18 / 24
18
しおりを挟む
俺が放った最後の一撃は、光の流れとなって悪魔の胸に刺さった。
リナの浄化の力とフェニクスの神聖な力が合わさり、アグニの剣から解き放たれる。
それはこの世のどんな邪悪をも滅ぼす、絶対の破邪の光だった。
「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!」
悪魔の最後の叫びが、地底の奥に響き渡った。
胸の核であるアレックスの魂から、邪悪な肉体が内側から浄化されていく。
聖なる光が悪魔の体をガラスのように砕き、塵に変えていく様子は夢のように美しかった。
「ばかな、この我が、人間ごときの絆などに……!」
悪魔は、最後まで信じられないという様子で自分の消滅を見ていた。
やがてその巨大な体は完全に光の粒となり、闇の中へ溶けるように消える。
後に残ったのは、気を失い元の姿に戻ったアレックスと呪いが解けた聖剣だけだった。
「……終わった」
俺のつぶやきが、静まり返った空間に小さく響いた。
張り詰めていた緊張の糸が切れて、どっと疲れが押し寄せる。
俺はアグニを鞘に収め、荒い息をついた。
「カイさん!」
リナが駆け寄ってきて、俺の体を支えてくれた。
彼女の顔も真っ青だったが、その瞳は達成感でいっぱいだ。
俺の肩に止まったフェニクスも、誇らしげに一声鳴く。
俺たちは、ついに勝ったのだ。
リアが、おそるおそる気を失ったアレックスの元へ近づいた。
彼の寝顔は、悪魔に支配されていた時の苦しみが嘘のように穏やかだ。
リアは彼のそばに膝をつくと、ただ静かに涙を流し始める。
それは安心の涙か、失ったものへの悲しみの涙か俺にはわからなかった。
全ての戦いが終わり、俺たちはこの場所の本当の目的を思い出した。
巨大な怪物も悪魔も消え、この空間は完全に浄化された。
そしてその中央には、俺たちが探していたものが姿を現す。
「カイさん、あれを……」
リナが、指さした先。
そこには、洞くつの壁一面に広がる巨大な鉱脈があった。
鉱脈は浄化された地脈のエネルギーを受け、内側からまばゆい黄金色の光を放つ。
無数の結晶が、星のようにきらめいていた。
これこそが、伝説の金属オリハルコンの鉱脈だ。
ドワーフたちが未来の希望を託し、王が命がけで守ったヴォルカノンの宝物だった。
「すごい……」
俺もリナも、そのあまりに美しい光景に言葉を失った。
これだけのオリハルコンがあれば、どれだけの伝説級の武具が作れるだろうか。
国一つを、余裕で買うことができるだろう。
だが俺たちの心にあったのは、お金に対する興奮ではなかった。
長い旅の末に、ようやくたどり着いた目的地。
多くの出会いと戦いを経て、自分たちの手で掴み取った成果だ。
その達成感が、何よりも俺たちの心を温かく満たしていた。
俺は、ヘパイストスの槌を取り出した。
そして鉱脈の壁に、槌を軽く当ててみる。
コンと澄んだ音が響き、手のひらサイズの美しいオリハルコンの結晶が簡単に剥がれ落ちた。
その輝きは、前に集落で手に入れたものとは比べ物にならない。
これこそが、純度百パーセントの神々の金属。
「リナ、袋を出してくれ。採掘を始めよう」
「はい!」
俺たちは、持ってきた袋に次々とオリハルコンを詰めていった。
ヘパイストスの槌を使えば、採掘は驚くほど簡単だった。
いくら採っても、鉱脈はなくなる気配を見せない。
俺たちは、今後の活動に十分すぎるほどの量を確保して採掘を終えた。
ふと見ると、リアがこちらに歩いてくるところだった。
彼女は涙を拭いて、吹っ切れたような穏やかな表情をしている。
「カイ、リナさん。本当に、ありがとう」
彼女は、俺とリナの前で深々と頭を下げた。
「アレックスのことも私のことも、あなたたちがいなければ私たちは魂ごと救われなかった。どんなに感謝しても、しきれないわ」
「気にするな、俺がやりたいようにやっただけだ」
