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第32話
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インフラ制御センターの扉を開けると、査察団の視線が一斉に走りましたの。
「ここが……アウローラの心臓部か」
リュミエールが低く呟きましたわ。
「ええ、魔導エネルギー、輸送網、気候制御、すべてを統括しておりますの」
中央に鎮座する水晶核制御装置が、静かに淡く輝いておりましたの。わたくしは自慢の宝石を見せびらかす貴婦人のごとく、優雅に説明を始めましたわ。
「この水晶核は、自己進化型演算機構を内包しておりますの。使用されればされるほど、効率も精度も上昇いたしますわ」
「自己進化……!?」
副査察官のクロードが目を剥きましたの。
「従来の魔導炉と違い、補助員も技術者も不要ですわ。すべて自己管理されておりますもの」
「ありえん……」
「ありえますわ。現に動いておりますでしょう?」
リゼが補足説明を入れましたの。
「現在、アウローラ市街地全域の気温調整、道路自動修復、交通誘導、エネルギー配分をこの核単独で制御しています!」
リュミエールが無言で制御卓に歩み寄り、手袋越しに操作盤へ手をかざしましたの。
「……確かに、膨大な演算結果だ。誤差がほぼゼロ……」
「当然ですわ。わたくしが設計したのですもの」
おほほ、と笑いながら、次なる施設へ案内しましたの。
「こちらが自己修復道路システムですわ」
路面に刻まれた魔導パターンが、傷ひとつない状態で滑らかに伸びていましたの。副査察官クロードが膝をつき、路面をまじまじと観察しておりましたわ。
「傷がない……常に自己再生しているのか」
「ええ、簡単な原理ですわ。路面内部に微細な魔導素子を編み込んでございますの。傷が生じれば即座に検知、魔力を流して補修しますのよ」
「材料費と維持費は?」
「従来方式の一割以下ですわ」
査察団が一斉に顔を見合わせ、ざわつきましたの。
「な、なんということだ……!」
「これが、未来都市アウローラの標準仕様ですわ」
リゼがさらに追い討ちをかけましたの。
「しかも、この技術は市民に無償開放されています!」
「なに……!?」
「公共施設ですもの。課金するなどナンセンスですわ」
わたくしは涼しい顔で答えて差し上げましたの。
リュミエールが鋭い目を向けましたの。
「……だが、財源はどうしている?」
「魔導技術特許による収益でまかなっておりますわ。特許収益はアウローラ市民全体の福祉基金に組み込まれておりますの」
「完全な循環経済モデル……」
査察官たちが押し黙りましたの。その間も、未来記念塔の頂上へ向けてわたくしたちは移動を続けましたわ。
「次にお見せするのは、浮遊式都市通信塔ですわ」
広場上空を漂う巨大な浮遊構造体を指差しましたの。
「通信? あれが?」
「ええ、あれがアウローラ全域の情報を管理し、リアルタイムで最適化する通信中枢ですわ」
「浮いているだけでなく……情報中枢機能を持つのか」
リュミエールが珍しく声を荒げましたの。
「ええ、重力制御と魔導圧縮技術の融合でございますわ。これにより、あらゆる市民活動がシームレスに連携されますの」
リゼが書類を差し出しましたの。
「こちらが浮遊式都市通信塔による生活改善データです!」
リュミエールがそれを読み取り、さらに険しい顔になりましたわ。
「医療対応速度が……四割向上……犯罪発生率、八割減少……公共サービス満足度、九割超え……」
「これが、未来ですわ」
わたくしはあくまで優雅に微笑み続けましたの。
「すべて、数字で証明されておりますもの」
「……」
リュミエールが何も言い返せず、押し黙りましたの。わたくしはその隙を逃さず、さらに追撃しましたの。
「査察官閣下、どうぞご自由に各施設を査察なさいませ」
「……そうさせてもらう」
「リゼ、査察団を数班に分けて、各施設に案内なさい」
「了解しました!」
リゼが素早く人員を割り振り、査察団を誘導していきましたの。
「わたくしは未来記念塔の最上階にてお待ちしておりますわ。何かございましたら、そちらへお越しくださいませ」
「……必ず行く」
リュミエールが睨みつけるように言いましたけれど、わたくしは余裕の笑みを返すだけでしたの。
