追放令嬢、魔導と科学で文明開花いたしますわ〜辺境から始める世界再設計〜

第38話

　未来記念塔の滑走台を駆け下りながら、わたくしは出撃用魔導スーツを起動しましたの。

　「リゼ、前線指揮系統をわたくしに直結なさい」

　「了解しました！　防衛隊、全ユニット、指揮権をお嬢様に委譲！」

　わたくしの手首に組み込まれた操作端末に、全防衛ユニットの状況が次々と流れ込んできましたの。

　「ふふ、全軍、進軍パターン《オーロラ・ランページ》へ移行ですわ」

　命令と同時に、防衛隊の隊列が一斉に変化しましたの。密林地帯へと向かう高速進軍陣形、特区独自の迎撃パターンでございますわ。

　「お嬢様、特区外縁部、到達まであと三分です！」

　「それまでに、情報班から侵入者の詳細を引き出しなさい」

　「はいっ！」

　リゼの声が通信から響く中、わたくしは滑走用魔導ボードを展開し、空中を滑るように外縁部へと向かいましたの。

　「お嬢様、侵入者の正体、判明しました！」

　「報告なさい」

　「旧王国直属の特務部隊所属、魔導潜入特化型の工作員です！　コードネーム《ファントム》！」

　「ほう、なかなか面白い相手ですわ」

　わたくしはさらに加速しましたの。魔導エネルギーを限界まで解放し、疾風のごとく密林地帯に突入いたしましたの。

　「防衛隊、包囲網完成！」

　「対象、確認しました！　黒衣の人影、魔導遮蔽展開中です！」

　「よろしいですわ。わたくしが直々に“挨拶”して差し上げますの」

　視界の先、闇に紛れた黒衣の侵入者が、こちらに気付いた様子で身構えましたの。

　「こちらへ来るとは、愚かな」

　黒衣の下から聞こえたのは、女の声。細く、鋭く、氷の刃のような響きでしたわ。

　「ふふ、愚かかどうか、試してご覧なさいませ」

　わたくしは滑走を止め、宙に浮かびながら手のひらに魔導回路を展開しましたの。

　「エリス・フォン・グリムヴァルト。貴様こそ、世界の異物」

　「異物で結構。異端こそ未来を切り開くのですわ」

　黒衣の女が、指先から短剣型の魔導兵器を数本、同時に射出してきましたの。

　「初手から全力とは、殊勝ですわね！」

　わたくしは即座に、掌に形成した《魔導障壁・鏡面式》で全弾を反射しましたの。

　「なっ……！」

　驚いた様子の女の隙を逃さず、わたくしは《重力制御魔導槍・アルタイル》を呼び出しましたの。

　「さあ、踊りなさい！」

　足元の滑走ボードを蹴り、槍を突き出しながら突進いたしましたの。

　女もまた、即座に空間転移魔導を使用して後方へ跳び退きましたの。

　「お嬢様、敵、短距離転移持ちです！」

　「問題ありませんわ。短距離転移など、予測の範囲内ですもの」

　わたくしは起動済みの副次魔導回路を展開し、《捕捉用魔導網・ペガサス》を発動しましたの。

　逃げた先を正確に予測し、密林ごと捕捉網で封鎖する。

　「ここで逃げ場はありませんわ！」

　女が焦った様子で再度転移を試みるも、空間座標が魔導網に干渉され、歪みを起こして失敗しましたの。

　「……やるわね」

　女が睨み付けてきましたの。

　「当然ですわ。この程度で未来都市の支配者が務まるはずがありませんもの」

　わたくしは槍を構え直し、再び間合いを詰めましたの。

　黒衣の女も、牙を剥くように構えを取り直しましたの。

　「ならば、力で証明するまでよ」

　「結構。ならば、圧倒的な差をお見せしますわ！」

　交錯する気配。咆哮する魔導波。わたくしたちの戦いは、ここからさらに加速いたしますわ。