「それでも、感謝させてほしい。……私は、これからアレックスと共にここで生きていこうと思う」
リアの言葉に、俺とリナは少し驚いた。
「ここで?」
「ええ。彼が犯した罪は、あまりにも大きいわ。悪魔に魂を売り、世界を危機に陥れようとした。その罪を、彼自身に償わせなければならない。私は、それをここで見届ける。それが、彼を見捨てられなかった私の最後の責任だから」
彼女の瞳には、強い意志の光が宿っていた。
もう、誰かに頼る弱い癒し手の姿はそこにはない。
「彼が目を覚ましたら、全てを話すつもり。そして、二人でこのヴォルカノンを再建するの。いつか、ドワーフの子孫たちがここに戻ってきた時に彼らの故郷を美しい姿で返せるように。それが、私たちの生涯をかけた償いよ」
その決意は、とても気高くそしてとても過酷な道だった。
だが、俺はそれを止める権利がない。
「そうか、わかった。何か、必要なものはあるか?」
「ううん、大丈夫。ここには、生活に必要なものは全て揃っているから。それに、浄化されたこの大地ならきっと作物も育つはず」
リアは、そう言って優しく微笑んだ。
俺たちは、これ以上何も言わなかった。
それが、彼女たちが選んだ道なのだ。
俺は採掘したオリハルコンの中から、ひときわ美しい結晶を一つ取り出しリアに手渡した。
「お守りだ、困ったことがあったらこれを握って俺の名前を呼べ」
「……ありがとう、カイ」
リアは、その結晶を大切そうに胸に抱きしめた。
俺とリナは、フェニクスと共にリアに別れを告げた。
気を失ったままのアレックスには、最後まで声をかけない。
俺たちはエレベーターに乗り、地上へと戻っていく。
遠ざかっていくリアの姿が、だんだん小さくなっていく。
彼女は、最後まで手を振り続けていた。
ヴォルカノンの玉座の間を抜け、ドワーフ王の亡骸に報告をする。
『あんたたちの故郷は、救われたぞ』と。
王の亡骸が、少しだけ満足そうに見えたのは気のせいだろうか。
長い坑道を抜け、久しぶりに外の光を浴びた。
空は、どこまでも青く澄み渡っている。
俺たちの長い旅は、一つの終わりを迎えたのだ。
「カイさん、これからどうしますか?」
ラトスの街へと続く道を歩きながら、リナが尋ねてきた。
「そうだな、まずはバルガンたちのところに報告に行こう。それから……」
俺は、懐からサラにもらった手帳を取り出した。
そこには、まだ見ぬダンジョンや遺跡の情報がたくさん書き込まれている。
俺たちの冒険は、まだまだこれからだ。
「世界には、俺たちの知らないお宝がたくさん眠っているはずだ。それを、探しに行こう。二人と、一羽でな」
「はい!」
リナが、満面の笑みでうなずいた。
俺の肩で、フェニクスも嬉しそうに鳴いた。
俺たちはラトスの街に戻り、まずバルガンの工房を訪れた。
扉を開けると鉄を打つ音が止まり、熊のような男が顔を上げる。
「おおっ、カイの兄さんたち!その顔、やり遂げたんだな!」
バルガンは、俺たちの無事な姿とその晴れやかな表情を見て全てを察したようだ。
俺はヴォルカノンでの最後の戦いと、オリハルコン鉱脈のことを彼に話した。
そしてお土産として持ち帰った、最高純度のオリハルコンの塊をいくつか彼に見せる。
バルガンの目は、涙で潤んでいた。
職人としての興奮と、同胞の故郷が救われた感動が彼の心を揺さぶっているのだ。
「そうか、そうか……!本当に、やり遂げてくれたんだな……!ありがとう兄さんたち、ドワーフを代表して礼を言うぜ……!」
彼は油と煤で汚れた巨大な手で、俺たちの肩を力強く叩いた。
その手の温かさが、心地よかった。
「このオリハルコンは、兄さんたちのものだ。だがもしよかったら、少しだけ俺に加工させてくれねえか。最高の素材を、最高の技術で打ち上げてみてえんだ。もちろん、兄さんたちのための武具としてな」
「ああ、頼む。あんたの腕を、信じている」
