけで胸が高鳴りますわ」

　そしてわたくしは、新たな指令を出しましたの。

　「リゼ、特区軍を創設しますわ」

　「……ぐ、軍！？」

　リゼの悲鳴が上がるのも無理はありませんわね。でも、必要不可欠なことなのですもの。

　「心配なさらないで。あくまで“自衛のため”ですわ。こちらから侵略などいたしません。ですが、守る力を持たねば、未来は築けませんもの」

　特区軍の中核を担うのは、わたくしが開発した自律型魔導兵器群。それに加え、特区技術士たちから志願者を募り、少数精鋭の特殊部隊を編成する予定ですわ。

　「リゼ、特区軍の理念を全兵に叩き込むのですわ。“知識を守るために戦う”と」

　「はいっ！」

　リゼが気丈に応えたのを見て、わたくしは心の中で小さく頷きましたわ。この子は、確実に成長していますの。わたくしの側で、時代の変革を目の当たりにして、確実に強くなっている。

　初期部隊の訓練が始まったのとほぼ同時に、王都から新たな動きがありましたの。

　「お嬢様、王都技術院から“技術供与要請”が来ました！」

　「供与要請……？」

　わたくしは意外そうに目を細めましたわ。ずいぶん殊勝な真似をなさるものですわね。

　「内容を読みなさい」

　リゼが震える手で要請文を読み上げましたの。

　「“特区で開発された魔導冷却技術を、王国の全公共施設に無償提供してほしい”……です」

　「ほう。無償で、ですって？」

　あまりの厚顔無恥に、思わず吹き出しそうになりましたわ。ええ、無償で技術を渡せとは。笑わせてくださいますわね。

　「リゼ、返信を用意なさい。“技術供与は検討に値する。ただし、見返りとして王国領内の教育機関における技術特区式カリキュラム導入を要求する”と」

　「き、教育機関に……！」

　リゼが絶句するのも当然ですわ。でも、これが最も確実な侵食手段。子供たちにわたくしの技術思想を植え付ければ、いずれ王国そのものが内部から変質するのですもの。

　すべては、計画通り。

　世界は、わたくしの手の中で再構築されつつありますわ。