「ええ、心よりお待ちしておりますわ」
わたくしは優雅にターンし、未来記念塔の内部へと消えていきましたの。
「ここが……アウローラの心臓部か」
リュミエールが低く呟きましたわ。
「ええ、魔導エネルギー、輸送網、気候制御、すべてを統括しておりますの」
中央に鎮座する水晶核制御装置が、静かに淡く輝いておりましたの。わたくしは自慢の宝石を見せびらかす貴婦人のごとく、優雅に説明を始めましたわ。
「この水晶核は、自己進化型演算機構を内包しておりますの。使用されればされるほど、効率も精度も上昇いたしますわ」
「自己進化……!?」
副査察官のクロードが目を剥きましたの。
「従来の魔導炉と違い、補助員も技術者も不要ですわ。すべて自己管理されておりますもの」
「ありえん……」
「ありえますわ。現に動いておりますでしょう?」
リゼが補足説明を入れましたの。
「現在、アウローラ市街地全域の気温調整、道路自動修復、交通誘導、エネルギー配分をこの核単独で制御しています!」
リュミエールが無言で制御卓に歩み寄り、手袋越しに操作盤へ手をかざしましたの。
「……確かに、膨大な演算結果だ。誤差がほぼゼロ……」
「当然ですわ。わたくしが設計したのですもの」
おほほ、と笑いながら、次なる施設へ案内しましたの。
「こちらが自己修復道路システムですわ」
路面に刻まれた魔導パターンが、傷ひとつない状態で滑らかに伸びていましたの。副査察官クロードが膝をつき、路面をまじまじと観察しておりましたわ。
「傷がない……常に自己再生しているのか」
「ええ、簡単な原理ですわ。路面内部に微細な魔導素子を編み込んでございますの。傷が生じれば即座に検知、魔力を流して補修しますのよ」
「材料費と維持費は?」
「従来方式の一割以下ですわ」
査察団が一斉に顔を見合わせ、ざわつきましたの。
「な、なんということだ……!」
「これが、未来都市アウローラの標準仕様ですわ」
リゼがさらに追い討ちをかけましたの。
「しかも、この技術は市民に無償開放されています!」
「なに……!?」
「公共施設ですもの。課金するなどナンセンスですわ」
わたくしは涼しい顔で答えて差し上げましたの。
リュミエールが鋭い目を向けましたの。
「……だが、財源はどうしている?」
「魔導技術特許による収益でまかなっておりますわ。特許収益はアウローラ市民全体の福祉基金に組み込まれておりますの」
「完全な循環経済モデル……」
査察官たちが押し黙りましたの。その間も、未来記念塔の頂上へ向けてわたくしたちは移動を続けましたわ。
「次にお見せするのは、浮遊式都市通信塔ですわ」
広場上空を漂う巨大な浮遊構造体を指差しましたの。
「通信? あれが?」
「ええ、あれがアウローラ全域の情報を管理し、リアルタイムで最適化する通信中枢ですわ」
「浮いているだけでなく……情報中枢機能を持つのか」
リュミエールが珍しく声を荒げましたの。
「ええ、重力制御と魔導圧縮技術の融合でございますわ。これにより、あらゆる市民活動がシームレスに連携されますの」
リゼが書類を差し出しましたの。
「こちらが浮遊式都市通信塔による生活改善データです!」
リュミエールがそれを読み取り、さらに険しい顔になりましたわ。
「医療対応速度が……四割向上……犯罪発生率、八割減少……公共サービス満足度、九割超え……」
「これが、未来ですわ」
わたくしはあくまで優雅に微笑み続けましたの。
「すべて、数字で証明されておりますもの」
「……」
リュミエールが何も言い返せず、押し黙りましたの。わたくしはその隙を逃さず、さらに追撃しましたの。
「査察官閣下、どうぞご自由に各施設を査察なさいませ」
「……そうさせてもらう」
「リゼ、査察団を数班に分けて、各施設に案内なさい」
「了解しました!」
リゼが素早く人員を割り振り、査察団を誘導していきましたの。
「わたくしは未来記念塔の最上階にてお待ちしておりますわ。何かございましたら、そちらへお越しくださいませ」
「……必ず行く」
リュミエールが睨みつけるように言いましたけれど、わたくしは余裕の笑みを返すだけでしたの。
「ええ、心よりお待ちしておりますわ」
わたくしは優雅にターンし、未来記念塔の内部へと消えていきましたの。
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