俺の言葉に、バルガンはニカッと笑った。
次に、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。
ポポロさんに報告すると、この温和な学者は子供のようにはしゃいで喜ぶ。
「素晴らしい、なんと素晴らしいことですかな!失われた都市が浄化され、歴史が再び動き出すとは!カイ殿、あなた方の功績は間違いなく歴史書に刻まれるでしょう!」
彼は、ヴォルカノンの歴史と俺たちの冒険の記録を、一冊の本にまとめたいと申し出てきた。
俺たちは、喜んでそれを承諾した。
ギルドの酒場では、俺たちの噂で持ちきりだった。
もはや、俺たちをただの新人として見る者は誰もいない。
誰もが、尊敬と憧れの眼差しで俺たちを見つめていた。
追放された鑑定士の物語は、このラトスの街で一つの伝説として語り継がれていくだろう。
その日の夜、俺たちは街で一番良い宿屋で祝杯を挙げていた。
テーブルには、豪華な料理が並んでいる。
フェニクスも専用の止まり木の上で、好物の焼き魚をおいしそうにつついていた。
「なんだか、夢みたいですね」
リナが、果実水を飲みながら幸せそうにつぶやいた。
「カイさんと出会ってから、私の人生は毎日が冒険でキラキラしています」
「俺の方こそ、お前と出会えてよかったと思ってる」
俺が素直な気持ちを口にすると、リナはぽっと顔を赤らめた。
「これから、どうしましょうか」
「そうだな、まずはバルガンにどんな装備を作ってもらうか考えないとな。お前の盾も、もっと強化できるかもしれない」
俺は、テーブルに置いたオリハルコンの結晶を一つ手に取った。
その輝きを見つめながら、これから作る未知の武具に思いを巡らせる。
「わあ、本当ですか!楽しみです!」
リナが、子供のようにはしゃいだ。
その笑顔を見ていると、俺も自然と笑みがこぼれる。
ひとまずの目的は達成したが、やりたいことはまだまだたくさんあった。
「それと、この卵をどうやって孵すか、ポポロさんに相談してみるか」
俺は、テーブルの隅に置いていたロック鳥の卵を優しく撫でた。
温かい部屋の中で、卵は心地よさそうに少しだけ揺れている。
「この子が生まれたら、フェニクスもお兄ちゃんになりますね」
リナが、俺の肩にいるフェニクスに微笑みかける。
フェニクスは、少しだけ得意げに胸を張ったように見えた。
新しい仲間が増えることへの期待が、この部屋を満たしている。
「ああ、賑やかになりそうだな」
俺は、祝杯のグラスを静かに傾けた。
バルガンは、オリハルコンでどんな武具を打ち上げるだろうか。
ポポロさんは、ヴォルカノンの物語をどんな風に書くのだろう。
そしてこの卵から生まれる新たな仲間は、どんな姿をしているのだろうか。
そんなことを考えていると、リナが真剣な顔でこちらを見ていることに気づいた。
「カイさん、一つだけ聞いてもいいですか」
「なんだ?」
「私たち、これからどこへ向かうんですか。サラさんの手帳にあった遺跡ですか、それともまだ見ぬ新しい大陸へ……」
リナの問いかけに、俺は少しだけ考えた。
彼女は、俺が示す道をどこまでもついてきてくれるだろう。
だからこそ、次の目的地は慎重に選ばなければいけない。
俺はテーブルの上に広げられていた、一枚の大きな世界地図に目をやった。
地図には、俺たちがまだ足を踏み入れたことのない未知の領域が無限に広がっている。
その中で、ひときわ俺の目を引く場所があった。
それは、世界の中心にあると言われる巨大な浮遊島だった。
リナの浄化の力とフェニクスの神聖な力が合わさり、アグニの剣から解き放たれる。
それはこの世のどんな邪悪をも滅ぼす、絶対の破邪の光だった。
「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!」
悪魔の最後の叫びが、地底の奥に響き渡った。
胸の核であるアレックスの魂から、邪悪な肉体が内側から浄化されていく。
聖なる光が悪魔の体をガラスのように砕き、塵に変えていく様子は夢のように美しかった。
「ばかな、この我が、人間ごときの絆などに……!」
悪魔は、最後まで信じられないという様子で自分の消滅を見ていた。
やがてその巨大な体は完全に光の粒となり、闇の中へ溶けるように消える。
後に残ったのは、気を失い元の姿に戻ったアレックスと呪いが解けた聖剣だけだった。
「……終わった」
俺のつぶやきが、静まり返った空間に小さく響いた。
張り詰めていた緊張の糸が切れて、どっと疲れが押し寄せる。
俺はアグニを鞘に収め、荒い息をついた。
「カイさん!」
リナが駆け寄ってきて、俺の体を支えてくれた。
彼女の顔も真っ青だったが、その瞳は達成感でいっぱいだ。
俺の肩に止まったフェニクスも、誇らしげに一声鳴く。
俺たちは、ついに勝ったのだ。
リアが、おそるおそる気を失ったアレックスの元へ近づいた。
彼の寝顔は、悪魔に支配されていた時の苦しみが嘘のように穏やかだ。
リアは彼のそばに膝をつくと、ただ静かに涙を流し始める。
それは安心の涙か、失ったものへの悲しみの涙か俺にはわからなかった。
全ての戦いが終わり、俺たちはこの場所の本当の目的を思い出した。
巨大な怪物も悪魔も消え、この空間は完全に浄化された。
そしてその中央には、俺たちが探していたものが姿を現す。
「カイさん、あれを……」
リナが、指さした先。
そこには、洞くつの壁一面に広がる巨大な鉱脈があった。
鉱脈は浄化された地脈のエネルギーを受け、内側からまばゆい黄金色の光を放つ。
無数の結晶が、星のようにきらめいていた。
これこそが、伝説の金属オリハルコンの鉱脈だ。
ドワーフたちが未来の希望を託し、王が命がけで守ったヴォルカノンの宝物だった。
「すごい……」
俺もリナも、そのあまりに美しい光景に言葉を失った。
これだけのオリハルコンがあれば、どれだけの伝説級の武具が作れるだろうか。
国一つを、余裕で買うことができるだろう。
だが俺たちの心にあったのは、お金に対する興奮ではなかった。
長い旅の末に、ようやくたどり着いた目的地。
多くの出会いと戦いを経て、自分たちの手で掴み取った成果だ。
その達成感が、何よりも俺たちの心を温かく満たしていた。
俺は、ヘパイストスの槌を取り出した。
そして鉱脈の壁に、槌を軽く当ててみる。
コンと澄んだ音が響き、手のひらサイズの美しいオリハルコンの結晶が簡単に剥がれ落ちた。
その輝きは、前に集落で手に入れたものとは比べ物にならない。
これこそが、純度百パーセントの神々の金属。
「リナ、袋を出してくれ。採掘を始めよう」
「はい!」
俺たちは、持ってきた袋に次々とオリハルコンを詰めていった。
ヘパイストスの槌を使えば、採掘は驚くほど簡単だった。
いくら採っても、鉱脈はなくなる気配を見せない。
俺たちは、今後の活動に十分すぎるほどの量を確保して採掘を終えた。
ふと見ると、リアがこちらに歩いてくるところだった。
彼女は涙を拭いて、吹っ切れたような穏やかな表情をしている。
「カイ、リナさん。本当に、ありがとう」
彼女は、俺とリナの前で深々と頭を下げた。
「アレックスのことも私のことも、あなたたちがいなければ私たちは魂ごと救われなかった。どんなに感謝しても、しきれないわ」
「気にするな、俺がやりたいようにやっただけだ」
「それでも、感謝させてほしい。……私は、これからアレックスと共にここで生きていこうと思う」
リアの言葉に、俺とリナは少し驚いた。
「ここで?」
「ええ。彼が犯した罪は、あまりにも大きいわ。悪魔に魂を売り、世界を危機に陥れようとした。その罪を、彼自身に償わせなければならない。私は、それをここで見届ける。それが、彼を見捨てられなかった私の最後の責任だから」
彼女の瞳には、強い意志の光が宿っていた。
もう、誰かに頼る弱い癒し手の姿はそこにはない。
「彼が目を覚ましたら、全てを話すつもり。そして、二人でこのヴォルカノンを再建するの。いつか、ドワーフの子孫たちがここに戻ってきた時に彼らの故郷を美しい姿で返せるように。それが、私たちの生涯をかけた償いよ」
その決意は、とても気高くそしてとても過酷な道だった。
だが、俺はそれを止める権利がない。
「そうか、わかった。何か、必要なものはあるか?」
「ううん、大丈夫。ここには、生活に必要なものは全て揃っているから。それに、浄化されたこの大地ならきっと作物も育つはず」
リアは、そう言って優しく微笑んだ。
俺たちは、これ以上何も言わなかった。
それが、彼女たちが選んだ道なのだ。
俺は採掘したオリハルコンの中から、ひときわ美しい結晶を一つ取り出しリアに手渡した。
「お守りだ、困ったことがあったらこれを握って俺の名前を呼べ」
「……ありがとう、カイ」
リアは、その結晶を大切そうに胸に抱きしめた。
俺とリナは、フェニクスと共にリアに別れを告げた。
気を失ったままのアレックスには、最後まで声をかけない。
俺たちはエレベーターに乗り、地上へと戻っていく。
遠ざかっていくリアの姿が、だんだん小さくなっていく。
彼女は、最後まで手を振り続けていた。
ヴォルカノンの玉座の間を抜け、ドワーフ王の亡骸に報告をする。
『あんたたちの故郷は、救われたぞ』と。
王の亡骸が、少しだけ満足そうに見えたのは気のせいだろうか。
長い坑道を抜け、久しぶりに外の光を浴びた。
空は、どこまでも青く澄み渡っている。
俺たちの長い旅は、一つの終わりを迎えたのだ。
「カイさん、これからどうしますか?」
ラトスの街へと続く道を歩きながら、リナが尋ねてきた。
「そうだな、まずはバルガンたちのところに報告に行こう。それから……」
俺は、懐からサラにもらった手帳を取り出した。
そこには、まだ見ぬダンジョンや遺跡の情報がたくさん書き込まれている。
俺たちの冒険は、まだまだこれからだ。
「世界には、俺たちの知らないお宝がたくさん眠っているはずだ。それを、探しに行こう。二人と、一羽でな」
「はい!」
リナが、満面の笑みでうなずいた。
俺の肩で、フェニクスも嬉しそうに鳴いた。
俺たちはラトスの街に戻り、まずバルガンの工房を訪れた。
扉を開けると鉄を打つ音が止まり、熊のような男が顔を上げる。
「おおっ、カイの兄さんたち!その顔、やり遂げたんだな!」
バルガンは、俺たちの無事な姿とその晴れやかな表情を見て全てを察したようだ。
俺はヴォルカノンでの最後の戦いと、オリハルコン鉱脈のことを彼に話した。
そしてお土産として持ち帰った、最高純度のオリハルコンの塊をいくつか彼に見せる。
バルガンの目は、涙で潤んでいた。
職人としての興奮と、同胞の故郷が救われた感動が彼の心を揺さぶっているのだ。
「そうか、そうか……!本当に、やり遂げてくれたんだな……!ありがとう兄さんたち、ドワーフを代表して礼を言うぜ……!」
彼は油と煤で汚れた巨大な手で、俺たちの肩を力強く叩いた。
その手の温かさが、心地よかった。
「このオリハルコンは、兄さんたちのものだ。だがもしよかったら、少しだけ俺に加工させてくれねえか。最高の素材を、最高の技術で打ち上げてみてえんだ。もちろん、兄さんたちのための武具としてな」
「ああ、頼む。あんたの腕を、信じている」
俺の言葉に、バルガンはニカッと笑った。
次に、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。
ポポロさんに報告すると、この温和な学者は子供のようにはしゃいで喜ぶ。
「素晴らしい、なんと素晴らしいことですかな!失われた都市が浄化され、歴史が再び動き出すとは!カイ殿、あなた方の功績は間違いなく歴史書に刻まれるでしょう!」
彼は、ヴォルカノンの歴史と俺たちの冒険の記録を、一冊の本にまとめたいと申し出てきた。
俺たちは、喜んでそれを承諾した。
ギルドの酒場では、俺たちの噂で持ちきりだった。
もはや、俺たちをただの新人として見る者は誰もいない。
誰もが、尊敬と憧れの眼差しで俺たちを見つめていた。
追放された鑑定士の物語は、このラトスの街で一つの伝説として語り継がれていくだろう。
その日の夜、俺たちは街で一番良い宿屋で祝杯を挙げていた。
テーブルには、豪華な料理が並んでいる。
フェニクスも専用の止まり木の上で、好物の焼き魚をおいしそうにつついていた。
「なんだか、夢みたいですね」
リナが、果実水を飲みながら幸せそうにつぶやいた。
「カイさんと出会ってから、私の人生は毎日が冒険でキラキラしています」
「俺の方こそ、お前と出会えてよかったと思ってる」
俺が素直な気持ちを口にすると、リナはぽっと顔を赤らめた。
「これから、どうしましょうか」
「そうだな、まずはバルガンにどんな装備を作ってもらうか考えないとな。お前の盾も、もっと強化できるかもしれない」
俺は、テーブルに置いたオリハルコンの結晶を一つ手に取った。
その輝きを見つめながら、これから作る未知の武具に思いを巡らせる。
「わあ、本当ですか!楽しみです!」
リナが、子供のようにはしゃいだ。
その笑顔を見ていると、俺も自然と笑みがこぼれる。
ひとまずの目的は達成したが、やりたいことはまだまだたくさんあった。
「それと、この卵をどうやって孵すか、ポポロさんに相談してみるか」
俺は、テーブルの隅に置いていたロック鳥の卵を優しく撫でた。
温かい部屋の中で、卵は心地よさそうに少しだけ揺れている。
「この子が生まれたら、フェニクスもお兄ちゃんになりますね」
リナが、俺の肩にいるフェニクスに微笑みかける。
フェニクスは、少しだけ得意げに胸を張ったように見えた。
新しい仲間が増えることへの期待が、この部屋を満たしている。
「ああ、賑やかになりそうだな」
俺は、祝杯のグラスを静かに傾けた。
バルガンは、オリハルコンでどんな武具を打ち上げるだろうか。
ポポロさんは、ヴォルカノンの物語をどんな風に書くのだろう。
そしてこの卵から生まれる新たな仲間は、どんな姿をしているのだろうか。
そんなことを考えていると、リナが真剣な顔でこちらを見ていることに気づいた。
「カイさん、一つだけ聞いてもいいですか」
「なんだ?」
「私たち、これからどこへ向かうんですか。サラさんの手帳にあった遺跡ですか、それともまだ見ぬ新しい大陸へ……」
リナの問いかけに、俺は少しだけ考えた。
彼女は、俺が示す道をどこまでもついてきてくれるだろう。
だからこそ、次の目的地は慎重に選ばなければいけない。
俺はテーブルの上に広げられていた、一枚の大きな世界地図に目をやった。
地図には、俺たちがまだ足を踏み入れたことのない未知の領域が無限に広がっている。
その中で、ひときわ俺の目を引く場所があった。
それは、世界の中心にあると言われる巨大な浮遊島だった。
11
あなたにおすすめの小説
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった!
「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」
主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』
チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。
家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!?
主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる